第弐話 凍エタ町
「これは…酷いですねぇ」
真っ白な雪に覆われた町に辿り着いて、男が発した第一声がそれであった。
言葉とは裏腹にその声はのんびりとしたもので、かみ合っていない。
「心の底からそんな事、思ってないだろうお前…」
「貴方の中でどれだけ私は悪い人なんですか」
怪訝そうに言ったイザミに、男は間髪入れず返事を返す。
どんな状況でも二人のこの掛け合いが変る事はない。
「まぁいいです、それよりも早く人を探さないといけませんね」
ぐるりと辺りを見回してみるが、しんと静まり返っている。
まるで町自体が凍えてしまっているかのようだった。
「とりあえず片っ端から扉を開いていってみるか?」
「夜盗ですか貴方は…」
物騒な事を口にするイザミに、男は呆れた声を漏らす。
が、しかし…少し考えてから、どの道方法はそれしかないのだろうと思い直した。
「仕方ないですね……ですが、罷り間違っても人を襲ってはいけませんよ」
「お前の目に俺はどういう風に写ってるんだよ!?」
至極真面目に男が言えば、イザミは反射的に怒った顔を向ける。
「そんな事を気にしている暇があったら、さっさと探して下さいよ」
自分で言っておきながら、やはりというか男はイザミを急かす。
それに悪態をつきながらもイザミは、仕方なく手短にあった家から尋ねていくのだった。
「誰かいないのかー?」
あまり丁寧とは言いがたい扉の叩き方と、口調で家を訪ねる。
が、どうしたものか返事は返ってこない。
「留守みたいだぞ」
「何を言ってるんですか、返事なんて待たずに扉を開いてしまって下さい」
さっきとは打って変わって物騒な事を口にしたのは男の方。
それに「やっぱりか」なんて思いながらイザミは扉に手をかけた。
「邪魔するぞー」
一応念の為にそう口にしながら家の中へと足を踏み入れた…瞬間。
「やぁあああ!!」
奇声の様な声と共に、鍋を持った子供が襲いかかってきた。
一瞬固まるが、すぐに我に返って、それを事も無げに避ける。当然避けられた子供は、そのまま地面へと顔から直撃した。
「…っ、う」
顔を痛そうに歪めながら、子供は首を上げる。
それを見下ろしていた男が、どうしようか少し悩んだ後に、子供の側で腰を屈めた。
「…大丈夫ですか?」
「悩んだ挙げ句の一言がそれかよ!」
とりあえずと言った感じで問い掛けた男に、突っ込みを入れたのはイザミ。
子供はといえば、どうしていいのか分からず目を丸くしている。
「五月蝿いですねぇ…いちいち」
嫌そうな顔を浮べながら耳を塞ぐ男に、殺意を覚えながらもイザミは耐えた。
そんな二人の言い合いを暫く見ていた子供が、やっとの事で口にしたのは一言だけ…
「……な、なんなんだ、お前ら」




