21話 第2回オーク討伐戦 伊賀侵攻偏
今更ですが、オークはツキノワグマが二足歩行しているイメージです。立っている状態だとリーチの関係上槍装備だと簡単に倒せる。
今回少しだけ西に行きます。
熊野暦3月上旬
北畠で作られた日本酒第一号が出来上がった。主な製造方法は熊野美人と同じで米麹を酒母として、水と麹カビの生えた米を3回に分けて投入する。最初は青カビが生えたが熊野美人を少量入れた物を酒母にした結果上手く行った。口噛み酒の中に含まれる乳酸菌か糖分分解酵素が鍵だと思われる。
熊野美人を使う事に天音さんは反対したが拝み倒した結果、不承不承ながら了承して貰った。大雑把に言うとこの酒のステータスを乳酸発酵に振ると米酢になり、糖分分解に振り米を足すとみりんが出来る。
仕込み時間は、杉の枝を玉状にしたのを軒先に吊るし、枯れたら出来上がりの合図だと聞いたのでそれに習った。この時期の杉の枝を軒先に吊るすなんて、花粉症の人がいたらバイオテロだな。
本来は真冬に仕込むらしい、この地域に花粉症の人が居なくてよかった。熊野美人と差別化を図るため、ドブロクタイプではなくしっかり漉して清酒タイプの物を作った。俺は酒の味が分からないため、猿田彦に試飲して貰った所スッキリして飲み易いらしい。
この酒造方法を秘匿せず全国に地酒ブームを起こしたい。確か愛知県の知多半島が隠れた銘酒の産地だった気がする。おそらく酒造りに適した気候なんだろうと思う。尾張地区のテコ入れは俺の中で最重要課題だ。
奇兵隊の連中に新酒を振る舞い、お土産に一升ずつ酒を渡した。危険を伴う仕事の対価としては安すぎると思うがこれで勘弁してもらいたい。もう少ししたら醤油と味噌ができ蜂蜜も取れる、北畠の里も潤うと思うのでそれまで我慢して貰おう。
さあ暖かくなったし伊賀に演習に行こうか、伊賀の炭酸水も気になるしな。
俺は逸る気持ち抑えられないでいた。
今回は最短距離ではなく、亀山方面から伊賀に抜ける国道25号線のルートを取った。川が流れているので飲料水に困らないのが主な理由だ。
奇兵隊20名に加え、何故かうずめと耕太が付いてきた。仕方ないので鹿の運用方法の模索の為、荷物の運搬をしてもらう。ロバの背に荷物を乗せた状態に子供が乗っている姿を想像して試してみることにした。山岳地帯でなければ、古代ローマの戦車型の乗り物で行きたかったけど、しょうがないな。
うずめには護身用として、青銅製のハンドアックスを持たしておいたが、使う機会は無い方がいいな。
早朝に亀山を出発して山道を歩く事9時間、俺たちは伊賀盆地の入り口(道の駅伊賀周辺)に差し掛かった。
「この近くに拠点を築こうか、水場の近くにテントを張ろう」
「「「はい」」」
俺はテントの設営を奇兵隊にまかせ、うずめを伴い川周辺を散策した。
「この辺りにあるはずなんだけどな」
「なにがあるの~」
「それは着いてのお楽しみだ」
川を注意深く見ているとプツプツと気泡が立っていた。たぶん支流の先に目当ての物はある。
暫く歩くと泉が有りその水は発砲していた。
「うずめこの水飲んでみろ」
「なにこれ~ しゅわしゅわする~」
「こうすると旨いぞ」
俺は兵糧代わりの干し柿を竹筒に入れて、水を汲み木の棒で突き崩してうずめに渡した。
「すごく美味しいよ おにいちゃん」
最近分かったことだが、うずめは本当に美味しい物を食べたりすると語尾が伸びない。
それは置いといて奇兵隊の連中も呼んで皆で飲もう。
「兄貴…… 何だこれ、無茶苦茶うまいぞ」
「酒で割ってもいいぞ」
「若、最高です」
なし崩し的に酒宴になったので、この辺りに一泊することになった。
翌日気を取り直して演習を再開しよう。オーク狩りだ、基本方針はサーチ&デストロイで行こう。
「若 あそこにオークの群れが」
そこには100匹ほどのオークの集落が有った。
この周辺のオークは群れる習性が有るのか? 強い固体がハーレムを形成しているだけかも知れないが、もう俺達の敵ではない。
「全員弓を引け………… 放て」
奇兵隊の全員が矢を雨のように降らすと、オーク達は逃げ惑う固体とこちらに向かって来る個体に分かれた。
「次、ボウガン構え…… 引き付けろ…… 今だ、放て」
ボウガンは矢が短いため飛距離が伸びないので、主に中距離で一撃のみの運用だ。この一撃でオークの半数以上が凶刃に散った。
「全員盾装備、散開して各個撃破に移れ。くれぐれも突進を真正面から受けるなよ。藤堂隊は俺について来い」
俺は隊の中で衝撃力の高い1番隊を引き連れ、オークの中心に向かって行った。オークの突進を半歩左に避け、首筋から肩口の周辺にカウンターで渾身の一撃を入れた。竹槍は深く突き刺さりオークはあっけなく絶命した。
「ここがオークの急所だ。狙えるなら狙っていけ…… 代わりの竹槍をくれ」
オークに深々と刺さって回収不可能になった竹槍を放棄し、新しい竹槍を装備した。やはり竹槍は良い、軽さもさる事ながら原価がタダなのが素晴らしい。使い捨てにしても腹は痛まない。
俺が3匹ほど倒した頃には、あらかた片付いたようだ。
「これより掃討作戦に移行するが油断するなよ。犬飼隊俺の供を」
「「「おお」」」
弓を得意とする猟師集団の犬飼隊に俺がフォローに入る。うずめもこの隊にいる。各個に別れ森の中に入って行くとオークの子供らしき物がいた。見た目はうりぼうだ、猪の子供かもしれないが猪は見たこと無い為オークと断定。
「わ~ うりうりだ~」
こらっ、うずめ…… 制止を待たずにうずめが駆けていく。
うずめが、うりぼうを捕まえ遊んでいると、後ろの藪がガサガサと動きオークが突っ込んで来た。
うずめはオークに跳ね飛ばされ動かない。気絶したのか? だから言わんこっちゃ無い、俺は慌てて駆け寄るがオークはうずめを咥えて逃げて行った。
くそっ、一番油断してたのは俺か。
「一人は伝令に行ってくれ、皆拠点まで後退して待機だ。その中から数人は熊野邸に連絡、残りの犬飼隊、お前達だけが頼りだ頼んだぞ」
犬飼のタローとジローの鼻を頼りに山を捜索する。2時間ほどすると犬達が鳴きだした。
「若、どうやらこの近くの様です」
「ああ…… 行こう」
うずめどうか無事でいてくれよ。
犬飼隊の案内で着いた先は小さなオークの集落だった。集落の中心の柱にうずめが縛られていた。
「よかった、無事だったか」
「若、足元をみて下さい」
足元には木の枝が組まれていた、あいつ等うずめをお焚き上げするつもりか? 時間が惜しい早く助けに行こう。見た所オークは5匹だ一人一殺で何とかなるな。俺は犬飼隊にボウガンを構えさせ機を伺った。そして、手で放ての合図を送ると、俺は雄たけびを上げて集落に向かう。
「うおぉぉぉ」
ちらっと見た所、最初のボウガンで3匹ほど仕留めたようだ。あと2匹、なんとかなりそうだ。
立ち上がって威嚇するオークの胸に一撃いれて仕留め、犬飼隊に指示を出した。
「残りの一匹は俺が引き付ける、うずめを確保して後退しろ」
犬飼隊に注意が向かない様、少し離れた所までオークを引き付け戦闘を行なう事にした。
突進してくるオークの顔を竹槍で引っ叩いて挑発し誘導していく。この位離れれば大丈夫か?
そろそろ決着を着けよう。
俺は脚に魔力を溜め機を伺う、こっちに向かって来た。ギリギリまで引き付け魔法を発動。
「土槍!!」
突如地面から現れた石の杭を避けれず、顔面から突っ込んだオークはあっけなく絶命した。
どうやら犬飼隊も、うずめを連れて逃げられたようだ。
よかったと安堵した瞬間、後ろの方でバキバキと嫌な音がした。
「なんだあのでかいオークは?」
全長2.5m程のオークがこちらに向かっくる。不意を突かれながらながらも何とか回避する。
アレを何とかしないと後ろのうずめ達がやられる。勝率7割以下の戦いはしたく無いが、背に腹は変えられないな。正念場てヤツか、今回の作戦にフグ毒は要らないと判断した自分を殴りたい気分になった。
俺は雄たけびを上げ注意を引き、何度もカウンタを入れるも有効打に結び着かない。急所に届かないのが痛い、地道に行くしかないと右前足を重点的に攻める。
相手の突進を直に受ける事はしてないが、段々槍を握る手に力が入らなく成って来た。
打開策を求め両足に魔力を溜める。
「土壁!!」
突如現れた壁にオークが足を引っ掛け倒れる。
「もういっちょ」
真下からせり上がる石壁の力を利用して高く飛び上がり、オークの右目めがけ渾身の突きを放つ、深々と槍が突き刺さるが効果は今一歩か?
だが、体力は確実に削れているはずだ。
まずい事に竹槍は右目に刺さったままだ。
腰に挿した短剣を引き抜き応戦する。
「なんとかあの竹槍を回収して、もう一撃入れないと」
両目を潰せば勝機は見えて来る物の、こちらの体力も厳しくなってきた。
攻め手を失い苦戦していると、上の方からガサガサと音がした。
「――おにいちゃんをいじめるな~」
うずめが木の上から回転しながら飛び降り、ハンドアクックスを眉間に突き立てる。
ハンドアックスは衝撃に耐え切れず根元から折れてしまったが、オークを昏倒させる事に成功した。
「うずめ!!」
うずめは受身を取りそこねて気絶してるが、このチャンスを見逃しては後がない。
オークの右目に刺さった竹槍を掴み、左足から腰――腰から肩――肩から腕と力を連動させる。
オークが動き出し、槍が目から抜け始める。ここで勝機を逃がしてなる物か!!
更に右足を踏み出し距離を稼ぐ。
「とどけぇ!!」
竹槍が根元まで突き刺さり、オークがころげ回る……
「やったか? 確実に槍は脳に足してるはずだ」
その思いもむなしく、オークはよろめきながらも立ち上がる。
「くっ…… しぶとい」
オークも俺も満身創痍、右手に短剣を握り対峙する。ここから先は男の意地の張り合いだ。このまま放置してもオークは死ぬだろうが、そんな無粋な事は言わない。
これが最後の勝負!!
俺は両足に魔力を溜め、オークの突進を待つ。
「来たか、もう逃げない真っ向勝負だ!!」
と言うか逃げる体力がない
真正面から来るオークは、インパクトに向け頭を下げてきた今だ!!
俺は前進しオークの懐に飛び込んだ。真上に突き上げた短剣がオークの喉元に突き立てられるも身長差の為浅い。
「土壁×2!!」
俺は真下に壁を生成し、再度オークの腹目がけて短剣を突き刺した。
「いっけぇぇ~」
オークの突進力を利用し、短剣はオークの腹を切り裂いて行く。しばらくして後ろを見たらかなりスプラッタな光景が広がっていた。
「なんとか勝てたか」
腕ももう上がらない。もしかしたら折れてるかもしれないな。でもここで倒れる訳には行かない。
「うずめを安全な所へ……」
おぼつかない足を引き摺りうずめのもとへ……
「若~ 何処ですか~」
奇兵隊の声を聞き安堵したのか、俺はうずめを抱きかかえ意識を手放した。
「う~ん、ここはどこだ?」
「仁、ようやくお目覚めか?」
「あれっ熊野さん、どうして此処に」
「耕太に礼を言えよ。命がけで鹿を走らせて俺の元に来たんだぞ」
そうか、ありがたい。後でしっかり礼を言っておこう。
「今回の件に関しては頑張った方だが、まだまだだな明日からしごいてやるから覚悟しておけ」
「は…… はははは」
なんか、乾いた笑いが出た。
俺は3日ほど寝ていた様だ。藤堂に肩を貸してもらい、熊野邸へ向かう途中信じられない物を見た。
「何だ…… これは」
「兄貴、熊野の叔父貴がこれ一人でやったんだぜ」
そこにはモズの早贄の様に、モリで木に縫いとめられたオークの残骸と言うべきものがそこらじゅうに有った。確実に一撃で仕留められたで在ろうその光景に唖然とした。
「これが武の極みと言う奴か、俺もまだまだだな」
「兄貴、俺も付き合うぜ一緒に強くなろう」
「ああ、頑張るとするか」
課題は色々残るものの無事熊野邸に帰還した。
ボツネタ
オーク「げへへへ~」
うずめ「くっ…… 殺すの~」
今度主人公と月読で様式美について教育しときます。名古屋の秋葉原こと大須に居たなら、そっち方面に理解があるはず。




