表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/31

12

放課後、光太郎はカバンに荷物を詰めて、牧歌部へ向かう支度を始めた。

 ソニアの席を見ると、すでにソニアはいなかった。

 ――あいつ、もう部室に行ったのか…。

 どうせ同じ場所に行くんだから、一緒に行けばいいのに。

 光太郎は、ぶつくさ言いながら、ひとり部室へと向かった。


 光太郎が部室に入ると、ソニアは前日のように、奥の席で本を読んでいた。

 何かを書いていた梨宇洲が顔を上げる。

 「やぁ、光太郎くん」

 「お疲れ様です。梨宇洲部長」

 梨宇洲はちっちっちと指を左右に振る。

 「その呼び方、なんか固いなぁ。梨宇洲さんでいいよ。それか部長ってだけでもいいよ」

 光太郎は少し考えてから、

「それじゃあ梨宇洲さん、と呼ぶことにしますね」

「はいよぉ。取り敢えず座ってお茶でも」

光太郎は進められるがままに、席に着いてお茶を啜った。

それから梨宇洲に向かって、

「今日は何をするんですか?」

梨宇洲はお茶を啜りながら、のんびりとした調子で答えた。

「そうだねぇ、それじゃあ皆気になるダンジョンの話をしましょうかねぇ」

光太郎は、ハッと表情を変えて、固唾を飲む。

梨宇洲が机の上にあった書類を掃けて、席を立つ。

ホワイトボートのある方に向かって行き、それから二人に振り向いて話し始めた。

「えぇと、それじゃあイディアール学園の〈ダンジョン〉について説明します」

ソニアも本を閉じ、梨宇洲の方を見る。

「この学園にあるダンジョンは〈鉄の世界〉にあったダンジョンを模倣したものです。その模倣したダンジョンは、本校舎の隣にあるダンジョン棟にあります。まずこのダンジョン設立の目的は、生徒の身体的精神的鍛錬の為、次にリピーターの慰めの為、つまり前世の思いでを懐かしむ為に存在します。」

光太郎もソニアも真面目な表情で話を聞いている。

梨宇洲は話を続ける。

「次にダンジョン自体についてですが、このダンジョンに生息するモンスターは全てこのイディアール学園の教師、それもリピーターの教師が創造した、よく調整されたイミテーションです。なので殺傷能力はぎりぎりまで下げてあります。はっきり言いますと、生徒が死亡するようなことは滅多にありません。大怪我をすることはありますが」

光太郎は手に汗が滲むのを感じた。

ソニアは表情を変えずに聞いている。

「ダンジョンは難易度別に複数存在しています。なので我が部のように初心者が多い部活は、最低ランクのダンジョンからはじめていくことになるでしょう。ちなみに転生部同士の試合にもダンジョンは使われます。先に最深部に到達した部が勝利とか、先にあるモンスターを倒したら勝利など、複数のルールがあります。とりあえずこんなところかな」

一通り話し終えた梨宇洲は、自分の席に戻ってお茶を啜る。

光太郎は興奮気味になって、梨宇洲に尋ねる。

「それで、僕たち牧歌部はいつダンジョンに挑戦するんですか?」

梨宇洲がたしなめるように光太郎に告げる。

 「まぁまぁそんな焦らないで。皆がもっと仲良くなってからだねぇ。チームワークが大事だから。それに皆に怪我をさせるわけにもいかないからねぇ」

 光太郎は残念そうに、俯いて返事をする。

 「そうですよね。物事には順序がありますよね…」

 今までずっと口を噤んでいたソニアが口を開く。

「天野、あんた前世の記憶、戦闘技術も曖昧なんでしょ?そんなやつと同じパーティを組んでダンジョンになんて潜りたくないわよ」

明け透けなその言葉に光太郎は少しカチンときて言い返した。

「それはそうだけど、僕だって中学まで剣道部だったし…それに努力だってする。僕にはダンジョンに潜らないといけない理由があるんだし」

ソニアは鼻で笑ってから、顔を背けてまた本を読み始めた。

梨宇洲が間に入って制する。

「まぁまぁ、ダンジョンにはそのうち全員で行くから。焦らないでね。私がちゃんと率先していくから安心して」

梨宇洲はにこにことしながら光太郎を見る。

光太郎はばつが悪そうに俯く。

「わかり…ました」

パンッと梨宇洲は両手を叩く。

「それじゃあここで自己紹介の続きしましょうかね。ほらダンジョン行くにしてもチームワークが大事なんだし、皆お互いのことよくしらなくちゃね」

光太郎は気の無い返事をする。

「はぁ」

ソニアは本を閉じて、面倒くさそうに眉をひそめる。

梨宇洲はノリノリで、立ち上がる。

「はいっ!それじゃあまずあたしから。趣味は人間観察でぇす。好きなことは噂話。好きな食べ物は和菓子。彼氏は現在募集中でぇす。以上。質問は?」

光太郎が手を挙げる。

「はい、光太郎君どうぞ」

「前世では恋人はいましたか?」

――しん。

ピタリと空気が止まった。

ソニアが光太郎に近づいてひじ打ちしながら小声でささやく。

「馬鹿ねアンタ…デリカシーがないのよ」

光太郎は、ハッとして自分の質問に後悔した。

梨宇洲は苦笑いを張り付けながら答えた。

「あはは…前世ではまぁ結婚してたかな…」

光太郎は自分でした質問に後悔しながらも、

「そうですか…ありがとうございました」

と返事をした。

梨宇洲はパッと表情を変えて、

「じゃあ次は光太郎君、君の番だ」

話を振られた光太郎は、背筋をしゃんとして、立ち上がる。

「はいっ。えぇと、趣味は読書です。特にリピーター学とかにも興味があります。小学校から剣道をやっています。転生部がある学校に通いたくて田舎から出てきました。その為、現在親元を離れて一人暮らしです。好きな食べ物は果物全般で嫌いな食べ物はなすです。えぇと、以上です」

梨宇洲がいたずらっぽく光太郎に質問する。

「はいはい、恋人はいますか?」

光太郎は頭をぽりぽりと掻きながら、

「今は…いません」

と照れながら答えた。

今度は梨宇洲はソニアに向き直る。

「それじゃあ今度はソニアちゃんの番ね」

ソニアは小さくため息をついてから、席を立ち上がった。

「一人暮らし…。好きな食べ物は…肉。嫌いなことは…空腹」

光太郎は思わずブッと吹き出してしまった。

「小柄なのに、食べることが好きなんだね」

とストレートに言ってしまった。

ソニアは目を怒らせて、光太郎の方を向いて、

「…なによ、文句ある…」

黄色い瞳が爛々と輝く。

光太郎は自分の失言に気付いて、反省して答える。

「いやぁごめんごめん、言い過ぎたよ」

ソニアはフンッと鼻を鳴らして席に戻った。

梨宇洲がソニアに尋ねる。

「へぇ、ソニアちゃんも一人暮らしなんだぁ」

「えぇ、まぁ色々と事情がありまして…」

三人の自己紹介が終わって、梨宇洲は満足げにいる。

「うんいん、みんなのこと更に知ることができてうれしいよ」

梨宇洲はお茶を啜ってから続ける。

「今度、都合が合うとき、三人で食事でも行こうねぇ」

光太郎は乗り気で答える。

「いいですね、楽しそうです。是非行きましょう」

ソニアはつんとした表情のまま、

「私も、都合が合えばかまいませんよ…」

と本に目を向けたまま答えた。

「よしそれじゃあ、私がスケジュール組んでおくからね。じゃあこれからは自由行動で」

三人は思い思いの行動を始めた。

梨宇洲は山積みの本から、何かを調べてノートをとっている。

ソニアは、茶菓子を食べながら本を読んでいる。

光太郎はそわそわ落ち着きなく、本棚の前をうろうろしている。

――こんなのんびりしていていいのかなぁ…。

僕としては早くダンジョンに潜って、戦闘技術を身につけたいのに…。

でも、今の僕じゃ一人で行っても何もできやしない、くやしいけど。

光太郎は自分の無力さに嘆きつつ、本棚から、記憶を戻すのに関係ありそうな本を探し始めた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ