35話 奈良へ行こう
熊野暦8月中旬
井村屋のオープンより一月経ち従業員もそろそろ馴れて来た。仕込んだ醤油と酒も2ヶ月と立たず完売したので奇兵隊の連中には特別手当と休暇を出している。休暇が終わり次第奈良に演習に行こうと思う。
当初木津川を下るJR関西本線のルートが検討されていたが、事前に出した斥候により名張から奈良(大和八木)に向かう近鉄大阪線のルートに変更した、聞く話によると山を一つ越えたら後は平地が続いているらしい、宇陀川と言う川を上り途中から平地に沿って進んで行こう。
奇兵隊の準備も整ったので出発する事にした。今回から小型の荷台を用意し随伴させて居る、長距離の移動となると食料の問題が出てくるので乾物などを積んでの移動だ、消費を抑えるため途中で川魚などは採取する予定では有るが保険の様な物だな。
伊賀から南に向かい名張から川沿いに進み開けた場所まで出た所で野営する事にした、釣りや罠などを使い川魚を採取する岩魚や鮎などが釣れたな、後は猟師の息子達が山で狩りをしている。
「若 只今戻りました」
「調子はどうだった」
「それが鳥は捕まえたのですが、オークが居ないみたいなんですよ」
乱獲しすぎたか生態系に支障をきたさないといいが……
「米は炊いといたから取り合えず飯にしよう」
斥候を出した結果、平野部を西に向かうと進行方向に流れる沢(大和川)が有ったとの事だったのでそちらに進路を変え奈良方面に向かう、そろそろ集落の一つや二つ見えても良い頃だと思うが見当たらないな、開けた土地なのに勿体無い。
まあ、蛇口を捻れば水が出るような環境じゃないと生活は苦しいのかもしれない。
5kmほど川沿いを進むと広い平野部に出たがそこで異変に気付いた、人が住んでいた形跡は有るのだが田畑が踏み荒らされ酷い有様になっていた。集落も破壊され人の気配がしない。
「兄貴、この足跡オークの物じゃないか?」
「その可能性は高いな、足跡を追っていこう」
足跡は西に進んでいたので、そちらに進むと煙が上がっていた。
急いでそちらに向かうと、半径数キロを水堀と柵で囲んだ集落でオークと交戦している人たちが見えた。
「助太刀するぞ、毒矢を使おう今回は手加減無しだ」
以前の教訓を生かし最初から毒矢の使用を決定した。
集落に張り付いているオーク達に後ろから矢を浴びせ、こちらに意識を向け後は毒が回るまで逃げるだけだ。2~3回繰り返すと100匹位始末出来たので一気に攻める事にした、もちろん毒矢で一発当ててからになる。
「皆・気を抜くなよ。一番隊は右翼から二番隊は左翼から進め、3・4番隊は俺と共に中央だ」
実力のある藤堂・加藤の二名に両翼を任せ中央を厚くして攻める。
見た所この前のデカブツは居ない見たいだが伏兵に気を付けないとな、
近づいてボウガンの一斉射の後に突撃し20分程で片が付いた。
すると鐘が鳴らされ物見台の男が叫んだ……
「南側からオークの集団200匹程と馬鹿でかい奴が一匹います。逃げて下さい」
「兄貴、どうする?」
「この状況で見捨てて逃げる訳にも行かないだろう」
オークの襲撃には俺達が乱獲した事が関与してるかもしれないしな。
デカブツは厄介なので、土魔法で落とし穴を作りそこに誘い込んで仕留める事にした。
「すまないが少し持ちこたえてくれ、必ず加勢する」
落とし穴を掘っている間に斥候を出し集落の右か左どちらから攻めるか検討した所、ここから左側に向かった方が近い様だデカブツは中央に居るそうだ。
「おいそこの男、左側は俺達が担当する右側を集中して攻めてくれ」
「了解した、御武運を」
基本的には先ほどと同じだ毒矢で挑発し弱った所を叩くの繰り返しで削って行く。
「全員弓を引け…… 放て、
次、ボウガンでの一斉射の後後退だ、もう少し引き付けろ…… 今だ、放て」
ボウガンの直撃で20匹ほど片付けたが30匹ほどこちらに突っ込んできた。
それを散開して交わし狙えるならカウンターで仕留めて行く、暫くすると全身に毒が回りオーク達は倒れた。
「次行くぞ、犬飼あのデカブツに当てれるか?」
「必ず当てて見せます」
弓の名手の犬飼にデカブツを任せ、もう一度一斉射の後に落とし穴の有る場所まで後退する。よし釣り出すことに成功した、今回ボウガンはデカブツ用に温存しておいた。
「数が多いと厄介だな、もう少しで罠を仕掛けた場所だ散開しろ」
俺は雑魚は他の皆に任せデカブツを挑発すべく立ち塞がった、暫く交戦して皆の準備が整いしだい落とし穴に誘導しよう、真近で見て解ったのだがこの前のオークよりデカイな4mほどは有る、御在所の信長を見てなかっら少し躊躇したかも知れない。
信長よりは組しやすい、オークの突進を避けながら足元を狙い時間稼ぎをする。
少し前から練習している中距離型の長槍も積極的に使って行こう。
コレで身長差を無視して攻撃出来るが……
竹槍に魔力を込め迎え撃つが分厚い毛皮に阻まれ少し切り裂く程度だ、弾かれないだけマシだが地道に行くしか無い、この技だけで相手をしたら何日かかるだろうな。
「兄貴、こっちは粗方片付いたぜ」
「よし、罠の周囲で待機しておけ」
ようやく準備が整った落とし穴の場所に誘導して行こうか、背を向けるのは危険なので徐々に後退しつつ機を伺う、それと一つ試したい事が有った延長戦上に罠が有る事を確認し竹槍に土魔法で岩を貼り付けて行く。
最近ウエイトトレーニングに使用している大剣を生成した。
オークの足の一本でもへし折ってやりたかった。
チマチマ攻撃しているとストレスが溜まるからな。
オークの動きを見て位置取りをして大剣を構える、突進に合わせ全力で大剣を振りぬいた。効果は有ったか解らないが見事オークが罠に嵌った。
「よし、今だ撃て」
ボウガンに拠る一斉射が行なわれたもちろん毒矢を使用している。
「罠から抜け出す前に全員で攻撃、可能な限りダメージを与えろ」
指示を出し俺も戦列に加わる、土魔法で足場を作り顔に近付き目玉に向けて渾身の一撃を放つとオークが暴れだし俺は上空に吹き飛ばされた、これダメな奴だ何とか受身を取らないと死ぬ
集落に張り巡らされた壁に激突し水堀に落とされた。
下が水で助かったな、地面だったらヤバかった。
かなりのダメージを追いながらも即死だけは免れた。
「兄貴、大丈夫か?」
「ああ、何とか生きている」
無茶しやがってと言う藤堂に手を貸してもらい、水堀から脱出するが思った以上にダメージが有った見たいだ、地道に攻撃しても一発で返される理不尽だな本当に嫌になる。
オークは罠から抜け出し暴れているが、皆散開して遠距離攻撃に勤めているな。
毒が回り仕留められると良いが巨体のため時間が掛かりそうだ。
「藤堂お前の竹槍を貸してくれ」
「兄貴これ以上は命に危険が……」
解っちゃいるが誰かがやらないと死人が出る。
その役目は俺の役目だろう。
竹槍を土魔法で大剣に変えオークと対峙した。
相手もこちらを見つけ突進してくる。
「藤堂、俺が避けたら皆で弓を放て指示は任せたぞ」
「兄貴も死ぬなよ」
オークの突進に合わせて大剣を振るが、ダメージの為避けきれず巻き込まれてしまった全身がバラバラになりそうな激痛が体中に走る、何とか立ち上ったがオークがこちらに向かい迫って来ている、俺はここで死ぬのか?
諦めかけたその時……
白い獣がオークに体当たりをした。
あれは信長か?
「やっぱり、お兄ちゃん無理してる」
信長の背中から飛び降りたうずめが、こちらに来て回復魔法を掛けてくれた。
「うずめ、助かったがお留守番の筈だろ」
「えへへ きちゃった」
助かった事には変わり無いので俺はきつく叱れ無かった
「兄貴、なんだあの鹿は……」
「信忠の親と言うか、喧嘩友達みたいな物だな」
俺達は二匹の怪獣のバトルを見て居るしか無かった。
信長は驚異的な跳躍力で飛び上がりオークの頭を執拗に攻撃している。
暫くすると決着が着いた
「助かったよ信長」
俺が礼を言うと一瞥し「フッ」と鼻を鳴らしてて去って行った。
借りは返したぞかな? もしかしたら修行が足らんと言いたかったのかもしれない。
誇り高き鹿の王に助けられた。これも縁なのかな?
残ったオークを掃討し集落の中に入ると皆平伏していた。
「どうしたんだ、皆頭を上げてくれ」
「正しくアレは神の使いの白い鹿、ご縁のある方に頭を上げるとは恐れ多い」
何か伝承でも有るのか、神は白い鹿に乗って来ると言う伝承は現代にも有るが……
埒が明かないので代表者に話をしよう。
俺が頼むと先ほどの男が重い腰を上げ町の中心部まで案内してくれた。
中心部には二階建ての建物が有りそこに領主が住んでいるそうだ。
熊野領は平屋しか無いのでこちらの方が技術的には進んでいるのかも知れない。
建物の中に進むと一人の女性が出迎えてくれた。
年の頃は俺より少し上の豊かな胸部装甲を持つ綺麗な人だった。
案内の男の話によると領主のニギハヤヒと言うらしい。
名草さんと一緒で世襲でその名前の様だ。
お互い自己紹介をするマレビトかと問われたので素直にそうだと答えた。
「なんやあんさんもマレビトかぁ、うちの本名は雨野朱里って言うんよ」
「気さくな感じだとは思ってはいたけど俺と同じマレビトだったのか」
現代人らしく無神論者と言う訳だ。
聞く話によると山に囲まれた盆地で有る奈良周辺は度々オークの被害が多かったが、今年に入ってから被害が増したとの事だった。伊勢は伊賀・名張の緩衝地帯が有った為そこまで被害が無かったが、開拓に伴い何らかの影響は有るな、何か後ろめたい気持ちになったので支援を申し出た。こちらの来月の稲刈りはほぼ絶望的だろう。
「あんさん、ついでにこの地方も面倒みいひん」
「今名古屋の開発で忙しいから難しいな」
「なっ…… 名古屋を押さえ取るんかいな」
まあ、三重に居てあそこが空白地帯なのに押さえないのは馬鹿だろう。
「岐阜の領主と共に濃尾平野の開拓中だな」
「少なくとも食べ物には当分困らんやろ?」
先の事は解らないが困る要素が見当たらないな。
「あんさん見かけに寄らず金持ちなんや、ほんまにこっちも見てや、そうせんとうちらは飢え死にや」
オークの被害に付いてはかなり後ろめたさが有ったので、暫くの間と言う条件で合意した尾張地区の代官も優秀な文官を紹介してくれるらしい。武術より学術の方を重視している地域なんだな。学校の様な物も既に有る様だ、技術交流とかで伊勢と連携を取っていこうか、俺達はいつか死ぬのでマレビトに頼らないシステムを作らないといけない。教えれることは積極的に教えていこう。
大筋の話がまとまったので伝令を熊野邸に出し支援について検討して貰う事にして、こちらではそれに向けて街道整備が行なわれ伊勢街道が作られる事になった。
アメノホアカリと言う神様がいるますが男神です、この手のフィクションでは女性に成るのは良く有る事、今後兄弟の杯を交わし一応姉と言うポジションになります




