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極東西遊記~古代日本に転生したぽいので建国してみた  作者: 星 武臣
第4章 天下布武(岐阜・滋賀南部編)
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86話 少名と彦名

熊野歴4月下旬


 俺とリョウメンスクナの力比べが終わり、有効の証として酒宴が開かれる事になった。俺は一度恵那に戻り、新作の土器と穀物や酒と交換し、リョウメンスクナ達は山に狩りに出てオークやツキノワグマを狙うようだ。


「なあ、タマ、何で戦闘に介入しなかったんだ?」


男の子(おのこ)が力比べをしておるのに雌のワシが介入するのは無粋であろう?」


 なにやらタマには戦いに関する美学が有る見たいだな。

 今回は俺もタマの乱入は望む所では無かったので、空気を読んでくれて助かったな。


「タマ、この辺りに広場を作りたいんだけど、雑草を燃やしてくれないか?」


「お安い御用じゃ、ワシの力をとくと見るがよい」


 タマは巨大なキツネに変身して青白い炎を吐き出し、辺りの雑草を燃やし尽くして行った。相変わらず凄い火力だな、まるでアーク溶接だ。さすがに6000℃は出てないよな。出てないと思いたい。もしかしたら出てるかもしれない。敵対する事は無いと思うが、覚悟だけはしておこう。


 何か人の気配がしたので後ろを見ると、リョウメンスクナ率いる山の民が立ち尽くしていた。


「ちょうど良い所に来たな。宴会場の準備は出来たぞ」


「おっ…… おう」


「おーい、タマ、もう元の姿に戻っていいぞ」

 俺にはどっちが元の姿か分からないがな。


 最初はタマに畏怖を感じていた山の民も酒が入ると次第に打ち解けていった。


 恵那の酒は赤米を配合した米を濾さないどぶろくで、独特な香りが有って美味しいな。赤米と言うの物を初めて見たが、酒を入れる際に入れると香と苦みが出るんだな。ビールを仕込む際に配合すると味が上がるかもしれないな。


 余興に弓を使い的当てをしてみようと言う話になり、山の民によるデモンストレーションが行われた。山の民の弓は木を使った大型の弓で有るが中々威力が有るな。素材はなにだろうか?


「なあ、リョウメンスクナ、あの弓の素材は何なんだ?」


位山(くらいやま)で取れるイチイの木だな」


「なん……だと……」

 神器イチイバルが作れるのか。


 弓の人造神器を製造するのも良いかもな。鹿の角や筋とイチイの木を素材に複合弓を作れば威力が上がるかもしれない。後は長弓にするか短弓にするかだよな。これは物部連を束ねる斉藤さんに相談した方が良い案件かな。


 俺はイチイの木やこの辺りで取れる鉱石を交易の材料として提案し、伊勢や尾張で作る塩や調味料などと交換する事で手が打たれた。この宴会場にも狩猟組合を置き調味料の使い方も教えて行きたい。名物料理は朴葉味噌焼きで良いかな。そうすると麦の入った味噌も作って置きたい所だな。この辺りは水の確保が難しいので米より麦を栽培して貰った方が良いと思う。


「ねえ、この辺りで朴葉って取れる? こんな形した葉っぱなんだけど」


「取れはするが、何に使うんだ?」


「香が良いから葉っぱに具材を包んで蒸しても良いし、上に味噌を乗っけて焼くと旨いんだよ」


「葉っぱなんて焼いたら燃えるだろ?」


 一度濡らして燃えにくくする事と、炭火が放つ赤外線で調理するのだけど、どう説明したら良いのだろうか。こう言う物は一度やって見せた方が良いな。


 幸いこの近くでも朴葉は取れるとの事で取って来て貰う事にした。朴葉が届くまで時間が有るので開催されている的当てに参加でもしようかと並んでいるとリョウメンスクナから声が掛けられた。


「なあ、あの時使おうとした技を見せてくれないか?」


 あの時とは、恐らくリョウメンスクナに抱き着かれる直前の事だろうな、不発に終わったが槍に込めた御雷は稲妻の様に放つ事が出来る。電気は近くに有る伝導体に流れる性質が有るので、至近距離で放たれると回避は不可能だ。雷より早く動けるヤツが居たら話は別だけどな。


 見せろと言われて見せる物ではないが、周りの期待に満ちた空気感に堪え切れず披露する流れとなった。俺は延ばした左手の親指に槍を引っ掛け、突きと共に電撃を放つ。電撃は直進し見事に的を撃ちぬいた。周りから歓声が上がったが、電気の特性を生かしたそう言う技なんだけどな。


「なあ、それが当たるとどうなるんだ?」


「一瞬だけど、痺れて動けなくなるな」


「恐ろしい技だ、喰らわなくて良かった」


 リョウメンスクナはそう言うが、俺もクリンチで潰されるとは思わなかった。今まで化け物を相手をするばかりで、対人戦闘はしてこなかったのが裏目にでたな。今回の事は教訓として心に留めて置こう。


「その技名前は有るのか?」


「見えない斬撃を飛ばすのが風刃(ふうじん)で、さっきの電撃を飛ばすのが雷刃(らいじん)だな」


 奥の手を見せる時にはさらに奥の手を持てと言う格言も有るし、何か考えて置かないとな。特に槍の間合いの内側に入られた時の対策が必要だな。


 それは追々考えて行くとして、朴葉が届いたので調理して行こう。


 本来ならば少し粒の残った麦味噌を使うのだが、既存の味噌を使い山で取れたキノコを具材に作って行こう。朴葉味噌と言えば米も欲しいよな。普通に白米を出しても面白くないので、焼きおにぎりでも作ろうか。


 今回は土魔法で石の台を作り出して、下で焚火をして熱せられた石から出る赤外線で調理して行く事にした。炭火焼きのコンロと金網が有れば石を使う必要は無いが、金網が無いんだよね。ただでさえ鉄製の網を曲げる炭火の火力は青銅だと溶けてしまうんだ。


 この世界に魔法が有って本当によかった、石を組み上げて焼き台を作っても良いが調理に向きそうな平たい石を探して来るのが面倒だからな。


「さあ、みんな出来たぞ」


「おお、この味噌は香が良いな、これは肉を入れても良いのか?」


「入れるなら鹿か鶏だな。鹿は火を入れすぎると固くなるから半生の方が良いな」


「それなら俺達にも出来そうだな。今度試してみよう」


 苦肉の策で石を使ったが、石は調理道具としては優秀だった。そういえば富士山の溶岩を使った溶岩焼きとかのご当地グルメが有った様な気がするな。この近くに御嶽山や乗鞍岳と言う火山が有るので溶岩焼きもご当地料理として広めて行くのも良いかな。


「お前の言う様に世の中には俺達の知らない世界が有るんだな」


「知らない事ばかりで、すべてを知る事は誰も無理なんじゃないかな」


 リョウメンスクナは発展する沿岸部との差を感じ、伝統を守るべきか改革するべきか迷って居るようだった。丹波のトヨウケも言っていたが、狩猟を主体としていると獲物が取れない時期が有るので、農耕をした方が良いのは分かっては居るが、死ぬほどは苦労していないので改革が中々進まない様だな。


 年々野生動物が取れる量が減って来ていて居て、山の民は緩やかに衰退して行って居るらしい。その話を聞いた俺は6月に伊勢に学校を作るので、興味の有る人は留学しに来ないかと誘ってみた。


「それは良い案だな、スクナとヒコナお前達ちょっと伊勢まで行って学んで来い」


 そう言って紹介されたのはうずめと同じ位の二人の子供だった。リョウメンスクナの話では飛騨には双子を忌み嫌う習慣が有り二人は肩身が狭い思いをしているので、留学に出した方がマシだとの事だ。


 複雑な事情が有るようなので、俺は何も言わずリョウメンスクナの提案を受け入れスクナとヒコナを伊勢で預かることにした。そろそろ田植えも始まる事だしそろそろ帰るとしますか。


 俺達は巨大化したタマの背中に乗り、犬山で犬の獣人を回収して帰る事にした。水晶を採取するだけのつもりが、色々と厄介事を押し付けられたり、思わぬ戦闘も有ったが、結果としては土岐の人達や山の民と縁を結べたので良しとしよう。

 




 





 

補足説明


 今の所この世界のビールは、小麦100%のホワイトビールと呼ばれる物で香は良いが苦みが足りない。赤米の赤い色はポリフェノールによる物なので、渋みを加える事ができる。


 なお、赤米を炊いて食べると恐ろしくマズイらしが、酒に加工すると美味しいので、飛鳥時代には税金として納められていた。古代米(赤米)を使った日本酒はアマゾンで買えるぞ。


 スクナヒコナは山や木を象徴するタカミムスビ(高木神)の子との事なので山の民出身としました。とある地方の開発に貢献する、医療・温泉・まじない・酒造・穀物・知識を司るハイスペックな神様なので伊勢と奈良で詰め込み教育を施した後に、とある地方の発展に貢献してもらいます。


 書き忘れていましたが、恵那にはイザナミがアマテラスを生んだ際に胞衣(胎盤や胎児を包む膜)をこの地埋めたと言う伝承が有り、地名の由来となっています。


 岐阜の東濃地方の方言は関西弁や名古屋弁と区別がつかないため。長野の松本の方言に寄せようとしましたが、語尾は「ずら」だった。暇を見つけて訂正しておきます。


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