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とらぐな  作者: 森村芥
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第伍話 町ノ記憶

北に位置するこの町は、冬には吹雪に見回れる事も多い場所だった。

が、その雪も春になれば溶け、夏には涼しい風が吹く。


「今まで、一度だってこんな事はなかった…」

「…何か、切っ掛けになったような事はないのですか?」


少年の言葉に桜男は静かに問いかけを返す。


「ない…と、思う。今までと何も変ってない」


少しだけ自信のない声で返された返事だったが、少年が何かを隠している様には見えなかった。

だからそれ以上はその事について、聞くのを止める。


「では、他の人々はどこに?」

「…雪の中だ。もう皆、雪の中に埋もれちまった」


悔しげに顔を歪めた少年は、俯いて呟く。

冷たい雪の中に埋まったという言葉が本当ならば、もう彼等は死んでしまっているのだろう。


「今もまだ雪の中に?」


その疑問に、少しだけ迷ったように少年が頷いた。


「雪が…溶けないんだ。掻き分けても掻き分けても…下まで辿りつかない」

「…なるほど」


それでは益々望み薄だろうと、桜男は心の中で思う。

もちろん口にはしないけれど…


「他に何かないのかよ?こうなる前に何か変った事」

「あったら言ってるだろ!!」


横槍を入れたイザミに喧嘩腰の声が返される。

その言いように腹を立てたイザミが食ってかかりかけるが、それを桜男が無言で制止した。


「どんな些細な事でも構わないのです…心当たりは、ありませんか?」


暫く返事がなく、静かな沈黙が訪れる。


「…ない」


やっと少年の口から返されたのは、そんな返事だった。


「そうですか…心当たりが無いのでしたら、致し方ありませんね」

「おいおい、あっさり諦めすぎだろ」


すんなりと諦めた桜男に、イザミは慌てて口を挟む。

が、桜男はそのまま引き下がってしまうようで、口を閉じてしまった。


「どうしようも…ないのか?」

「どうしようも、ありませんね」


少年の沈んだ声に、迷う事なくその返事を返す。

少年の体が微かに震えているように見えた。


「…ですが、府に落ちない事もあるのです」

「へっ?」


独り言のように呟いた桜男の視線は窓の外に向けられている。

その横顔はもっとずっと遠くを見ているように見えた。


「ですから宜しければ、今少し…ここに留まらせて頂きたいのですが」


その言葉とともに不意に向けられた微かな笑み。

それに少年は一拍おいた後、何故か頷いてしまっていた。




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