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第四話 残った幼さ

 初めてスマホで書きました!いや~~キツい。




 ……月が頭上を通り過ぎる頃、俺は一人森の中を歩いていた。数日振りに踏む土は、雨でも降っていたのだろうか?べちゃべちゃと靴底に張り付いてくる。……いや、そんなのはどうでもいい。メイティアが渡したいもの……一体何なのだろうか?


 思いを巡らせながら道なりに進むと、やがて小さな明かりが見えてきた。メイティアの小屋だ。俺はその扉の前に立ち軽くノックをする。


「来たか。入っていいぞ」


 小屋の中は多くの本やフラスコのような瓶、小さな縫いぐるみ等様々な物が散らかっていて、足の踏み場も無いくらいだった。


「カケル。これって大切な物じゃないのか?」


 奥の部屋からメイティアが持ってきたのは、見覚えのある小さな箱状の物、俺の大切なインスタントカメラ「チェキ」だ。


「やっべぇ、すっかり忘れていたぜ。ありがとうな。………それにしても、どうしてこんなに部屋が散らかっているんだ?」


「これか。旅に出る前に要らなくなった物を島民に分けようと思って、家中から仕舞っていた物を出してみたんだ。そしたら余りに多く出てきたから、少し困っていた所でな」


「じゃあ俺も手伝うよ。こんな量を一人でやったら、明日の朝に行けなくなっちゃうからさ」


「ありがとう。それじゃあ、まず始めにこれを処分していこうか」

 

 メイティアが指で指し示した先には、積み上がった本があった。

 彼女の家に有るものの大部分は魔術や天文学に関する本で、その内三冊ほど彼女が保管し、残りは全て村の子供達に寄付する事となった。これに関して彼女に聞いた所、「別に悪用される訳でもない。どうせあの子達にとってはただの読み物だ」と言っていた。

 本の他には、鍋や包丁といった生活用品もあり、これらも全て寄付するとの事。


「なぁ、こんなに処分しちゃって大丈夫なのか……?」


「大丈夫だ。私はもうここに帰ってこない。……そうでもしなければ、私は覚悟出来ないからな」


「……死ぬかもしれないって覚悟か?」


 彼女は答えなかった。ただ物を分けては時折嗚咽(おえつ)のような声を出すだけだった。二人で黙って仕分けていくうちにいつしか物は二つだけになった。一つは縦長の木で出来た箱、もう一つは熊の縫いぐるみ。


「………これは?」


 そう言って彼女が取り出したのは縦長の木箱。その表面から考えるに、かなり年季が入った物だ。


「カケルは何だと思う?」


「さぁ?ちょっと俺に貸してくれない?」


 メイティアから手渡しで受け取ると、思った以上に重く危うく落としそうになった。


「中に鉄の板でも入っているのかな。結構ずっしりしてる」


「開けて確かめてみるか?」


「……開けてみよう。中からやべぇもんが出てこなきゃ良いけど」


俺はそういった曰く付きの品には慣れている(・・・・・)し、対策も心得てはいるが、彼女は大丈夫だろうか?不安に思いながら箱を開けていくと、中から立派な剣が現れた。剣は美しい彫刻がされた鞘の中に納められており、その上には黒い布が被せてあった。


「これは……儀式に使われていた剣かな?それか祭事にでも」


「儀式だと?そういうのは聞いたことが無い。万が一あったとしても、これが何故私の家で埃を被っているんだ?」


「そうだよなぁ」


 俺は剣を手に取って鞘から抜こうと柄に触れる。その瞬間、俺の指輪がカチャカチャとけたたましく鳴り始めた。どうやらドラゴンがこれに反応しているらしい。

 

《リヴェリオン《・・・・・・》……!?まさかお前とこんな姿で会えるとは思わなかったぞ》


「これを知っているのか?」


《あぁ、我が(ふる)き友だ。今は(つるぎ)の姿をしているが、かつては私と共に空を飛ぶ竜だった。地上に墜ちたと聞き、既に死んだものかと勘ぐったが、その身を魔具に変えて生きていたとは》


「……魔具?」


「その名の通り、魔の力を持つアイテムの事だ。一般的には魔術師や錬金術師が作った物を指すが、魔物や精霊を封印する物やそれらの魂が宿った物も含まれる。……その剣は恐らく後者だが、それが何故私の家に…」


 メイティアが再び箱に触れると、中から折り畳まれた古い紙切れが落ちてきた。俺はそれを拾い上げて開いてみると、中には文字が小さくがびっしりと書かれていた。その文字は当然俺には読めないが、メイティアには分かるだろうと思い手渡した。それを見たメイティアは驚いたような顔をした後、顔を俯かせてぼそぼそと小さな声で喋りはじめた。


「……アンブラル・コード、魔女の暗号か。……お母様が?」


 お母様……?あの手紙を書いたのはメイティアのお母さんなのか?俺は彼女に聞こうとしたが、その前にドラゴンが話しだす。


 《アンブラル……メサイヤの魔女か。メイティア、確か貴様はモノリスの守護者であったな。もしやメサイヤの魔女達の一族……》


 ドラゴンがそう言った時だった。突然周りに冷気が現れ、窓の表面が小さな音を立てて凍りつき始めた。……これも魔法か!?


「黙れ……っ!私は………私の母はあんな下劣な連中とは違う!奴らの古の盟約のせいで……私達家族は……」


 初めて聞くメイティアの怒号に思わず腰が抜ける。この冷気は間違いなく彼女が作り出したものだろう。彼女は俺達を睨み息を荒くして黙っていたが、我に返ったのかハッと声を出していつものように穏やかな声を出しはじめた。


「すまない。急に怒ってしまって……」


《………ふむ、やはりそうだったのか》


「なぁドラゴン。メサイヤの魔女って一体?」


《人の身でありながら、神の力を手にいれようとし呪われた愚か者達の事だ。……彼女はその子孫だろう》


 呪われた一族の子孫……。メイティアの反応を見るからに、それはとても嫌な物なのだろう。俺はどうしてもそれ以上聞くことができずなかった。


「メイティア、その手紙にはなんて書かれているんだ?」


「……あっ、これか。すまんがまだ分からん。ここに使われているのはかなり古い文字で、私もほんの少ししか解読出来ていないんだ」


「じゃあその少しだけでも教えてくれないか?」


「分かった。……我が娘へ、この手紙が読まれている頃には私はもう死んでいるでしょう。私達両親は貴女の事を愛していましたが、一族の掟ゆえに幼い貴女を独りにし、守護者としての使命を課してしまいました。もし、これを読んでいる貴女に使命を果たす時が来たならば……」


「………それから?」


「……読めない。ここから先は字が所々潰れている。だが、リヴェリオンを渡せと書かれているのは分かる。単語から察するに「龍の契約者」であるお前にその剣を渡せという内容なのだろう」


 俺は手元にあるリヴェリオンを見る。かつてドラゴンだったこの剣はいつか来る「龍の契約者」を待っていたかのように、その剣身を輝かせていた。


「龍の契約者と共に旅をする守護者としての最後の使命、お母様はその時の為にそれを作り出したのか?………ともかくそれはお前の物だ。……もうこれ以上この話はしたくない」


 そう言う彼女の目は俺の方を向いていなかった。俺もそれ以上聞こうと思えず、話題を変えようと熊の縫いぐるみを指差した。


「そういや、まだ片付けが終わってないよな。さっさと終わらせようぜ」


「……あぁ、そうだな」


 やはり考え事があるのか反応は薄いが、それでもこの不穏な空気が変わっていくのは分かる。

 だが、こちらを見る彼女の顔はどこか複雑な表情だった。俺は景気付けに何かに面白い事を言ってみようとしたが、こんな状況で言える訳が無い。黙って作業に徹することにした。


「メイティア、早く終わらせないといけないって言ったのは君だろ。で、この熊の縫いぐるみ捨てるの捨てないの?」


「……っ!それに触るな!」


 俺が縫いぐるみを拾い上げて彼女に見せた途端、素早くこちらに手を伸ばして縫いぐるみを奪い取ってきた。


「ご、ごめん。勝手に触って。それって本当に大切な物なんだな……」


「……その子はお母様が渡してくれた大切な友達なんだ。独りになった後も、私の傍に居てくれたんだ。……頼むから、捨てるだ

なんて言わないでくれ」


 人形に抱きつきながらそう言う彼女の姿に、大人っぽい見たとのギャップ……?を感じる。色々と言いたいことがあるが……まぁ、これで全部終わったしいいか。


「……さぁて、もうこれで全部終わったな。……俺は昼間寝過ぎたからもう眠らないけど、メイティアはもう寝なくちゃいけない時間じゃないの?」


「そうだな……。今日はもう寝るとしよう。カケルはどうする」


「ここで朝を待つよ。帰っても何もないし」


「分かった。それじゃあ……お休み」


 大きな欠伸(あくび)をしてフラフラと寝室に向かうメイティアを見送ると、俺は積み上がった本を読む。勿論内容は分からないが、植物や動物の押し絵が書かれているので一応楽しめる。中には幼いメイティアが書いたものであろう落書きやまだ拙い文章が書いてあって、彼女がこの小屋で過ごした日々を思わせた。

 ……きっとこの小屋は彼女にとっての世界の全てだったのだろう。


 俺は日が昇るまでひたすら本を読んでいた。

感想や評価は欲しいんですが、正直駄目な部分を教えて欲しいですね。


次回からはキャラクターが急に増えますので、そろそろ登場人物の設定をださないとダメかも

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