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雪の向こうに 8(終)
「何が彼を駆り立てたのだろうな」
私は山を越えてから遂に口を開いた。
火を消した身体ではあまり自由が効かない、その上つい先程まで動けたのでバランスを崩しては時折ふらついて仁美に支えられる。
「あまり気にし過ぎないことです。きっと私達が彼処に行かなくとも結果は変わらなかったでしょう」
仁美は行李を抱え私を支え、瞼を閉じていながらも真っ直ぐに背筋を伸ばして歩いている。
クールだ。
「だがね、私はあの人達に世話になり私には力がある。それで」
「それで何が出来たのですか? とうの昔に凍死した娘に焦がれる男にあなたは何をしてやろうとしたのですか?」
「それは…………」
私が口を開こうとしたのを仁美は人差し指でついっと制した。
「あなたには分からないのかも知れません。でも、私にはあれはあれで幸せなものだと思いますよ。母を残すのは辛いでしょう、若い美空に散るのは哀れでしょう。……でも」
仁美は顔を近づけてフッと微笑んだ。
「想い人と添い遂げることは幸せですよ」
「そういうものか」
「そういうものです」
取りあえずこれで一段落。
まだ続く…………筈。