37話 天音さん失踪事件
熊野暦9月上旬
俺はうずめと共に熊野邸に帰って来た。
山道を含む70kmを5時間弱で完走した信忠を熊野神社の耕太に預け世話を頼んで、境内に急いで行くとくくりがこちらに慌ててやって来た。
「仁様、天音さまが……」
「くくり、話を良く聞かせろ」
くくり達はいつも寝るときは天音さんの部屋を利用しているのだが、朝起きたら居なくなっていたとの事だ、置手紙が残されていてご祈祷をすると書いて有ったらしい。五十鈴川で禊をしていたとの目撃情報が有ったらしいので近くを探したが居なかったとの事だ。
天音さんの行動半径はそんなに無い筈だが、うずめが神出鬼没なので不安になった。最近鹿車の開発により交通の便は良くなって居るので1日で40kmは進めるだろうが宿を使えば脚が着くと思う、伊勢の狩猟組合に依頼して伊勢以北の宿屋の利用状況を確認してもらう事にした。伊賀とは連携を取ってるのでそちらには行って無いとの情報を得た。船は使っていないので三重県内の何処かには居ると思うが……
熊野さんの娘をさらおうと言う勇者は居ないだろう、そんな目立つ事をしたら人目に付くだろうし伊勢の住人全てを敵に回す事になる、何か見落としはないか?
五十鈴川で禊をして何をしようとしたのかが鍵だ、五十鈴川は現在の地理で言う所の伊勢神宮内宮を流れているが神社は無く奇兵隊の訓練で使用し切り開かれている場所だ。その近くからは県道32号線(通称伊勢道路)をトレースする形で志摩地区へ向かう道が作られている。
まさか南に向かったのか? 一度一緒に行った事は有るが……
伊勢道路の始点に当たる場所に有る熊谷組の事務所で話を聞くと、朝一番の鹿車に乗って工事現場に向かったとの情報を得た。どうやら度々その場所には訪れていて土木作業の手伝いをして居たので、何時もの事と疑問には思ってなかったらしい。
俺は熊野さんへの伝令を近くの人に頼み後を追うことにした。
以前試し掘りしたトンネルは開通していて更に奥に道は続いていた。
暫く進むとわき道が有り熊谷組の拠点が有ったので話を聞くと、天音さんは奥にある洞窟で祈祷をするので誰も覗くなと言って洞窟に入ったらしい。
そしてこの場所の通称は『天の岩戸』
なんて所に篭ってるんだ?
俺はスサノオと違って素行は悪く無い筈だぞ、まさか知らずの内に怒らせたとか?
ゆうなと一緒に超合金を製作しようとしたのにハブられた事か?
いやそれは結構前の話だ多分違うな。
女の勘という奴か? 最近知り合った朱里さんの胸を知らずの内に目で追っては居るがアレは浮気じゃないぞ、男のサガと言う奴だ。なんかそう考えるとこっちに非が有る様に思えて来た。
「天音さん居るんでしょ、開けて下さい」
閉じられた木の扉の中からは返事が無かったが、扉自体には魔法が掛けられ叩いた感触はまるで金属の様だった。こじ開けるとしたら破城鎚が要るだろうな。
天の岩戸に引き篭った人を引き摺り出すのは如何するんだったっけ……
伝承によるとアメノウズメが女陰あらわにしたエロダンスを披露した所、皆にバカウケで何事かと気になって出てきたとか、女陰って草食動物の爪見たいと言うかω見たいな形の物ではなく中身の方だよな? 教えたら何の疑問も持たず遣りそうだが、可愛い妹にそんな破廉恥な事は遣らせれ無い。
しょうがない俺が泥を被るか……
天の岩戸内部は湧き水が湧いていて食料庫としても使用しているので命の危険は無いな、俺は猿田彦の元に向かいある物の製作を依頼した。
「旦那、本当にこれを作るんですか?」
「ああ、伊勢の住民にはウケが良いと思うぞ」
なんだかんだ言ってシモネタが受けるのは時代を問わずだからな。
熊野邸に戻り心配そうにしている者達にに事情を説明した所、皆安堵の表情を浮かべた。事情を知らない人たちは実際にご祈祷をしていると思ってくれた様だが、場所が引っ掛かるマレビト達で話し合いが行なわれた。
「天音の事だから、本当に厄払いや安全祈願の可能性も有るが……」
「工事はほぼ終わっていて後2km強で海じゃないですか、まだ紀宝町方面に道を作る計画はないんですよね?」
「実際になにか不具合が有ったとかですか?」
「選りに選って天の岩戸だよ、地脈や霊的な意味合いとか無いんじゃない? 有れば伊勢神宮並みの大きな社が建てられてるはずだ」
「天の岩戸は伊勢に二ヵ所有るしな」
「夫婦岩の有る二見ですね、何故かお稲荷様を祭っているです」
いくら話し合っても何故と言う事の結論は出なかったので、翌日岩戸の前で熊谷組の連中と酒宴を開いて試して見ようと言う事で話は落ち着いた
翌日の昼頃、酒宴のつまみを作っている俺の元にうずめが来た。
珍しく慌てて居るので不思議に思ったが手を引かれ外に出たら納得した。
「なんだ、皆既日食かさて仕事に戻るか…… 待てよ……
基本的にあまり動じないうずめがこの有様だけど町の人たちはどうなる?」
何か不安になったので町に行くと皆戸惑いパニック状態になっていた。
どうやって日食の仕組みを理解して貰うか? この状況だと無理だな。
「皆静まれ、別に死ぬ訳でも無し騒ぐなみっともない。それでも命を賭けて魚を獲る漁師か」
「おお、若様 確かにそうだ。波の高い日の漁に比べればこんなの屁でもねぇや」
見栄っ張りの若者が俺の話に乗ってくれた。
このままなし崩しに予定してた酒宴に持ち込もう。
「今日は漁は休みだ、昼間から酒が飲めると思えば逆に幸せな事だろう?」
「「「ちがいねぇ」」」
「皆引き篭もってご祈祷しているお姫さまを迎えに行くぞ着いて来い」
鹿車に人を乗せ天の岩戸に向かって行った。
事前に運ばれて居た酒を皆に配り仕込みを終えた料理を仕上げて振舞っていると、少し遅れて猿田彦に頼んでおいた物が来たようだ。
少し暗くなった天の岩戸の前には篝火が焚かれ幻想的な雰囲気が出ていた。
今はうずめが歌を披露しているな、歌が終わり次第仕掛けるとしよう。
熊谷組の人たちに協力して貰いとある形状をした神輿を披露する、先に見た人は爆笑していた。よしちゃんとウケてるな、すべったら如何しようかと思っていたが大丈夫そうだ。
――さあ行こうか
「キャ~ 何あれぇ」
「くくりちゃん見てはダメです。目の毒です」
「「ぷっ わっはははは」」
予想通りの反応だ。
これならどんな状況なのか気になって出て来るに違いない。
俺は神輿に跨り皆に指示を飛ばした。
「もっと激しく神輿を揺らせろ、そんなんじゃ満足しないそ」
「「違いねぇや」」
「もっとご婦人の前によってサービスしろ、子孫繁栄のご利益があるからな」
「キャ~ こっちに来たっ」
黄色い奇声を上げるご婦人達もまんざらではなさそうだな。
「もう、仁何やってるです早く止めるです!!」
「ゆうな何を言っている、こんなにウケているじゃないか?」
「くくりちゃんの教育に悪いです!!」
「これでくくりも大人の階段を登れると言う物だ、性教育と思えば如何と言う事も無い」
「ゆうなちゃんはなんでそんなに興奮しているの?」
「そうかゆうなは興奮しているのか? ははっ、良い事言うなくくり、ゆうなは興味津々なお年頃って奴だ」
「死ねば良いです」
「わ~ おもしろそ~ うずめも乗る~」
うずめも神輿に跨り皆に大麻を振った、伝承によればウズメの持ってたのは笹とされているが、今回は神事として執り行って居るので幣だな。
人々の悲鳴と笑い声がこだまする状況が続いた。
暫くすると岩戸の方から音がして、そちらを見ると天音さんが立ち尽くしていた。
「じ…… 仁さん、何をやって居るんですかっ」
無事作戦は成功し天音さんが出て来た見たいだ。
天音さんだ岩戸から出てくると徐々に日の光が戻って来て、町の人も天音さんと日の光の再来に感嘆の声を上げ出迎えた。
次回は天音視点でネタばらしをしたいと思います、今日中に書けたらいいな




