33話 信長と信忠
実際に稲作の伝来は愛知県の何処かを境に100年単位で一度ストップしています。
今川家はこれさえなければ織田家に勝てたかもしれないですね。
熊野暦7月上旬
長雨の季節も徐々におさまり夏が近づいて来た、俺は尾張地区の様子を見に行く事にした、船であゆちの里に行き里の人に聞いてみると近隣の天白川が氾濫したが被害は無かった様だ
本音を言うと高台に移住して貰い、がっつり治水工事をしたい所だけど資金も人手も足りないな、あゆちの里より東と南側は小高い丘の多い地域が広がる地帯だ開発にかこつけて徐々に移住してもらうのも手だな、三河地区からの移住者にも期待したい所だけど、伊勢以上に山海の幸が豊かな三河や静岡県一帯は稲作への移行はしていない様だ、今の所は交易を通じて魅力を伝えて行く事にしておこう
この先からが愛知県の大半なんだよな、狩猟組合をここにも作って東の方の住民分布の調査と道を作る事を依頼するかもしれない、名物料理は味噌煮込みと牛の土手煮かな赤味噌作らないといけないが、あれ何で赤いんだろな。
黒ビールと一緒で焦がした麦とか入れているのかな?
カラメルみたいな味が有るからメーラード反応であの味が付いているはずだ。
メーラード反応とは糖分と蛋白質が熱などにより反応して出来る現象だ、お肉を焼くとキツネ色になったり醤油が黒いのもメーラード反応だな、暫くは味噌が黒いと拒絶反応を示されるかもしれないが時間をかければ魅力のある特産品になってくれるだろう。
さて名古屋市の南側は問題無しと、それから岐阜方面に向けて移動していくと案の定と言うか庄内川が氾濫していた、広範囲に及ぶため広く浅く浸水しているのが不幸中の幸いか、確かに田んぼに水を入れるには調度良い位の水量だな。この地域どうした物か土魔法で掘りや土塀を作ってその中で生活したら浸水被害は防げるかな、あと倉庫だけじゃなく家も高床式にしたら毎度家を建て替える必要も無いんだろうけど、木材の確保が必要か墨俣一夜城みたいに川の上流である程度くみ上げた物を下流に流して開いた場所に立てる方法か? 技術的には可能だけどこれも人手の問題が有るな、数十年に一度の転変地異に備えて万全にしたい所だけど……
伊勢の志摩地区と同じで開拓と平行しておこなえれば効率的に行なえると思うけど、土地勘がないから岐阜の耕一さんに相談してみよう。
「耕一さん、木曽川以南の一宮地区の開発は順調ですね」
「ええ、今年は豊作が予想されます。木曽川から水を引き込めば水不足と洪水対策の二つ同時に行なえますが、この事業はかなりの時間が必要でしょう」
山間部の開拓について相談してみたが広大な濃尾平野に力を入れたいと言われた、俺も米の生産は重視したいので返す言葉もなかった。一応美濃和紙の製造工場やこうぞの畑の製作ついでに少しずつ木材を回してもらえる様に交渉した、手が空くようになったら岐阜東部の土岐地区の開発もして貰う約束も取り付けたので伊勢に帰る事にした。
「あちらを立てればこちらが立たずと中々上手くいかないな」
今、伊勢では何故かベビーブームだ一部の人間にはエロの伝道士と言われている俺だがこの件には関与してないと思いたい。熊野さんの治世がいいんだきっとそうに違いない。
熊野神社に併設された工場の従業員用の託児所も要るのかな?
天音さんの仕事が増えるな巫女さんも増員しないといけないかも知れない。
もう寺子屋的な物も作って識字率の向上も目指すかな、ゆうなとくくりは読み書きと四則演算できるし、私立中学に通っていたゆうなに関しては俺より頭が良いかもしれない。
くそっ、東海3県の開発で俺の一生が終わりそうな勢いだな、何とか優秀な代官を見つけて丸投げしないと……
数日後、伊勢周辺には暗雲が立ち込めていた。
比喩表現ではなく物理的な方だ、雷と風を伴う嵐に住民達は仕事を止め家に閉じこもっている
「ゆうな、雷の中心はどの辺りかわかるか?」
「光ってから音がなる秒数×約340mです」
「へ~そうなんだ、じゃあまだ安全だな」
若干中二病を残す俺と、絶賛中二なゆうなは熊野邸の縁側から雷を眺めていた。
「アレ魔法で出来たら最強だと思うんだが、どうやったら電気起こせると思う」
「下敷きを脇の下で擦るイメージですかね?」
「静電気の延長線上から始めるのもアリか」
手に魔力を込めてすり合わせた後ゆうなの髪に近づけると見事に逆立った。
「やめるです、女の子の髪で遊ぶなです」
お返しとばかりにゆうなも俺に静電気攻撃を仕掛けてきたが、髪の短い俺には効果はイマイチだ。これ以外と楽しいな今度うずめで遊んでみよう、熊野姉妹とくくりは部屋に引き篭っている。雷が怖いらしい、こんな自然のスペクタクルショーを鑑賞しないとは勿体無いな。
数時間後には雷雲が去ったので台風とかじゃなかったな、そういえば台風はあれだけ雲が渦巻いてるのに雷を伴う事が無いような気がする不思議だな。
翌日、赤味噌の試作をすべく北畠の町にうずめと共に向かった。うずめは北畠の子供達と遊ぶのが目的だけど……
だいぶこの辺りも開けてきたな市に昇格出来るのを目標に頑張ろうか、一応「市」が開かれ商業活動していれば市の条件は満たされるのだけど、住民が200人で市と呼ぶのは恥ずかしいので1000人を超えたら市と呼ぶことにしよう。
「おに~ちゃん、お山の方から煙があがってるよ」
「なんだって、あの方角は四日市の北西だな」
昨日の落雷が原因で山火事が起きているのかもしれないが、何かイヤな予感がすしたので北畠を通り抜け煙の上がる方向に向かうと御在所岳周辺の木が燃え尽きていたが、火は既にくすぶる程度に治まっていた。
「しかさん大丈夫かな~」
「そうだな、様子を見に行くか」
うずめの声に不安の正体を見つけた。信長は殺しても死ななそうだけど名前から火との相性が良くなさそうな気がしたんだ、御在所岳を登り中腹まで行くと信長が倒れていた。大きな火傷は負ってないが何処か苦しそうだったので、うずめに回復魔法をかけててもらい俺は火傷を癒すべく沢に手ぬぐいを濡らしに行った。もしかしたら一酸化炭素中毒かもしれない。出来る事は限られるが後は信長の生命力に賭けるしかないな。
うずめと俺の看病により取り合えずの山は越えたようだ、どうして山頂方面に逃げなかったのか不思議に思っていたら、150cm位のカモシカ達が不安そうに信長の周囲に集まって来た。多分自分の眷属を守る為に山野を走っている内に煙に巻かれたのだろう、しばらくここにとどまり信長の意識の回復をカモシカ達と待つ事にした。
数時間後、信長の意識が回復し起き上がった。よかったと涙を流すうずめに少し途惑って居る様だったが眷族に合図をすると一匹のカモシカがこちらに近づいてきて頭を俺に擦りつけて来た。
「この子を連れて行けだって~」
「うずめ信長の言葉がわかるのか?」
「う~ん、なんとなく?」
語尾に不安がある物の取り合えずカモシカを一頭連れて帰ることにした。試しに乗って見た所鹿ほどの速さは無いが飛び跳ねないため縦揺れが少なく乗り心地は悪く無かった。有り難く騎鹿として遣わしてもらおう。
「この子の名前どうするの~」
「如何しようか、信長の子供だから信忠にしようかな」
「うずめの忠勝とおそろいだね~」
三重だと信勝の方が縁が有るのだが、いまいちパッとしないため信忠にした。うずめも気に入ったようだしこの名前で良いか、俺は念願の徒歩以外の移動手段を手に入れた。広い道の無い場所には鹿車は入れられないので結構苦労していたんだ。
信忠を連れて麓まで降りて行き鹿車に乗せて北畠には運んだ、うずめに世話を任せて赤味噌の試作品の仕込みをしていたら奇兵隊の連中が帰って来た。
「行商の方はどうだった?」
「醤油は試食に出したら欲しいと言う人間が多かったですね。清酒も人気商品になりそうです」
岐阜は紙の製造と養蚕が始まっているから良いけど、尾張地区は米以外にも一押し欲しい所だな乳牛を定期的に送り加工工場でも作りこちらに輸入する事も考えては居るが、もう少し時間がかかりそうだな、名古屋名物の味噌は今作ってる所だし……
ういろうか? 餅米の粉があれば出来るけど、はちみつ味とよもぎ味しか出来ないが考えておこう。そう考えると尾張地区でも養蜂しないと蜂蜜が足らなくなるな、知多半島の山に養蜂箱を置いて船であゆちに運ぶか、知多半島は用水が出来ないと農業に向かないし漁師の副業としては有りかもしれないな、渥美半島の住民にも依頼して置くとしよう。
「兄貴、外に変な鹿がいるんだが」
「ああ、俺の騎乗する信忠だ」
「まだ鹿に乗るのを諦めて無かったんだな」
「半分諦めて居た所に、丁度良い鹿が居たと言った方が正しいな」
今後どうなるか解らないが御在所以外にもニホンカモシカはいるだろう、有用ならば増やして行くかもしれない。
この後奇兵隊をねぎらい酒宴をしてお開きになった。名草さんも言っていたがビールの生産に時間が掛からないのは魅力的だな、酒好きが多いため生産が追いつくか不安になるほどの消費量だ。ビールの製造も尾張地区に持って行く事が決定した、尾張地区が穀倉地帯になれば強力な武器になるだろう。
台風内部で横方向に微弱な放電現象は起きていて落雷は無いと言われていますが定かではありません
次回は井村屋のオープンと水着回の予定




