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4話 熊野さんとの出会い

 熊野暦5月5日


 鈴鹿の地で一泊し歩く事2日俺は熊野の地に到着した。


 熊野の地は穀倉地帯と豊かな漁場と北部(松坂市)辺りで行っ居る牛の畜産で成り立っている様だった。

 しばらく町を中心に向かい歩いて行くと、祭りをやっているらしく人だかりが出来ていた。


 そこでは一人の美しい少女が神楽舞を奉納していた。

 歳の頃は俺と同じ位だろうか? 

 背中まで有る艶やかなストレートの黒髪が特徴的な美人で、舞を舞う姿は美しくも有りながら、どこかはかなげで、何となく庇護欲を掻き立てられる感じがした。


 その脇で鼓を打ちながら歌を披露する、ボーイッシュな髪型の健康的な少女の歌声も素晴らしく印象的だ。鈴の音の様な声と言うの表現するならば、まさにこの事だろう。


 しばらくその少女たちの奏でる曲と舞に呆けていると、

 舞を舞う少女が青白い光をまとい始めた。

 すると神楽のリズムは激しくなりクライマックスを迎える頃、

 その光は一筋にまとまり上空に解き放たれた。

 その激しい舞で少々着崩れた姿で吐息を乱す姿は、

 神秘的で芸術的かつ官能的で……

 何と言うか俺の乏しい表現力では言い表せないほど美しかった。


 万雷のような拍手の中、恥ずかしそうにはにかむ少女の笑顔に俺は心を掴まれた。


 町行く人を捕まえて話を聞くと、

 あの少女達は領主の熊野様の姉妹で、

 舞を披露していた姉の方を天音、

 歌を歌っていた妹の方をうずめと言うらしい。

 今日は田に種を蒔き水を流した後の五穀豊穣の祭りだと言うことが解った。


 さすがファンタジー世界と言うか、田植えが雑でもゴリ押しで何とかなりそうなご利益の有りそうなそんな舞だった。


 どうやって熊野さんとアポを取ろうかと、思案しながら屋敷の前をうろうろしてると先ほどの少女(妹の方)に声を掛けられた。


「お兄ちゃん何してるの~」


「この辺りを支配する、熊野さんに興味が有って会って見たいんだが、どうした物か考え中でな」


「おとうさんに会いたいの~? うずめが案内してあげる~」


 そう、あっけらかんと言う少女に手を引かれ、熊野さんの屋敷に入ることに成功した。

 これでこの地の領主と顔合わせが出来ると安堵していた俺の目の前では、

 何故か姉妹喧嘩が繰り広げられていた。


「知らないひとを家に入れてはいけません、悪い人だったらどうするのですか?」


「え~お兄ちゃんは悪い人じゃないよ、うずめ分かるもん」


 この件に関しては明らかに姉言い分はもっともだ、

 普通の人が見たら俺は紛れもない不審者だろうな。


 次第にエキサイトして行く姉妹の言い合いにオロオロしていると、

 けたたましい破壊音と共に一人の男がやって来た。

 年の頃は30半ばだろうか、短く刈った髪は天をつく様に逆立ち、

 鋭い目付きをした男だった。この人が領主の熊野さんだろうか?


「娘はやらんぞ」


 そう肩で息をしながら開口一番吐き捨てた熊野さんは、

 娘が男を連れてきたと言う知らせを受け、

 仕事を早々に切り上げてあわてて帰ってきたらしい。

 なんとか誤解を解かなくては……


「今回こちらに伺ったのはそう言う理由ではなくて、

 申しおくれましたが(わたくし)、天野仁と言うもので……」


 ――と、合っているかどうか分からない、たどたどしい敬語で話し始めると、熊野さんはピクリと反応した。


 話を聞いてくれそうな雰囲気になったので、気付いたら浜に打ち明けられた事と直感的ではあるが、何かの手がかりがつかめそうなので会いに来たことつたえた。


「なんでぇ兄ちゃんマレビトかよ」


 マレビト?聞き覚えの無い単語に首をかしげていると、熊野さんは続けてこう言った。


「ああ、俺の聞き方が悪かった。兄ちゃん昭和何年生まれだ?」


 久しぶりに聞いた聞き覚えの有る言葉に俺の目には涙が浮かんだ。

 異世界転生と言うスチュエーションと、

 若干の肉体的チートを手に入れても心細かったんだ……


 何とか生きて行ける事と、自分の事を理解してくれる人が居る事は別物だと思う。

 この人が居なければ、肉体的有利を得て周りに溶け込み、ちやほやされても、

 どこか仮面をつけて生活するハメになるんじゃないだろうか?


 現代日本から来たのは俺だけじゃない。

 その事実に俺の心は救われた様な気がした。


 何が起こったのかと姉妹はヒキ気味だったが、

 俺の目からは涙が止まらなかった。 

 何故だろう、自分は今まで他人に依存して生きていたつもりは無かったんだけどな。

 もしかしたら知らずの内に親や友人に依存して居たのかもな。


 この感情は何だ? ホームシックか? 

 俺はダセェな、物語に溢れる勇者様に憧れる物の、

 小市民の枠を抜け出せられないらしい。

 

 外聞も無く号泣したあと落ち着きをとりもどし、自分が昭和の後の元号の平成12年の生まれで有る事を説明した。


 色々話して分かったことは


 熊野さんは15歳の時の、昭和20年8月17日に、獲った魚の干物とヤミ米を物々交換してきた帰りに、神隠しと言う形でこの世界に来たらしい。元々漁師だったため漁業を営みながら持っていた米を栽培し、今の町を作ったと言う。現地の娘と結婚し二人の娘をもうけるも、奥さんは2年前に他界

 男手一つで娘を育てるシングルファーザーだ。


 ちなみに熊野暦と言うのは、熊野さんの飛ばされた日を基点として。

 ひと月を30日とし12ヶ月、年末年始の5日間(四年に一度6日間)を正月として休息日としたらしい。


 今日は熊野暦20年の5月5日なので20年前にこの地に来たようだ。


 俺平成生まれだよ、何か時間軸がおかしくないか?


 何かと疑問は残る物の、同郷のよしみと言うことで意気投合し、離れの小屋に居候させてもらうことになった。




熊野さん曰く 姓名を名乗るやつは今のところ熊野さん一家しかいないとのこと


牛の飼育は縄文時代末期から行われていたそうです。



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