13
西日に照らされた部室に、チャイムが大きく響く。
梨宇洲が顔を上げる。
「もうこんな時間かぁ、そろそろ解散しますかぁ」
「そうですね…僕も疲れました」
光太郎は読んでいた本を、本棚に戻す。
梨宇洲も書類をカバンに戻し、本を元の場所に戻す。
ソニアは文庫本を閉じ、カバンにしまう。
今にも帰りそうなソニアに、光太郎は慌てて声を掛ける。
「あっ、宗方、じゃなくてソニア。多分帰り道途中まで一緒だろ。途中まで二人で帰らないか?」
ソニアは、面倒くさそうな顔をして答える。
「いやよ、なんであんたなんかと…」
梨宇洲が口を挟む。
「まぁまぁ、これもチームワーク向上の為に一緒に帰るのもいいと思うよぉ」
ソニアは梨宇洲に言われて、しぶしぶといった風に了解した。
それから三人で揃って、部室を後にした。
三人が夕方の部室棟を歩いていると、廊下には武器を持った生徒達が数人歩いていた。
光太郎は、驚愕の目でそれらの人々を見る。
光太郎の様子に気がついた梨宇洲が説明を始める。
「武器の所有はね、学校に申請して許可が下りれば問題ないのよ。ちなみに光太郎君の武器は私が申請しておいたから」
「そうなんですか、ありがとうございます」
「ちなみに今の生徒たちは〈獄楽部〉の部員たちね。獄楽部は盛んにダンジョンに潜っているからね。対抗戦の成績もいいんだよ。只、色々と悪い噂も聞くけどねぇ」
光太郎は臆した調子で尋ねる。
「悪い噂…ですか?」
梨宇洲はにまにましながら光太郎に答える。
「そうだねぇ。まぁ見るからにあくどい感じだしねぇ」
光太郎は、振り向いてもう一度獄楽部の生徒たちを見た。
ソニアがそんな光太郎に、
「なにビビッてんのよ、ダサッ」
光太郎は慌てて、ソニアに向き直る。
「べ、別にビビッてはいないよ…」
梨宇洲はそんな二人のやりとりを見て、くすくすと笑っている。
三人は再び玄関へ向かって歩き始めた。
玄関についた三人はそれぞれの帰路につく。
梨宇洲が手を振って言う。
「それじゃあ、あたしこっちだから。それじゃあまた明日ね」
「はいっ、お疲れ様です」
光太郎が元気よくあいさつした。
ソニアもぺこりとお辞儀をした。
梨宇洲が見えなくなると、
「それじゃ、僕たちも帰ろうか」
と光太郎がソニアに言う。
ソニアはしぶしぶといった表情で光太郎の隣について歩き始めた。
夕方、街は橙色に染まっており、電柱の影が長く伸びている。
二人は歩道を、少し離れて並んで歩いていた。
しばらくの間、二人は黙って歩いていた。
沈黙に耐えかねた光太郎が口火を切った。
「宗方…じゃなくてソニアって、前世の記憶、完全に覚えてるんだよな?」
ソニアは、はぁっと大きくわざとらしいため息を吐いてから、
「あんたってホントにデリカシー無いわね。リピーターに前世を聞くことは、とてもナイーブなことなのよ」
光太郎はまたやってしまった、という風に顔をしかめた。
「ごめん、僕、今までリピーターの友達いなかったから、そういうことわからなくて…」
二人は歩きながら話を続ける。
「はぁ、そんなに気になるなら一度だけ話してあげるから、もう聞いてこないでよね」
「あ、あぁ。わかった」
ソニアは少し空を仰いで、遠くを眺めながら話しを始めた。
「私はドラゴンのリピーターだと前に言ったわね?私の生い立ちだけ軽く説明するから、それで満足しなさいよね」
光太郎は真面目な顔で黙って頷く。
「私の母は、〈鉄の世界〉の西方に住むドラゴンだった。母の一族は知性が高く人語も理解する種族で、私もそ種族に囲まれて育った。私が前世の記憶に気付き始めたのは、多くのリピーターと同じように小学生の時あたりからね。それから段々とはっきりと前世の記憶を意識し出して、そのうち完全に思い出していたわ。はい、以上、お終い」
光太郎はソニアの話を聞いて、更にソニアの過去について興味が湧いてきたが、これ以上質問しても無駄だと思い、何も言わなかった。
「なるほど、やっぱり普通のリピーターなら小学遅くても中学までには完全に思い出すんだね」
「そうなるわね」
光太郎は難しい面持ちになって顎を擦り始める。
「それならリピーターたちは精神年齢が普通の人間より高いってことになるのかな」
「そうとうも言えないわね。そもそも文明のレベルや形態が〈鉄の世界〉とこっちの世界では差がありすぎるから、あまり関係ないわね。只、戦闘技術などはダンジョンに潜る時やスポーツなどに活かせるとは思うけど」
光太郎は感心してなんども頷く。
ソニアは呆れたように光太郎を見る。
「あんた、全然リピーターのこと知らないのね。趣味が読書というわりには」
光太郎はムッとして答える。
「読書は関係ないだろ。只、リピーターのことを話せる人が、いままで周りにいなかっただけで…」
「ふぅん」
ソニアはそれだけ言うとまた前を向いて歩き始めた。
それから二人は黙って歩き続けた。
つと、ソニアが立ち止まる・
「私、こっちだから。それじゃ」
「あ、あぁ、さよなら」
ソニアは足音高く、つかつかと去って行った。
そんなソニアの背中を眺めつつ光太郎は思った。
――もしかしたら、ソニアの前世と僕の前世に何か関係があったかもしれないし、思い出す切っ掛けの一つかもしれない。どんなに可能性が少なくても見過ごせない。いつか、もっと打ち砕けて話せるようになったら、もっと深く聞いてみよう。
光太郎はそう心に決めると、体を翻して、ソニアとは反対方向に向かって歩き始めた。




