第五話 いざ新天地へ
ちょっと時間がかかりましたね。生存確認だと思ってください
翌日の朝。俺達は村に戻り、物を配りながら別れの挨拶をしていた。村人は絡みの無い俺に対しては「頑張れよ」や「メイティアを頼む」等、一言言って終わったが、メイティアに対しては全員で囲んでその別れを惜しんでいた。特に小さな子供とお婆さん達は、彼女の体を抱いて涙を流していた。俺は彼等から距離を置いて、その会話を聞いていた。
「うぅ………うっ……お姉ちゃん居なくなっちゃうの?……嫌だよ、ずっとここにいてよ」
「メイティアちゃん。いくら大切な約束だからって、ここから出ていかなくてもいいのよ」
周りの目をはばかる事もなく、泣きつくように言う。対するメイティアはその様子に戸惑いながらも、小さな子供たちに視線を合わせるようにしゃがんで、しっかりとした口調で答えていた。
「私は最後の守護者としての、最後の役目を果たさなければいけない。……私の母の最後の願いを叶え、一族の汚名を晴らさなければ……」
そう答えると彼女は静かに空を見上げる。その瞳は鋭く、強い覚悟が見えた。……きっと彼女も本当は泣きたい筈だ。だが真面目な彼女の事だ。今泣いてしまうと、自分の意志が揺らぐのではと思って必死に堪えているのだろう。そう考えていると急に俺の背後に何かの気配を感じ、振り返って見るとそこには、
「すまない。驚かせるつもりは無かったんだ。待たせたか?」
「エンデ!そんな事無いぜ。まだお別れの挨拶をしている所だよ」
「良かった。……カケルはここで何をしているんだ?」
「俺?あれが終わるのを待っているんだ。流石に関わりの無い俺は邪魔だしな」
そう答え、再び視線をメイティアの方へと向ける。彼女は涙を隠すように腕を顔に当て、村人達に空いた片手で手を振っていた。そして振り終えると俺達の方へと歩み寄ってきた。
「……待たせたな。もう舟の用意は出来ている。さぁ行こう」
いつものように淡々と喋るメイティアだが、その声は弱々しかった。だがここでそれを指摘するのも野暮な話だ。俺は彼女の後に黙って付いていった。彼女の向かう先には五、六人が乗れる程の小型の舟があり、そのうえには昨日会った漁師二人がこちらをじっと見つめて待っていた。
「ボルガ、アトレ、別れは済ませてきた。すぐにアルナイルへと向かってくれ」
「……おうよ!大切な妹分の旅立ちだァ!張りきっていくぜアトレ!」
「あぁ!俺達が送り出してやるぞォ!」
舟に三人で乗り込むと舟は大きくぐらついたが、俺達の姿勢が崩れる程ではない。俺は海の向こうを一瞥すると、振り向いた。村人達はメイティアの名を大声で呼んでいたが、彼女は決して振り向かずに向こうの大陸を鋭い眼差しで睨んでいた。エンデはというとどっしりと座って彼女と同じようにアルナイルの方を見ている。
「……私はもう振り返らない。……それでいい。もう私の居場所はあそこに無いんだ。私の思い出の全ても」
彼女は前を向いたまま、悲しげな声で呟いた。俺はその言葉を聞くと、何も言わずに再び前を向く。……もう後戻りは出来ないのだ。俺達はこれからの旅に大きな不安と期待を抱きながら、新たな世界へと進んでいった。
一方その頃、こことは遠く地、深い闇に包まれた神殿の中、黒装束を身に纏った二人の男女が話し合っていた。
「神官様、カルボからの報告です。龍の契約者が『器』と接触しました。現在は海を渡り、港町アルナイルへと向かっているようですが、いかがなさいましょうか?」
「ふむ……。まさか記憶を失った器と接触するとは……。だが我らの計画が狂うことはない。そのまま監視をしておきなさい」
「はい。……神官様。このまま龍の契約者と共鳴しあう事になれば、彼は私達が望む以上にその力を大きくさせるかもしれません。どうか私に器の奪還を命じて頂けないでしょうか?」
「おや、さっき私の言った事が聞こえなかったのですか?貴女には監視をしろと命じたはずです。元はといえば貴女の失態のせいで彼を逃がしてしまったのですから。本来ならば貴女の魂は我らの皇の元へ送られるはずだったのですよ?……まぁ良いでしょう。しかし貴女が器を取り戻す事に失敗した場合は、貴女の命はありませんよ」
「……はい。このヴェリーミア、皇の復活の為に命を捧げる覚悟はとうに出来ております。必ずや器を取り戻してみせましょう。……それでは失礼します」
ヴェリーミアは男に一礼すると、その場から逃げるように離れた。一人その場に残った男は薄く微笑みを浮かべて呟いた。
「彼女には彼らの糧になってもらいましょう。……皇の復活に必要な、龍の契約者の魂と肉体の器の成長にね。……ククク」
男はその姿を黒い霧に変え、散るようにしてその場から姿を消した。
次回からはいよいよ新大陸へと上陸します!新しい仲間も現れる予定です!




