プロローグ
青々と澄み切った雲ひとつない空。
窓を開ると、朝の清々しい空気が部屋いっぱいに広がる。
大きく息を吸い込むと、眠気が一気に吹き飛んだ。
「よし!」
私は自分に喝を入れるように、大きくそれだけ言うと、
朝食を食べるために、リビングへと向かった。
………
スカーフを結び終え、その場でくるりと回ると、制服のスカートがふわりと膨らむ。私は鏡に映る自分に向かって満足げに微笑んだ。
誤解はしないでほしい。
私には、''自分の姿を見て楽しむ趣味'' は無い。
ただ、この制服を着るのも最後だと思うと、
思うところがあったのだ。
時計を見ると既に9時を回っていた。
いつもなら、とっくに学校で勉強している時間だ。
しかし今日は、私が通う中学校の卒業式があるため、卒業生のみ、遅れての登校になる。
そう、私は今日中学校を卒業する。
そして、 私はそれと他にもうひとつ、卒業しなければならないものがある。
もうずっと 長い間 悩んで、ズルズルと今日まで来てしまった。
でも、それも今日で終わりだ。
今日こそ''彼”に伝えるんだ。
私は玄関で靴を履くと、
「行って来まーす。」
そう言って学校へと向かった。
………
風に吹かれ、髪が揺れる。
校庭の桜の木の蕾も段々と膨らみを増し、静かに春の訪れを告げているようだ
今は、式も最後のホームルームも終わり、それぞれが思い思いに話をしている時間だ。
周りは、恩師に感謝を伝える人や、友達との別れを惜しむ人で、溢れ返っていた。
少し離れたところでは、''彼''が友達と何やら話をしているのが見える。
中学校を卒業すれば、''彼''は県外の高校に行き、そのまま下宿生活を始めてしまう。もう、本当に離れ離れだ。
''告白しよう''
最初にそう決心したのは、いつだったろうか。
もう随分前のことのように思える。
結局、いつもいつも告白出来ずに、今日までこの想いを引きずっている。
そんな自分の不甲斐なさに、私は情けなくなった。
………
今思えば、私 藤田 凛の初恋は3才の時。
一目惚れである。
相手は幼馴染である ''彼''。
名前は、相川 哉太。
私が彼と初めて出会ったのは、今から12年前。
運命的なことは何も無い。
けれど、私の瞳が彼を映した瞬間、
私は恋に落ちた。
あの感覚、
今でもはっきりと覚えている。
哉太はその日から、私にとって特別な男の子になったんだ。
………
私が回想を終えると、哉太はいつの間にか友達と話を終えたのか、ひとりになっていた。
チャンスは、今しかない!
これがきっと最後のチャンスだ。
私はそう自分を奮い立たせると、意を決して哉太の元へと歩みを進めたのだった。