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それから三十分程度、山道を走って行楽地に着いた。
ソニアは、バスを降りて、の空気を目一杯吸って、快復したようだった。
先ほどの青白い顔とは打って変わって、顔はほんのり紅潮して、心なしかはしゃぎ気味だった。
「ふぅ、やっぱり山の空気は良いわね。ほら天野もこの空気を満喫しなさいよ」
ソニアは普段見せないような笑顔で、光太郎に言った。
「…やたらハイテンションだなぁ」
光太郎はぼそぼそと呟いた。
ソニアはその呟きが聞こえたらしく、あわてて言い返した。。
「べ、別にはしゃいでなんかいないわよ」
「へぇへぇ」
光太郎は気の無い返事をした。
着いてからは、昼食まで自由時間となった。
光太郎は、まだ友達ができていなかったので、ひとりでぶらぶらと散歩するつもりでいた。
ソニアのほうをちらりと見ると、数人の女子に囲まれていた。
当の本人は、あまり楽しそうではなかったが、周りの女子はきゃっきゃと黄色い声を上げている。
光太郎はそんなのソニアを様子を見てから、ふらりと散歩を始めた。
うらうらとした陽気に、薫る風、目に鮮やかな新緑、山鳥の囀り。
光太郎は存分に自然を味わって、充実した散歩をしていた。
そうしているうち、自分の前世の記憶について思いを馳せた。
――僕は確かに、ある国の門番だった。
思い描かれる姿は、安っぽい鎧兜と鋭さの全くない槍を持った姿。
そう、自然はここのように、長閑で豊かな国だった。
それ以外は…赤い炎。赤い炎が記憶にある。これは何を指しているのだろうか。
国が戦争に巻き込まれた?それとも火事?もしくは只のたき火か?
わからない…。これ以上は…。
「―おい」
それに、ソニアの黄色い瞳、黄色という色も僕の記憶に関係が?
いや、もしくは――。
「―おい!天野」
光太郎は、自分が呼ばれているのに気づいて思惟をやめて、バッと顔をあげる。
「えっ誰?」
光太郎はきょろきょろとあたりを見回す。
「…ここだ」
怒気を孕んだ声が光太郎の胸のあたりから聞こえる。
光太郎が下を向くと、赤い髪の頭があった。
「あぁ、ソニアか」
ソニアは髪を振り乱して、わめき散らした、
「ソニアか…じゃないわよ、さっきから何度も呼んでるのに」
「ごめん、ちょっと考え事しててさ」
光太郎は芝生の上に腰を下ろす。
ぐぐっと背伸びをしてから、
「で、何か用なの?」
とソニアに尋ねた。
ソニアはもごもごと恥ずかしそうに言い始めた。
「…ボブスレー」
「え?なんて」
ソニアはもじもじとしながら言い直した。
「だから、ボブスレー…乗りたい」
「そう、だったら乗りに行けばいいじゃない」
ソニアは顔を紅潮させる。
「誰も乗ってないから…私だけ遊んでたら恥ずかしいじゃない…」
「まぁ、確かにそれは恥ずかしいかもしれないな」
「だから、あんた先に乗って来てよ、その後私が乗るから」
光太郎は身を乗り出して言う。
「えぇやだよ、面倒だし。ほら、さっき話していた女子達誘えばいいじゃない」
「無理よ、きっと女子であれに乗りたい子なんていないわ」
――じゃあお前はなんなんだよ。
光太郎はそう言いそうになって、なんとか飲み込んだ。
「そんなに乗りたいの?」
ソニアは俯いて、服を握りしめている。
「…うん」
光太郎は大きくため息を吐いてから話し始める。
「あのね、自分で言うのもおかしけど、僕ひとりも友達いなんだよ。そんな奴がひとりでボブスレー乗ってたらすごい目立つよね?」
「それは…そうでしょうね」
「そうでしょうね…って」
光太郎は頭を振る。
しばらく沈黙の間があった。
ソニアは譲る気がないようだった。
光太郎は観念して、ため息を吐いて立ち上がった。
「はぁ、しょうがないな。それじゃいこっか」
ソニアはぱあっと表情を花開かせこくこくと頷いた。
「うん、はやく行きましょう」
ソニアはてとてとと駆けだして行った。
――大人びていると思ってたけど、子供っぽいところもあるんだな。
光太郎はそう思いながら、ソニアの後を追った。
光太郎は先にボブスレーを終えて、丘の下でソニアを待っていた。
――いやぁ、存外楽しかったぞ!また乗りたいくらいだ。
光太郎は興奮気味に思い返した。
あのスピード感、結構迫力あったなぁ。
そんなことを考えていると、丘の上からボブスレーが走ってくる音が聞こえる。
光太郎はソニアの表情を確かめる。
嬉々とした表情で歯を見せて笑っている。
突き出た犬歯が目立っていた。
――ホント楽しそうにしてるよなぁ。
下まで降りてきたソニアが光太郎の元に駆け寄る。
「すっごい楽しかった!まるで空を飛んでる時を思い出すような」
――あ、そうか。ソニアの前世はドラゴンだったもんな。
「ドラゴンの飛ぶ速さってこんなもんなの?」
興奮冷め止まぬソニアが語気を強めて答えた。
「そんな訳ないでしょ!もっともっと速いんだから翼は」
「あ、あぁそうなんだ」
「それでも充分楽しいわ!また乗ってくる!」
ソニアはまたボブスレーの受付へと駆けて行く。
光太郎は周りを見回した。
複数の生徒から注目されていた。
――結局目立ってるじゃないか。
その後ソニアは三回ボブスレーに乗った。




