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舌先だけのキス

作者: 羽塚睦希

しばらく小説を書いていなかったのでリハビリ代わりに。

当然ですがこの物語はフィクションです。

あと、これはホラーなのでしょうか。恋愛なのでしょうか。


 それでは恋の話(恋バナ)を始めよう。


 ……え? 怖い話じゃないのかって?


 ううん、正確には、怖い話でもある恋の話なんだ。

 アタシとしては怖く語る自信が無いんだが、そこは想像力で補ってくれ。

 話の流れは、まあ変わらないからさ。






 あれは林間学校での話だ。

 何年生の時だったか……担任が石川先生だから、小五あたりだと思う。


 ん? ああ、これはアタシの実体験だ。

 主要人物が死ぬとか、聞いたら呪われるとかは無いから安心してくれ。

 余談はいいから続けろって? うっせー、分かってるよ。


 ええと、林間学校は一泊二日だったかな。一日目に山登りがてら合宿所に行って、夜にキャンプファイヤーと肝試し。一晩泊まって次の日に川遊びや飯盒炊爨(はんごうすいさん)をして帰るんだ。


 ……ああうん、肝試し。あれは今思い出してもちょっとキツいかな。




 うちの小学校は一学年で一クラス、だいたい25人くらいだったかな。

 その時担任は残酷にも、二人組を作れとか言い出しやがった。


 も、もちろん友達は居たぜ? ……女子に二人。

 そうだ。一人余るんだよ。

 仕方がないから、アタシは新しくペアを探したわけだ。当然、一人でいそうなやつをな。

 わ、笑うなっ。続けるぞ!


 で、幸いにも――と言ったらそいつに悪いんだが、ちょうどあぶれているような奴が居たんで誘ったんだ。

 大人しそうな女子でな。はぐれても困るし、肝試しのルール通り、手を繋いで出発したんだ。



 ――それで話は変わるんだが。ゴールデン・レトリバーを散歩したことはあるか?



 いや、そんな怪訝な顔するなって。

 脈絡がないのは分かるから。


 まあ端的に言うと、引っ張られた。

 それはもう、散歩を待ちわびた犬のようだった。

 開幕ダッシュ。墓場の墓石は乗り越え、コンニャクののれんには構わず突っ込み、制止する校長先生を気にせず車道に飛び出す。

 最後の方はアタシ、浮いていた気がするよ。幽体離脱じゃなく慣性的な意味で。いや、実際魂出かかっていたかも。


 なに? 「怖い」の意味が違うって?

 分かってる分かってる。本題はここからだ。



 お化けとは別の意味で肝を冷やしたアタシは、まあグロッキーになっていたな。

 とはいえ元々体は頑丈だったし、少し休んだら回復したよ。一応大事をとって、夜のレクリエーション中は部屋で寝かせてもらったけどな。


 で、だ。


 アタシが目を閉じてベッドで横になっていると、扉の開く音が聞こえたんだ。

 そのあと、囁くように「寝ているな」って声も聞こえてくる。

 たぶん石川先生だろうな、とは思ったけど、小声だったから確信は無かったな。

 正直、起きているのを見つかってレクリエーションに途中参加っていうのも面倒だったから寝たふりをしていたんだよ。


 そしたら。

 なんというか。


 ……キス、された。



 ああああ!

 にやにやするな! 頬を染めるな! 井戸端会議のノリで話し合うな!!

 お前らこういう時だけは仲良いよな! 糞が!


 ……はぁっ、はぁっ。

 は、話を戻すぞ。



 キスは、なんていうか、舌先だけ入るキスだったよ。本当に入れてるだけの……だからツッコまないって言ってるだろ。話すの止めるぞ?

 ……ったく。


 まあアタシもファーストキスだったけどさ、唇に触れるだけ(ライトキス)でもなく舐め回す(ディープキス)でもなく、オトナなのかコドモなのかよくわからんキスだったよ。


 ん、何だよ二人とも。本当に止め……違う? もっと危機感を持て?

 とは言ってもなあ。その時は本当にキスしていただけだったし。


 まあ続けるぜ。

 キスしている間もアタシの意識は鮮明だった。けど、時間の流れだけは酷くゆっくりに感じられたな。

 一秒か、それとも長い時間が経ったのか――アタシには分からない。

 ただ、終わりは呆気ないくらい唐突に訪れた。アタシの中に入っていた舌はあっさりと引っ込んで、覆い被さる影も離れていった。

 アタシは寝ぼけているフリをして――ごめん嘘ついた、その時ちょっとくらくらしてた――気配がするほうを向いたんだ。


 そうしたら、あの人は「もうすぐ転校する」って言ったんだ。


 顔はよく見えなかったけど、手元できらきら石を弄んでいるのが見えたから、アタシはそれを片づけようとしたんだ。

 でも石は何故かうまく掴めなかったから、集められた分だけ返したんだ。

 あの人が泣いていた。アタシも悲しかった。


 次の転校先は天国だと、何となく気付いてしまったから。



 残りの石は、次に会ったときに返します、って言ったんだけど。

 どうやって届けたら良いんだろうね。待っていれば良いのかな。






 ――そこまで話して、アタシは「おしまい」と幕を引く。


 途端に、「これで終わり?」「先生はどうなったの!?」という抗議が飛んできた。



「先生は……何もなかったよ」


「何もなかった、って。死ななかったってこと?」


「死ななかったし、転勤も無かったし、翌日から卒業するまでずっと今まで通りの優しい先生だったぜ」


 すると友人たちは腑に落ちないと言いたそうに顔を見合わせる。



「実は夢落ちとか」


 至極真面目な表情で尋ねられ、アタシはううんと考え込む。


「正直、その可能性も否定できないんだよな。言ったとおり、肝試しでグロッキーだったし」


 世間一般でいうところの「肝試しでグロッキー」とは違うけどね、と軽口が返ってくる。

 ほらやっぱり。アタシに怖い話は向いてない。


「ということで。アタシ的には怖い話というよりは恋の話(恋バナ)だと思うわけなんだが」


「いや、恋バナとしてもちょっと微妙かな」


 ううん、手厳しい。


「じゃあ、余談なんだが、肝試しで一緒になった女子のことを誰も憶えていないってのも付け足そう」



 軽い気持ちでそう言うと、にこやかだった二人の表情が強ばる。


「……それ、本当?」


「ああ。あと、道路に飛び出したとき無灯火運転のバイクにはねられそうになったし、いつの間にか全てのチェックポイントを回っていたっていうのも付け足そう。もちろん、その時のアタシは膝が大爆笑していてマトモに歩けなかったがな?」


 けらけらとそう告げれば、二人の顔はみるみるうちに青ざめていく。

 少し喋りすぎただろうかと後悔の念がよぎり、嘘でも「冗談だよ」と言うべきか迷ったが――



「大丈夫。確かにこれはアタシの実体験だが、主要人物が死ぬとか、聞いたら呪われるとかは無いから安心してくれ」


「そこは嘘でも良いから作り話だと言ってよ!!」

途中から地の文が「石川先生」でなくなっているのは仕様です。

もしかすると、舌を入れてきたのは石川先生ではない「ナニカ」かもしれません。

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