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01  異世界 →Side;Hard→


 どこまでも広がる赤い空。橙色の光を放つ黒い太陽。赤黒い霧のような瘴気が地上を、森全体を覆っている。周りからはノイズ音のような鳴き声、恐怖心を煽りたてる震えたおぞましい鳴き声が絶え間なく響いていた。


 肉塊の異形が辺りをうろついていた。小刻みに体を震わせ、耳を覆いたくなるような鳴き声を上げながら。五メートルを軽く超える肉塊もいた。二足歩行の人型のものや、四足歩行の獣型のようなものもいた。奴らは等しく、黒々とした肉の塊でできていた。


 足元を見る。薄い赤の水溜りがあった。大量の虫が地面を這っていた。虫が足元から徐々に上へと這い上がってくるのを見て、ようやく黒崎くろさき みなとは我に返った。


「なんだよ、これ……何なんだよッ!!」


 虚空に向かって思わず叫んでしまうほど、事態は急展開を迎えていた。

 奏は高校からの帰宅途中、突然緑の光に呑まれた。次に視界が開けた時、世界は既にこの状態になっていた。


 もはや地球の面影は欠片もない世界には、見渡す限り絶望しかなかった。そこら中から感じる腐臭や、周りをうろつく肉塊の姿で思わず吐きそうになるのを堪える。


 ここは地球なのか、それすらも分からずに呆然と歩く。


 奏が動いた瞬間、周りの異形達がピタリと足を止めた。ぐるりと、顔はないが奏の方を向いた気がした。

 次の瞬間、奇怪な叫び声を上げながら、異形達は奏の元へと走り寄った。


「うわああああああああああああああああっ」


 躓き、転びそうになりながらもその場から逃げ出す。夢なら早く覚めてくれと、そう願うばかりだった。


 どれくらい走ったかは覚えていない、とにかく逃れようと一心不乱に走った。いつしか人の白骨だらけの村へと辿り着き、そこで落ちていた剣を拾った。このまま走って逃げても埒があかないと感じた奏は、雄叫びを上げて追ってきた異形へと剣を突き刺した。錆びていた剣は一発で折れてしまうが、一体の異形を行動不能にした。だが、まだ動いている上に、立ち上がりそうな雰囲気も見せていた。


 慌てて村の中へと逃げ込み使える武器か何かを探した。幸いなことに、そこそこ耐久性のありそうな剣や槍が幾つか見つかった。


 比較的軽めの両刃の剣を手に取り、追ってくる肉塊を一体一体倒していく。そこには技などなく、襲い掛かってくる異形に蹴りを食らわせ、後ずさる異形にありったけの力を込めて剣を突き刺すだけである。


 追ってきたのは四体だった。異形は足は速いが直線的な動きが多く、体のバランスが取れていない。故に蹴るだけで容易にバランスを崩し、攻撃のチャンスが現れる。


 息は切れ、既に体力は底を尽きかけている状態だった。さっさと四体を始末してどこかへ隠れなければならない。


 ガンガンと脳に鳴り響く頭痛と、限界以上に酷使した痛む肺に苛まれながら、四体の異形を何とか片づけることに成功する。異形の急所は分からないが、剣を突き入れれば血を吹きだして行動不能にはなることを知った。


 肩で息をして、今にも崩れ落ちそうなほど震えている膝に力を入れ、民家へと逃げ込む。ゾンビ物のように民家に異形がいたら困るが、中には異形どころか人もいなかった。


 民家には固いベッドがあった。それは地球にいた頃の自室にあったものと比べると大分お粗末な物だったが、それでも今の奏にとってはありがたいものだった。


 寝室のドアを閉め、木造りの机をドアの前に置いておく。それからようやく、倒れ込むようにしてベッドの上で横になった。安堵したからか、急激に強い眠気が襲い掛かってくる。奏はその眠気に対して抵抗せずに、身を任せた。


 起きたら、この悪夢が覚めていますようにと、縋る様な気持ちで祈りながら。奏は意識を手放した。



 何時間寝たのかは分からない。結局、この世界は夢ではなかった。


 慎重に外に出ると、まず飛び込んでくるのは赤黒い霧だ。次に鼻を劈くような腐臭だが、これはある程度慣れた。そして、異形の鳴き声と思わしき叫び声が森から時折響き渡って聞こえてくる。


 体は空腹を訴え、喉は渇き切っていた。


 右手に短い剣を携えて、一歩踏み出す。全身の産毛が逆立ち、体が震えて歯がガチガチと小さく鳴る。この世界に来てからは身の毛のよだつような恐怖を何度も感じてきた。

 剣を持つ手に力が籠る。


 こうして黒崎 奏は、死よりも恐ろしい世界、地獄と呼んでも差支えのない世界を旅することになった。




 

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