12話 第1回オーク討伐戦 威力偵察編
前話の米の納品ですが 米の収穫は9月下中にから始まりますが現実的に考えると、脱穀・精米しないといけないので、11月位になるかと思います。別段、話に支障はないのでこのまま行きます。
熊野暦10月上旬
9月中旬までの暑さはひっそりと身を潜め、秋が深まってきた。俺がこの世界に来て半年が過ぎようとしていた。
「そういえば熊野さん」
「なんでい、仁」
「そろそろ、きのこの美味しい季節じゃない」
「あー 今は辞めといた方がいいぞ、オークが出るからな」
「今何て言った? オーク? あの二足歩行の豚の?」
「猪の化け物だ、今頃が繁殖期でな。嫁を探して徘徊しているから山に入るのは危険だ」
猪? ドラクエタイプか?
「じゃあ、栗とか茸とかむかごとか自然薯とか柿なんかは?」
「見たことないな、やつらの餌なんじゃないか?」
この俺が娯楽の少ない世界で、どれだけこの季節を楽しみにしてたと思うんだ。
塩味しかない短調な料理の中、最近ようやく甘味を見つけ光明がさした所なんだぞ。
栗きんとん・むぎとろめし・きのこのバター炒め・秋の果実
秋の味覚と言う一大イベント。なぜこの時、このタイミングなんだ?
しかも豚の餌だと? そんな事が有っていいのか? 良い筈が無い。
ふざけるのも大概にしろ。
「・・・駆逐してやる」
「豚共め、1匹残らず駆逐してやるぞ!!!!!!!!」
俺はそう叫び、自分の部屋に立て掛けて有った竹槍を手に、山へ向かおうと・・・
「おに~ちゃん、お山行くの~ うずめも行く~」
ちょ、お前、空気読めよ。
「熊野さん、この子何とかしてくれ」
「あ~ いいんじゃないか、うずめは山を遊び場にしているし、俺が稽古つけてるからそこらの男より強いぞ、もしかしたらお前よりな」
んなアホな、そら無いわ~
「そんなに疑問なら組み手でもして見るか?」
そう言うわれた俺は、隣にある熊野神社の敷地にやってきた。
「じゃあ 良いのが入ったら1本な。じゃあ、始め」
熊野さんがそう合図した瞬間
うずめが消えた……
下か? 吉田沙織ばりの高速タックルだ。
んなろっ、俺は引き倒されながら左足を上げ、巴投げを放った。上空に投げられたうずめは、空中でくるりと姿勢を変え着地した。
猫かっ
「あははは~ 面白~い いくよ~」
そう気の抜けそうな声を上げ、うずめが突っ込んできた。
さっきはちょっと油断してたが、見失う速さではないな。
しかし、中々腰の入った良い突きを放って来る。
女の子だからな~ 打撃は無しだな。
投げ技か間接技で1本取るか……
と思ったが、中々捕まえられない。
1度は捕まえて肩車で投げたが、効果は無かった。
逃げられない投げ技?
ジャーマンスープレックス?・パイルドライバー? いや無い無い。
などと攻めあぐねていると、鼻先にうずめの跳び左回し蹴りが迫ってきた。
「おっと」
て、おいっ、今ムール貝の白ワイン蒸しみたいな物が見えたぞ。
なんでこいつ下履いてないんだ?
俺は、すぐさまうずめに抱きつき緊急回避した。
これは決して、幼女趣味とかそういうものではないクリンチだ。
今この子を、躍動感あふれる描写をすると何かとヤバイ気がする。
油断した俺の顎に、うずめのアッパーが炸裂した。
「一本 それまで!!」
か~ 効いた、目がチカチカするぞ。
うずめがトコトコとこちらに来て、手をかざし「痛いの 痛いの 飛んでけ~」と言うと、手が淡く光り痛みが消えて行った。
「なっ 中々役に立つだろ」と熊野さんに言われ、しぶしぶ連れて行く事になった。それから道案内役の猟師を紹介してもらい、山に向かうことにした。
「なあ うずめ、なんで下履いてないんだ?」
「う~ん、ちくちくするの~」
ああ なるほど、この地方の服は麻か毛皮だ、どちらも履き心地は悪い。使い古してくると、ささくれ立ってきてむしろ痛い。
別に見えないからと、履いてない人は一定数いるかもしれない。
今度、紙でも漉いて下着作ってやるか? 無いより増しだろう。
アロママッサージの店で渡される、トランクス方式のでいいか? 俺も欲しいし。
まさか、紙すきが下着の製造から始まるとは思わなかった。
熊野さんに紹介された猟師の所に行くと、倅を連れて行けと言われた。
今毛皮を加工したり肉を燻製したりで忙しいらしい。
「しかし若、この時期に山に入ろうとは物好きですね」
こいつの名前は三郎、俺と同じ年の若者だ、呼んで字の如く猟師の三男坊で、犬を使って狩猟をする猟師だ。
この辺りの住人に苗字は無く、地方名が苗字のような感じになっている。
伊勢の三郎、これがこいつの名前なんだが・・・
「わ~ タローとジローも大きくなったね~」とうずめが言うと
2匹の犬達がワン ワンと返事をする
つまり、タローとジローの飼い主の三郎、非常にややこしい。
「なあアンタ、差し支えなければ犬飼と名乗らないか?」
「よろしいので?」と言う会話の後、コイツの名前は犬飼になった。
しかし、オーク×繁殖期×履いてない姫 危険なかほりがするな。
マニア啜唾の展開に成らない事を祈ろう。
ワン ワンと二頭の犬が吠える。
「若 近いようですぜ」
居た、150cm位のずんぐりむっくりした奴だ。2匹いるが番いだろうか?
「いくよ~」うずめがオークに向かって走り出した。
「待てって、あーもう 犬飼後ろは任せた」と俺は言い残し、俺もうずめのカバーに入るべく駆け出した。
うずめが1匹のオークにとび蹴りを放つ、ライダーキックの形だな。バランスを崩し、たたらを踏むオークの胸に竹槍を突き刺した。
「まずは 1匹 後の奴は」
「ヴオ~グッ」そうぐぐもった声を上げながらオークが4つん這いで突進して来た。
ちぃ、かなり早いな。
避ける事を諦めた俺は、竹槍を縦に構え受け流そうとしたが、牙に引っかかり跳ね飛ばされてしまった。こっが本来の戦闘スタイルか?
跳ね飛ばされた俺は、すぐさま体勢を立て直し、竹槍で地面を叩き威嚇した。
「オラッ かかってきいや」
よしこっちに来た、カウンターで頭蓋を割ってやる!!
が俺の放った竹槍は頭蓋をすべり致命傷には至らなかった。
オークの額からは、おびただしい血が流れているが、オークの戦意は増しているようだった。
疾風のようにオークが駆ける、今でで一番早い突進だ。
もう一度カウンターをと思った瞬間・・・
横からうずめのドロップキックがヒットして、オークの体勢が崩れた。
「でかした うずめ」俺はそう言い、オークのわき腹に竹槍を突き刺した。
かなり危なかったな、こら普通の人は山に入らない訳だ。
「犬飼、まだこの辺りにオークはいそうか?」
「大丈夫そうです」
今回犬飼には後方の安全確保を頼んでいた、逃げようとした時後ろからもう一匹となると、全滅の可能性が出てくるからな。
普通に戦ったら負ける可能性が有るが、奇襲なら苦も無く倒せる。犬がいればこちらが奇襲を受ける事も無い、それが解っただけでも収穫だな。
うずめの体力切れの可能性も考慮し、目的をオーク討伐から食材の採取に切り替えた。
秋にはこんな美味しい物が取れますよと言う事を知れば、この時期でも山に入ろうと思う物好きも出てくるかもしれない。
それに「オークの皮って何かに使えそうか?」
「食べれるかもしれないので、一匹持っていきましょう」
これ食べるの? 猪とは言え人型だよ?
俺は食べたいとは思わないが、牙とか工芸品とかに加工出来ないかと感じた。素材が魅力的ならこの辺りのオークは狩りつくされることになる。
千里の道も一歩から、人は万能ではないトライ&エラーを繰り返し一歩ずつ前に進もう。
そして、何時か必ず都会へ・・・
途中で出会ったオークを倒しながら、山の幸を採取し町へ帰ることにした。
その日の夕方、熊野神社の敷地に村人(猟師中心)に集まって貰い炊き出しをする事になった。
「まあ 人が多い時は鍋物だよね」と思い、すいとん(ひっつみ はっと汁 だんご汁)と地方名は色々有るがほぼ日本全国で食べれる郷土料理だ。
小麦粉に水を入れ耳たぶくらい柔らかさになったら 少し置いておき生地をなじませる。
冷蔵庫に入れるのが好ましいが、秋のこの時間だ外でも問題ないだろう(そもそも冷蔵庫がない)
これを湯だっただし汁に適当な大きさにちぎって入れ、季節の野菜をいれれば完成だ。
トマトソースやクリームソースで作るとイタリア料理のニョッキになるな。
トマトは無いが牛乳はあるので、こちらも作っておいた、この時代でも意外と洋食も作れるものだな。
自然薯やむかごは塩茹でとバター焼きで提供したぞ。
やはり醤油の完成が待ち遠しいな、焦げた醤油とバターのコラボレーションをこの時代の人にも味わってほしい。
「兄貴 出来ましたぜ」解体されたオーク肉が来た。
こちらは薄切りにしてしゃぶしゃぶスタイルで提供した、すいとんの汁でしゃぶって貰う予定だ。
もし大量に入れて不味かったら、目もあてられない。意外と人は選ぶが好きな人は好き位な味だった。これは猪肉も一緒だな。
オーク君には悪いが、食材として活躍してもらおう。品種改良して豚タイプもつくるか?
安全なルートが確保できれば、伊賀・名張方面から奈良に行けるな。
岐阜から琵琶湖経由で、京都大阪ルートも有りか?そちらの道も選択肢に入れたいが人の流れが無いと道は出来ない。
なにか良いもの有るかな……
そんなことを考えている内に秋の夜は更けていった。
ムール貝の白ワイン蒸しに関しては画像検索してください
うずめの履いてない設定は日本書紀・古事記の作者に文句を言って下さい
仁(前衛盾役)うずめ(ヒーラー兼遊撃)犬飼(斥候 援護射撃)火力の足りないパーティーですね。




