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放課後、光太郎とソニアはいつものように牧歌部へと向かった。
部室に入るといつものように梨宇洲がなにか調べものをしていた。
梨宇洲がぱっと顔を上げる。
「おお二人とお疲れ」
「お疲れ様です」
二人は軽く礼をすると荷物を置いてそれぞれの席についた。
「光太郎君、身体は大丈夫?筋肉痛になったりしなかった?」
光太郎は苦笑いして自分の体を擦りながら答える。
「いやぁ、全身筋肉痛ですよ…」
「そっかそっか、成長してる証拠だよ」
梨宇洲は光太郎に詰め寄って囁く。
「それで、今日も行っちゃう?ダンジョン」
光太郎はてっきり今日は部室でお茶をするだけだと考えていた。
「えっ、今日もですか?」
ソニアも本を読むのを中断して梨宇洲を見る。
「それは、二人次第かな、私は全然大丈夫なんだけど。ソニアちゃんはどう?ダンジョンに行く?」
「…私も問題は無いんですが、只、天野が問題かと」
光太郎は困り果てて、泣き言を言う。
「いやぁ、今日はきついっす…。せめて明日なら大丈夫なんですが」
梨宇洲はこくこくと頷いた。
「そっか、それなら今日は中止だね」
光太郎はほっと胸をなで下ろす。
すると、梨宇洲はホワイトボードの前まで行って話を始めた。
「それじゃ今日は座学をしよう」
ソニアは本を閉じて、向き直る。
「転生ついてでも話そうかねぇ。光太郎くんも興味あるだろうし」
光太郎は目を爛々とさせる。
「はいっ、興味あります」
梨宇洲はこほんと咳を一つしてから話しを続ける。
「えぇ、それじゃ質問。転生者はどこからやってくるのでしょうか。はい、光太郎君」
突然、指名された光太郎はわたわたと慌てる。
「えぇと、所謂〈鉄の世界〉と呼ばれる世界からですよね」
「はい、その通り。では〈鉄の世界〉の特徴を挙げて下さい」
「うぅん、環境は僕たちの世界の中世ヨーロッパに近い。鉄の世界には魔法が浸透している。様々なモンスターが生息していて生態系にも関わっている。あとは…」
「はい、それで結構。転生者は必ずその〈鉄の世界〉から転生してきます。稀にモンスターの魂が転生する場合もあります」
梨宇洲はそう言って、ソニアを見る。
「この転生については、連綿と研究が重ねられてきましたが、転生するメカニズムに関しては全く進展がありません」
梨宇洲はお茶で喉を潤す。
「まぁいずれにせよ必ず〈鉄の世界〉から転生します」
梨宇洲はしつこく繰り返した。
光太郎が挙手する。
「部長、それぐらいなら、前世の記憶が曖昧な僕にだってわかってることですよ」
梨宇洲はちちちと指を振る。
「なぜ〈鉄の世界〉だけから転生者が生まれるのか。疑問に思わないかい?」
光太郎は、ぽかんと口を開けて首を傾げる。
「なぜって、まぁそういうものだからとしか…」
「そこから一歩踏み出して考えなきゃ。だって別の世界からの転生者もいたっていいわけでしょ。それが全くない」
ソニアは真顔で黙って聞いている。目には興味の色が輝いている。
「そこが第一の問題点」
「はぁ」
光太郎はよく理解していないといった風に気の無い返事をした。
それとは対照的に梨宇洲の熱弁はますます盛んになる。
「次に、第二に!転生には転生者の意志が関係していないということ」
「関係していない…?」
光太郎が聞き返す。
「そう。転生者は自分がなぜ転生したのかわかっていない。つまりランダムに選ばれたのか、それとも他に何か法則があるのか。いずれにせよ本人とは別の力が働いている」
光太郎は話をあまり理解しておらず呆然としている。
ソニアは興味津々といった風に鼻息荒く聞き入っている。
「これらのことを調べているのが〈リピーター学〉という学問なの。私がいつも調べているのは大体この二点についてね」
「ちょっと難しくてよくわからなかったです」
光太郎は正直に梨宇洲に告げた。
「うんうん、今はそれでいいよ。いつかわかる時がくるから」
梨宇洲はパンッと両手を叩いて話しを変えた。
「はい、重い話はここまで。明日の活動についてなんですが、またダンジョンに行こうと思います。光太郎君、明日なら大丈夫って言ったわよね」
「はい、大丈夫です」
梨宇洲はホワイトボードに何かを描き始めた。
「今度は私、つまり魔術師の魔法を念頭に置いた陣形でいこうと思います」
梨宇洲はハッと思い出したように光太郎を見る。
「あ、もしかして光太郎君、魔法見るの初めて?」
光太郎はぽりぽり頭を掻きながら答える。
「あ、はい。恥ずかしながら」
「全然恥ずかしいことなんてないよ。魔術能力を持って転生してくるリピーター自体そんなありふれたものじゃないからね。しょうがないよ」
梨宇洲はソニアの方を見てやる。
「ソニアちゃんはきっと前世で見たことあるだろうし問題ないわね」
「…はい」
ソニアは無表情で答えた。
「光太郎君は知らないだろうし、まず魔術について説明します」
「はいっ」
梨宇洲はロッカーからロッドを取りだす。
「魔術というのは、四元素を自在に操り形作る術のことです。ちなみに魔術を使うには前世で魔術師だったことが必須条件なの。〈鉄の世界〉では誰でも修行すれば魔術を使えたんだけど、こっちの世界では事情が違うみたいで、条件が揃っていないとどんなに知識があって鍛錬しても魔術は使えないの」
「なるほど、じゃあ僕なんかは門番だったし魔術は使えないんですね」
「恐らくね。前世で、実は魔術も学んでましたってことじゃないかぎりはね」
梨宇洲はホワイトボードに陣形を描く。
「それでね魔術使いをパーティに入れる場合まず第一に注意しなくちゃいけないことはフレンドリーファイアね。つまり味方に魔術を当ててしまうこと」
光太郎はおどおどとして梨宇洲に尋ねる。
「やっぱり味方にも当たるんですか」
「ええ、だから陣形には細心の注意を払わないといけないの。それにチーム間の意志疎通も重要ね」
「なるほど」
光太郎は熱心にノートをとっている。
「だからこう陣形を広く取ってね…」
その後しばらく梨宇洲の講義は続いた。




