02
―ぽすっ。
「ん?」
光太郎の腹部に、なにかふわふわしたものが当たった。
光太郎が下を向くと、赤い長髪をたなびかせている小さな頭があった。
光太郎は少し困ったように、首を傾げて鼻をぽりぽりと掻いた。
よく見れば、イディアール学園の制服を着た、小柄少女だということがわかった。
「あのぉ、もし?大丈夫ですか」
光太郎が声をかけると、のそっとその赤髪の頭が光太郎を見上げた。
真っ赤な瞳が呆然と光太郎を見つめる。
「――ッ!」
にわかにその黄色い瞳が殺気を帯び、バッと光太郎から離れた。
余りの迫力と、その動作の速さに光太郎はぽかんと口を開けて突っ立ているだけだった。
光太郎から離れた、赤髪の少女は、訝し気な目で光太郎を足元から頭で、じろじろと見てやった。
それから、おずおずと口を開いた。
「あなた、なんともないの?」
光太郎は、一瞬なんのことかわからなかったが、間を置いてから、きっとぶつかったことに対して言っているのだと思った。
「大丈夫ですよ、あんなのぶつかった内に入らないですよ」
赤髪の少女はその答えを聞いてもまだ不満そうに光太郎を見つめている。
光太郎も、その視線に気圧されて、口を噤んで俯いてしまう。
暫くしてから、赤髪の少女は、
「フンっ」と鼻を鳴らして視線を外した。
それから、バサッと体を翻して、すたすたと去って行った。
光太郎は呆然とその後ろ姿を見て立ち尽くしていた。
「なんだったんだ一体…」
再び歩き始めた光太郎はふと思った。
「あの眼、どこかで見たような…」
光太郎は首を傾げ、顎に手を当てる。
「…そんなわけないか」
ぶつくさ言いながら、光太郎も学校へと向かい歩き始めた。