82話 お稲荷様と調味料2 その5
熊野歴4月下旬
温泉を掘っていたら、すっかりと日が落ちていた。今夜の晩飯はこの地方の郷土料理をご馳走してくれるらしい、村に戻ると広場に煮炊き物の煙と共に何やら良い香りがして来た。こいつは出て来る料理に期待できそうだ。
主役の俺たちが戻って来た所で宴会が始まった。俺も天然物のシイタケやマイタケを食べるのは初めてだったが、どちらも現代の物より香りが強く焼くだけで美味しく食べられた。郷土料理も単純な塩味ながら素材の味を引き立てた味わい深い物となっていた。
「なあ、主様よ」
「タマ、皆まで言うな」
「どうしたんずら? オラ達の料理が不味かったんずらか?」
「いや、不味くは無いんだが……」
提供された料理は旨いには旨いのだが、例えるならば無化調の塩ラーメンを食べた時に感じる物足りなさが有る。俺が作り出した醤油やみりんに、舌が慣れていると物足りなさを感じるんだ、加えてうまみ成分が足らない。キノコ類は昆布と同じグルタミン酸系だ。鰹節に含まれるイノシン酸系や貝類や酒に含まれるコハク酸系の味が足りないのだろう。これらのうまみ成分は、ほかのうまみ成分と合わさると相乗的な効果が得られる。
しじみの味噌汁は、特に具材を入れなくても美味いだろ? アレはシジミのうまみ(コハク酸)と味噌のうまみ(グルタミン酸)が相乗効果を得た結果だ。味を味噌ベースにすると多少は変わるだろうか?
やはり鰹節に代表される魚介系のうまみも欲しい所だが、この地で取れる動物系タンパク質が良いよな。何か良い材料は無いかと辺りを見渡すと、ウゾウゾと蠢く物体が有った。そう、蜂の子だ。
男は度胸と言うし、いっちょやって見ますか。
「たしか味噌は有ったよね、少し持って来てくれないか?」
「なんだべ? 味噌が好きずらか?」
人を味噌県民みたいに言うな。何にでも味噌を付ける習慣はないぞ。
俺は土魔法ですり鉢を作り、貰った味噌と蜂の子をすり潰して行く。味見してみるとほのかな甘みとうま味が有り、意外と上品な味がした。正直もう一味欲しい所だ。
味と言うのは基本的に、甘い・苦い・酸っぱい・辛い・塩辛いの五味とされている。最近世界にも認められ、うま味が六番目の味として追加されたらしい。
「山椒の葉っぱとか有ったりする?」
「これずらか?」
「ああ、それそれ」
山椒の葉っぱも入れて木の芽味噌を作ってみよう。
これで、辛みと風味が補えると思う。
「さあ、出来たぞ。鍋に入れて食って見てくれ、味噌を入れると塩分濃度が上がるから少し水を入れるのを忘れるなよ」
そんなも物で味が増すのかと半信半疑だった村人達も、具材を一口食べたら様相が一変した。
「こっ、これは、今まで食べて居たのはなんだったんだ」
「こんな物を食べたのは初めてずら」
「ソレ俺が作ってる、酒と味醂を入れるともっと旨くなるぞ」
「これで、未完成なんだべか?」
「料理の道も奥が深い。仕上がった物が最高傑作だと思わない方がいいぞ」
「はえ~ そんなもんなんずらか」
「そんなもんさ、少しずつでも前に進んでいれば、何時かは明るい未来に辿りつけるだろうさ」
特産品となる新しい土器の生産と葡萄の栽培が上手く行けば、明るい未来への道筋が見えて来るだろう。葡萄の栽培は日の当たる斜面に植える事と、適度に間引きして本来なら分散される甘味やうま味を凝縮させる事が出来れば、味の良い物が出来上がると思われる。
あれ? 葡萄は接ぎ木で育てれるんだったけか?
確か出来たハズだ。じゃあ味の良い葡萄のなる木のクローンを作り放題だな。
少し時間は掛かるがこの分野は大丈夫そうだな。
余裕が出来たら行商人を集めて、新酒を誰が奈良まで早く運べるかと言う祭りを開いてもいいかもな。距離的に徒歩・丸木舟・鹿車のトライアスロンになりそうだけど、その競技を見た人は何をやって居るのか気になるので、葡萄酒の良い宣伝にはなりそうだしアリかな。
おっと、村人に温泉とキノコの栽培について話すのが、まだだったな。
――翌日
俺たちは昨日掘り当てた温泉に村人を招待した。最初は水が温かい事に戸惑っていたが、湯船につかるとそんな細かい事は気にならなくなり。十分満喫して居るようだった。細かい説明をするのが面倒だったので、タマの神通力で水が温かいのだと村人達には説明をしておいた。
「流石はタマ様ずら、こんな偉業を簡単に成し遂げられるとは」
「なぁはっはっは、もっとワシを褒めたたえるがよい」
なんか土岐市に稲荷神社が出来そうな崇拝のされ方だな。
それはさておき、源泉から湯船までお湯を通して居る溝の上に小屋を建てて貰い、そこでキノコの栽培を試してみよう。屋根は納豆菌が怖いから藁以外の物で頼んだら、木の皮をなめした物を使うみたいだ。
小屋の廃材を使い木枠を作り、そこにおが屑を敷き詰めその上に昨日採取した菌糸を含む土や木を乗せて、俺の電気魔法(御雷)で刺激を与える。電気刺激を菌糸に与えると約二倍の収穫が得られるみたいだぞ。
「本当にそんな物でキノコがはえるずらか?」
「もしかしたら、何か栄養になる物が居るかもしれないな」
「ウチの村で余っているのは米ぬか位ずら」
「じゃあ、その米ぬかを混ぜた物も試してみるか」
本当に大丈夫かと村人は心配していたが、これも試行錯誤が必要だろうな。欲を言えばスーパーで売っているような均一の大きさの物を出荷したい所だが、竹筒は竹に抗菌作用が有るので菌類の栽培には適さないだろうな。そうなると瓶になるわけだけど……
ガラスの材料になりそうな物は有るが、ガラスの瓶は鉄パイプ見たいな物の先端に溶けたガラスを付けて、息を吹き込んでつくるじゃない?
無いんだよ鉄が!!
ああ~ モヤモヤする。一応砂鉄は取れるがアレ酸化鉄なんだよね。加熱して炭素と酸素を結合させて二酸化炭素と純鉄に分解する所から始めないといけないし。砂鉄をキロ単位で集めないといけない。非常に面倒だ、何処かに鉄鉱石の鉱脈は無い物かね。
まあ、有ったとしても鉄の融点の約1300℃を木炭で叩きだすのが難しい。タマが居れば鉄を溶かせるだろうが、鉄器の製造のみにタマを使う訳には行かないし、量産できないと話しにならない。
紀州備長炭が出来れば1100℃まで叩き出せるので、鍛造は出来そうだが、鍛造で鉄パイプを量産するのは至難の業だ。やっぱり鋳造だよね。
確か、ジャニタレが無人島で自給自足の生活をする番組で製鉄しようとしてたよな? 構造は何となく覚えちゃ居るが、アレ何とか真似できないだろうか? 耐火レンガを大量に用意していたような気がするが……
朱里さんの話しでは、耐火性の粘土が、愛知県の瀬戸市で取れる取れると行って居たな。今はの瀬戸市周辺に人が住んで居るか判らないが、交易ルートを作っておいても損はないかな?
一応、村長の源一郎さんには話しを通して置こう。
「源一郎さん、ここから南に瀬戸と言う場所が有るんだけど知ってる」
「瀬戸は隣の村で、焼き物仲間ずら」
「ああ、瀬戸の人も焼き物好きなんだね」
既に土岐の人達と交流が有るのは渡りに船だな。交易路の方は既に有る物を使えば良いか、耐火粘土の調達は土岐の人に任せても良さそうだな。明日は水晶の採取場所の恵那に向かおう。
蜂の子を練りこんだ、へぼの子味噌を使った五平餅は恵那市で食べれます。理論上は美味しいと思われますので、勇気の有る方はご賞味下さい。
一応グルタミン酸系のうま味調味料は、小麦粉のグルテンや大豆を塩酸を入れて高温で加水分解した後に海水を電気分解して出来る水酸化ナトリウムを投入するとグルタミン酸ナトリウムと塩化ナトリウム(塩)と水になり。一応作中で作る事は可能。塩酸は塩と硫酸を混ぜると出来る。
岐阜県で取れる山椒の品種は高原川流域原産の高原山椒ですね。高天原とは関係は有るといいな。
土岐市と瀬戸市や豊田市は現在も隣接している。さすがに車は作らないぞ。
本来食用の蜂の子は黒スズメバチの子供ですが、一応ミツバチも居るので養蜂は可能かと思われる。国産のワインが美味しく飲めるようになったのは近年の事なので、ハチミツに水を足して放置すると出来るハチミツ酒と割って飲むと、現代人でも飲める味にはなると思います。ただし、スーパーで売っているペットボトル入りの安っぽく甘ったるいワイン見たいな味になると思われる。




