04 新たな能力
「こちらへ」
そう言って兵士は奏達を先導する。
城の廊下を初めて見るが、所々に兵士が配置されていた。兵士達は元からここにいるのか、それとも逃げ出す人間を捕らえるためにいるのか、はたまた別の理由があるのか。奏は分からなかった。
窓から外を見る。あぁ、やはりここは異世界なのだと一目で分かった。
奏の居た異世界とは違い、空には濃い青空が広がっていた。大きな雲もあった。そして、空を浮く巨大な島もあった。そびえ立つ壁のようなものが城を囲むようにして存在しているのが遠くに見えた。これだけで異世界だと理解するのは簡単だろう。
奏達は城の傍にある大きな塔へと連れて来られ、内側を這うように昇っていく螺旋階段を三階分上がった。そして広い円の部屋へと辿り着く。
その部屋に、生徒達が兵士に連れられてやってくる。まとめで十人近い生徒が連れられてくることもあれば、茉莉達のように数名ずつ連れられてくることもあった。
「お、茉莉達も来たか」
奏達よりも先に来ていたらしい、男子の一人が茉莉に気が付き、彼女の元へと駆け寄る。つられて数名、男に続いた。何名かは明らかに浮いている奏に対し、胡乱な視線を向けた。
「バトル漫画みたいな能力が手に入るかもしれない。ここの人達の言ってることが本当ならさ」
「そんな能力より早く家に帰りたいんだけど」
無邪気にはしゃぐ男子生徒を一蹴したのは東雲だ。彼女は自分の彼氏を探しているらしかった。
「帰る事は不可能って説明されただろ」
「この国には帰る手段がないだけで、その手段を手に入れれば帰ることはできると言っていたわ」
男の反論に、茉莉が補足する。あの絶望的な世界でさえ脱出方法はあったのだから、こちらの世界にも何らかの方法で存在している可能性はあるだろう。
「菫!」
「あっ、一輝!」
東雲の恋人である御剣 一輝も部屋へと連れられて来た。一輝の方が先に東雲を見つけ、声をかける。声をかけられた東雲は彼氏の元に駆け寄り、茉莉達から少し離れて話していた。
誰とも話すことのない奏は、一通り揃ってきた生徒達の反応を見ていた。
不安そうな表情で話し合う数名の女子生徒。チートだなんだとよく分からない話で盛り上がる地味目な男子生徒達。複数名の女子に囲まれている端正な顔立ちの男が、不安がる女子達を宥めている所もあった。会話する気力もないのか、膝を抱えて座り込んでいる者もいた。
驚いたことに教師もいるようだった。奏が高校時代の時にはいなかった若い女の先生だ。あの若さだと恐らく教職課程で来ているのかもしれない。あまり頼りにされていないのか傍に数名の女子生徒がいるだけで、暗い顔をしていた。
「これからどうなるんでしょうか」
天野が手持無沙汰にそんな話題を振った。どうにもならないと、奏は思う。口には出さなかったが。
そもそも生殺与奪が一方的に相手にある中でこんなにも丁重な振る舞いをしているのだ。召喚した生徒達はよほど有益な存在なのか、もしくは居てもらわないと困るのかもしれない。
「少なくとも、落ち着くまでは帰ることは諦めるしかなさそうだな」
奏の言葉を聞いて、天野は落ち込んだ表情を見せた。天野も心の底ではそう思ってた。
部屋に入ってから数分、扉から入って来た人物は四人の兵士を従え、身形等から見ても明らかに上の人間と思われる人物だった。
「この度は、こちらの都合で一方的に呼び出したことを、深くお詫び申し上げます…………しかし、ここでの抗議は無意味だということを、どうか理解してもらいたい」
男は今一度、頭を下げて詫びた。帰る手段もなく、反抗する力もない茉莉達は不本意ながらも従うしかない。
ただ、ここまで下手に出るということは、やはり生徒達に真っ向から反抗されては困る理由があるのだろう。
不満そうな表情を浮かべる者が多数いるが、声を上げる者はいなかった。一部では周囲の人間とは逆に、期待に満ちた表情をしている者もいた。
「それでは、貴方達に覚醒の儀を執り行います。順番に一人ずつ、こちらに来て頂きたい」
そうして男は兵士に何かを命じた。兵士は適当に一人を選ぶ。選ばれたのは女子生徒だった。不安そうな表情を隠そうともせず、怯えた足取りで男の元へと向かった。
少女が男の元へ辿り着いた時、男は胸元から虹色の迷彩が施された銃を取り出した。女子生徒は怯え、後ずさった。
「大丈夫です。痛いものではありません」
そう言って男は少女の胸部を躊躇いもなく打ち抜いた。金属が破裂するような音が響き、女子生徒が二歩、三歩後ろへと下がる。
「何とも、ない……?」
撃たれた少女は確かに胸元に衝撃を感じたが、出血はおろか痛みもなかった。銃で撃たれるのを見て体を強張らせた生徒達も、少女の無事な姿を見て安堵の表情を浮かべる。
「これで終わりです。怖い思いをさせて申し訳ありませんでした」
男が軽く頭を下げた。少女は兵士に連れられ、他の生徒達とは少し離れた場所で待機するように命じられる。撃たれた少女は胸元に手を当てながら不思議そうにしていた。
兵士が次の人間を指さし、こちらへ来るように指示をする。その後は何事もなく、流れ作業で終わった。
茉莉達も、一人だけ浮いている奏も虹色の銃で撃たれ、待機スペースで待つ。全ての人間が等しく撃たれ、待機スペースへと移る。
あの虹色の銃が、撃たれた人間を奴隷にして従える効果を持つとかだったら終わりだな、奏は自嘲気味な笑みを浮かべた。
奏の考える最悪の予想はあっさりと外れた。
しばらくすると奏の記憶に何かが流れ込んできたのだ。それは周囲の人間も同じらしく、皆が戸惑ったり、思案している。
『剣を創造する能力』――奏が与えられた能力だ。本当にただ剣を作り出すだけ、形状の自由もなく、殆ど似通った物しか作れないようだ。
思っていたよりもしょぼい能力だったが、大声を上げて喜んでいる連中がいるのを見る限り、強い能力を得た人間もいるのだろう。
能力の使い方はいつの間にか頭の中に入っていた。念じるままに、剣を作ってみる。左手に銀色の光が円柱型に収束して破裂した。光の中から現れたのは両刃の短剣。非常に軽く、それでいて硬度、切れ味共にかなりの物だと一目で分かる。能力は地味だと思うが、剣の質は非常に良かった。
思い入れのない右手の剣を捨て、左手の剣を右手に渡す。
「能力、使ったんですか?」
「あぁ……俺のは地味だったよ」
一部始終を見ていたらしい茉莉に問われる。奏は苦笑しながら右手の剣を見せた。
「能力に関しては私達からは教えられることは何もございません。各自で使いこなせるよう、修練に励んでください」
果たして、どれだけ恐ろしい能力を持った奴ができたのか。
「それでは皆様お疲れでしょう。今日の所は一旦部屋でお休みください。二時間後、食事へ及びいたします」
そう言って男は部屋を出た。その際も丁寧にお辞儀を忘れない。
その際、傍にいた兵士が案内役を任され、奏達を塔から城の方へと先導する。往復しても中々道を覚えられそうにない位、複雑で巨大な建物だ。
無事、奏の与えられた部屋へと戻ってくる。部屋番号を識別するための文字が部屋の扉の上に書かれており、それを覚えて迷わないようにして欲しいと、兵士が道中で言っていた。奏は最初気を失っていた為初耳だが、皆は既に一度聞いている。
兵士が言うには迷惑行為の自重、立ち入り禁止区域の制限さえ守れば自由に行動して構わないとのことだった。自由行動という言葉を聞いて、男子だけではなく、女子も少しばかり嬉しそうな表情を浮かべていた。
部屋のベッドで横になり、天井を眺める。左手を上に掲げ、少し念じるだけで光と共に剣が現れる。その剣を床に投げ捨て、睡魔に身を委ねた。今寝たとしても、二時間後の食事には恐らく起きられるだろう。
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