闘いの儀
二人の主人公の先に在るものとは……
「エンデェェェッ!!」
「カケルゥゥゥッ!!」
雨が降り注ぐ夜の闇の中、世界を臨む塔の上にて、二人の男は互いの名を呼びながら、激しい火花を散らして剣を交える。その姿を見守るのは長年共にした仲間と、曇の隙間から覗く蒼い満月。しかし、今の二人の瞳に映るのは互いの姿だけ。
長時間に及ぶ戦いにより彼らの体は互いの剣によって切り刻まれ、傷口からは絶えず血が流れていた。第三者からはもう限界寸前のように見えただろう。だが二人にとってはまだ始まったばかり、いや一瞬にも近い感覚だった。そして今、その闘いにピリオドが打たれようとしていた。
「エンデェェェェッ!お前に俺は殺せないッ!勝つのはこの俺だァァァッ!」
黒い髪の青年は血走った目で睨み付け、金髪の青年に叫び、胸を貫かんと剣先を突き出した。対するエンデは、カケルの剣を右腕の脇で挟み込み、左手に持っていた刀を彼の首元に強く押し当てる。
「そんな訳があるかッ!俺は………例え誰であろうとッ!俺の邪魔をする奴は斬るッ!例えそれが……お前だろうとなァッ!」
そう言い放つとエンデは刀に力を込め、引くようにしてカケルの首元を切り裂いた。血飛沫があがり、濡れた地面を深紅く塗り替える。カケルは大きく後退りし、首元を押さえながら再びエンデの方へと剣を構え直した。
「へへっ……。やっぱり一筋縄じゃ、お前を倒せないよな。やっぱりすげぇよ、エンデ」
カケルはさっきまでの鬼気迫った表情を崩すと、穏やかな声でエンデに話しかけた。この二人はこの闘いに至るまで互いを好敵手のように想いながら競い合う一方で、大切な友としていた仲だった。エンデは自らの刀に付いた血を見つめると、カケルに問うように嗚咽交じりの声で話しだした。
「なぁ………。なんで俺達は戦わなくちゃいけないんだよ。俺はお前を……殺したくない……」
エンデの頬に涙の粒が流れはじめる。やがて彼の顔は雨と涙でぐしゃぐしゃになっていった。カケルは首元を押さえながら、それに対して掠れた声で答える。
「……仕方、ないだろ。そういう運命だからよ。俺だってお前と同じだけどさ」
守りたいと思うものも、変えたいと思ったものも同じだったはずだったのに、何故こんな結末を迎えてしまうのだろうか。二人の頭の中ではその疑問が駆け巡っていた。でも、何度考えても、行き着く答えは悲しいものでしかない。
「でもよ……。どうせどっちかが死ぬっていうなら、男らしく潔く散ろうぜ!」
カケルは血ヘドを吐き捨てると、最期の力を振り絞って炎の魔法で剣身を包み、エンデに向かって剣を振り下ろす。対するエンデは涙を袖で拭いさり、身体に触れる雨粒を氷の弓矢へと変えて、カケルの方へと射た。
「ッ!!氷華の拒絶!」
「イグニィートォォォォ!!ディスオベェェイッ!!」
運命を憎むのは二人も同じ。だが片や魂を焦がす程の怒りの焔、片や全てを拒絶する悲しみの凍花。正反対の二人の力と思いが、叫びが閃光となって夜の闇を貫く。……しかし光が消えた後には勝者は立っておらず、ただ闇に静寂が舞い戻るばかりであった………。
これは本当に、二人の物語の果てに見える景色なのだろうか?
龍の契約者の物語は、一体どのような結末を迎えるのでしょうか?