第七話 雪ニ沈ム
翌朝、目が覚めてすぐに異変に気がついた。
昨日と何一つ変った事の無い様に見える家の中。けれどそこに少年の姿はなかった。
「イザミさん!起きて下さい!」
一度だけぐるりと当りを見渡して、その姿を探した後、すぐに桜男は眠るイザミの体を揺する。
が、そんな簡単な事で起きたりすれば、苦労はしない。
「起きろって言ってるでしょうが!」
「―っ、いっ!?」
少しだけ苛ついて、つい桜男は眠るイザミを蹴り倒す。
当然それには目が覚めたようで、飛び起きて目を白黒させた。
「おはよう御座います、よくお眠りでしたので、つい蹴ってしまいました」
にっこりと笑ったその顔は怒りのオーラを纏っている。
それに理不尽だと思いながらも何かあったのだと、悟った。
「なんだよ、朝早くからっ!大体起こすにしてももう少しやりかたがだなぁ!」
「五月蝿いですよ!あの子供がいなくなったんです!」
ぶつぶつと文句を言うイザミも、桜男のその言葉で一瞬言葉を失う。
唯一の手掛かりである少年に失踪されては、打つ手が無くなってしまうからだ。
「そんで、行き先は!?」
「分かれば苦労しません、とりあえず外を探しますよ!」
二人揃って怒鳴り声ともつかない声で会話をしながら、家の外に出る。
相変わらずの雪景色が広がっていて、すぐにでも家の中に戻りたくなったが、どうにか堪えた。
「あのガキ…どこ行きやがったんだよ」
寒いせいなのか、心底嫌そうにイザミが舌打ちをする。
「馬鹿ですか貴方、雪が積もってるんだから足跡を辿れば良いでしょう」
「は!?お前、馬鹿ってな――!」
さらっと言いのけた桜男は、反論しようとしたイザミを気にも留めず、地面に残る足跡を辿って歩き始めた。
雪の上をザクザクと音を立てながら歩いていくと、暫くして少年の姿を見つける事が出来た。
「いましたね…」
「たっく、あいつ何やってんだよ…おい!!」
少年に向かってイザミが大きな声を張り上げた瞬間、その足元がぐらついた。
「――!?」
反射的に桜男はその場から離れるが、イザミは足を取られてしまってそのまま雪の中に埋もれていく。
「あ…イザミさん」
「ちょ、お前!桜男ぉおおおおお!!」
気がついたように声を上げた桜男は、手を差し伸べる事もせず、ただぼけっとその様子を見ていた。
そうしている間にも、イザミの姿は雪の中へと消えて行ってしまう。
暫くして、ぼーっとしたまま桜男が口にした言葉は、何とも気の抜けたものだった。
「……埋まりましたね」




