85話 両面宿儺 後編
主人公の仁はすぐ暴走するので、話の収集を着けるのに苦労しました。
熊野歴4月下旬
リョウメンスクナの体から赤黒い魔力が溢れ出し、二面四臂の姿へと変身した。今まで重そうだった石斧は上下の二本の腕で持つ事で、威力と速さを増して来る事だろう。
リョウメンスクナは舞の様な物を舞い技を発現していたが、俺も土俵入りによる神下しを体得している。俺の扱う神下しは、どちらかと言うと大地から湧き出る魔力を足から吸い上げて身体能力を向上させる物だ。アイツと俺の差は何だろうか? 信仰の有る無しか?
「般若~ 波羅~ 蜜多~ じ…… ぐはっ」
試しに般若心経を唱えて見たら、首からさげている天音さんが作った鏡と信長(鹿)の角から魔力が流れ出し体の中に激痛が走った。俺の体の中に何が起こったのだろうか? 一つ判ったのはお経を唱えたらダメそうだと言う事だ。神道系の詠唱なんか判らねぇぞ、ちくしょうめ。
「そっちの準備は良いか? そろそろ行くぞ」
「ああ、始めようか」
恐らくアイツの素の筋力は俺より上だろうな。
そうすると、強化率で上回れるかどうかが勝敗のカギだな。
いっぺん真正面から打ち合って見るか?
武器までは強化されて居ない様なので、上手く行けば武器破壊も狙えるかもしれない。
リョウメンスクナの斧が唸りを上げ俺に向かって来る。
俺は斧を迎撃するべく槍を振るうと、斧の動きがピタリと止まる。
しまったフェイントか。
左側の斧を迎撃するため半身になった俺の背後から、もう一本の斧が迫って来た。コイツは避けられないな。体を強化して受けるしかない。
それでドコを強化するのかだが、背中にあたりをつけて強化した。
いいか、背中だぞ、頼むからな。
予想通り背中に衝撃が伝わり俺は弾き飛ばされた。
かなり痛かったが、俺は傷を負う事無く、
逆にリョウメンスクナの石斧が弾け飛んだ。
「いったい、どんな体してやがる」
「お前こそ、後頭部を狙えば俺を殺せたかもしれないぞ」
「力くらべが目的だ、殺し合いは望む所ではない」
俺の読み通り、コイツは根は優しいヤツだな。
これが手段を選ばないヤツだったらと考えたらゾッとする。
俺の望む形では無いけど、武器を破壊する事は出来たが、一部の魔法を使う人間は下手な武器を使うより素手の方が強い。うずめとかが良い例だな。
「さっきから、俺の頭に流れ込んで来る、ちょこまかと動く小娘はそんなに強いのか?」 どう言う事だ? 俺はうずめの事を口にしちゃ居ないぞ?
「ああ、何とか勝ち越しちゃ居るが、年々凶悪になってくる困ったヤツだ」
「そいつぁ、末恐ろしいガキが居るもんだ」
不安は残るが、世間話はこの位にして戦闘を再開しようか。
俺の推理が確かならば、かなり厄介な相手になるな。
可能性はかなり減ったが、予備動作から動きを読んでる事に一縷の望みを掛け突きを放つが、当然の如く避けられた。こりゃ心を読まれて居るのが濃厚かな?
英語で考えたらどうだろうか?
デス イズ ア ペン?
あかん、俺、英検四級しか持ってないわ。
リョウメンスクナの様子を見て見ると、何かキョトンとしていた。どこまで心を読めるか分からないが、攻撃などの動作をイメージとして見えると推理する。じゃあ、ほか事を考えながら攻撃すれば良い訳だ。
生前、伊達に授業中の板書を写しながら、教室にテロリストが乱入し来たらどうするかと言う妄想をしてきた訳じゃない。体と頭を別に動かすのは得意技だ。たとえ戦闘中でもやってのけて見せよう。さてどんな妄想がいいかな?
「うおっ、神聖な戦いの最中に何を考えてやがる」
ちなみに考えて居たのは、今だに脳裏に焼き付く天音さんの裸だ。
「心を読むのを止めてくれたら、普通に戦うけど?」
とは言ってもリョウメンスクナの技は無意識で発動してそうだよな。
さあ、攻略法も見つけた事だし、茶番はこれくらいにして真面目に戦おうか。
手を延ばせば届く位のインファイトに持ち込み、ボディーを中心で攻めれば対抗できそうだけど、相手の方が手の数が多いから悪手だよな。そうすると、来ると分かっていても避けられない攻撃になるな。
俺は槍に電気系魔法の御雷を込め相手と対峙する。
リョウメンスクナの右からの打撃を槍で受けると、バチッと激しい音と共に電流が流れ、動きが一瞬止まった。その隙を見逃さず突きを放つ。
その突きは左手に持った石斧で弾かれ、体勢を崩した俺に対しリョウメンスクナは斧を捨て、俺の脇腹に抱き着き、四本の腕で俺を締め上げて来た。
俺の体はゆっくりと持ち上がりギリギリと骨がきしみを上げる。
「これはどんな小細工をしても逃げられないぞ、大人しく降参したらどうだ?」
「あきらめが悪いのが取り柄なんでな。もう少し足掻かせてもらう」
俺も槍を捨てて、右手人差し指に魔力を集中させた。
防御に回していた魔力も攻撃に集中したので、相手の腕がさらに締まり体に激痛が走る。これは早くしないと落とされるな。だが、焦るな集中しろ。どれだけ指先に魔力を圧縮させられるかが鍵だ。
指先に集中した魔力を込め、相手のこめかみを突き魔法を発動させる。
「みかづちぃ!!」
バリバリと音をたて電撃がリョウメンスクナを襲う。
しばらくすると、締め上げられた手が解けリョウメンスクナは膝を着いた。
俺はすぐさま地面に落とした槍を拾い、相手の首筋に槍を突き付け戦意の有無を確かめた。
「まだやるかい?」
「いや、この位で止めて置こう」
正直な話、ここで諦めてくれて助かった。一気に魔力を消費したので、今の俺の防御力は低い。そこに攻撃を食らったら、昏倒しているのは俺だったと思う。
「勝負は付いたかの?」
後ろの草むらからタマが出て来た。実はタマが居るのは少し前から分かっていた。タマは巨大な殺気を放ち俺を取り囲む男達を牽制して居てくれたのだ。姿を見せなかったのは、恐らく見た目が幼女だと実力を見誤って襲い掛かるバカが出て来る事への配慮だろう。
「ありがとうタマ、おかげで後ろを気にせず戦えたぞ」
「はて、何のことかの」
いつもは褒めると高笑いするタマだが、今日はなんだか謙虚だな。
明日は雨がふらないと良いが……
「さっきから感じていた殺気は、こんな小娘が放っていたのか?」
「なっ、世の中は広いだろ?」
もしかしたら、俺が回りの人間を警戒していたのと同様に、リョウメンスクナもタマを警戒していたのかもしれない。くっ、今回は実力で勝ったと思いたい所だが、タマの介入の可能性を否定できないな。
今回の移動経路
岐阜市から愛知県の犬山市を経由し土岐市へ
土岐市から恵那市に向かい両面宿儺と交戦
天音さんと信長(鹿)の間には仏教を寄せ付けないと言う密約が交わされているので、首飾りを装備したままお経を唱えると体に激痛が走ります。(閑話 天音さんと第六天魔王参照)
ちなみに自分でお経を唱えなくても激痛が走るので、西遊記の孫悟空と同じく、のたうち回る事になると思われる。




