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01

 春、うらうらと太陽が照る気持ちの良い朝。

 閑静な新興住宅地の中にあるアパートの一室。

 開け放した窓から、カーテンが靡き、薫風が部屋に流れて来る。

 外には桜が花開き、風に散り舞っている。

 高校一年生の天野光太郎は、そんな外の風景を眺めやりながら一人席に着いて朝食をとっていた。

 ――今日から僕も高校生か…。

 光太郎は少し緊張した面持ちで、食パンをもさもさと頬張る。

 ちらりと時計を仰ぎ見る。まだ時間に余裕はありそうだ。

 「少し早めに行って、校舎でも見て回ろうかな」

 そう独りごちた後、コップ一杯の牛乳を一回で飲み干してから、カバンを背負った。

 リビングから玄関までの廊下には、市の指定した袋に入ったゴミが所狭しと置かれている。光太郎はちらりとそのゴミ袋達を一瞥し、靴を履き始める。

 光太郎は外に出ると玄関に鍵を閉め、アパートを後にした。


 光太郎は今年、一人暮らし始めたばかりだった。その理由は、どうしても行きたい高校があり、見事その高校に受かった光太郎は、両親の許しを得て自分だけこの街に引っ越して来たのだった。

 それだけに、光太郎の弾む気持ちは一入だった。足取りは軽やかで階段をとんとんとリズムにのって降りてゆき、心は上調子であった。

 光太郎がその高校を選んだ理由はその学校、イディアール学園に通う生徒達、そのものにあった。

イディアール学園は、〈リピーター〉の生徒が数多く在籍しているのが第一の理由だった。

 つまり、光太郎もその〈リピーター〉なのであった。

 〈リピーター〉とは、前世の記憶、こことは別の異世界〈鉄の世界〉の記憶を持ってこの世界に生まれてきた希少な人間の名称である。

 現在、〈リピーター〉は普通の人間と同じように生活し、社会に参加している。人無か前には、人権問題や差別問題などがあったが、今では全て解決し、なんら一般の人と隔たりは無くなっている。

 そして、イディアール学園には珍しい部活、〈転生部〉なるものが存在し、それがこの学校を選んだ第二の理由だった。

〈転生部〉とは、リピーター達がその前世の記憶を慰める為、模倣されたダンジョンに潜って戦闘をしたり、その前世〈鉄の世界〉に近い生活空間を作ったり、リピーター同士で腕を競い合ったりする、部活動のことである。転生部にはいくつもの派閥が存在し、リピーター達はそれぞれ、自分に合った派閥に所属する。

 光太郎は、リピーターの友人が欲しかったのだ。

 中学時代は、内気な性格が災いしこれといった友人が出来なかった。

 だからこそ、光太郎はこの高校生活に一層の期待をしていた。

 ――今度こそ、友達を作って…そして…。

 もう独りぼっちは嫌だ。友達が欲しい。欲を言えばリピーターの。

 頑張れ自分、出来るはずだ自分。

 光太郎は一人、息巻いた。


 学校までは徒歩で二十分程度だ。

 光太郎は余裕を持って家を出たので、まだ見慣れぬこの街をきょろきょろと見回しながらゆっくりと歩いていた。

 ――明日からは毎日見る事になるこの景色。

 今はどの風景も新鮮で、どことなく感動的だ。

 友達が出来たら、一緒にこの道を行き来するのだろうか。

 夕方、お互いのことを語り合いながら。

 そして、もしかしたらリピーター同士、前世のことなんかを言い合ったり。

 光太郎は、妄想を募らせて、空を仰ぎ見ながら歩いている。


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