24話 伊賀開発
熊野暦4月上旬
俺は開拓の進む伊賀に来ていた。奇兵隊の本拠地をココに置く目的が有るからな。
亀山から伊賀に抜けて拓植川沿いの以前天然炭酸水の出た辺りを、切開き拠点を建設している。
伊賀から名張までざっと歩いて見たんだけど、この辺り川が細い農業用水の確保が難しく日照りや干ばつの影響がデカイんだな、伊賀上野周辺はまだマシだけど……
なるほどなこうして伊賀の人たちは忍者になったんだな、金でも掘れれば別だけど長野や山梨みたいには行かなかった様だ、多分掘っても出ないなこりゃ。
とりあえず川を堰き止めてため池を作り、米ではなく麦を主体として生産することから始めた。
伊賀と言う土地は今の所奈良~三重を結ぶには良い場所だ、上に向かえば甲賀を抜け琵琶湖まで出れるが京都~滋賀~岐阜へと抜ける東海道新幹線のルートが主流になるだろう。
恐らく山をぶち抜き最短距離を行くよりも迂回した方が安上がりかつ早いからなんだと推測される、三重県のネックは鈴鹿山脈があることだな。
愚痴はさておき今後の事を考え、何かココに寄りたくなる物を作らなければ……
麦も作るしビールでも造って見るかな、麦は11月に種を蒔いて6月に収穫される頑張れば米と二毛作出来る食材だ、細い川の流域でしか栽培できない弱点を手数で何とかしよう。
熊野姉妹の奉納舞に頼れないなら肥料も必要だ、松坂から牛を引っ張ってきて伊賀牛も生産しよう、生き物を扱う以上伝染病とかのリスクは分散した方が良い。
これ名古屋地区でもやるか名護屋製酪だな。
日本でトップシェア(業務用では)を誇るあの会社が有るんだ酪農には適しているんだと思う、名古屋地区の問題の一つは何とかなりそうだ。
さて一つ問題も解決しスッキリした所でビールでも作りますか、間違って麦焼酎が出来ても炭酸水で割れば似た様な感じになるだろう。
発芽させた小麦を一度煮て糖化させる、炊くと言ったら理解しやすいと思う。
この時に気を付けるのはあまり高温になりすぎると発酵させる菌が死んでしまう事だな、日本酒を造る時は発酵を止める時に70度位に加熱するので、それ以下の温度で作業する。温度調整が非常に面倒だけど、遠火の強火で何cm離した状態で何分とかが確立できればさほど苦も無い作業になるな。
あとは自然放置で出来る、発酵の止め方は日本酒と同じだ。
真冬ならそのままでも発酵が止まるのでチルドビールを造って冬の風物詩にしたいけど、観光誘致するなら温泉の一つでも掘りたいな、地元から近いから大体どの辺りから温泉が湧くか知ってるけど……
人力で1500m掘るのは無理か?
竹の節をぶち抜いて地面に打ち込んで何とか成らないかな、オークの突進にカウンターを合わせても割れ無かったんだ1t位の衝撃には耐えられるだろう、魔法が竹の先まで伝達して岩盤を柔らかくする事が出来れば現代のボーリング掘りと同じ掘り方が出来るはずだ。
ちょっと試してみるか、俺は糠味噌に手を突っ込む感覚で、竹槍が地面にめり込んで行くのをイメージした、例えが悪いかもしれないが糠を混ぜる仕事は最近毎日やってるからイメージしやすかったんだ。
溶鉱炉に入って行くターミネーターでもいいけど、アイルビー バックとか言って元に戻ってしまいそうでイヤだった。
そうするとズブズブと竹が地面にめり込んで行く、意外と行けるもんだな。井戸の掘り方はこれでいいけど1.5km掘るのはしんどいな竹何本要るんだ、竹一本が3mだと500本かこの何とかなりそうできびしい所が判断に迷う所だ、もし出なかった時の精神的な苦痛を考えると躊躇するな。
ここが日本である以上掘ればだいたいの所で出るんだけど、鈴鹿山脈は火山性ではなく地殻変動系の山なのが痛いな、深く掘らないと出ない事が確定している。
どこか地下1000m以下から出る場所があれば良いが、
そう言うのは大概山奥だ、なんだこのジレンマ
地道に掘る方向で進めてとりあえず銭湯でも作っとくか、それで何処を掘るかなんだけど俺の記憶と川の流れが微妙に違う、これで掘って残念温泉は2m右でしたとかだと目も当てられないな。
何か位地特定の精度を上げる方法はないかな?
ダウジングが有るじゃない、魔法の無い世界でも実用例が有る位だココなら更に精度が上がるだろう、何か光明が見えて来た。
俺は伊賀上野から西に向かい木津川沿いを探索した。
「たしかこの辺に温泉が有ったはず……」
幼い時の記憶を頼りに川を下って行き3~4km進んだ所で、青銅製の鏃を付けた紐を垂らし魔力をこめると鏃が激しく動きだした。更に温泉をイメージするとその振り子運動は指向性をおび行く先を示してくれた。
「こっちか」
それから歩きまわること30分鏃は動かなくなり真下を示した。この下に温泉が有るはずだ距離的にも俺の記憶と一致する。
面倒だけどやりますか、竹を一回10本ずつ埋めたとしたら50回で1500mに到達するな、こう考えると何とかなりそうな気分になってきた。
「しかしこの木津川何処まで流れてるのかな?」
西方向に流れてるから川を下れば大阪湾まで行けるかもしれないな、この川沿いに道を作るか、そのためにも人手と米が要るな。
本格的に開拓を進めるには、志摩地区の街道整備をさっさと終わらせる事と尾張地区の米の生産性を上げる事か、6月に予定している醤油の販売は何とか成功しそうだ。
日本人相手だし嫌いな訳が無い、アレで刺身を食べたら余程偏屈な奴じゃない限り塩で食べたいとは思わないだろう。
さあ日も暮れてきた事だし帰るとするか。俺が拠点を置いてる(中拓植周辺)にうずめが遊びに来ていた。
「兄貴、姫様が来てるぜ」
「おに~ちゃん、あそびにきた~」
よほどここの炭酸水が気に入ったらしい、今度何か新しいフレーバの物を作ってやろう。
「若 姫様の格好あれなんです」
「ああ アレは猿田彦謹製の鎧一式だ」
以前螺鈿細工を作って貰ったついでに作った奴だ、鎧と言っても剣道の胴の様なノースリーブ状のヤツだコレにも螺鈿細工が施され、何処の無双キャラだと言わんばかりの格好だ。
うずめもおめかしするんだな、妹の成長に少しホッコリした。
「若 アレ 俺も欲しいです」
うずめの装備は奇兵隊の心を揺さぶった見たいだ。
「そういえば鎧作って無かったな…… よし作るか」
基本的には普通の胴丸だよな、五月人形みたいな鎧も捨てがたいが機動性を重視したい。
まあ、定番のレザーアーマーで行くとしてそれじゃあ隊員が納得しないよな、新撰組や赤穂浪士みたいに上から服を羽織るスタイルにするか、諜報部隊が目立って如何すると言う気もしなくはないが、敵勢力にもぐりこむ訳じゃないし行商人や慈善団体として地域に溶け込むわけだから、信用を勝ち取ればステータスになり周辺住人も話しかけ易いだろう所謂制服と言う奴だな。
胸元か背中に社章でも刺繍するかデザインはどうしようか?
何となく三つ葉葵はヤダ、千成りひょうたんの方がまだ許せるが、秀吉って大阪の人のイメージだよね。
メインウエポンの竹にする? 竹と雀の伊達家の家紋カッコ良いよね、仙台に縁が有る訳でも無いし稲穂にしとくか、竹は一応稲科の植物だしね。
そう言う訳で、両サイドに円形の稲穂のデザインで中心に向かい合う2匹の雀のマークになった。柳生家の家紋だな、元々尾張と大和が本拠地らしいし、この地域を拠点とする奇兵隊にはちょうど良いんじゃないか?
あとは服の色だな、あいつ等派手好きだから鮮やかな色が良いだろうな……
それから数日後、胴丸部分は出来たが服の良い染色素材が見当たらないとモヤモヤしていた時。
「兄貴、隣の多気町でこんなの取れたんだが何か解るか?」
「辰砂じゃないか」
辰砂とは硫化水銀で鮮やかな赤色をしているので、中世ヨーロッパでは賢者の石として錬金術に使われたらしい、熱を加えると気化水銀と亜硫酸ガスに分離するので自爆テロに使えるな、鏃に使い火矢として使う運用方法もあるけど少し危険だ、風向き次第ではこちらに被害が来る。
諸葛孔明が使わなかったんだ何か不具合があるのだろう。
「鮮やかな赤色をして居るからそれで朱染めができるぞ、間違っても飲んだりするなよ」
「飲んだらどうなるんだ兄貴」
「死ぬな」
たしか秦の始皇帝が一見体に良さそう?な賢者の石を愛飲して水銀中毒で死んでるはずだ。
とりあえずこれで奇兵隊の鎧と服は出来るな、俺の鎧は胴丸部分に抑えて置き後々考えるとしよう、担ぐ神輿は煌びやかな方がいいとは言え、俺の羞恥心が耐えられない、侘びさびの効いたカッコいい物が有ればいいが……
BC兵器隣の国なら普通に使いそうな感じがしますがあまり聞きませんね。
柳生新陰流は第二次大戦で尾張の道場が焼けて無くなった為、今では江戸柳生が主流です。




