23
ダンジョン棟は部室棟の地下にある。
地下に進むほど難易度の高いダンジョンになっていく。
光太郎一同は初心者用ダンジョンのあるB1に着いた。
光太郎の目の前に、鋼鉄製の白々した大きな扉が立ち塞がった。
それをまじまじと見て光太郎が口を開く。
「なんか割と現代的なんですね、入り口」
「そうね、他にも洞窟っぽい入口のダンジョンとかもあるけどねぇ」
光太郎はその重いドアをぎぎぎと両手で押して開けた。
光太郎の眼房には期待と不安の輝きが満ちている。
ドアを開けた向うには、四方に分かれた道があった。
光太郎は辺りをきょろきょろと見回す。
壁、床はすべてコンクリート打ちっぱなしだった。
天井は高く、幅は三人だと少し余裕がある程度だ。
証明は天井に埋め込まれLED電球だけで、その間隔は広く、ダンジョン内は薄暗かった。
梨宇洲が真面目な表情になって叫ぶ。
「それじゃあ行くわよ。シミュレーション通り陣形を崩さないで。曲がり角には気をつけてね」
「は、はいっ」
「…了解」
光太郎が先頭を歩き、進む方向を決める。
ソニアが四方を警戒しつつ、光太郎に続く。
最後尾を梨宇洲が後方を警戒しながら続く。
光太郎の進む足取りは重い。
両手に持つ剣は、重さを増していくように感じる。
口の中はからからになり、身体は汗みずくになっている。
目はきょろきょろと四方を泳ぐ。
ソニアは依然として平常を保っている。
光太郎の様子を見かねた梨宇洲が声を掛ける。
「光太郎くん落ち着いてね。シミュレーション通りにやれば絶対安全だから」
ダンジョンは曲がり角に差し掛かる。
光太郎は、梨宇洲に振り向いて、かすれ声で答える。
「は、はい。大丈夫です。わかってます」
突に、ソニアを緊張した声が走る。
「天野!左ッ!」
「―え?」
光太郎が振り向くや否や、光太郎は腹部に何か重い弾力のあるものが当たる衝撃を感じ、武器を放り出し突き飛ばされた。
「ぐっ…かはっ」
みぞおちにまだ重みを感じる。
咳込みながら、自分の腹を擦る。
自分に何が起きたのかわからず呆然とする。
ソニアの甲高い声が光太郎に刺さる。
「何してんの!早く武器を取って!」
「あ、ああ」
光太郎は慌てて剣を取りに向かう。
光太郎の剣のすぐ横に、何かどろどろした青いものが蠢いていた。
――あれがブルーゼリー…。僕は体当たりされたのか。
ソニアが、ブルーゼリーに向かって疾走する。
勢いをつけて、ブルーゼリーを蹴りあげる。
ブルーゼリーは壁にたたきつけられて、ぐちゃりと平たくなる。
「天野、早く!」
光太郎は、その隙をついてスティールソードを取りに駆けだす。
光太郎はなんとかスティールソードを手にして、ブルーゼリーから距離をとった。
ブルーゼリーも態勢を取り直して、光太郎の前に立ち塞がった。
梨宇洲が光太郎に向かって叫ぶ。
「光太郎君、斬るんじゃなくて、叩きつける感じで剣を振るうのよ!」
光太郎は、すり足でブルーゼリーににじり寄る。
目は剣先とブルーゼリーに注がれている。
呼吸も大分落ち着いてきた。
瞬間、ブルーゼリーが光太郎をめがけて飛びかかってきた。
一刹那、光太郎はスティールソードを上から下に振り下ろした。
「曵ッ!」
柔らかい弾力のある感触が剣先から伝わる。
飛びかかろうと跳ねていたブルーゼリーは地面に叩きつけらた。
梨宇洲が後方から叫ぶ。
「ほら、攻撃を続けて!今がチャンスよ!」
光太郎は、今度は袈裟切りをブルーゼリーに仕掛けた。
「応ッ!」
光太郎の袈裟切りはブルーゼリーにうまく決まった。
ブルーゼリーはスティールソードを叩きつけられた箇所だけ凹んだまま、その場でもぞもぞと蠢いた。
ソニアが叫ぶ。
「今よ!トドメをっ!」
光太郎はスティールソードを真っすぐに振りかぶると、そのまま一直線にブルーゼリーに叩きつけた。
「耶ッ!」
ブルーゼリーは光太郎の一閃をくらうと、淡く輝きだした。
それから、光の泡をぶくぶくど出して、そのまま消滅した。
光太郎は、ガクリとスティールソードを下げて項垂れた。
「ふうっ…」
ソニアがそんな光太郎の様子を見て怒気を孕んだ声で叫ぶ。
「天野!油断しない!倒した後も四方を警戒して!」
光太郎はびくりと体を跳ねあがらせて、剣を持ちなおして、周囲を警戒した。
敵の気配はなかった。
梨宇洲が二人に声を掛ける。
「もう周囲にはモンスターはいないみたいだね」
それから光太郎に近づいて、声を掛ける。
「ちょっと不格好だったけど…初陣おめでとう」
光太郎はちょっと照れ臭そうに頭を掻きながら答える。
「はい、ありがとうございます」
ソニアは不機嫌そうな顔で光太郎に突っかかる。
「アンタがもっと警戒していれば、ブルーゼリーの存在に気づけて、最初の攻撃だって食らわずにすんだんだからね」
光太郎は返す言葉もなく、項垂れた。
梨宇洲がフォローに入る。
「まぁまぁ、初陣としては上出来だよ。ちゃんと武器もつかえていたし」
光太郎は、スティル―ソードをかざして、じっと見つめる
――剣を振るった時、確かに懐かしを感じた…。僕は前世で戦闘経験があったということだろうか。間違いないのは、前世で確かに武器を使ったことがあるということだ。
梨宇洲が二人に向かって話す。
「早いと思わるかもしれないけど、今日はダンジョンはここまでで終わり。もう帰還しましょう」
ソニアが意外そうな顔をする。
「え、早くないですか?まだまだいけそうな状態だと思うんですが」
それに梨宇洲が答える。
「初陣はうまくいったら帰還するのが吉だよぉ。それに部室初陣記念お茶会したいからね」
「はぁ…」
ソニアは気の無い返事をして、短剣を鞘にしまった。
「それじゃ、戻ろうかね」
「はいっ」
三人はまた陣形を作って、来た道を戻っていった。




