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Twin  作者: Leava
第二章 ―ディッピング・ソース―
9/36

結ばれる罠の手前で。 Ⅰ

「よいしょっ・・・とぉ」

「オーヴァ、それで最後だよー」

「了解」

ひとつふたつと、幌の中に荷物が運び込まれてゆく。その係はもちろん騎士であり、もちろん新人。オーヴァとネフタの2人で、城内と馬車のある西門までを何度も行き来していた。

「にしてもオーヴァ、カイ王子直々に指名って、何したの」

「何もしてねぇって。俺たちだってびっくりしてんだよ」

「ほんとに・・・?」

「本当だっての」

オーヴァが抱えているのは、カイをはじめ、同行人8人分のトランクのひとつ。ツッケンダーレはアルフェリア城下の隣町だが、西寄りに領主官邸を構えているためそれなりの距離がある。長期戦も考えたうえで、泊まることが必至と考えられたからの結果であるらしい。・・・・・・フィル談。

「同行人は毎回ちょくちょく変わるらしいし。側近とか居ねーんだな、カイ殿下って」

「うん。理由は聞いたことないんだけど、固定してないみたい」

「おーい2人とも、荷物運びは終わったー?」

遠くからカッゼの声が聞こえ、2人は振り向く。馬屋から何体かの馬を引き連れて、良く知る先輩たちが向かって来ていた。

「はい!つつがなく終了いたしました!」

「殿下や護衛兵の前でもそんな態度にしとけよオーヴァ」

調子のいい返しに呆れるスベジク。ふとあたり見まわして、カッゼにどうしたのかと尋ねられた。

「いや、フィルがいないなと思って。あいつも指名されているんだろ?」

「フィルなら、その・・・」

「ここです」

オーヴァの腕横からにょきっと生えてきたものに、尋ね人は反射的に身を反らした。

「びっ・・・くりしたぁ」

荷台の脇及びオーヴァの後ろから出て来たフィルは、その片腕に荷物ではなく、1冊の本を抱えていた。物凄く分厚い。

「何だ、それ」

「分かんない」

「分かんない!?」

「スベジク、馬の用意」

何か言いたげなスベジクだが、カッゼの制止によってそれはかなわない。連れてきた馬たちを、馬車に繋いでいく。

「確かオーヴァだけが、乗馬の資格取ってたよな」

「はい」

「俺は馬車引きの方にまわるから、この間と同じ形で乗ってくれ」

この間と同じ形、すなわちカッゼの後ろにネフタが乗り、もう一方はセル兄妹という形だ。

「「了解です」」

指示受けをしながら、間違えないよう丁重に固定する。一足先に手の空いたオーヴァは、休憩がてらに口を動かす。

「先輩って先導の方まで取ってるんですね」

「ん?ああ、乗馬の資格のことか。騎士級になったら、規定年齢を越えている奴は必ず取らないといけないことは知ってるだろ」

「知りませんでした」

「はぁ!?」

「乗馬の規定は18歳以上だけど、先導乗馬は20越えじゃないと取れないからね」

横からカッゼが優しく告げる。曰く、オーヴァたちは馬に乗る資格は取れるが、馬車引きの資格はまだ取れぬと。そりゃ知ったこっちゃねぇだろう、と。

「あれ、でもオーヴァ確か、刃奪の時に・・・」

ふと思い出したようにネフタが言った。スベジクが呆れるような表情を浮かべ、口を開き、

「無資格操縦により基本的には罰則だったね、非常事態でなければ」

違反を勧めた本人であるフィルが簡単に言ってのけた。

「その後すぐ取ったからセーフ!教官にだって筋がいいって褒められたんだぞ」

「「フィル騎士が後ろに乗っていれば」って抜けてる」

「うぐぐ」

「乗馬はコツもいるけど、案外頭も使うからオーヴァには不得意分野」

「はなから資格取る気ねぇフィルに言われたくねぇよ!」

「その気になれば、取れる」

「お前手綱握ったことねぇだろ!」

「まあまあ、そこまでにしろよ」

その突然に始まった喧嘩を止めたのは、ネフタでも先輩2人でもなかった。

「殿下!」

スベジクが即座に反応して、直立する。カッゼもネフタもそれに倣い、後の2人は―――睨み合ったまま。

馬鹿っ!と心の中で叫ぶスベジクの願い叶わず、お互いに次の発言を仕掛けようとして、

「いてっ!」

「いたっ」

アルギシア第三王子直々の拳骨を喰らった。






「喧嘩しても同じ馬には乗るんだな、あいつら」

カイの言葉に、向かいに座っていたネフタは苦笑い。話し相手に誰か馬車に乗ってくれという頼みに、公の立場上、それなりの名前を持つネフタしか応えることが出来なかったのだ。

かくして、カッゼの後ろに乗ることを拒んだフィルは、微妙な表情(に見えなくもない無表情)でオーヴァの後ろへ。馬車の窓からちらりと見える小声の喧嘩に、微笑ましさすら覚えてくる。

「ま、それは置いておいて。・・・本題だ。ネフタもいろいろ言ってくれ」

「本題?」

「ツッケンダーレの領主の話だよ」



アルギシア王国、ツッケンダーレ。ベトノ・ツッケンダーレが現在治めるその街は、1000年の歴史の中で、その半分ほどの時を経ている。名から「つけダレ」と略されることも、あったりなかったり。

今回は、領主ベトノが税金の横領をしている、その臣下より密かに告げられたことについて。報告される集められた金額と、実際の金額とがどうも食い違っているというのだ。

わざわざ個人の休暇までをも使って、密かにアルフェリアへと赴いたその臣下によれば、証拠はないという。どうしようもなくなった結果、王城の地方総合所までやむを得ず来た、と。

「誰かが故意に盗っていることは間違いないんでしょうか?」

「ああ。予算が使われた先に確認は入っているんだ。勿論内密にな。証拠共々バッチリ合ったそうだ」

「・・・あの」

「何だ?」

申し訳なさそうな表情をするネフタに、カイはすぐさま答えを待つ体制に。

「そういう話は、フィル騎士の方が多分理解も早ければ、解決策を叩き出しも上手いと思うんです」

「そうだろうな」

解ってるなら何故、ネフタの問いに、思わず窓の外に目を向けた。

兄が文句をぶつぶつ言っている後ろで、その肩を机にして本に噛り付く妹。刃奪をあしらい、平和的解決へと導いたというか、強引に丸めこんだその2人の力は、とても頼れるものであり、

「少し、恐れているんだろうな」

「恐れ・・・?」

「あいつらは強い。人を流すのが上手いオーヴァと、頭の切れるフィルと、これ以上ないタッグだとは思う。でもその強さはどこから来ているか、ネフタは知っているか?」

目が小さく見開いて、あ、と声にならない声が漏れたのを、カイは見た。

「確かに、何で2人は剣士なんでしょう・・・なんでわざわざ嫌いな貴族が群がる世界に」

「群がるって言い方悪いぞ」

「すみません・・・でも、」

「オーヴァに言われるよりマシ、だろ」

「ハイ」

「いずれ分かるだろ、何で云々(うんぬん)は」

「平和な理由だといいですね」

「そうだな」

その最後のやり取りに、嫌な予感がしたのは、双方同じだった。





道のりはさらに進み、王都アルフェリアを抜けたあたり。

急に揺れが起きて、話していた馬車中の2人は咄嗟とっさに構えをとりつつ、馬車の外へ急ぐ。狭い中にいるのは、どんな策を仕掛けられるか分からない以上危険だと考える頭くらいはある。

外は整備された道が真っ直ぐ通る、草原の真ん中だった。遠くには畑なども見えるが、まあまあ人は通らないところのはず。

しかし馬車の先には、避けていたはずの「人」が2人も立っていた。

「やあやあ、殿下御一行様。ようこそツッケンダーレへ」

黄緑が輝く髪をひとつに纏め、すらりと立つ姿は二十代前半くらいで、整った顔の青年。

「ようこそ、ツッケンダーレへ」

殿下御一行が皆セル兄妹の方を向く。馬から降りていた2人は、さっきまでの喧嘩が嘘のように息の合った頷きを返した。

美青年たちの顔は、瓜二つ。・・・つまりは双子。顔の違うセル兄妹よりも、説得のある証明だった。

「何のアイコンタクトかよく分からないけど、僕たちは命令を遂行するから」

「そうそう。・・・王城の御一行様を、引き返させるっていう命令」

そして金属の音が鳴り響き、切先は勿論こちらを向いていた。

「・・・ふん、若造がたったそれっぽっちで、止められるとでも思っているのか」

護衛兵のひとりが進み出た。瓜二つの顔の口元が緩む。

「護衛兵士」

敬称のみを、フィルは小さく呼んだ。しわだらけの顔に睨みつけられるが、動じない。

「オーヴァ」

「ああ。・・・相当覚悟して歯向かってくださいよ、護衛兵士」

「何を言っている、騎士の分際で我に」

意見をするな、という声は出なかった。


――――――敵を見る2人の目が、おかしい。


ネフタは思わず息を飲んだ。

2人とは同期だ。オーヴァとは同室だ。しかも3年も。

・・・その中で、オーヴァのこんなに嫌悪に満ちた目を、フィルの恐怖に怯えた目を、僕は。



その兄妹がとった行動は同じだった。

立場が上の人間だらけだろうが、そんなもの関係なかった。

空気を一切読まないといった体の敵2人に向けて、踏み出す。

「ああ、分かるんだね、君たちには」

楽しそうなひとりに、楽しそうなひとりが重ねる。

「もしかして僕らと同じなのかな?」

「――――――殺し屋くらい、どこでだって見るだろ」

低くくぐもったオーヴァの声。


刹那、その距離は剣の届く位置へと変わる。

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