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とらぐな  作者: 森村芥
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第参話 怪シイ笑ミ

質素な家の中とは言え、一面銀世界の外と比べれば、その暖かさは身にしみて感じる。

そんな部屋に向かい合って座る影が三つ。


「はじめまして、私達は当てもなく旅をしているものでして…」

「俺の名前はイザミ、んで、こいつは桜男さくらおとこでいい」


何はともあれ自己紹介からだろうと、小さく頭を下げたのは桜男と呼ばれた男の方だった。

それに続いてイザミが名を告げる。


「私にとっては不名誉極まりなく、あまり認めたくない通称名ですが…仕方がないのでそう呼んで下さってかまいません」


物凄く嫌そうに悪態を吐いた後に、自分の呼び名について仕方なく溜め息をこぼす桜男。

それに一拍置いてから返事を返してきたのは子供だった。


「…それで、何の用だ」


警戒しているのか、お世辞にも好意的とは言えない声で問い掛ける。

歳は十かそこいらであろう子供は、髪の短い気の強そうな男児であった。


「この真夏、汗をかくのが嫌で北へと避暑にと思ったのですが…いざ来てみればこの様子、涼しいを通り越して寒くなってしまいまして…」


ちょっとした失敗でもしたかのように、何でもない様子で口にする桜男。


「このままでは凍えてしまうと思い、泊めて頂ける宿を求めていたのです」


さらりと、にこやかな笑顔を少年へと向けるが、どこをどう見ても怪しい二人組みにしか見えない。


「断る」


返事は当然のようにその一言だった。


「……貴方は、この家に一人でお住みに?」


一拍置いて、桜男が斬り返した言葉はそんなもの。


「お前らに関係ない…帰れ」

「…おかしな話ですねぇ…そこにも、そこにも…他の人間の痕跡がある」


そう言って桜男が指差す方向には、少年が着れないであろう大きさの着物や、洗いかけの夫婦茶碗がある。


「ご家族は…一体どうされました?」


薄い笑みを浮べたままの静かな問いかけに、少年は言葉を失った。


「どうも…してない」

「じゃあ何でいないんだよ」


やっとの事で絞り出せた返事を、間髪入れず畳み掛けたのはイザミ。

それに少年はまた押し黙った。


「…一つだけ、お聞きしたい事があります」


静かな声。それはどこか確信めいた響きを持っている。

問いかけに対する言葉が分かっているかのように…


「貴方は…とらぐなと云うものを、ご存知ですか?」


その問いかけは、やはり薄い笑みをうかべたままのものだった。




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