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部室についた途端光太郎は、崩れ落ちるように椅子に寄りかかった。

スティールソードは出しっぱなしだった。

緊張の糸が切れた光太郎は、ぐでんぐでんとしながらお茶を啜った。

「つ、疲れた。ダンジョンに居る時には平気だったのに」

梨宇洲もお茶を啜りながら光太郎に話しかける。

「ダンジョン内では緊張から、自分の体力を正しく測り兼ねるからね。それは場数を踏んでいって感覚を慣れさせるしかないからね」

「なるほど…確かに部室についた途端どっと疲れが来ました」

一方ソニアは依然として、疲れた様子もなく、平然としていた。

梨宇洲がそんなソニアを見て言う。

「ソニアちゃんはあんまり疲れてないみたいだね。流石、前世がドラゴンなだけあるわ

ね」

 ソニアはつんけんとして答える。

 「ええ、私は全然平気です。もっとレベルの高いダンジョンにだって行けます」

 「それは頼もしいねぇ。でも光太郎君が成長するまでお預けだねぇ」

 光太郎は立つ瀬なく、俯いた。

 「わかってますよ。天野には頑張ってもらわないと」

 ソニアはそう言うと、いつものように文庫本を開いて読み始めた。

 梨宇洲が光太郎を慰めるように言う。

「ま、なんにせよ初陣おめでとう。これから少しずつレベルアップしていこうね」

光太郎は顔を上げて答える。

「はいっ、がんばります」

光太郎は自分の両手を握っては開き、ブルーゼリーを斬った時の感触を思い出す。

――これは大きな一歩だ…。前世の記憶をしるためにも。今の僕が成長するためにも…。

光太郎は目を瞑って、ダンジョンでの光景を思い描く。

そうしているうちに眠けが襲ってきて、光太郎はすぐさま眠けに負け、意識を遠くした。


「―くん、光太郎くん」

光太郎は自分の体が揺すられていることに気がつく。

「光太郎君、もう皆帰るよ。解散の時間だよ」

光太郎は意識を戻して、バッと体を起こす。

既に日は暮れかかっていて、部室は橙色に染まっている。

光太郎は慌てて立ち上がりながら、帰りの支度を始める。

「あ、すいません。いま支度をするので…」

「そんなに慌てなくていいよぉ」

ソニアは既に帰りの支度を済ませていて、制服に着替えていた。

光太郎は寝ぼけた頭で「着替えなくては」と、体操着のズボンを脱ごうとした。

 すかさずソニアが鋭い声で光太郎を責める。

「馬鹿じゃないの、女性がいる前でなにしてるの」

光太郎はハッと気づき、顔を赤らめてズボンを戻した。

光太郎は、着替えることを諦めて、制服をカバンにしまった。

スティールソードもロッカーにしまった。

光太郎としては今日一日、スティールソードを持ち帰って、感触を大事にしたい気持ちだったが、そこは我慢してロッカーにしまう。

「すいません、お待たせしました。準備できました」

梨宇洲が部室のカギを取り出して言う。

「おしっ、それじゃあ帰るとしますかね」

三人は部室を後にした。


校門に出た三人。

夕陽に三人の影は長く伸びる。

梨宇洲が手を振りながら二人に言う。

「それじゃあね。また明日。お疲れさま」

光太郎は、一礼してから、

「お疲れさまでした」

と元気よく言った。

ソニアも一礼した。

梨宇洲の姿が見えなくなってから、二人は歩きだした。

二人で並んで歩いていると、ソニアが光太郎に話しかける。

「今日の、ダンジョンでの活動、上出来とは言い難いわね」

光太郎は、うっと息が詰まった。

光太郎が黙ったままでいると、ソニアは言葉を続ける。

「もっと四方を警戒していれば、もっと集中していれば、最初の攻撃を受けずにすんだのに」

光太郎は返す言葉も無かった。

「ま、それでも最初のダンジョンと考えればぎりぎり及第点ね。曲がり角で先行しなかった私に責任があるとも言えるし」

「いや、僕が悪いよ。緊張しすぎて頭がいっぱいだったから…」

光太郎は肩を落として答えた。

ソニアはそんな光太郎の様子を見て、少し憐れんで声を掛ける。

「まあ、前世の戦闘経験を忘れた天野だもの、多少のことはしょうがないわね。でも知識を思い出せば、一気に成長できる可能性もあるし」

光太郎はぱあっと表情を明るくして、ソニアに答える。

「そうだよね、前世の記憶がもどれば…。ひょっとして凄腕の門番だったかもしれないし」

ソニアはおだて過ぎたと後悔した。

「凄腕の門番って…」

光太郎は今度は、ソニアについて尋ねた。

「ソニアはダンジョン初めてだっていうのに全然緊張していないようだったね。やっぱり前世での戦闘経験があると胆も座っているのかな」

ふと、ソニアの表情に陰りが見えた。

ソニアは少し悲しそうな声音で答える。

「そう…ね。前世での記憶があれば大抵のことには動じないでしょうね…」

それきりソニアは口を噤んでしまった。

光太郎は聞いてはいけないことだったかと後悔した。

――リピーターに前世を聞くことは慎重にってソニアに言われていたのに…。僕がうかつだった…。

そりゃあ言いづらいに決まっている。だって前世〈鉄の世界〉で死んで、こっちの世界に生まれ変わったんだし、複雑な心境だろう…。

僕も前世の記憶を思い出したら、憂鬱になるのだろうか。どうやって死んだのだろうか…。知るが怖い気がする。だがそれでも僕は知りたいんだ。中途半端は嫌なんだ。

 光太郎は表情を硬くして、両手を握りしめた。

 ソニアがそんな光太郎の様子を見て、不安そうに声をかける。

「天野、どこか悪いの?ブルーゼリーに攻撃されたところとか痛いの?」

ソニアが光太郎を覗きこむ。

光太郎はソニアが見せて思いがけないやさしさにどぎまぎして、顔が紅潮した。

「え、いや、身体は大丈夫だよ。ただ、ちょっと考え事してただけ…」

しどろもどろ、光太郎はソニアに答えた。

ソニアはじとりとした目線で光太郎を見る。

「アンタが考え事ぉ?…どうせろくでもないことなんでしょうけど」

光太郎は疲れ果てていて、ソニアの憎まれ口に答える気力がなかった。

「ははは…」

と、光太郎は乾いた笑いをするのみだった。

そんなこんなで、二人は別れ道に着いた。

光太郎がソニアに手を振りながら言う。

「それじゃ、また明日」

ソニアは軽く右手を上げてそれに答える。

「ええ、さよなら。今日はしっかり休むのよ」

そう言って、夕日に照らされながら去って行った。

光太郎はその背中をみつめながら、ぽつりとつぶやいた。

「しっかり休むのよ…か」

――ソニアもなんだかんだ言って優しいやつなんだな。いつもつっけんどんで無愛想だけれども…。

光太郎はそう思って、くすくすと笑みを溢した。

ソニアが見えなくなってから体を翻して、家路についた。



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