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とらぐな  作者: 森村芥
12/15

第壱拾弐話 異ナル答エ

来た道を引き返すというのは何とも気の乗らないものである。

そうは思いながらも、桜男は足早に雪の元へと戻り、小屋の中へと再び足を踏み入れた。


「あー寒かったですねぇ」

「智の知り合いのお兄さん?」


呑気な声でそう口にすれば、当然のように雪が音に反応して顔をあげる。


「先程は話の途中にすみませんでした…もう一度お話させて頂いてもいいですか?」


すぐ側まで近寄ってから、柔らかい声で問い掛けた桜男に、雪は小さな笑みを返す。


「私も、聞きたい事があるの」

「何でしょう?」


桜男の軽い返事に、雪は悲しそうに顔をふせた。

その後、少し躊躇いながらも辺りを伺う素振りを見せる。


「智…一緒にいる?」

「…いいえ、今はいませんよ」


本当は桜男のすぐ側に智もいるのだが、そう嘘をつく。

雪の偽りない答えを聞く為に、智はいないほうがいいと思ったからだ。


「あのね、智…私に何か隠してるの、そうじゃなかったら私は今ここにいないもの」

「どういう意味ですか?」


今ここにはいない、その言葉の意味を問うと、一拍置いて返事が返ってきた。


「去年の秋、町の皆が不作だって口を揃えて言ってたの…でもそのまま冬になって、皆で色々考えてみたんだけど、どうしても食料が足りないって…だから、役立たずは殺してしまえって」


淡々とした、まるで感情のない人形の様な声で雪は告げる。


「もう働けないおじいちゃん達や、体の弱い子は皆一人ずつ減っていったの…私もね、その中の一人だったの、でも…そうなる前に急に皆がいなくなって……ねぇ、智は私に何を隠してる?」

「…智さんは、貴方を守る為に皆さんを閉じ込めたんです」


少し考えてから、桜男はそう答えた。もっと正確に口にする事も出来たが、あえてそれを避けた。


「私を、守る為?」

「はい…貴方の意思を確かめずに、それが最善だと思ったんです」


言葉に雪は小さく首を振る。それは智が望まない答えだった。


「そんな事…しなくてよかったのに…」


はっきりと耳に届いたその言葉に、智は表情を崩す。分かっていたとはいえ、その答えを聞きたくはなかった。


「ねぇ、皆を助けてあげて」

「…勿論そのつもりです」


自分の為にそんな事をして欲しくないという一心で、雪は桜男に頭を下げる。

それを当然のように了承した桜男だったが、一拍置いてもう一度口を開いた。


「ですが…皆さんを救うと、智さんは死ぬ事になります」

「…え?」


雪には一瞬意味が分からなかった。だからすぐに反応する事が出来ない。


「智さんが生きている限り…他の皆さんは永遠にこのままです」


けれど桜男は残酷にそう言葉を続けた。


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