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放課後、部室棟を歩く光太郎の足取りは軽やかだった。
クラスでリピーターの友人ができたからであった。
牧歌部のドアを勢いよく開ける光太郎。
「お疲れ様ですっ」
ソニアと梨宇洲の視線が光太郎に注がれる。
ソニアはうざったそうな一瞥を送ると、読書に戻った。
梨宇洲はいつものようににこにことして、光太郎に尋ねた。
「お疲れ、光太郎君。何か良いことでもあったのかなぁ」
光太郎は待ってましたと言わんばかりに、梨宇洲に詰め寄ると、
「実はできたんです!リピーターの!友人が!」
ソニアは光太郎の上調子な声を聞いて、耳を塞ぐ素振りを見せた。
「あぁ、ウザい…」
と、ソニアは小声でつぶやいた。
梨宇洲はまるで自分の事の様にオーバーに喜んだ。
「そうかぁ、それは本当に良かった、うん本当に」
そう言って何度も頷いた。
それから光太郎の両肩をがしっと掴んで、
「それじゃあその子を牧歌部に勧誘しよう」
と顔を近づけつつ言った。
光太郎は思わぬ言葉に当惑した。
「え、え?」
梨宇洲は光太郎からパッと離れると、またにこにことした顔つきで、
「冗談冗談、ジョークだよ」
と、言い捨てた。
「はぁ」
光太郎は気の抜けた返事をした。
――わかりずらい冗談だな。というか半分本気だったな…。
光太郎は言葉にせず、心の中で呟いた。
梨宇洲はいつものようにパンッと両手を叩いて、ホワイトボードの前に立った。
光太郎は慇懃に姿勢を正して、梨宇洲を見る。
ソニアは文庫本を閉じ、同じく梨宇洲を見る。
「それじゃあ部活を始めるよ。今回はダンジョン内での行動についてだよ。二人とも武器についての説明書は読んできたよね?」
「はい、もちろんです」
光太郎は勢いよく答えた。
「ええ」
ソニアも静かに返事をした。
「それじゃあ、話を進めるよ。光太郎君はスティールソードを使う、つまり前衛でメインアタッカーとしての役割を担ってもらうわ」
光太郎は緊張した固い面持ちになった。手には汗を握っている。
梨宇洲はそんな光太郎の様子を察して、
「光太郎君そんな力まなくてもいいよ。ホント初級ダンジョンは簡単だからさ」
「は、はい」
と、光太郎はまだ固い。
梨宇洲が話を戻す。
「それで、ソニアちゃんは短剣だから、その身軽さで回りを警戒しながらアタッカーのサポート、状況によってはメインアタッカーになる」
「はい」
ソニアは表情を崩さずに答える。
「ソニアちゃんは前世の記憶をしっかりと覚えているリピーターだから、戦闘にも及び腰にならないと思うけど、油断だけはしちゃだめよ」
ソニアはこくこくと頷く。
「それでは私は、ソーサラーとして後衛につくわ。魔法による遠距離攻撃と、アタッカーへのサポートを行うわ」
梨宇洲はホワイトボードに、それぞれの位置関係を表した逆三角形を書いた。
「基本はこの陣形ね。以上、わかったかしら」
光太郎とソニアは頷く。
「それじゃ質問タイム。聞きたいことがある人手上げて」
すぐさま光太郎が手を上げた。
「はい、光太郎君どうぞ」
「はい、僕がメインアタッカーということですが、初陣ということでとても心配です、大丈夫なんでしょうか?」
「心配しなさんな、初心者用ダンジョンの浅い回に生息している〈ブルーゼリー〉なんて、サンドバック殴ってるようなものよ。そいつの攻撃だって剣で充分ガードできるし」
梨宇洲はそう言って、ホワイトボードにどろどろした物体を描いた。
光太郎とソニアはその絵を見てくすくすと笑いを溢した。
梨宇洲が二人に向き直って話を続けた。
「今回の目標はダンジョンの踏破ではないわ。浅い階層の敵によるトレーニングだから。それを忘れないでね。しっかりと学ぶ姿勢で臨んでね」
「はいっ」
「はい」
二人は真面目な面持ちになって返事をした。
「それじゃあ、ホワイトボードでシミュレーションをしましょう」
そう言って梨宇洲はホワイトボードに様々な描き込みをしていった。
それからしばらくして。
「…ふぅ、とりあえずこれだけシミュレーションすれば充分ね。今日はこれでおしまいっ。お疲れさまでした」
「お疲れさまでした」
「お疲れさまでした」
光太郎は背筋をぐぐっと伸ばして息を吐いた。
ソニアも両手を組んで前に伸ばした。
梨宇洲が席に着いてお茶を啜る。
「いやぁ、あとは本番だけだね」
光太郎もお茶を啜ってから答えた。
「…ふぅ。そうですね、やっぱり緊張します」
「まぁそんなに固くならないでね。私がしっかりサポートするから」
「は、はい。わかってはいるんですが…」
ソニアが横から口を挟む。
「ホントびびりね、ダサいわ」
憎まれ口を叩かれた光太郎はソニアに向き直る。
「しょうがないだろっ、記憶もなしに本当に初めてなんだから…」
ソニアはふんっと鼻を鳴らして、帰りの支度を始めた。
支度を終えたソニアは梨宇洲に向かって、
「それじゃあ、私もう帰ります。お疲れさまでした」
と、つんけんと言って部室を出て行った。
「はいよぉ、お疲れさま」
と、梨宇洲はソニアの背中に向かって叫んだ。
梨宇洲が光太郎にむかって言う。
「光太郎君はまだ帰らないのかい?」
光太郎ははにかみながら答える。
「ええ、ちょっと自分の武器を見たくて…」
「あぁ、なるほどね。最初に貰った武器は嬉しいものだもんねぇ」
「はい、取り出しもいいですか?」
梨宇洲は満面の笑みで答える。
「勿論だよ」
返事を聞いて、光太郎はロッカーからスティールソードを取り出す。
光太郎はそのずっしりとした重みに感動と懐かしさを覚えた。
光太郎は鞘から剣をそろりと抜くと、両手で掲げ、刀身に自分を映す。
――やっぱり僕もリピーターなんだな…。
そう心の中で呟く。
そんな光太郎の様子を見て、梨宇洲が声を掛ける。
「前世の記憶を思い出す切っ掛け、見つかるといいわね」
光太郎は、剣を鞘に戻してから梨宇洲に答える。
「ええ、特に理由は無いんですが、この部活が切っ掛けで思い出せる気がしてきました」
「そっかぁ…私も協力するからねぇ」
光太郎は、スティールソードをロッカーにしまった。
「はい、ありがとうございます」
梨宇洲はホワイトボードを消しながら光太郎に話しかける。
「私はもう帰るけど、光太郎君はどうする?」
「僕ももう帰ります。家で武器の説明書を読み直したいので」
「そっか、熱心だねぇ。それじゃあ今日はもう閉めちゃおうね」
二人は帰り支度を済まして、部室を後にした。
日は既に暮れ、校舎は紫色に染まっていた。
「それじゃあ、また明日ね。光太郎君」
「はい、お疲れさまでした」
光太郎は深々と礼をした。
光太郎は、梨宇洲が見えなくなってから家路についた。
夕暮れの歩道を一人歩く光太郎。
逸る心を抑えきれず、子供っぽく剣を振る動作をする。
一通り、動き終わってみると、恥ずかしさが込み上げてきた。
光太郎の顔が紅潮する。
「我ながら恥ずかしい事をしたなぁ」
光太郎は頭をぽりぽりと掻きながら独りごちた。
光太郎は家路を急いだ




