17
バスが学校に着いてもまだソニアはまだ寝ていた。
光太郎が起こそうとして体を揺する。
「おい、ソニア。もう学校に着いたぞ。起きろ」
ゆさゆさと何回も揺する。
ソニアに少し反応があった。
「…むにゃ」
光太郎は揺さぶりを強めにして繰り返した。
「おい、もう皆バス降りたぞ。起きろ」
ソニアの目がパチリと開かれる。
突して、ソニアは光太郎の手を振り払い、後退った。
ソニアの眼は瞳孔が開き、鬼気迫る迫力を出している。
光太郎は、その迫力に気圧されて、後退る。
「あ、ごめん。触られるの嫌だった?ホントごめん」
ソニアは獰猛な動物のように殺気立っている。
「あなた、なんともなかったの?」
光太郎は質問の意味がよくわからなったが、取り敢えず答えた。
「え、いや、僕はなんともないけど」
ソニアはその言葉を聞くとはぁっと大きく息を吐いて、肩を下ろした。
さっきまでの迫力は無くなっている。
「ならいいんだけど。勝手に女子の身体に触るのは良くないわよ」
「ホントごめん…」
光太郎は謝りつつも、思う所があった。
――それにしても過剰な反応だと思う…。初めて出会った時も、ぶつかった相手の僕を尋常じゃなく心配していたし…。どういうことなんだろうか…。
ソニアは席から立ち上がる。
「ほら、降りましょう」
「あ、あぁそうだね」
二人はバスを降りた。最後の二人だった。
解散後、光太郎とソニアは帰路についた。
さっきのことがあってから二人の間には重い空気が満ちていた。
夕方の歩道を二人は無口で歩く。
二人ともそれぞれ、深く思惟している様子だった。
周りには同じく家路についている生徒たちがちらほら見えた。
光太郎はやっとの思いで言葉を発した。
「ボブスレー、楽しかったね」
ソニアはそわそわと落ち着きなく答える。
「そ、そうね。楽しかったわね」
話はそれ以上伸びず、ぴたりと終わってしまった。
二人はまた沈黙しながら歩く。
光太郎は思う。
――明日になれば、元の空気に戻っているだろう…。
二人は黙ったまま、別れ道に着いた。
「それじゃ、また明日」
光太郎は立ち止まって、ソニアに軽く手を振る。
「ええ、それじゃ」
ソニアは手を上げてそれに答えた。
夕陽に照らされる中、二人は別れた。
その夜、光太郎はなかなか寝付けづにいた。
――やっぱり軽々しく体を触った僕が悪かったのかなぁ。
光太郎はふと、小学生時分のある事件を思い出した。
それは小学生の光太郎が何か劇の練習で、女子の髪の毛を触った時のことだった。
その女子は、光太郎に触られた途端、大声で泣き始め、光太郎はクラスの女子から大顰蹙を買ったのだった。
光太郎はその思い出と照らし合わせて、今日のソニアとの出来事を考えた。
「やっぱ男子に触られたのが嫌だったんだな…きっとそれだけの事なんだろうな」
光太郎はそう結論を出して、反省した。
――明日、もう一度謝っておこうかな。いや、逆にしつこくて駄目か。
光太郎は悶々と思いを巡らして、布団の上を転がりまわる。
そうしているうちに段々と眠けがやってきて、光太郎はガクリと眠りに落ちた。




