28話 豊年祭り
熊野暦5月上旬
田植えも終わり奉納舞の行なわれる時期になった。伊勢市では5月5日に行なわれる、三重県沿岸部を鈴鹿まで行き亀山を経由して戻ってくるそうだ、今回から熊野さんの提案で伊勢市では軽いお祭りが取り入れられる予定だ。
俺は屋台でオーク肉の串焼きを焼いていた。味は甘めの醤油ダレに山椒を効かした物に成っている、オークの獣臭さが和らぎ美味しいレベルだと思うが、中にはあの獣臭さが良いと塩味を注文する客も居るな。
場所は熊野家姉妹の奉納舞の行なわれる広場の前だ来年は酒も振舞えるといいな、去年から獲り始めたオークの肉は塩漬けにして生ハムやジャーキーみたいな物も作っているが最近乱獲気味で消費が追いつかない。
こう言う時期にかこつけて一気に消費しようと言うのが今回の趣旨で、振る舞いの品なのでもちろんタダだ熊野さんには借りが有るから少しでも返せればと協力している、本音を言えばウインナーみたいな物を作りたいんだけど燻製に使う桜のチップの桜が無い、吉野の千本桜と言う位だから奈良には有ると思うが……
今は熊谷組によるお神輿の披露が行なわれている。
神輿の製作は猿田彦だ、製造元だけ有って支払い(酒)が良いと俺も含めてほぼ熊野家専属の大工になって居るな。アイツ飯もちゃんと食ってるよな、何だか心配になって来たので今度熊野家の食卓に招待しよう。
神輿の奉納が終わり熊野姉妹の出番となった、町の人は奉納舞に集中するため俺の仕事も一段落だ。
相変わらず天音さんの奉納舞は素晴らしいな、しかしあの魔術の属性は何だろうな?
五行系ではなさそうだしアレが解析出来れば熊野家の謎が解けるんだけどな、奉納舞はクライマックスを迎え天音さんの体に光が集まる。
あれ? 気のせいかもしれないが去年より光の量が多い様な気がする、まあ悪い効果がある訳でも無しご利益は多いに越した事はないだろう。
いつもはこれで終わりだが、今年からはうずめの歌が追加させる事になった。熊野さん曰くうずめの才能を家の中で終わらせるのは勿体無いだそうだ、歌う歌はキタサンブラックの馬主こと函館の演歌歌手の祭事に関する歌だ。
歌声に合わせて観客も乗ってきた。
俺も周りの雰囲気に乗ったのか知れないが気分が高揚してきた、Bパートは漁師の歌だな伊勢市は漁業も盛んなので観客の心を虜にすること間違い無しだ、暫くするとうずめの体に光が集まっていくが、サビの部分で光を放出とは成らなかった。
何か法則性でも有るのだろうか?
「うずめの歌声に何かしらの現象が起こる事が解っただけも儲け物だ、今度色々歌わせて見よう」
豊年祭りは大成功に終わり、熊野家一同は松坂に向かい旅立って言った。
俺も行きたい所だがお留守番をまかされた。
くくりとゆうなも居るし誰かいないとな。
「仁様 親方様達は無事旅立たれましたか?」
親方様ってまた古風な言い回しだな。
「ああ、今さっき松坂に向け旅だった所だ、くくりは何か予定があるのか?」
「天音様より、仁様のお世話を申し付けられています」
天音さんも気を使わなくても良いのにな、離れに住む俺は基本的には炊事洗濯は自分で出来るし炊事に関しては本職で熊野家担当の料理番じゃないか、多分伊勢市で右に出る物は居ないぞ、調味料を独占しているので当たり前の話だが、そういえば今回使った醤油の出来もまずまずだったな、そろそろ出荷できそうだ入れ物何にしようか?
じぃ~~~
「すまん、くくり少し考え事をしていた、所でゆうなは何をしている」
そう無言で俺を見つめないでくれ怖いじゃないか。
「ゆうなちゃんは神社の境内で魔法の練習をしていますよ」
呼び方が変わったな仲良くなった様で何よりだ。
ゆうなはお手玉を飛ばし竹の筒に当てる訓練をしていた。
熊野家では一応護身術として武術を教えているが、ゆうなとくくりは苦手なようだ。
合気道とか教えられたら良いのだが、この分野の知識は俺にはない。体育で習った柔道と剣道なら少し教えられるが、熊野さんが教えた方が良いだろう。
ちなみに体力の無い天音さんは薙刀術の型を練習している。一般人相手ならば2~3合打ち合えるんじゃないかな? あの人の場合、魔法を使った方が早く制圧出来ると思うけど加減が効かないからな、手を触れずに水を沸騰させられるんだ、それを人体でやったらどうなるか考えるだけでもゾッとする。
あの人には現代的な魔術のイメージを教えない方がいいな。
「ゆうな精が出るな、何もそこまで戦う練習をしなくてもいいのに」
「常在戦場が熊野様の教えです、女の子でもある程度戦える必要が有るんです」
うずめがオークにさらわれた一件で熊野家の教育方針が変わったみたいだ。
特に油断しがちなうずめには必要な心がけだな。
「少し俺と組み手をしようかもちろん魔法有りでだ」
ゆうなの戦い方は、二つの短剣で近接戦闘をしながら中距離は遠隔操作の鏃で攻撃するスタイルだ、十分強キャラだと思うがな。
「はじめ」
くくりの合図と共に戦闘が開始された。
「行け!! ファンネル」
やっぱり鏃の名称ソレだったか……
「そんな物 当たらなければどうと言う事は無い」
しょうがないから少し付き合ってやるか。
飛んできた鏃を難なくかわす、伊達に山野を走りこみしてないからな、これ位避けられないようでは話にならない。
「これなら如何です」
鏃が三本から九本に増えた。
少しマズイかな、俺は竹槍で鏃を打ち落とし対応した。これ以上増えたら被弾するな、スピードもまだ乗ってないので今後どうなるかは解らない。ビームは出ないよな頼むから出さないでくれ。
「ええい 熊野の娘達は化物か!!」
これはガチでそう思う。
「その余裕がムカつくです」
ゆうなは接近を許し双剣で相手をするが、後ろから飛んでくる鏃にも注意が必要だ。
手元に集中している為、少し操作が雑になってるのが救いだな、俺は攻撃の手を激しくして鏃に意識が向く事を阻止した。
そして打ち合うこと数回、俺はゆうなの喉元に竹槍を突きつけた。
「降参です」
「ゆうなは、無理に前衛をしずに中間距離で戦った方がいいぞ、うずめと組んだら俺でも勝ち目はない」
カウンタ一撃でうずめを沈めれるかが鍵だな、最近あいつの素早さにも磨きが掛かってるから攻撃を合わせるのは至難の業だ。そもそも、そんな攻撃をうずめに仕掛けたら大人げ無いと言われるだろう。
「仁様、私もよろしいでしょうか?」
「まあ良いが何を使うんだ」
「コレです」
ズリズリと全長1m以上有る肉厚の鉈を引き摺ってきた。
アレは熊野さんが鍛錬に使う通称鬼包丁じゃないか、熊野さんは片手で振るがくくりは振る事が出来るのか?
「では行きます」
くくりが鉈を肩に担ぎ足腰のバネを使い振りぬいた。
一応振る事は出来る様だが、連撃は無理そうだ見た感じはアレだな、某人気狩猟ゲームの大剣使いだな。
これがオーク相手ならすぐに轢かれて拠点送りだ。
「よいしょっ」
くくりがもう一度構えて鉈を振り下ろす。
鉈はむなしく空を切り地面に突き刺さる。
俺は竹槍の腹でくくりを軽く叩いた。
「い、いたいっ」
何故熊野さんはこの子の武器をコレにしたんだ、ウエイトトレーニングでもさせてるのか?
「くくり、ゆうなに双剣を借りて使って見てくれ」
「はい、わかりました」
気を取り直してやり直しだ、双剣を使うくくりは中々に素早かった。
あまり喋らないから気付かなかったが前に出て戦いたいらしい。多分基礎の筋力と体幹を鍛える為にあの大鉈を使っていたんだな、うずめも小さい時からやっていたに違いない。あの猫科の猛獣の様な、しなやかな動きは普通の鍛え方では説明が着かないからな、今度俺のトレーニングにも取り入れよう。
戦いの結果は言わなくてもいいな。
「ゆうな、今度は二人でかかって来い」
「さすがに、それはナメ過ぎです」
「そうかもしれないな、ゆうなはこの盾を使え」
奇兵隊の基本装備の皮の盾だ、まだ体の小さなゆうなならば体全体をガード出来るだろう。
「くやしいです、くくりちゃんアレをやろう」
「うん わかった」
何やら奥の手が有るらしい。
「よし、始める・・」
くくりが開始の合図の前に飛び込んで来た、先手必勝とは良い勝負勘してるな。
正面から来たかと思ったが手前で横に移動した、その背後にはゆうなの鏃が……
「くそっ」
危なくやられる所だった。
「私の事も忘れないで下さい」
くくりが俺のスキを見て再度飛び込んで来た。俺は竹槍を横にしてカウンター気味のチャージでくくりを吹き飛ばした。
その瞬間、俺の頬をゆうなの鏃が掠めた。
「コンビネーションを組まれると厄介だな」
「まだまだ、これからですよ」
くくりが俺の間合いに入り魔法を発動、土の槍が地面から生えて来た。
「うわっ」
危なかった、二人とも魔法を使えるの忘れてた、さっき遥か上空で何か光った様な気がする。
イヤな予感がするな。
「土壁」
念のための保険代わりに展開した、土の壁をゆうなの鏃が貫通した。恐らく開始と同時に鏃を上空に飛ばし、落下による勢いを着けて高速でぶつけて来たのだろう。
「こ、殺す気かっ!!」
「あれで仕留めれないなんて、しぶとい奴です」
人をゴキブリ見たいに言うな。
俺はゆうなに向かい駆けて行き渾身の一撃を放つ。
ゆうなは後ろに下がろうとしたが、俺の一撃は一歩分そこから伸び盾を強打し吹き飛ばされた。後ろから迫るくくりを横なぎで牽制し、足で後ろ側に土壁を生成して後顧の憂いを絶ってから、くくりを制圧した。
さてゆうなは……
転んだ時に脳震盪でも起こしたのかフラフラしていた。
「ここいらで止めよう、双方命に関わる」
「わ、わかったです」
「ありがとうございました」
二人とも良いコンビになれそうだな、今回は引き分けたが今後どうなるか解らん、もっと精進しないとな。
それから俺はもう一つの雑用を済ますため耕太と鹿達を連れ猿田彦の元を訪れた。
以前から企画はされていた鹿に荷台を引かせる計画を実行段階に移そうと思う。
鹿に乗れる人間は限られるため、古代ローマやギリシャの戦車の様な、二人乗りの二輪の物と普通の四輪の荷車と二つ用意した。
トナカイに引けて鹿に引けない筈はない、今回は大人の2m近い鹿を使用した。
これなら何とかなるだろう。
荷台の方は問題なく引けた様だ、問題は戦車型の方だな鹿のスピードは50km/hと意外と早い車体が衝撃に耐えられるかが不安だ、重くして牽引速度を落とす方法も有るがなるべく早い方がいいからな。
試しに乗ってみると縦揺れがかなり酷い、乗り物に弱い人間なら直ぐに酔ってしまうだろう。
「こりゃ、サスペーションが要るな」
竹を束ねた板バネタイプか、油圧か水圧のシリンダータイプの物かは検討が必要だ。
板バネの方は直ぐに出来るので取り付けて乗って見ると少し揺れが収まった。とりあえずはこれで一応の完成として土魔法で生成した油圧か水圧のシリンダーを検討する事にしよう。
富士山麓の朝霧高原にはガチで2m位の鹿が出ます、あいつ等車を恐れないんだ霧の中から突然現れるマイカーで富士宮口5合目を目指す方はご注意下さい。
陰陽五行思想は夏王朝時代(4500~5000年前)から中国に有るそうです、陰陽思想は古代に伏義と言う人?が作ったとか、歴史じゃ中国には逆立ちしても勝てないですね。
陰陽師は奈良県までお待ち下さい




