42話 タケミカズチとフツヌシ
熊野暦10月中旬(名古屋)
今あゆちの里の近くに有る高台(金山周辺の熱田貝塚跡)に町を建て居る。熱田と言う名前だ、現地の人にはあゆちの「あ」港湾を表す「つ」田んぼの「た」であつたと説明した。
高台の置くにある名古屋城の有る場所(名古屋城貝塚跡)が開いて居たので、開拓し奈良から派遣される尾張さんの住居も建て居る。こちらも自警団を置く事から名護屋市で地元の人に説明した。今年は豊作でこの地域の開拓事業も捗りそうだ。四月までにどこまで開拓出来るかで来年の収入が変わって来るので、やる気の有る人はこぞって参加している。奈良(橿原市周辺)の住人も今年は稲刈りが絶望的なので出稼ぎに来ているな。
名護屋市の狩猟組合の本部は東の豊明方面が未開の地なので熱田に置き、三河地方からの移住者を募っている。
そこに二人の若者が来たとの話を聞き、俺は熱田町に向かった。会って見ると身長180cmと200cm弱のかなり大きな男だった。平均身長160cm位のこの時代の人達の中でその大きさは異様な雰囲気をだしている、訛りが激しいがタケミカヅチとフツヌシさんだそうだ。
聞き取り辛いので建さんか武さんか少し迷ったが武さんと呼ぶ事にした。こっちでも居そうな名前だったのでもしかしたらハーフなのかも知れない、フツヌシさんはふづぅぬすぃと名乗っていたが呼び辛いのでフツヌシさんと呼んで居る、もしかして東北の人かな?
聞くところによるとタケミカズチさんは、長野県の諏訪の領主の一族で親戚にタケミナカタさんが居るらしく旅に出たかった武さんが、その親戚に格闘技で勝負を挑み見事勝利し自由を手に入れたとか、普通勝った方が後を継ぐんじゃないの?
もしかしたら、町一番の勇者が見聞を広める為外に出れると言う風習が有るのかもしれない。長野県の有力者の知り合いが出来るのは嬉しい事だ。是非友好を深めたい、格闘技をするとの話を聞いたので伊勢で最近流行って来た相撲(戦国時代版)を見てもらう事にした。俺と熊野さんの取った目潰し金的以外は有りのヤツだな
感想を聞きたかったので奇兵隊の連中に相撲を取って貰い観戦して貰った。
「武ちゃん、アレ良いね死人が出なさそうだ」
「勝敗が早く付くのものいいなぁ」
「ちょっと俺たちでやってみない?」
以外な発言に俺達は沸きあがった、巨体同士の対決これは見ごたえがあるぞ。
「はっけよーい、残った」
長身を生かした打撃を得意とするフツヌシさんが懐に入るのを阻止し、決め技・投げ技が得意な武さんが打撃を掻い潜り小技を仕掛ける、実力の均衡の取れた立会いは見事としか良い様がない、二人とも相撲のルールで何が出来るのか確かめ合いながら一進一退の攻防が続いた、武さんの際どい投げをフツヌシさんがギリギリで残し、フツヌシさんの強烈な蹴りで武さんが土俵際まで吹き飛ばされる、白熱した戦いに会場は沸き上がった。
土俵際に押しやられた武さんに追撃しようとフツヌシさんが迫る、パンチを掻い潜り腰に張り付いた武さんの投げで勝負がついた、決まり手はうっちゃりかな?
「勝者、タケミカヅチィ~」
「そうか、土俵から出ても駄目なんだね、熱くなって忘れてたよ」
「惜しかった、相撲のルールじゃなかったら俺が負けてたかもな、おいそこの坊主相撲の感覚を体に刻みたい、俺と勝負しろ」
「え~、俺なんかと遣っても勝負に成らないですよ」
「やる前から負ける事を考える馬鹿が何処に居るんだよ コノヤロウ」パンッ
顔を張られた俺の心は熱くなった。
今までどうせ出来ないとか遣るだけ無駄とか、自分の可能性を否定してなかったか?
6・7割位の力しか出さず本気じゃなかったとか半笑いで言い訳してなかっただろうか?
熊野さんとの立会いでもそれを指摘されたな、リスク管理は大切だが何も失う物は無いこの状況で尻込みするのは愚の骨頂だ、難敵に挑まなければ俺はこれ以上成長できない。
「自分が間違ってましたっ、胸を貸していただきます」
やるからにはどんな手を使ってでも勝つ、俺は自分の甘さを克服するため立ち向かった、しかし熊野さんと同じ体格の人にどうやって勝つか、この前は不発だったが電撃からの投げしか無いな、意地でも張り付いて機会を伺おう。
俺は両手に魔力を溜め組み合った、立ち会って解かったが武さんの投げ技はエグイ、間接を決めながら投げて来るので下手に踏ん張ると間接が軋みを挙げる、ここはうずめを見習って自分から投げられる方向に跳んで攻撃をいなそう。
「中々やるじゃねぇか コノヤロウッ」
「そりゃ どうも」
武さんは両手を高く上げ何処からでも掛かって来いと挑発してきた、今が千載一隅チャンスだな。
おれは武さんの肝臓目がけてフック気味のパンチを入れ、電撃を放ちもう一撃入れるべく襟を掴みながら長い顎目がけて一撃と共に電撃を放った。
「うおっ、何だ今のビリッとしたぞ」
ビックリして重心が後ろに行った。
このチャンスを逃がす訳にはいかない、武さんの片足を両手で持ち上げショルダータックルで押し倒した、名付けて朽木倒し改だ。
「勝者、天野仁~」(決まり手―朽木倒し改)
「おっしゃ~、大金星だっ!!」
「まさか、武ちゃんが投げられるとは」
「坊主、良い勝負だった、やれば出来るじゃねえぇか コノヤロウ」
「武ちゃん…… 勝者に坊主は無いよ、この辺りの領主様らしいから大将と呼ぼう」
「呼び方は二人の好きな方で良いですよ、大した人間でもないし……」
「謙遜は美徳だけど、あまりし過ぎるとイヤミになるよ、そして自分を落とすと敗者も侮辱することになるね」
フツヌシさんの言葉は重かった。
この二人からはまだまだ学ぶべき事が多そうだ。
その後酒宴を開き、ウチの狩猟組合に入らないか尋ねたところ心よく引き受けてくれた。
「この縄文式土器が表に有る所なら素材を買い取るから」
「この見てくれが悪良いのが縄文式土器だと、フツ手本を見せてやれ」
武さんに言われフツヌシさんに土器の作り方を教えて貰う事になった。
フツヌシさんは大きな体格とは裏腹に繊細な作業が得意の様だ。
「僕たちの間ではね大将、この土器を上手に作れる男が良い男の目安なんだよ、それが全てじゃないけどね」
へ~ 黒豆を上手に炊けると良い女(マメな女)見たいな物か、顔がイマイチでもチャンスが有るとは中々良いシステムだな、だから縄文式土器はあんなエキセントリックな形状をしてるのか、皆個性を出そうとして使い勝手無視だもんな、以外な文化の違いの理由に納得した。
この後二人には伊勢に来てもらい相撲の興行をして貰った。是非相撲を全国に広めたいとの事なのでまず伊勢と奈良周辺から巡業してもらい感触を掴んだら、鳥取・出雲方面に斥候兼文化交流で行って貰おうかな、まあ京都府全体に道を作らないといけないけどな。
「きゃ~ 凄いです、カッコイイです」
「ゆうなは武さん見たいな人がタイプなのか?」
「ファイトスタイルとしてはあの人の戦い方がが好きです、男気溢れる素晴らしい試合です」
ゆうなは正面から受ける横綱相撲が好きなんだな、夢を壊す様で悪いが武さんは俺が電気魔法教えたからたまにダーティーな戦い方もするぞ、なおこれは嫉妬ではないぞ、オレ一応勝ってるし……
言い忘れてたが俺が使う電気魔法はタケミカズチさんから名前を取って御雷と呼ぶ事にした、まだ人を驚かす位しかできないけど一撃で意識を刈り取れる位の威力は欲しいな。
魔法の方も練習有るのみだ。
「仁はさっきから、何でうずめ様の髪で遊んでるんです」
「少し電気魔法の練習をだな、ほらこうやって髪の毛が逆立ってるとスーパーサ○ヤ人見たいでカッコいいだろ」
「言ってる事が解からないです、うずめ様が喜んでるので何も言わないですが……」
「ほ~ら、次は鉄○アトムだ」
「え~ なにそれ~」
昔風呂場で弟とこんな遊びしたな、弟は俺と違って優秀だから無難に実家を盛り立ててくれるだろう。
うずめとひとしきり遊んでいたら、武さんとフツヌシさんの周りには人だかりが出来ていた。
あの二人カリスマ性が有るからな、本気で相撲をやりたい奴がいたら弟子入りとかさせてみようか、前座は必要だからな。
翌日、伊勢の狩猟組合に新種の植物が発見されたとの一報を受け向かうと、みかんの様な実がテーブルに置いて有った。皮を剥くと柑橘類独特の香りが辺りに広がり食べて見ると酷くすっぱかった、熊野さんなら何か知ってるかな?
「熊野さん、コレ何か分かります?」
「橘だな たしか大和橘と言う品種だぞ、俺の子供の時に紀宝町周辺で見た事が有るから名草領にも有るかもな」
これが柑橘の橘なのか初めて知った。でもコレでポン酢が作れるな。
正式名称「ポンス酢しょうゆ」はポンの部分が柑橘を表し「コレを使わなければならない」と言う定義は無く、地方それぞれで柚子だったりかぼすだったりするが、だいだいと言う物を使うのが主流だ、主に一個から取れる果汁の問題と言うか原価の兼ね合いだったりする。
ちょっとコレでポン酢を作ってみよう。
醤油と果汁は同割りだ、それにアルコールを飛ばしたみりんを入れて味を調節する。みりんの量はその人の好みだ甘いのが好きならたくさん入れてくれ、それに鰹節とワカメを入れて一日置いて出汁を取って濾せば完成だな。
今回は醤油200cc・果汁200cc・煮切りみりん70ccで作った、鰹節とワカメ(あれば昆布)は適量だ別に無くてもいい、市販の味ぽんに出汁を入れて一日置けばプロっぽい味になるぞ、熊野領はこれから鍋の季節だけど量産出来るまで橘は無いだろうな、これも和歌山で栽培してもらおうかな?
来年開発計画の上がっている紀宝町や第二熊野町(現熊野市)の山間で作るのも良いな。
果汁を絞った残りの皮は蜂蜜漬けにしてマーマレードでも作ろう。出来たあかつきには、パンにたっぷりのバターとマーマレードを塗って口の周りが油でテカテカになるほど食ってやる。
たまには体に悪い位のジャンクな物が食べたくなる事も有るさ、こちらでは高級食材でも生産者の俺ならそんな無茶も出来る、役得と言う奴だな。
それはさておきポン酢が出来たんだ皆で試食するか、河豚か鰹が上がってたらそれにしよう。
市場に行くと鰹が上がって居た、中型船の開発により太平洋側で安全に漁が出来る様になったのは良いな、新種の魚に市場の活気は増していた。
今年有った事にちなんで、天の岩戸景気と呼ばれている。
早速、鰹をタタキにして食べてみよう、春先に取れた行者にんにくと言うにんにくに似た風味の野草を醤油に漬け込みこの時の為ににんにく醤油も作っておいた、今回は武さんとフツヌシさんも呼び試食してみた
「何だこの魚は、コノヤロゥ…… 魚はもっと泥臭いものじゃないのか?」
長野県出身だったらフナか鯉でも食べてたのかな?
「僕もこんな大きな魚を食べるのは初めてだよ」
どうやらフツヌシさんも日本海側の人ではないようだ。
油の乗った鰹の味をポン酢が引き締め食べやすくしている。にんにく醤油の方も回遊魚独特の血の風味のする身の味を引き立てて食欲を刺激した。
「これで大葉があれば、てこね寿司がつくれるな」
「個人的には胡麻や茗荷も入れたいですね」
「おっ、ソレ旨そうだな」
「もっと話を聞かせろ コノヤロゥ」
俺と熊野さんの話に武さんが興味を示した。多分有るであろう胡麻や大葉があれば鰹を使い伊勢・志摩の名物料理「てこね寿司」が作れる事を説明したら、必ず見つけてくるから食べさせろと言われた。こちらも喉から手が出る位に欲しい食材なのでお安い御用だと返事をした。
胡麻が手に入ればごま油が取れる。天ぷらや唐揚なんかの揚げ物が食べれるな、期待は膨らむばかりだ。
建御雷(武御雷又は槌)は茨城県の鹿島神宮の主神で、経津主は千葉県の香取神宮の主神です、利根川を挟んで向かい側に両神宮があります。
最終的にはそちらの領主に落ち着くかと思います。
タケミカズチの漢字が複数有るのは、仁が雷神が槌を持っているのはケルト神話だけじゃないんだぞと無理矢理当て字を付けたため、現地で使用している字と違うと言う理由です。
電撃魔法は仁より先にマスターします。
タケミナカタは本来、大国主の息子ですが名前が近いので親戚としました、出雲から諏訪まで戦闘しながら移動したと言う眉唾話は採用しません、今後大国主の息子とは相撲を取らせます
この一番の取り組みが相撲の祖となって居るので相撲を全国に広めて貰います、古代なので神事として奉納する感じですかね
仁の使う電撃は現在100V程、ゆうなが充電式電池を使った携帯充電器を持っているのでそれの充電をしています、主にうずめに歌を教えるのに使用、そのうち閑話を書くかもしれません
天野 仁 タケミカズチに勝利したことで男前ポイント2→3 今回から男前ポイントを設定10段階評価です、上がるとヒロイン攻略が捗るかもしれません
熱田と名古屋城を結ぶ道が大津通りで港で上げた荷物を市の中心部まで運ぶ幹線道路になります




