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38話 天の岩戸

連載開始当初視点変更は書かないと考えていたのですが、こちらの方が面白いんじゃないかと思い書きました

 熊野暦9月上旬


 [ナレーション]

 これは仁が戻ってくる数日前に遡る。

 事実は小説より奇なりと言う言葉が有るが伊勢に何が起こったのか?

 何故天音は岩戸に向かいそこで何を目にしたのか?

 まったく西に向かわない西遊記の始まり始まり。



 -天音視点-


 奈良から伝令が届きました。

 仁さんは奈良と言う場所に無事に着いた様です。朝から見ないと思って居たうずめも一緒にいる見たいですね、私達は日課の魔法の練習とご祈祷をしましょう。


「くくりさん、ご祈祷の際には眉間の奥にぐうっと魔力をためて」


「はい、天音様」

 くくりさんはこの頃魔法の扱いが上手になりました。

 ゆうなさんは仁さんと同じで色々苦労していますね。


 夕方にまた伝令が来て暫く仁さんが帰って来れないと聞きました。

 怪我を負ってうずめが治療しているとか、奈良の人の手助けをして居るとか、

 不安になりましたが怪我はうずめに任せるしかないですね。

 私が行っても出来る事は無さそうです。

 仁さんのたまに言う神様とやらは、どうして私に回復系の魔法を授けなかったのでしょうか、もし使えたら私もうずめの様に色んな所を仁さんと旅を出来たかもしれません。


 うずめの体力は自動で自分に回復魔法を掛けている様に見えます。

 絶えず循環している魔力の流れがそうとしか思えません。

 うらやましいですね。


「困りましたね」


「お姉様どうしたのですか?」


「私も回復魔法を使いたいのですが、うずめの話を聞いても理解出来ないの、使えればもう少し仁さんの役に立てると思うのですが……」


「あ~ 確かにあの説明じゃ理解出来ないです。そのうち仁が解析してくれるです」


「確かに仁さんのお陰で私も魔法を教えるのが上手になりましたね」


 何も出来ない自分に悶々としていると夜夢を見ました。

 仁さんはうずめ達や知らない女性と共に知らない場所で楽しそうにしています。

 私は伊勢の祭壇に一人きりでお父様も見当たりません。

 妙に現実的な夢に不安を覚え、私は書置きを残し少し頭を冷やしに行く事にしました。


 悪い物が憑いて居るかもしれないのでお払いもしましょう。


 私の不安は川で体を清めても減る所か増すばかり、

 どうしてこの様な気持ちになるのでしょう?

 きっと夢が写実的過ぎたのです。

 なんですかあの女性は? 

 仁さんに馴れ馴れしくその大きな胸を腕に押し当てていました。

 仁さんも顔を赤くしてまんざらでも無い様な感じがします。


 夢に如何こう言ってもしょうがないとは思いますが、何かモヤモヤします。ゆうなさんと遊んでいる仁さんを見ている時もこのモヤモヤは有るのですが、この気持ちは何でしょうか?


 気が付いたらよく訪れる熊谷組の事務所まで来ていました。

 今日もお勤めご苦労さまですと言われ、鹿車に乗せられ工事現場に行く事になりました。気分転換になるかもしれないので丁度良かったかもしれませんね。


 鹿車に揺られて移動している内に、私は何をやって居るのだろうと暗い気持が訪れます。本当に何を目的として何を目指すのか解らなくなりました。


 少し一人になりたかったので、ご祈祷をすると言って丁度良い洞窟が有ったので自分の疑問に答えを出すべく考える事にしました。そういえばこの場所はお父様がアマノイワトと言って居ましたがどうして仁さんの苗字が付いているのでしょうか?


 何故だか解りませんが少し心が落ち着いた様な気がします。

 この場所なら私の疑問の答えが出るかもしれません。

 扉を閉め魔法で明りを灯して考えました。


 この胸のモヤモヤは何なのか?

 時には暖かく時には胸が裂けそうな位痛い……

 今までたくさんの人たちの悩みを聞いて来ましたが聞いた事が有りません。


「天音さん居るんでしょ、開けて下さい」


 突然の仁さんの声にビックリしました。

 わざわざ遠くから来てくれたと思ったら体の芯が熱くなった様な気がします。

 そして私の鼓動は早鐘の様に高鳴っています。

 魔法も使ってないのに何故?


「こりゃ、破城槌が居るかもな」


 はじょうつい? 聞き馴れない物騒な言葉にビクビクして少し扉を開けると仁さんは何処かに行ってしまった後でした。はぁ私は何をやっているのでしょうか。


 何か出て行き辛い雰囲気に成ったのは確かです。どうしましょう?


 外の時間は解りませんが暫くした後、急に周りが騒がしくなりました。

 良く聞く声の人も居ます、これではますます出て行き辛いです。

 うずめの歌も聞こえて来ました、もう考え事をして居る場合では有りません。

 仁さんはどうやってこの場の収拾を付けるつもりなのでしょうか?

 わたしも完全に出て行く機会を見失った様な気がします。


「キャ~ やめてっ」


「わははは」


「いいぞ~ もっとやれ」


 声を聞くだけでは何が起こって居るのか解りません。

 そして美味しそうな匂いがしますこれは鰻の蒲焼ですね。

 そういえば暫くご飯を食べていませんでしたが、どの位の時間が経っているのでしょうか?

 皆さんが仕事を終えてこれる時間なので夕方位でしょうか?


「ヒャッハ~ ゆうな自分は好き物だと素直に認めてしまえ」


「死ね、氏ねじゃなく死ねです!! ガチです、マジな奴です!!」


 物騒な話声が聞こえて来たので恐る恐る扉を開けてみてみると、

 神輿に乗った仁さんとゆうなさんが何時もの喧嘩をしていました。

 あれは本気で怒ってないじゃれ合いのような物です。何かモヤモヤして来ました。


「うずめも乗る~」


「おう、乗れ乗れ」


 うずめをのせる為に神輿が下げられたお陰で遮蔽物で見え辛かった、その形がはっきりと目に入って来ました。その形はアレです男の人の股間に付いている物です。

 その形状は荒々しく反り返り、浮き出た血管は生き物のような躍動感が有ります。

 子供の時にお風呂で見たお父様の物とはかなり違いますが問題はそこでは有りません。

 うずめが乗っているのが問題なのです。


 熊野家の品位が問われます。誰かが止めないと……

 私しか居なさそうです。仁さんはわざとこれをやって居るのでしょうか?


「じ…… 仁さん、何をやって居るのですかっ」


「うずめもそんな物から直ぐに降りなさいっ」


 大きな声で叫んだら立ち眩みがして、目の前が真っ暗になりました。




「あれっ? いつの間に私の部屋に?」


「天音さん飲まず食わずで居たでしょ? 貧血起こしたんだよ、胃に優しいおかゆを作ったから食べて」


「ええ、いただきます」 


 そういえば何も食べてませんでした。

 仁さんの作ってくれたおかゆはお出汁が効いていて食欲をそそられました。

 具は入って無い様ですが複雑な味がして雑炊の様な優しい味がします。

 気を失う前に何か禍々しい物を見た様な気がするのですが思い出せません。

 仁さんに今日はゆっくりしててと言われたので今日はお休みしましょう。



 -熊野さん視点-


 男根を模した神輿を担ぐ祭りは三重に古くから有るが、何故あの馬鹿()はそれをやろう思ったんだ?


 問いただすと天の岩戸の伝承通りに、うずめを人前で脱がす訳には行かなかったから俺が変わりに引き受けたとか言っていたな。


 いや、伊勢から近い所の生まれだから娘の名前をそれにあやかって付けたが、そこまで意識する必要はないだろう理解に苦しむ。そしてどう言う訳か住人の受けが良い、俺の時代と一緒で五穀豊穣と子孫繁栄の祭りに発展しそうだな。たしかアレの祭神は猿田彦だったか、必要以上に立派な物を作った責任はアイツに取らせよう。


 そして悩みの種がもう一つ……

 三重県全域の人間に天音が太陽の神様だと思われ始めている。


「おい、仁」


「何です? 熊野さん」


「お前責任取ってこの事態の収拾をつけろよ」


「皆既日食が起きたのは俺のせいじゃないと思いますがいいでしょう。

 責任と言えば天音さんの嫁の貰い手は…… なっ…… 何でもないです」


 俺が睨みを利かすと仁は黙ったが、確かにその問題が出てくるな。

 非常に不本意だが仁に嫁がせるか?まあ本人同士が望めば考えてやらん事は無い。

 考えるだけだ、決定するとは言ってない。

 また馬鹿な事をしたら完全に却下だ!!


 仁の話では伊勢神宮を建て、そこでアマテラス大神を祀り、天音をそこの巫女にする事で収拾を付けようとの事だ。熊野神社も手狭になって来たし人の噂も75日と言うしな、正月には忘れるといいが……


 仁は、ご神体の鏡は任せてくれとやる気を見せていたが、三種の神器を作ろうとは天皇陛下に縁の無い人間が恐ろしい事をするな。裕仁様(昭和天皇)は神と教えらて居た俺には理解できない事だ。奈良・京都には帝が居ないとの事だったのでしぶしぶ納得した。俺と天音は伊勢の人間から現人神の様に崇められているが、そのうちアイツも仲間入りするだろうから別に良いのかも知れない。


 驚く事に今年の米の収穫量は去年の倍を超える試算だ。被害に遭った奈良に支援してもまだ余る位だな。紀宝町に道を広げて名草領と繋げるか? 俺の祖父の実家の有った熊野市もそれで少しは栄えるだろう。伊勢と勝浦の貿易拠点として町を作るのも悪くない。あそこの酒は俺の好みに合うから別荘でも建てやろうか? たしか温泉が有った気がするな、伊賀で掘ってる温泉が上手く行ったら仁に掘らせよう。



 -ゆうな視点-


 あの馬鹿(仁)はなんと言う物を作ったんですか?

 シモネタの好きな漁師達にウケるとでも思ったのですね、本当にしょうがない野郎です。


「おっ、好き物のゆうなじゃないか」


「その不本意な呼び方を止めるです。殺しますよ」


 私に耐性が有るのは、愛知県小牧市で3月15日に行なわれる豊年祭りの神輿があの形だからです。屋台で売られるフランクフルトやチョコバナナも全てその形で、海外からわざわざ観光客が来る日本の奇祭として有名ですが、伊勢が発祥なのですか? 確かに小牧でも神輿の先頭は猿田彦さんが歩きますが……


 仁の話だと三重県の祭りの祭神は猿田彦とアメノウズメだそうです。

 しっかり狙ってやってるです、芸が細かいです。


 ちなみに小牧市では男型ですが犬山市では女型の神輿を担ぎます。

 祭りの通称は言いたく無いです。


 仁は小牧と犬山を積極的に開発しているのですが、何か不安を覚えるです。

 三重の人間があの祭りを知っているとは思いませんが、巫女が小型の張型を抱えて練り歩く祭りが開催されたら私がそれを持たされるハメになるです。乙女の危機です。


 死んでも回避しないといけないです。



 -仁視点-


 何とか天音さんを引っ張り出す事に成功した、やはり古代の伝承に間違い無かったな。


 本来であればアメノウズメは逆さにした桶の様な物に跨り女性器を見せたと有るが、

神輿は男性器だ、後世の歴史家が女性なのにそれはおかしいと事実を捻じ曲げるかもしれないが、うちのうずめの被害は免れた。実際に史実通りにうずめに踊りを躍らせたら俺が熊野さんに殺される、危ないところだったな。


 そういえば伊勢神宮で架空のアマテラス様を祭って居るのだけど、熊野さんはそのアマテラス様が遣わした神の化身で、天音さんとうずめはアマテラス様の孫だと思われている。


 何故か俺もその仲間入りをしている。

 天孫降臨は宮崎県のはずだけど、東海地区の伝承だとアマテラス大神が天逆矛(あまのさかほこ)をダーツの様に投げて行き場所を決めたらしいが、コントロール抜群なら日本の中心の飛騨になるなノーコンピッチャーなら九州だ、微妙なコントロールだと三重県になる。


 実物が霧島山に刺さっているから、左投げのサイドスローで途中ですっぽ抜けたんだな、天は二物を与えずを体現したような人だ好感が持てる。


 伝承は定かでは無いので真実は神のみぞ知ると言う奴だな。

 アマテラス大神は子孫が勤める巫女さんに憑依して言葉を伝える事が有るらしいから気になる人は伊勢神宮に行って問い合わせてくれ、間違ってもお札売ってるバイトの子に聞くなよ。



ゆうなの言うお祭りは実際に有ります興味の有る方はどうぞ 小牧・豊年祭りで検索するとヒットすると思います


残念ながら近畿地方のお祭りは1/15日最終で終わっています、何とか間に合わせたかったのですが間に合いませんでした


今霧島山に刺さっている天逆矛はレプリカです、火山活動でへし折れたとかで行方不明、一説によると伊勢神宮に奉納されて居るとか

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