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予感

「龍の契約者」の物語はこれより始まる。その運命の先にあるものは……?

 

 ………電車の揺れで目が覚めた。どうやら考えていたよりも長く寝てしまったらしい。ぼんやりとした頭でそんな事を考えながら、大きなあくびをしながら、背筋を真っ直ぐ伸ばし首を大きく回してリュックを背負い直す。そして首を傾けて窓の外に目を向けた。


 朝早くに田舎から何度も電車を乗り継いで、色んな景色を見て来たが、この独特なビル群、ここが東京なのか。子供の頃からテレビで見てはいたが、こんな近くで見ると今までとは違った感想が浮かぶ。

 

 大きな柱に窓が隙間なく付いたビル、そして槍のように鋭くそびえ立つ真っ赤なタワー、こうやってまじまじと見ると妖怪に見えるな。それがいくつも群生しているのも、この東京でしか見られない風景なんだろうな。ただ思っていたよりも緑が少ないな。開発の為に全部()ってしまったのかも。

 

 ……違う違う。俺が東京に来たのは観光が目的じゃない。ここにある叔父の出版社でジャーナリストになるために上京してきたんだ。田舎のじいちゃんを一人にするのは少し心が苦しいけれど、それでも俺は叔父さんのような人になりたかった。

 

 今俺が所持しているのはリュックに入っているのはインスタントカメラが一つと財布と上下の下着二着とボイスレコーダーだけと、一見引っ越しをするように見えないが、叔父の話だと家財道具やその他生活必需品はもう既に借家の方に届いているそうだ。

 

 それはそうと、俺はどれくらい眠っていたのだろうか?確か叔父の話では新宿で待ってるって言ってたけど。窓から駅のホームを覗くと、どうやらここは新宿らしい。……ん?新宿だって?


「や、やっべぇー!!ままま、待って!まだ俺降りてぇ………!」


 俺は座席から飛ぶように立つと、ドアへと情けない言葉を発しながらに向かう。……が、そんな俺の言葉は心の無い機械には届かず、無情にもドアは出ようとした俺のすぐ目の前で閉まった。ドアの向こうでは、待ってくれていたのだろう、叔父さんが頭を掻きながら顔に苦笑いを浮かべて立っていた。


「………あぁ、やっちゃったぁ……」


 俺はドア近くの座席にへたりこみ、そっと呟いた。あぁもう、周りのお客さんが皆俺を変な目で見てるよぉ……めっちゃ恥ずかしい。……とりあえず次の駅で降りて叔父に連絡しておこうか。



「………寝過ごしちゃったってわけか。んぅ……翔……お前相変わらずだな」


 降りた駅の近くにあった公園の電話BOXに入り、叔父に電話を掛けてみるとすぐに繋がった。……どうやらあんな醜態を見ていても心配してくれていたようだ。


「ごめんよ、叔父さん」


「別にいいさ、葛城家の男は皆能天気な奴だからな。でも明日からちゃんと来いよ?お前はバカだから忘れるかもしれないけどな」


 馬鹿……か。その言葉を聞いて自然に笑い声が出た。だって叔父さん、俺の事をバカなんて言っているけど怒っている声じゃないから。……本当に優しい声だ。まぁ、単純に呆れられてるだけかもしれないけどね。


「わかってるって。叔父さんだって俺が田舎者丸出しで行かれると恥ずかしいでしょ。今日は東京を見て回るよ。一日でも早く夢の大都会、東京の生活に慣れなくちゃね」


 そう答えると、電話の向こうから叔父さんの高笑いが聞こえてきた。まったく、おじいちゃんと一緒でよく笑う人だよ。


「そうだなぁ。………いやー、本当に立派になったよ。何かあったらすぐ俺に話してくれよ。いつでもお前の味方になってやるからな」


「わかったよ、ありがとう。もう十円が無くなるから、それじゃあね」


 俺はそう返して受話器を置いた。まったく初日から遅れるなんて、俺は自分が思っているよりもマイペースなのかな。……まぁ、叔父がそれほど怒っていなくてよかった。そんな風に考えて立っていると突然知らない女性に話しかけられた。


「あのぉ……、すみません」


「ええと、電話使いますか?」


 俺がそう聞くと、女性は困ったような表情をして俺の足元を指差していた。恐る恐る視線を下げると、女性のペットらしい犬が片方の足を上げて、俺の右足のコンバットブーツに小便を掛けていた。

 あまりの出来事に、思わず俺は「キャアーー!」と女子のような甲高い悲鳴を出してしまった。


「すみません!うちの子がつい……」


「あ、あぁ。だ、大丈夫ですよ。このぐらいすぐに……」


 俺がそう答えようと再び女性に視線を戻すと、女性は逃げ去るようにして、すでにこの場から離れていた。

 ……あぁ、これが都会の洗礼か。俺は胸の内でそのように思いながらも、すぐさま近くのトイレへと駆け込んだ。洗面台の前でブーツを急いで脱ぎ、水道水で力強く揉むように洗って、付いてしまった小便の匂いを落とす。

 ……このコンバットブーツ、叔父さんに貰った大切な物なのに。そうして数分間洗い続けた後、ブーツを顔にちかづけて匂いを確認する。……よし、無いぞ。俺はブーツを再び履くと、続けて身だしなみの確認をする事にした。

 

 顔は……別に何もない。強いて言えば童顔過ぎるという事か。そのせいでよく年齢よりも年下に見られてたっけ。まぁいい、次は髪だ。髪も別に何も無いと言いたいが、俺の髪は一般の人とは違うのだ。俺の頭のてっぺんにはゲゲゲのなんとかよろしく、毛の束がピコんと直立しているのだ。これには俺の魅力の全てが詰まっていると言っても過言ではない。これがもし切られたりしたら、俺は俺で無くなってしまうだろう。……俺は何を考えているんだ?もうこれで良いだろう。


 トイレから出た後、少し疲れを感じた俺は公園のベンチに座って、バックの中からチェキを取り出した。

 このチェキも叔父さんから貰ったもので、小型でいつでも簡単に撮れる事から隠し撮りに使えるのではと買ってみたようだが、いかんせん音が大きすぎて隠し撮りに使えず、結局俺のお土産になったそうだ。 俺はそんな事を思い出しながら、レンズを覗いてみたり、試しに写真を撮ってみたりと色々(いじく)っていた。


 そうしていたら膝にサッカーボールが当たり、何かと頭を上げてみると二人の少年がこちら近寄って来ていた。二人の背丈は違うが、その顔立ちはなんとなく似ている。多分兄弟なのだろう。そして兄と思われる方は、弟を(たしな)めるように頭を叩くと、丁寧な言葉づかいで話しかけてきた。


「すみません。僕たちのボールを返してくれませんか?」


「うん、いいよ」


「ありがとうございます。コラッ!ちゃんとありがとうございますって言え」


 兄の横で無邪気な笑顔を振りまく弟を兄は叱ったが、弟の方は対して気にしていないようで、俺の手にあるチェキを見てこう聞いてきた。


「お兄さんカメラマンなの?僕達の写真撮ってくれる?」


「コ、コラ!」


 そう言った弟の頭を兄はまた叩いたが、弟の方はやはり気にしていない。更に怒った兄はまた叩こうと腕を振り上げる。驚いた俺は兄の腕を掴んで、出来るだけゆっくりとした声で話しかけた。


「喧嘩は駄目だよ!ほら、写真なら撮ってあげるから、もう怒らないでね」


「あぅ……ごめんなさい」


「本当!やったー!」


「ほら、二人とも並んで」


 公演の芝生カメラを背景に、二人にレンズを向ける。兄の笑顔は少しぎこちなかったが、弟の方は眩しいほどに微笑んでいた。シャッターを押すと小さな音が鳴り、続いて長い機械音と共に写真が出てきた。俺はその出来栄えがどんなものかと出てきた写真を確認する。しかし、出てきた写真は全てが酷く歪んでいて、また所々に光の球体が写っていた。


「撮れた撮れた!?」


「うぅん……。ちょっともう一回撮っていいかな」


 不気味に感じながらもう一度撮ってみたが写真はさっきと変わらず、それよりも更に写真は大きくゆがんでいた。さっき試しに撮ったときは壊れているわけではないはず。俺はまたシャッターボタンに指を当てた。


 その時だった。突如向こうの空が閃光に包まれた。光は町を呑み込み広がっていく。公園にいた人々が悲鳴を上げながら逃げ惑った。まるで現実とは思えないその光景に息が止まった。


「っ……なんなんだよっ!?なんなんだよあれはっ!?」


 一瞬の出来事に頭が真っ白になったが、ジャーナリストとしてその光景を撮っておくべきだと思い、必死な思いでチェキを構えた。だが思っていたより早くも光が来て、俺はその中へと飲みこまれてしまった。光の中で目を開けようとしたその直後、俺の身体が浮いた。


「なっ!?うわぁぁぁぁぁぁああああ!!」


 俺の身体が宙に舞う。必死にもがくが意識が少しずつ消えていく。薄れゆく意識の中、俺は何か強い物を感じた。何か禍々しい物を。………それは黒い巨大なプレートのような物だった。


「……あれは……なんだ……?」

 

 あれにはなにかある。俺は直感に従ってそれに必死に手を伸ばした。

 そして指先がそれに触れた途端、俺の意識が完全に途切れた。

感想よろしくお願いします。


ここで小ネタの紹介、翔の使っているインスタントカメラ、チェキは現在使われているチェキの初期型です。

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