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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

兄と二人の妹

作者: 櫻塚森

続きのようで続きじゃないかも…。いや、でも続きです。

小さい頃から、俺は、自分の家に違和感を感じていた。

父母、妹二人と言う家庭環境で、俺にとっては二人とも可愛い妹のはずだった。

けれど両親は、上の妹ばかりに金と暇をかけ、下の妹のことは忘れてしまったかのように扱っていた。

家族旅行に連れていくことを忘れてしまったこともあった。

俺には親戚の家に挨拶をしてから合流とか言う意味不明の命令を出して、下の妹を家に置いてきたり、一人で留守番をしていたりする。

一度俺が帰りが遅くなった時のことだ。その日家族は昼から出掛け夕飯を外食にするとの事で、俺に上の妹からメールが届いた。

おいおい、平日だぞ?学校はどーした…と休み時間を過ごす俺は思った。その日の俺は以前から友達の家でまったりしてて、そこのお袋さんが、夕飯を誘ってくれていたので甘えることにしていたんだ。外食に行くのなら勿論俺を除いた四人で行くのだとばかり思ってたのに真っ暗な家には一人で留守番をしていた下の妹がいた。

幼稚園から帰ってきてから誰もいないっぽかった。

夕飯はと聞くとお腹を押さえて押し黙る妹。俺は途方にくれた。俺だってその当時は小学生だ。

親に電話しようとも繋がらず、母方の叔母に連絡をした。

小説家としてソコソコ売れている叔母は直ぐに来てくれた。

どちらかと言えば苛烈な性格の叔母は電話を切っているだろう姉に怒りながらメールをし、妹を自分のマンションにつれていった。俺は宿題があったから留守番をかって出た。

その後帰ってきた両親と妹は、月凪のことなんか聞く耳を持たなかった。出先で上の妹の具合がおかしくなったからだ。

脂汗を掻く姿…目はギラギラとして玄関で這いながら叫んだ。

「あ、あいつを呼んで!!」

あいつ?

「ゆ、許さないっ!!許さないんだから!!」

そう言いながら倒れた。

妹は救急車で運ばれたが、一日の入院で帰ってきた。

「おかえり。大丈夫なのか?」

「うん、心配かけてゴメンね、お兄ちゃん。あの子は?」

「あぁ、叔母さんの締切の邪魔になりそうてんで戻ってるよ。」

「そっ、良かった。」

「ん?」

「なんでもないよ、叔母さんに私も会いたかったなぁって、思っただけ。」何かの違和感を覚えながら家は元の通りに戻った気がした。つまり、下の妹だけ年始の本家への挨拶に参加させてもらった事がなかったり、一人で留守番をしたり。

何回もそんなことが続くと慣れてしまう恐ろしさに俺は気付けずにいた。もしかして、血が繋がってないのかと勘違いしてしまうこともあったが、その都度叔母が間に入って家族であることを言葉にしてくれた。

何度目かの留守番事件の後俺は理由を尋ねた。

けれど両親は差別などしていないと言い、母親に限っては泣いてしまうほど俺の言葉に敏感に反応した。

その時の違和感に眉を潜めた。

上の妹に尋ねれば、彼女はゾッとするような微笑みで、

「そう言う設定なの。私が幸せになるためには、あの子の犠牲が必要なのよ?お兄ちゃん。前世でもそう。あの子の犠牲があったから私ってば幸せだったんだけど、今一最期が思い出さないの。だから、今回こそあの子にとってのバッドエンドが、私にとってのハッピーエンドに繋がるよう、あの子には孤独になってもらわないといけないの。今度こそ邪魔しないでね。」

と言った。

妹の発言の電波さに唖然とした。すると、彼女は声を出して笑い出し言った。

「やだなぁ、お兄ちゃん…。私ってば、普通の女の子だよ?冗談に決まってるじゃん。あの子はね、人よりぼっーっとして、とろくさいだけ。お兄ちゃん、あの子のことばかり気にしてないで、私のことも気にしてね♪」

何も悪いことはしてないのだと。

俺は触れられた腕から這い上がってくる嫌悪感をどうにか誤魔化すとこしか出来なかった。


俺が中学に上がる頃、上の妹、愛流(あいる)は小学校高学年で学区内でも有名な美少女として小学生モデルをしていた。

家は決して裕福と言う訳ではないが、生活には困っていない。

俺と愛流を私立の学校に通わせる事ができるんだから、そんな感じだ。

愛流は、早くから芸能事務所に入っていて、母親は愛流が望むまま小学生だと言うのに週一の美容院、ダンス教室何かに通わせていた。

しかし、下の妹、月凪は何故か公立の小学校に入学した。

上の二人が通った小学校は、カリキュラムと楽しく月凪に足りない社交性も身に付きそうだが、親は月凪を私立に通わせるほどの金がないと言った。まじで?

月凪の入学式の時も両親は、愛流の何かのイベントに出席するとかで、叔母が付き添うことになった。

叔母は、実の姉である母の態度に怒っていたようだった。

それは、月凪の入学式の準備から丸投げだったからだと思う。

まだ、幼いのに叔母を気遣い謝ってばかりの月凪。

「私が怒っているなのは、月ちゃんにじゃないよ。」

叔母の優しさをちょこっと両親に分けてほしいわ。

制服の丈直しからランドセルの購入まで叔母が行った。

ランドセルの購入は、叔母から月凪への入学祝。制服やその他雑費用は、遠方に住んで来る事のできない父方の祖父母からの祝金で賄った。

俺は月凪に似合いそうな淡い黄色のリボンをプレゼントした。

はにかみながら『いいの?』と聞いてくる月凪の頭を撫で繰りまわした。

愛流の時も小遣いからあいつの望むペンダントをプレゼントした。小学生の俺には手が届かないものだったから、親にも助けてもらった。

数日後に愛流がそのリボンをしているの事には怒りと呆れが俺を襲った。問い詰めた俺に愛流は、月凪が自分にくれたのだといい、月凪も認めたが嘘なのは明白。思わずカッとなった俺を止めたのは無言で涙ぐむ月凪だった。

騒動の後、俺は両親と話し合った。その席には叔母も居て、月凪が余りにも不敏だと言った。

母は、泣いていたし、父は俺の言葉が信じられないようだった。両親は、自分達が月凪を嫌っているのではなく、月凪が自分達よりも叔母を選んだのだと反論した。

たかだか、小学一年生の彼女に何の選択が出来るのか。叔母は怒っていた。愛流の月凪に対する態度も酷いと俺らは訴えたが両親は愛流ほど優しく、素直で妹思いの姉は居ないとほざいた。

駄目だと思った。

この両親は、何も見えていない。

この両親の元に居ては月凪が駄目になる。

俺と叔母は同じ考えだった。

長い話合いの中で月凪は叔母が育てることになった。戸惑いを見せていた月凪と怒りに頬と耳を染める愛流の姿がそこにあった。


叔母は小説家だ。

締切に追われる中でも編集の人とかが月凪の面倒も見てくれたりご飯を作ってくれたり、生活を楽しんでいた。

月凪は、叔母から初めて渡されたスマホを扱いながら、遠慮がちにLINEを送ってくる。

入学してすぐ何人かの友達が出来たこと。

学校のテストで良い点をとったこと。

叔母である美智子の助けがしたいと家事を小さいながら頑張っていること。

微笑ましい内容ばかりだ。

俺は両親に月凪の近況を伝えた。

両親によると月凪は私学の模擬受験での成績が悪く、模擬面接では何も喋らない代わりにカエルの物真似や奇声を上げるなど手がつけられなかったと言う。

「愛流の言う通り、あの子はワタシには無理だったんだわ。美智子の所では言うことも聞いてるのでしょ?」

母の声は自分に失望しているかのようだった。

「月凪、いい子だよ。周りの空気を読みすぎて自分が空気になってしまうような。母さんも父さんも…月凪とちゃんと話したことあるの?愛流を通してじゃなく…月凪はまだ小学一年生なんだよ?月凪がワガママ言ったの聞いたことある?」

俺の言葉に母が顔を上げる。

「あの子は、いいえ…そうね、全部愛流から聞いた月凪の言葉だわ。」

言葉には力はなく、父が肩を引き寄せていた。

「考えてみたら、いつもあの子は何かを言おうとしていた気がするよ。愛流の言葉を鵜呑みにして月凪の聞こうともしなかった。…しかし、愛流はどうして?」

「愛流は、見た目も可愛いし、ある意味素直だよ。けど、それは、自分の欲にだけだ。自分の我を通すためなら、何でもする性格だと俺は思う。」

両親は、叔母の元で生まれ変わった月凪を見て自分達の間違いに気付いた。そして、愛流の性質に背筋を凍らせた。

俺の家族はバラバラになったけと、両親が気付いたことで、まだやり直せるんじゃないかと期待した。



おわり

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