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翌日、朝。

光太郎は教室入るとまずソニアの席を確認した。

ソニアは文庫本を開き、読書に勤しんでいる。

光太郎は、少し緊張した面持ちでソニアの席に向かう。

「お、おはよう」

光太郎はぎこちなく右手を上げて挨拶をした。

「…おはよ」

ソニアはちらりと光太郎を一瞥して、小声で挨拶をした。

それから、また本の上に視線を落とす。

――このつんけんした態度、良くも悪くもいつもソニアだ。

昨日の帰り道のような思い雰囲気は無かった。

それに安心した光太郎は、挨拶を済ますと自分の席に戻った。


宗方ソニアは体育だけでなく、座学の成績も良かった。

どの授業でも、すらすらと問題に答え、女子男子共に尊敬された。

休み時間になれば、ソニアの席には女子が集まりだす。

光太郎はそんな様子を、頬杖をつきながら眺めている。

ソニアに引き換え、光太郎は地味そのものだった。

成績も中途半端、容姿も中途半端、リピーターとしても中途半端。

パッとしない男子であった。

――僕も早く友達が欲しいな…。

そんなことを考えつつソニアを眺めていた。


放課後、ソニアと光太郎は二人揃って、牧歌部へと向かった。

部室棟の最奥にある、牧歌部のドアを光太郎は開ける。

何か書き物をしていた梨宇洲が顔を上げる。

「おっ、二人して来るとは、仲良くなったんだねぇ」

光太郎は照れて、

「別にそんなんじゃ…」

と言った。

ソニアは気にした風もなく、すたすたといつもの奥の席に向かった。

梨宇洲が光太郎に尋ねる。

「レクリェーションはどうだった?友達は出来たかね?」

光太郎は自嘲気味に答えた。

「残念ながら、新しい友達はできませんでした」

「そっかぁ、でも二人の間には進展があったと私は見るけど」

梨宇洲はにまにまとしながら、二人を見比べた。

ソニアは反応せず文庫本を見つめている。

光太郎はにへらにへらと笑って答える。

「それはそうかもしれませんね」

「そっかそっか、それはなにより。それでは」

梨宇洲は立ち上がって、ホワイトボードの前まで来て話を始めた。

「今回の部活動ですが、ダンジョンについてのお話しをします」

光太郎はびしっと背筋を伸ばして俄然やる気になって身を乗り出す。

ソニアは文庫本を閉じて梨宇洲の方を向く。

「まず武器の件なのですが、学園側から許可がおりましたのでお二方にお渡ししたいと思います」

梨宇洲はがさごそと、梱包を解いて剣を取り出し光太郎へ渡す。

「これが光太郎くんの武器、〈スティールソード〉です」

「おぉ、これが僕の…」

光太郎は眼を爛々と輝かせ、スティールソードを見つめる。

「あ、ちなみに部室棟から外には持ちだせないからね。持って帰っちゃ駄目よ」

「そりゃあそうですよね…」

光太郎は少し残念そうに項垂れた。

「次はソニアちゃんの武器、短剣〈レオアコルタドル〉よ」

ソニアはそれを受け取ると、鞘から出して、嘗め回すようにぐりぐりと見つめた。

「はい、武器は一先ず置いといて、ダンジョンの話に入ります」

二人は武器を机の上に置いて、梨宇洲の方を見る。

「えぇ、転生部と名乗っているからには、部対抗戦に出ない訳にはいきません。ですので当面の目標は、次の対抗試合で恥をかかない程度に戦えるようになることとします」

梨宇洲が続ける。

「初心者の練習用に開放されているダンジョンがありますので、次回はそのダンジョンに挑戦しようと思います」

光太郎は、ごくりと固唾を飲んだ。

ソニアは、表情を変えずに話を聞いている。

梨宇洲はホワイトボードに絵を描きながら説明を述べる。

「初心者用ダンジョンなんですが、その容貌はというと、床・壁・天井はコンクリートの打ちっぱなしで、明かりは天上に埋め込められたLED電球です」

「やたら現代的なんですね」

「まぁ練習用のダンジョンだからねぇ。雰囲気とかその辺は考慮していないんじゃないかなぁ」

梨宇洲は説明を続ける。

「それから、出現するモンスターなんですが、まず浅い階層から分布しているのは〈ゼリー〉系のモンスターが主です。このダンジョンに出現するゼリー系は下位だから打撃や斬撃でも充分に倒すことができます。つまり、光太郎君の恰好の練習相手ってことね」

光太郎は鼻息荒く、興奮して聞いている。

「それから階層を下るに連れて、〈ビートル〉系が出現します。前世の記憶が曖昧な光太郎君に説明すると、ビートルはカブトムシを大きくしたようなモンスターね。これ系統中最下位のビートルだから能力は低いわね。それでも光太郎君にはちょっと早いかな」

光太郎が口を挟む。

「モンスターを倒した後モンスターはどうなるんですか?」

「ダンジョンのモンスターはウチの学園の召喚士が作ったモンスターだからね、

跡形もなく生滅するわよ。光の泡になってね」

光太郎はその答えに満足して、また口を閉じ梨宇洲の説明を待った。

「それでね、ダンジョンを進んでいくと階段があってそれで下層に進むわけ。そうやってどんどん下層に進んでいくと、最下層に到達すると、魔法陣が築いてあってそれによって地上へ戻ることができるの。とりあえずダンジョンについては以上かな」

今まで黙っていたソニアが口を開く。

「聞いただけだと、スポーツ要素が強いみたいね」

梨宇洲がそれに答える。

「そうね、生徒の安全も考えて大分調整されたダンジョンだからね。〈鉄の世界〉にあったダンジョンと比べればそう見られても仕方ないわね」

光太郎が梨宇洲に質問する。

「梨宇洲部長は勿論この初心者ダンジョンを踏破したんですよね?」

梨宇洲は誇らしげに胸を張って言った。

「勿論よ。私これでもソロで上級のダンジョンにだって行けるくらいなんだから」

光太郎は感嘆を漏らして、

「上級ダンジョン、いいですね…僕もいつかは」

梨宇洲が光太郎をなだめるように言う。

「まぁそう慌てなさんな、ゆっくりと力をつけていこうねぇ」

「は、はい」

「光太郎君が早くダンジョンに行きたい気持ちもわかるけどね、焦って大事故になったら、もうダンジョンに行く許可も下りないかもしれないし、廃部にだってなるかもしれないからねぇ」

光太郎は反省してしゅんと縮こまっている。

「なによりチームワークが大事だってわかってね」

「はい…わかりました」

少しの間、部室に沈黙が満ちる。

梨宇洲はコホンと咳払いを一回、それから二人に向き直って。

「それで、我が牧歌部は来週、初心者用ダンジョンに行く事に決定しました」

そう告げてから梨宇洲は、二人に本を渡した。

光太郎が本を受け取って梨宇洲に尋ねる。

「こ、これは」

「先達のリピーターが書いた武器の取り扱い方が書いてある本よ。あなた達に贈るからしっかりと読んできてね」

光太郎はずっしりと重みのあるその本をまじまじと見つめる。

「はいっ!ありがとうございます」

ソニアはぱらぱらとページを捲った後、受け取った本をカバンにしまった。

「それじゃあ、今日の活動はこれくらいで終わりかな…」

光太郎は早速受け取った本を読み始めている。

ソニアは梨宇洲の言葉を待っているようにじっとしている。

梨宇洲はパンッと両手を叩いてから、

「はいっ、今日はこれまで。後は自由行動」

光太郎は元気よく言う。

「はい、お疲れさまでした」

ソニアはいつものように文庫本を開いて読み始める。

光太郎は、先ほど受けとった武器の扱いの説明書を食い入るように読んでいる。

梨宇洲は二人の様子を見て、微笑んだ。

それから、梨宇洲は『リピーター学』と書いてある本を開いてノートを取り始めた。



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