32話 志摩地区開発状況
熊野暦6月中旬
梅雨の時期から少し過ぎた、一応この時期を利用して北畠のご婦人達にクッキーの作り方を伝授している、井村屋のオープンは梅雨明けの7月中旬を予定して置こう、時期的にあずき棒も作ろうかな小豆と牛乳を使った氷菓だ、魔法の練習の一環として水の温度の上げ下げは毎日やって居るが効果は芳しくない、現地人のくくりは既に水から氷を作る事に成功している何故だ?
まあ冷水を作る事には成功しているので挫けずに行こう。
或る晴れた日、天音さんと志摩地区の街道整備の進捗状況を確かめがてら熊谷組の陣中見舞いをしに行く事にした、驚くべき事に既に10kmほどの道が出来上がって居た、この調子でいけば今年中には志摩スペイン村の有る辺りまで道が出来るかもしれないな?
「姫様と若よくぞこんなむさ苦しい場所へ来て下さいました」
「いえいえ、伊勢の為に働いて下さる皆様の慰労も領主の娘の務めです。お気になさらずに」
俺達は集まってくれた町民たちに、竹皮で包んだ弁当とお茶を手渡し工事の状況を聞いて見た所この先山が険しく成るので、迂回路を作るかトンネルを掘るかで迷って居るらしい、トンネルといっても400mも無い位ものだが、照明とかないと厳しいかもしれないな。
試しに掘ってみましょうと言う天音さんに連れられて道の途切れた所まで行く事にした、何処と無く楽しそうなのは気のせいだろうか、まさか土木工事にも興味があるとか?
「うふふ、こうして居ると去年の事を思い出しますね」
「そ、そうだね」
夏に鳥羽のトンネルを掘った時の事だな、あの時は体の一部が激しくときめいてしまい大変だった、あの時は疲労と共に鎮まってくれたので何とかバレずにすんだが……
「これから伊勢はますます発展して行くのでしょうね」
「ええ 僕達の手で必ずそうしましょう」
平成の世では寂れてるとは言えなかった、俺達の頑張り次第では未来は変わるかもしれないしな、魔法の有る世界で実際にご利益の有る人が居るとどうなるのか見当がつかない。
天音さんが掘り俺が周囲の土を石に変えて行く、出た土砂は荷台に乗せて熊谷組が表に出していった、10m掘った位で取り合えず止めることにした。
「落盤の危険性があるから木で天井を支えた方がいいな、後は明かりが必要になるが空気の供給の問題を如何しようかな?」
「奇兵隊のみなさんから聞いた地面に竹を埋め込む方法で空気穴を作ったらどうですか」
「まあそれで行くか」
「所で天音さん、小さな太陽見たいな光を生み出したり出来ますか」
「この前頂いた鏡くらいの大きさで良いのですか出来ますよ」
出来るんかいっ!
天音さんが魔力を集めると手の周りが光だした、そういえばこの現象見たこと有るな
そしてソフトボールの球位の大きさの物が出来上がった、これは熊谷組の人達も使えたら光の問題も解決出来るんじゃないかな
試しにやってみた所、魔法を使える30人中5人程がピンポン玉位の大きさの物を作る事に成功した、俺もなんとか同じ位の物作る事が出来たぞ、多少大きさには不安が有るが問題は解決されたので今後両サイドから掘り進める事になるそうだ。
「しかし姫様と若息がぴったりでしたね」
「これで子供でも出来れば熊野領も安泰だぁ」
「こ こどもですかっ……」
「天音さん困ってるだろ、そう茶化すなって」
「まさかまだお手を出されてないとか」
「ぷっ、わははは」
「お前ら、俺の代わりに怖いお父さんに挑んで見るか?」
まあ町の人が望んでる事も解らなくないが、少々品がない。
天音さんは居心地が悪いのか鹿車の方に逃げてしまった、俺も心の何処かでそうなれば良いなとか思って居たので止めなかったのも悪かったのだけども、ちょうど切りも良かったので町の人達に別れを告げ帰る事にした。
伊勢に帰る途中無言の時間が続く、かなり気まずいぞ何か話さねば……
「天音さんさっきの連中の事は気にしちゃダメですよ」
「ええ、解ってはいるのですが」
ほのかに朱の差した顔で答える天音さんは可愛かったが、この手の話には耐性が無いのかな? 女性の下ネタはエグイと聞くのだけどな、何とか話をそらそう適当な話題は無いかな……
「そろそろ、梅の実がなる時期ですね梅干でも仕込みましょう」
「そうですね、あれ作るの好きなんですよ」
細かい作業の好きな天音さんらしい、まだシソが無いので梅の塩漬けだけど梅干は存在する。今度鰹梅とか蜂蜜梅とかも作ってみよう。
「今年は梅酒も仕込もうかな」
「梅でお酒が出来るのですか?」
「お酒に梅の香りを移したと言う方が正しいかな、蜂蜜梅酒とか女性は好きかも知れない」
それは楽しみですねと答える天音さんはイケる口なのだろうか?
酒が飲めない体質の俺の立つ瀬が無いな、酔いつぶれて奇兵隊の連中のネタにされるビジョンが目に浮かぶな。
他愛も無い話をしていると無事熊野町に着いた。
熊野町では志摩地区から運ばれる木材の加工でにぎわっていた。地方からの出稼ぎも多い今回は名古屋地区や岐阜地区からも人を呼んで居る。
その中で猿田彦が主体となって10m程の中型船が建造されていた。既に試作型は完成していて外洋での試験航行が行なわれ、ハマチやカンパチなどの大型の魚が取れる様になった為、漁師の間で需要が高まっている。志摩地区から出た木材(主に伊勢スギ)は全て造船に使われるであろう、これは和歌山の名草さんも興味を示したので何艘か譲る事が決定している
「おい 仁この前仕込んだ酒は出来たのか?」
「多分飲めるとは思うけどもう少し熟成させた方がいいと思うよ」
待ちきれない熊野さんに押し切られ試飲して貰った所好評だった、樽を開けてしまったので竹筒に1ℓ位ずつ分けて半分は常温で発酵させ、残りは湧き水で冷やし長時間掛けて発酵させて見る事にした。
この違いで味がだいぶ変わるらしい、たしかヴァイツェンとピルスナーだったかな?
現実世界に居た時に家業の都合で生ビールを注ぐ資格みたいな物を取りに行かされたのだけども、その時ビールの歴史が4000年以上有ると聞き担当の人に根掘り葉掘り聞いて見た、マニアックな質問に嫌な顔もせず携帯端末を使い担当の人は教えてくれた。
その知識がこうして役に立って居るのだから雑学も馬鹿にならないな。
ちなみに黒ビールは麦芽を焙煎してから作るからあの色になるぞ、名草さんの所で作ってもらおうかなハーフ&ハーフとかの飲み方も有るらしいし、両国の友好の架け橋として使うのも悪くないな、山岳地帯の多い和歌山県の東側は米より麦の方が栽培し易いと思う、今後麦の消費が増える事が予想されるので栽培範囲を拡大して行く事を検討しよう。
「何か旨そうな酒の匂いがするねぇ」
噂をしたら名草さんが来たエスパーか?
「おお、戸畔か良く来たな察しの通り新酒だ飲んでけ」
熊野さんも既に出来上がっているな。
ビールは名草さんにも好評で製造を快く引き受けてくれた。
素材さえ有れば一月でピストン製造出来るのが魅力らしい。
和歌山には酒飲みが多いのかな?
ついでに桃と梅の栽培もお願いしておいた。伊勢で作るより和歌山で作った方が美味しくなると聞いた名草さんは新たな交易品として製造する事を決定した、取ってる海が同じだけに魚じゃ交易としては弱いもんな、今後良い取引相手となるだろう。
ようやく猿田彦が史実通り船大工としての仕事が出来た
この作品1話完結型なのが痛いな読ませる人は上手くヒキを作ってるし今後の課題かな




