第壱話 夏ノ雪
会話メインで全体的にコメディ寄りですが、話上オカルト・ホラー的な表現や残酷な描写が出てくると思われますので、苦手な方はご注意ください。
(補足:作中に出てくる変な言葉(題名然り)は殆どが造語です)
風が吹くたびに風鈴が音を奏で、日差しが照る中、耳を劈くような蝉の声が聞える。
暑い太陽が肌を焼く夏という季節。
「…北は涼しいと思ったんですがねぇ」
眼前に広がる雪景色を目の前に、のんびりとした口調で呟いたのは一人の男。
灰色の少しはねた髪に、白い肌。その身を包んでいるのは、淡い桃色の着物だった。
一見すればその姿は女のそれに見える。
「涼しいんじゃない!これは寒いって言うんだよ!!」
その隣で怒鳴り声を上げたのは、焦茶色の着物を着た男だった。
「そんな怒鳴り声を上げなくとも、見れば分かりますよイザミさん」
嫌そうな顔を向けながら、怒鳴り声に男は返事を返す。
季節は夏…夏なのだが、眼前に広がるのは紛れもない雪景色だった。
「あー!本当に運がいいんだか悪いんだか!」
「ですから、文句があるなら付いてこなければいいと言ったではないですか…」
声を荒げるイザミを慣れたようにあしらう。二人にとっては何時もの光景だった。
「おかしな話ですね…いくら北とは言え、真夏に雪だなんて…」
男の言葉通り、季節は真夏。いくら北とは言え、この国では真夏に雪が降る土地などありはしなかった。
「だから、運がいいんだか、悪いんだかって言ってんだろうが!」
相変わらず怒ったままのイザミに、男は小さく溜め息をもらす。
この怪異と呼べる現象にも、二人は慣れていた。
「では、イザミさん」
くるりと振りかえった男は、静かに笑う。
「凍えないうちに早く宿を捜して下さい!」
「なんでお前は、いつも他力本願なんだよ!お前も探せぇ!!」
男の言葉にイザミは間髪入れずに返事を返す。
それに男は不服そうな顔を見せる。この何とも一方的な理不尽も、何時もの事であった。
「何を今更…前々から役割分担は決まってるじゃないですか」
「誰がいつ決めた、あぁ?」
至極真面目な顔をして男が言えば、イザミは喧嘩腰に詰め寄る。
「私が決めましたよ、ついこの間」
「やっぱお前が勝手ににきめてんじゃねぇかあぁ!!」
しれっと言いのけた男の着物の首を掴み、怒声を上げながら揺さぶる。
「五月蝿いですねぇ…真夏の蝉より五月蝿い…」
耳を塞いで男は顔を歪めた。が、それもあまり効果がなくイザミの怒声は男の耳までしっかりと届く。
「あーもう、分かりましたよ、では近くに町があるようですからそこにでも行きましょう」
言って男はイザミの手を振り解く。
辺りは一面雪景色だというのに、男のその言葉はどこか確信めいていた。
否、事実この時、男は確信していたのだ…近くに人がいるであろう事を…
そして言葉通り、幾つも行かない場所に、その町はあった。




