81話 お稲荷様と調味料2 その4
熊野歴4月中旬
――翌日
土岐市の開発の概要をまとめて置こうと思う。
まずはキノコの栽培、特にシイタケを重点的に行きたい。和食には欠かせない食材だからな。
次に土器の改善、ココは焼き物に必要な粘土質の土が良く取れるらしい。何か流行の発信が出来れば良いなと思う。
食料事情の改善、人が集まる場所を作るならば、その食を支える必要が有る。これは収入源が有れば近隣の村から買い付ければ良いので、隣の可児市や恵那市の農業指導をして、米相場を下げるのも手かもしれないな。
後は酒だ、この地で作られる果実酒は渋くてスッパイので味を改善したい所だ、幸いハチミツが取れるので甘味を足して味を調節したい。これはコーヒーに砂糖を入れると飲みやすくなるのと同じだ、業界用語で抑制効果と言う、調理師試験に出るから覚えておけよ。
それと合わせて果実酒の原材料となる葡萄? の品種改良を行いたい。品種改良と言っても味の良い葡萄の種を選別して栽培するくらいになると思う。
窯で焼いている陶器が焼きあがるまで、まだ時間が有るので山を案内して貰う事にした。ついでに藪をはらい風通しを良くしておこう。キノコは胞子を飛ばして増えるのである程度風通しが良い方がいいらしいぞ。人の良く入る山を里山と言い、過疎化によってその里山がなくなり、マツタケの取れる山が減少して来ているのが問題らしい。俺の住む三重県もその一つだな。
そういえばマツタケまだ食べて無かったな。三重はオークが食べつくして居るだろうし岐阜では取れるかな? 赤松の生えて居る所が有れば有力なんだろうけどこの辺りには有るだろうか?
藪を払いながら山の中を進むとビール瓶大の変な蛇が居た。なんだこれキモッ。
「そいつはご馳走だ、早く捕まえてるずら」
え~ コレ食べるの? 蛇の肉は鶏肉に近くて旨いらしいが……
「所でコレ何?」
「ツチノコだべ」
なん……だと…… 未確認生物じゃないか。
早く捕まえろと言われたが、動きは鈍く容易に捕まえる事が出来た。これで本当に味が良ければ絶滅していても不思議ではない。と言うか、よく今まで野生動物に食べられたりして絶滅しなかったな。
村人の言う様に旨いのならもう少し捕まえて置くか、藪を払い山を進んで行くとキノコが生えていた。この時期でもキノコが生えるのか……
考えてみたらスーパーなどに通年で置いて有るから、環境次第では春先でも生えるのか、おっシイタケ発見、暫くキノコ採りに夢中になって村人のオッサンとはぐれたので、辺りを見渡すとオッサンが奇妙な舞を舞っていた。
「オッサン何やってるんだ?」
「これは山の神に捧げる舞ずら」
足元には倒木にマイタケが生えていた。本当にマイタケを見つけたら舞を舞うんだな。ここは郷に入っては郷に従えと言う話もあるから、俺も踊って置くかな。
オッサンの舞を見様見真似で踊って居ると、俺の体が淡く光り出した。そして体には力がみなぎって来る様な感覚と共に全能感を感じる。
今なら何でも出来そうだ。試しにそこら辺の木を殴って見ると木はメリメリと音を立ててへし折れた。今まで何度か試した事が有ったが、大人が手で輪を作った位のサイズの木をへし折ったのは初めてだ。
これは天音さんの奉納舞や土俵入りによる神下しと同じ現象だな。
何か特殊なステップを踏むとかの法則でも有るのだろうか?
それが解明出来れば、戦いながら特殊な歩法を踏み特殊効果を得られるかもしれない。
「今のはなんだべ、お前もタマ様と同じ神ずらか?」
「いや、俺はそんな大層なもんじゃないよ」
タマは正真正銘の化け物だ、人知の及ばない物事を神の御業と言うのであればタマの技がそれに当たるだろう。タマの吐く炎は酸素と炭素の結合によって行われて居る物では無いと断言出来る。この世界には魔法が存在するが、それにしてもタマは規格外と言うヤツだ。あれで毎日鍛錬を欠かさないと言うのなら、まだ納得も出来るが俺の知る限りその気配はない。
恐ろしい事にタマにはまだ伸びしろが有るんだ。とりあえず俺が対抗できるまでそっとして置こうと思う。
それはさておき、俺は人知の及ぶ範囲で頑張るとしますかね。菌類はキノコの傘の部分から放出される胞子で増えるが、キノコの部分が本体では無い。木で例えるなら花とか果実の部分になるだろう。本体は土や倒木の中に含まれる、菌糸と呼ばれる部分に存在する。これを採取して栽培してみよう。
せっかくなので、シイタケとマイタケの生えていた木と同じものを切り倒して井の字に組んで置こう。上手くいけばキノコが生えて来るかもしれない。
木を切り倒す最中ツチノコも居たので、ついでに取って置いた。石の裏のダンゴムシの様に藪を払うとけっこうな確率でいるんだ、なかにはマムシも居てビックリしたが、マムシと言えは滋養強壮の効果が有るとされて居るな、干物にしてトヨウケへの土産にしようかな。
けっこうな量のツチノコとキノコが採れたな、これには村人もホクホク顔で郷土料理の鍋を振舞ってくれるらしい。そろそろ焼いている陶器も出来上がると思うし、帰って様子を見て見よう。
今回は陶器の焼成に一日冷却に一日を使った。冷却に一日かけたのは、熱した金属などは水とかで急激に冷ますと割れる事が有るのが、陶器となればなおさら注意が必要だろうと考え。自然に常温に戻るのを待っていたら、ほぼ一日掛かってしまった。
早速取り出して見ると、少し焼きが甘く表面がでこぼこしているが、あめ色の艶が出て居た。砂鉄を使い色を付けた部分も黒い色がハッキリと出ているな。今回は砂鉄を採取するのが面倒だったので、表面の一部と絵付けの試しとして、井の字の模様を描いてみた。俗に言う黒織部だな。
実は素焼きの壺は水を吸うので、壺の内部に入った水分が熱で膨張して割れやすく調理には向かない。伊勢では青銅製の調理器具が主流となっているが、釉薬を使った土鍋が出来れば商品としての価値が出てくるだろう。
「これは、なんて美しいずらか」
「そうだろう、本音を言うともう少し時間を掛けて焼いた方が良いと思う」
「これで、未完成ずらか?」
「焼き物の道は奥が深い、そう簡単に完成は出来ないさ」
「オラたちが必ずこの焼き物を完成させてみるずら」
それは有難いな、この焼き物が流行れば農業に向かないこの地の人も生活していけるだろう。一度近衛さん達もココに呼んで、正しい窯の作り方とかを教えてもらおうか。何せ一番焼き物が流行った時代の人だ、俺よりは詳しいだろう。
この焼き物を広める為に行商をして貰える人を募集した所、自分達の作った物が自慢出来ると多くの募集が有った。暫くの間は狩猟人口が減るので、ついでに狩猟協会の支部もココに置かせて貰い、捉えた獲物と穀物を好条件で交換する事で生活を支援していこうと思う。
となると後は、この地に来たくなる名物料理の開発だな。今日は郷土料理を振舞ってくれるらしいので楽しみだ。料理人として気になるので少し調理場を見学してみよう。
調理場に行くと村人がツチノコを捌いて居た。へぇ蛇も三枚下しにするのか、肉厚なツチノコの身は艶が有り油を多く含んで居るのが伺える。間近で見て見るとキレイなサシが入って居て、これで味が鶏肉に近ければ十分旨そうだ。
試しに塩焼きにして見ると、身から滴り落ちる肉汁が炭に触れ火柱が上がり、辺り一帯に香ばしい香りが充満した。凄い脂身だな、コイツは味の方も期待できそうだ。
食べて見ると臭みの類はあまり無く、脂身のお陰で甘味が有り、焼く時に煙で燻された香と相まって旨いな。しいて言えば、少し土臭い所も含め味は鰻に近い。伊勢から蒲焼のタレを持ち込んでみよう。十中八九合うはずだ、蒲焼が良いか白焼きが良いかは好みになるが、味の選択肢が有ると言う事は大切な事だ。
これを露店で串焼きにしたらかなり受けるんじゃないだろうか? いや、丼の方が良いか? 折角陶器を作るんだ、丼を作って盛り付けて見た目と味の両方で訪れた人の思い出を演出しよう。そうすれば、近場に住む人は何かと理由をつけてこの地を訪れるハズだ。そして土産とかを物々交換して行くとこの地には自然と物が集まり、さらに人を呼ぶことが出来るだろう。
もう少し人を引き付ける何かが必要か? 温泉でも掘るかな、日本中どこでも温泉は高確率で出るハズなので、この辺りでも出るだろう。
「タマ~ どこだ~」
「呼んだかの、主様よ」
タマは腰に手を当てて偉そうにふんぞり返って居るが、口の周りには食べカスが沢山付いていた。大方村人達に接待を受けていたのだろう。
「この辺りに温泉を掘るぞ、タマもこの地の人には世話になっただろ? もう一肌脱いでくれないか?」
「やれやれ、人使いの荒い主様じゃ」
タマは文句を言いつつも、手伝ってくれるようだ。
早速、矢じりに紐を通した物でダウジングをして目ぼしい場所を見つけ、タマに掘って貰った。暫くすると温泉が湯気を巻き上げながら噴き出した。結構源泉は熱いな。幸い近くに土岐川が流れて居るので川の水で少し冷まして使うとしよう。
せっかくなので、河原まで溝を掘り、その上にキノコの栽培所を立てれば一定の湿度と温度は保たれると思う。とりあえず茅葺の掘っ立て小屋を建てて実験してみよう。
もうココに狩猟組合を建てて温泉旅館として営業するかな。
「主様よこの温泉の名前は何にするのじゃ」
「稲荷の湯は京都に有るし、白狐温泉で良いんじゃないか?」
「なぁっはっはっは、それで良いのじゃ、くるしゅうないぞ主様よ」
タマの高笑いは暫く辺りの山に響いていった。
補足説明
山を隔てた美濃加茂市はシイタケとマツタケの産地、昔は三重県でもマツタケ狩りが楽しめたが今はやって居る山は無いようですね。
ツチノコは古事記にも記載されている日本最古のUNAです。北海道と西南諸島を除く日本全国で目撃例がありますが、岐阜県のこの辺りは目撃例が多く、隣の白川村では5月にツチノコ探索イベント「ツチノコフェスタ」が行われ懸賞金が掛けられている。(100万円)
なお、最高賞金は兵庫県千種町の3億円です。
白狐温泉は土岐市の隣の瑞浪市に有りますが、開湯400年で源泉の温度は25℃の放射能泉です。まあ、2000年以上前は火山活動が活発で温泉の温度が高かったと思って下さい。




