48話 領主会議
熊野暦11月下旬
伊勢に各地の領主を集め会議が行なわれる事になった。
参加者は奈良より朱里さんと安倍さん、
和歌山からは名草さんと御付きの三郎さんと言う人が来ている。
京都からはタマで、岐阜からは耕一さんが来ているな。
「じゃあ始めるか」と熊野さんの合図で会議が始まった。第一の議題は奈良への援助だ、仮とは言え俺が治める事になって居るからここは食料援助を勝ち取りたい。
各地の領主達はお布施の様な形で食料を貰っている。その集まった食料は領主の判断で使われるが大体は大工や土木工事をする人への給料として支払われているな。奈良からも出稼ぎをする人を募って労働の対価として米を貰い、足りない分は奈良・京都への投資と言う形でお願いしてみる。勿論返さないといけないが、滋賀県にある琵琶湖は有史以来枯れた事が無い天然のダムであり稲作が主要産業になれば直ぐ返せるだろうと朱里さんは熱弁していた。俺は琵琶湖の存在を知らない名草さんに紙に地図を書いて説明したりして援護射撃をしているぞ。
それとは別に蜂蜜の製造が間に合わなくなりそうなので、各地に養蜂の方法を教え作って貰うことにした。コレに関しては今まで保存方法が塩漬けしかなく、皆味の変化に飢えていたので心良く受け入れられた。以前食べさせた蜂蜜梅干と橘の蜂蜜漬け利いたな。
俺には国の概念はあまり無いが、大体の地域では自然信仰が主なので伊勢の太陽信仰を軸にして融合させて神道を主とする連合国家を作ろうという流れになった。まあEUみたいな物だろうか。信じる神を変えろと言われても面白くないだろうし何か連合に入るうま味の様な物を作らないとダメな気がする。
税金を徴収すべきかの問題は、時期尚早ではないかと言う声が出た。正直な話まだ自給自足で生活できる人が多く、無理矢理徴収すると暴動が起きるかもしれないとの事だ。俺たちは酒などの独自の収入が有り、米を多く持ってる物が開拓を進める事が出来て、金が金を産むシステムが出来上がっている。
さらに神田と呼ばれている直轄の農地も持っており委託で農業をして貰っていたりする。これでさらに取り立てるとなると、取りすぎじゃないかと不満が出るかもしれない。
この件に関しては保険の様な物を作り、自分から払う気になるのを待つ事を提案してみた。開拓の進んだ伊勢市以外の土地では、ウチでも奉納舞をとの声が上がっている。これも一種の保険なのかもしれない、尾張・岐阜地区では肥沃の穀倉地帯がまだ未開発地域で残っており、費用対効果の関係上どうしてもソコを重点的に開拓する必要が有り、住民が税金を出しても見返りがない地域が出てくるのが現状だ。急な改革はせず今まで通り生活が豊かになった謝礼として徴収するのが良いのかな?
それとは別に和歌山県はは漁師や猟師が多く米での納税が困難だし、果物などの商品作物を増して米を手に入れる方法を確立させる必要があるな。なんせ和歌山と伊勢は狩猟で取れる物が被っていて商売がしづらいからな。
話を元に戻すと一口30kgの米などで掛け金を募り、飢饉と災害の際には奈良が何らかのフォローをする方式をとって、緩やかに税金の変わりにしようとの事だった。領主の務めとして米を出した人だけでは無く全ての民を助けるべきと発言したら、「お前は甘い」とダメ出しされた。
くくりと約束した誰も飢えない世界は夢物語なのだろうか?
こちらでは姥捨て山が存在する、「働かざる者食うべからず」を地で行くのはいかがな物か、誰も好きこのんで親を殺したいとは思っている人は居ないだろうし、高齢者でも稼げる方法を考えないといけないな。
「それで仁はん、法律とかどうするんや」
「目には目を、歯には歯をで良いんじゃない?」
「アタイはそう言う分かり易いのがいいねぇ」
「それやったら、町中の人が盲目の人ばかりになるやないの!! それやったら鉱山開発でもした方がましやで」
まあ、伊勢でも喧嘩で骨折とかはあるからな。いちいち相手の骨も折っていたら生産性が下がるか……
「でも、罰金とかで人は納得するだろうか? 鞭打ち数回とか? ざっと各地域を見た感じ、良くも悪くも村社会だから何かやらかすと村八分になるから皆真面目そうだよね」
「仁はんは人が良すぎや、中には悪い人もおるんやで」
「家業が接客業をしている以上、性善説を前面に出してるだけだよ。アコギな商売しても長くは持たないでしょ。それに狩猟組合では野盗などが出たらしっかり狩るつもりでいるし、完全に人を信用している訳じゃないさ」
「鉱山開発ならアタイの所の任せぇ、何しろ山は一杯あるからな」
取り合えず、「汝殺す事無かれ」「汝盗む事なかれ」「汝姦淫する事無かれ」など簡単な法律を定めて、重犯罪者は和歌山の樹海送りの刑で行こうとの話になった。朱里さんの話では飛騨地方は鉱山資源も多いから、成功したら岐阜地区北部の開拓もしてみたいらしい。裁判官と言うか代官は朱里さんが出すと言っていたのでお願いした。
「朱里さん、やっぱり和歌山地区の代官は和田さん?」
「普通に座っとったから言わんかったけど、なんでゴット姉ちゃんおるん?」
ゴット姉ちゃんとは、歌手の和田某さんの若い時のニックネームらしい
「朱里さんにもそう見えるんだ…… 他人の空似っぽいよ」
遺跡調査を手伝う位には歴史が好きな朱里さんは大和朝廷に詳しく、各地に代官を置くべく文官を育成していた。史実を参考に和歌山県東部は和田氏(熊野国造)で行くそうだ、伊勢は中臣さんで尾張はそのまま尾張さんだ、和歌山県西部~大阪府南部には津守さんを予定しているが、大阪府南部の貝塚市は敵対勢力らしい。
「九州の伊佐一族と中国・四国の高木・高田の勢力だったけ? 攻めてきたらどうする?」
「アタイの所は和歌山市から要請が有ったら、人出して皆殺しにしとるなぁ」
名草さん過激すぎだろ。
現代の和歌山市周辺では徳島辺りの勢力と小競り合いがたまに起こるらしく、そのつど名草さんに助太刀の要請が有り名草さんは鬼神として崇められてるらしい。
「奈良も人事やないで、たまに堺辺りの勢力と小競り合いしとるなぁ」
「仁よ、敵対勢力には心を鬼にして徹底的にやらねぇと被害が増えるぞ」
「それは熊野さんの実体験?」
「そうだ、伊勢を統一するのも一苦労だったんだぞ」
なるほど伊勢の人間が従順なのは熊野さんの働きを知っているからなのか……
俺の領地である奈良・伊勢北部・尾張の一部では富国強兵を基本政策で進めて行くとしよう。岐阜の山間部は猿の化物が出るらしいしので、俺達と連携して対処したいと提案された。愛知県の三河地方がどう出てくるか解からないので、岐阜との協力と言う耕一さんの提案はこちらとしても渡りに船だ。
今年は米は十二分に生産された、今後もこの調子で生産できれば自警団は農民の持ち回りでやって貰うのも有りか? でも秀吉は刀狩とかしていたよな、職業軍人を作るのも良いが何事も無いとタダ飯喰らいと罵られないだろうか?
今の所自警団は公務員(領主預かり)だけど、今後どうするかは様子を見て決めていこう。江戸時代の岡っ引きみたいに警察の仕事は委託しないと回らないかもしれない。
「なあ、一つ疑問なんやけどなぁ、米はどの位生産できとるん?」
朱里さんの質問に誰も答えられず、場を沈黙が支配した。
「さあ」
しょうがなく口を開いた俺はアホと罵られ、国勢調査をする事が決定した。
名草さんと熊野さんは笑ってやり取りを見ていたが、アンタたちも同じ穴のムジナだからな……
名草さんと熊野さんはこれから若いもの時代だとか、上手い事を言って面倒事から逃げるつもりだ。今後は奈良が諸国連合の盟主として話を進めて行く事になりそうだ。逃がさないよ。60才までこき使うからな。問題をこちらに丸投げした事を後悔させてやる。
今から国勢調査を行い法律などの公布は2月中旬(2/11)に行なう事が決定された。
「あんちゃん、さっきから気になっとったんやけど、そこの変な生き物はなんや?」
「変な生き物とは失礼な、宇迦之御魂様じゃ」
「タマです、狐の獣人で奈良の上の伏見と言う場所に住んでます」
「なっ、こう見えても100年以上生きているんじゃぞ、もっと敬うのじゃ」
「はいはい、いい子いい子」 ナデナデ
「ぐぬぬぬ」
「なあ仁、お稲荷様を邪険に扱うとバチがあたるぞ」
熊野さんはタマの名前を知っていて、お稲荷様として扱って居る。タマは現代の伊勢市二見浦にある興玉神社と言う神社の祭神らしい。実は俺生前の大晦日は徹夜でおせち作ってるから二見浦にある夫婦岩で初日の出見たこと無いいんだよね。お稲荷様と言うと商売の神様なんだけど、上位互換の伊勢神宮(外宮)が有るから行った事もない。
現在、熊野さんの命令で猿田彦は伊勢神宮の建設から外れて二見浦にタマの別荘を建ててるな。俺も別に邪険に扱ってる訳じゃないぞ、反応が面白いから少しからかってるだけだ。
決める事は決まったので何か問題が有れば、そのつど会議で決定すると言うことでお開きになった。最近熊野神社周辺で突貫工事の末出た温泉に招待して、そのあと酒宴を開きそこで伊賀でこれから作っていく腸詰めとベーコンなど燻製を試食して貰った。
反応は良好で是非ウチでもと言われたが素人がやってもダメだと言ったら、伊賀に人を派遣して研修させる事になった。職業料理人が増えるのはこちらも望む所なので、伊勢からも人を募集して料理を広めて行こう。新しく出来る伊勢神宮周辺に門前町も作りたいしな。天音さん達には俺がいなくても美味しい物が食べられる様にしたい。
すべてが上手く回っていると思っていたが、翌日おれは何故か簀巻きにされて熊野神社の境内に正座させられていた。寝る前は何も無かったのに何が起こった……
尾張地区の全員が仁に恭順を示している訳ではありません。
興玉神社の祭神は、宇迦之御魂と猿田彦大神ですが、タマと猿田彦の関係は何だろうか? 一応合法ロリにして有るけど……




