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黒匣の世界式  作者: 喜怒 哀楽/Yu1
虹色の園
79/80

21話:運命に抗いし者達

 怪物が巣くう狂気の花園。

 今も尚、怪物達は堪えようのない怒りの捌け口を探していた。


「ギリリ……ッ」


「フー……ッ、フー……ッ」


 血走った眼に理性はなく、剥き出しとなった牙は獲物を引き裂かんと鋭く光る。

 人間の、身勝手さが生んだ哀れな生物、それが災獣キメラなのだ。


「しかし……懲りない連中ですわね。これだけ圧倒的な力の差を見せつけられても、まだ向かってきますの?」


 血塗られた刃を握り、横たわる大量の屍の中心に立つエルサリアが呆れた表情でそう呟く。

 先程から襲い掛かっては無残に斬り捨てられてきた災獣キメラ達。

 圧倒的な力を見せつければ野生の本能から怯むかと思ったが実際はその勢いが増すばかり。


「どうやら青髭侯爵は心無い戦闘兵器として完璧に仕上げているようですね。……まったくどちらが獣か判りかねますよ」


 バレットは苛立った声色と共に、次々と襲い来る災獣キメラを華麗に避けながら右手に握る猟銃で容赦なくその命を奪う。

 まるで救済だと言わんばかりに引き金を引く事に一切の迷いが無かった。


「だれか……」


 遠くから聞こえる子供のか細い声。

 血潮を浴びながらバレットは思い出したかのように平然とした表情で周囲を見渡し、一辺の災獣キメラを一掃した事を確認するとエルサリアに振り向く。


「それではお嬢、そろそろ子供達の救出に向かいましょうか」


 神を真似た愚かな人間が造りだしたその生物達は、遺伝子が変化した際にその怒りを顕すかのように”ある異変”を引き起こす場合があった。

 ごく稀だが、”古獣化”する個体が発見されたのだ。

 未だその原因は解明されておらず、いずれ災いをもたらす獣として災獣キメラを畏怖する者が当初は後を絶たなかったと言う。 

 それでも現代に至っては古獣化した個体の報告は無く、その現象はほぼ忘れられかけていた。

 欲に魅入られた愚か者達は更に強力な災獣キメラを、生物兵器マンティコアを求めるようになったのだ。


「グルォオオオオオオオオオオッ!!!!!」


「おらぁッ!!!」


 その被害者として、目の前で怒りに身を任せて立ち阻むアマリリスの太く赤黒い大きな拳に原点の式オリジンコードをぶつけて応戦するジン。

 強烈な衝撃波はやがて風を巻き起こし、二人を引き裂くように弾き飛ばして周囲に猛風を発生させる。


「ヘルメスっ!!」


 弾き飛ばされたジンの声に呼応して、後方から跳び出してきたヘルメスが僅かにぐらつくアマリリスの腫れあがった顔面を掴みにかかる。


「任せろ! 手加減は無しだ!」


 凛とした表情でアマリリスの顔を強く床に抑えつけようと手を伸ばすが――――


「――――グルルッ」


 アマリリスも二人に負けじ劣らず俊敏な動きで首を逸らし、差し迫るヘルメスの手を赤黒い瞳で確りと見つめて回避する。


「っ、」


 目標を失ったヘルメスはそのまま床に転がるようにして着地し、瞬時に魔銃を持ち替えすぐさまアマリリスの頭部を撃ち抜こうとするも――――


「グルォオオオオオオッ」


 怨嗟の叫び声が轟き、ここにきてアマリリスの身体に不気味な変化を起こす。


「これは……?」


 解読眼デコードを持つヘルメスにはその変化が明らかで、異常なその変化に驚愕の表情を浮かばせて瞳を大きく見開いた。

 アマリリスを構築する一部のコードが右手に集中して組み換えられていく。

 それは、まるで錬金術の構築が成されていく様にとても似ている。


「!?」


 異常を察知したヘルメスがトリガーの引き金に力を入れてアマリリスの顔に弾丸を撃ち込むが――――


「グルル……」


 アマリリスは太く赤黒い大きな腕でその弾丸全てを受け止めただけでなく、ある変化を引き起こしていた。

 弾丸を受けた右腕は、出血はおろか傷一つさえ負っておらず。

 いつの間にか、鋼の鎧のような物で覆われていた。


「なるほど……ジンとバレットが手こずるわけだ」


 ジンもその異変に気づき、直ぐにある事を思い出す。


「……俺の勘違いじゃなけりゃさっき吹き飛ばした鎧蛇とそっくりな腕じゃねぇかオイ」


 今のアマリリスの右腕は鎧が肌と一体化しており、その形状や色合い等も含め、災獣キメラの軍勢の中に紛れていた一匹、全身に鎧を纏っていた蛇と酷似していた。

 予想外の事態に戸惑いながらジンは自分が思い描いた最悪の事態を口にする。


「まさかこいつ、他の災獣キメラ共と同じ性質を持つ身体になれるわけじゃねぇだろうな……」


 この考えが当たっていれば厄介な事になる。

 ジルが造り出した災獣キメラ達の全ては戦闘用に特化されており、それぞれが未知数な能力を有しているのだ。

 ヘルメスは魔銃のリボルバーに弾を詰めていき、セットするとジンの言葉を受けた上で勇ましく魔銃を構えて告げる。 


「もしそうであったとしても、倒してしまえば何も問題は無いさ」


 改めてこうして共に立つと先程までとの違いがよくわかる。

 ヘルメスが居ると、いかなる状況の中でも自然と鼓舞されてしまう。

 心の中で、いかにヘルメスという存在が特別だったのかをジンは再確認させられてしまった。


「ケッ、違ぇねぇ」


 それが少しばかり悔しかったのかつい素っ気無い反応をしつつ、拳を握り清々しい笑みを浮かべてアマリリスを見つめる。

 二人でならどんな強敵にさえ、勝てる気がした。

 二人でなら、どんな道でも進める気がした。


「……参ったぜ」


 ヘルメスを危険から遠ざける事ばかりを考えていたジンだが、ここにきて考えに変化が起きていた。

 愛おしいからこそ危険とは無縁の世界に置き、自分だけが傷つこうとしていた。

 それでも、こうしてヘルメスが側に居てくれると力が漲ってしまう。


「嫌でも負ける気がしねぇ……ッ」

 

 闘志に燃える力強い眼となったジンの様子を確認したヘルメスも力強い笑みを浮かべていた。

 そして、ようやく後方から二人の人影が炎の中から悠々と近づく。


「おーほっほっほっ!」


 癪に障るその高笑いが聞こえてくればジンとヘルメスはげんなりとした表情でその方向に視線を向ける。


「あらあら、少しは刻み甲斐のあるデカブツを見つけたかと思えば、このわたくしを差し置いて随分と楽しそうじゃありませんの、ジン」


 エルサリアは両手に握った剣を勢いよく床に刺せば両腕を組み、まるで刃のように鋭い瞳を細める。

 破れた服装に身を包むジンの哀れな姿と、目の前の怪物を見てご満悦の様子で瞳を輝かせながら機嫌を良くしていく。


「何はともあれ、ジンさんとヘルメスさんが敵を引きつけてくれていたおかげで、檻に囚われていた子供達を解放する事に成功しました。誠にありがとうございます」


 血塗れの包帯に包まれた頭を深く下げ、完了と感謝の言葉を告げるバレット。

 その言葉に真っ先に反応したのはヘルメスだった。


「良かった……。本当に良かった……」


 胸に手を当てて我が身のように安堵の表情を浮かべるヘルメスを見て、ジンは完全に空になった檻の様子を見て不審に思い、怪しまれないようにそっとバレットに耳打ちをした。


「……おい、まだ全員生きてたのか?」


 その際、バレットも僅かな声でそっと告げる。


「ヘルメスさんのあの安堵の表情を崩したくなければ……聞かない方がお互いの為ですね」 


 作り笑いを浮かべて平然としてはいるが、この時のバレットの声色はどこか哀しみに包まれていた気がした。

 二人の間に流れる微妙な空気、子供達の無事を確認し終えると突然アマリリスの雄叫びが遮ってきた。


「グルァアアアアアアアアッ!!!!!」


 四人は同時に身構え、中心に立つアマリリスに慌てて視線を戻す。

 鎧と一体化した右腕と、血管が浮き出る赤黒い左腕を震わせて今まで以上に声を荒げていた。

 充血しか赤黒い瞳を隠す晴れ上がった瞼の隙間から、微かな涙が床へと零れ落ちるその様を見てバレットは慌てて周囲を見渡す。


「不味いですね、まさか”古獣化”の予兆か……」


 小さく呟かれた不穏な発言。

 瓦礫に埋もれた屋敷の奥へと続く入り口を見つけると慌てて指差し。


「お嬢! ヘルメスさん! 青髭侯爵は地下です! 我々はここで災獣キメラ達の足止めに徹しますのでさぁ早く!」


 アマリリスの愁いを帯びた雄叫びに、続々と災獣キメラの残党も群がってきている。

 足止め、この崩壊寸前の屋敷でそれが意味する事はただ一つ。

 己が命を賭してエルサリアとヘルメスをジルの元へと届けようと言うのだ。

 エルサリアは心配する素振りを見せず、両腕を組んだまま黙り込みながらその判断を汲む。


「……貴方だけならまだしも、ジンも残すつもりですの?」


「はは、ジンさんだからこそですよ。彼ならばきっと私と共に生還してくれるはずです。それに先程ですが、青髭侯爵が”聖剣”を所持していた事も確認しました」


「……!? わかりましたわ。……わたくしは聖剣の元に向かいますわ」


 エルサリアの了承を得て、次にヘルメスに目を向けると少しだけムスっとしていた。


「ジンにはまだ色々と文句が言い足りない……。それでも、自分はジンを信じている」


 その言葉を受け、全てが片付いた後の小言を想像して表情を引きつかせるジン。

 それでも、今の気合い十分な自分ならきっと乗り越えられるだろうと腹を決めた。


「結局、お前ぇがどんなドレス買ったのかまだ見てねぇからな。――――早くこの陰気臭い宴なんか終わらせて、ちゃんとした舞踏会で洒落込もうとしようぜ!」 

 

 両手の拳を強く叩きつけ、鋭い牙を覗かせアマリリスへと意識を集中させていく。


「ジン……」

 

 バケモノ対怪物、この戦いに終止符を打つべくジンの意気込みが増す。

 ヘルメスは心配そうにジンを見つめ、首を横に振って邪念を払うとすぐに凛とした表情を取り戻し。


「いくぞ! エル!」


 アマリリスに背を向けて屋敷の奥へと突き進む。


「ちょっとお待ちなさい! このわたくしに命令しないでくださる!?」


 それに続くようにアマリリスの横を通り過ぎてエルサリアが文句を垂れながらその後を追うと――――


「グルァアアアアッ!!!!!」


 床を力強く踏みつければその部分を粉々に破壊し、その勢いに任せて前方を跳び出し二人の少女の行く手を阻む。


「グルル……ッ」


 醜悪な風貌をした怪物に道を阻まれ二人は足を止めてしまう。


「このわたくしの覇道を邪魔するだなんて大層な石コロだこと――――斬り刻んで差し上げますわよ!」


「君に怨みは無いが、このまま自分達を阻もうと言うのであれば――――力づくで押し通らせてもらう!」 


 エルサリアは冷ややかな視線でアマリリスを威圧し、ヘルメスは左手の拳を鳴らして強引に進もうと一歩前に出る。


「グルルル……グルル……ッ」


 アマリリスも一歩も引かず、口元から怪しげな息を吐いて少女達を八つ裂きにすべく身体を僅かに動きだした瞬間――――


「――――グルァッ!?」


 青白い光の球体と、白い布で包まれた銃身がアマリリスの頭部へと渾身の一撃で叩きつけられ、数百キロあるであろう身体が容易く吹き飛ぶ。

 鬼の形相で睨みつけてきた二人の青年に不意をつかれ、そのまま遠くの壁へと激突させられそして瓦礫に埋もれていく。


「申し訳御座いません、お嬢。石コロめは私が退けておきますので、どうぞお気になさらずお進みください」


「ケッ、ぼさっとしてんじゃねぇぞお前ぇら! 絶対ぇ生き埋めなんかごめんだからな!」


 二人並んで少女達を送り出そうと、いつになく本気を出すジンとバレット。

 瓦礫に埋もれるアマリリスを睨みつけたまま、周囲の炎が迫っているにも関わらず闘志に満ちていた。

 ヘルメスとエルサリアは互いに顔を合わせて頷き、再び屋敷の奥へと向かう。

 それを見送るとジンは両手の指をわなわなと動かし拳の音を鳴らす。


「さぁて、俺とアンタのどっちが先にあいつを仕留めるか勝負でもすっか?」


 バレットは紐で結ばれた白い布に包まれた魔銃を紐解いていき。


「こう見えて私、勝負事は苦手ですが意外と嫌いではありませんよ?」

 

 互いに全力を出し尽くす。

 合致した想いが瓦礫を押し上げて這い上がる怪物の闘志すらも震え上がらせた。


「グルル……」


 着々とヘルメスとエルサリアが屋敷の奥を進んでいる間。

 その地下では既に用意を終えたジルが今か今かとその登場を待ちわびていた。





 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆





 時同じくして、フラウディーネ郊外での一幕。

 無作為に抉れ、亀裂の走った大地。

 それはまるで大規模な災害が起きたかのように、誰もが絶句する程に惨い風景へと成り果てていた。

 迸る亀裂の上には砂埃と血に染まるギリスティアの王従士ゴールデンドール達が無造作に骸を晒していた。


「……あぁぁっ! なんてっ! なんて素晴らしい力なんだっ!」


 鳥肌が立つその光景を目の当たりにすれば息を呑み、小刻みに身体を震わして喜びに満ちる仮面の青年。

 漆黒のコートを揺らめかしては自身の両手を見つめ、仮面の底で恍惚に満ちた笑みを浮かべていた。

 だが、ふと違和感に気づけば直ぐに興奮は冷めあがり、静かに砂埃に潜む影を見て険しく目を細める。


「……しかし、なるほど。我ながらこの圧倒的すぎる力に恐怖を抱いてしまったか。……少々加減が過ぎたみたいだ」


 前方で膝をつく王従士ゴールデンドールの残党。

 まだ息のある彼女達に向けて仮面の青年は冷たく告げる。


「その忠誠心と粘り強さにはほとほと呆れさせられるよ――――ロズマリアさん」

 

 大地を変貌させる程の崩界アポカリプスと呼ばれる謎の力を前に、ロズマリアが率いる隊が絶望の淵へと追いやられた今。

 皮肉交じりで自身を見下ろす仮面の青年に対し、ロズマリアはいつもの眠そうな瞳を鋭くさせて片膝をついた状態で苛立ちを顕わに声を震わす。


「……この程度の力で良い気になるだなんて、随分と生温い環境に身を置いてきたみたいですね」


 と、強がってみても青年の力は想像以上のものだった。

 コートやタイツは破れ、不健康な色白の肌を晒して怪我も負っている。

 耐え凌ぎこそしたが満身創痍とはとても言えない状況に追い込まれていた。

 ロズマリアが息巻く中それに続くように不気味な声が聞こえてくる。


「……そ、そうですよ。わ、わざわざ私の従順なる駒をふ、増やしてくれた事に、か、感謝を述べたいぐらいだ」


 死霊遣いと称されるロズマリアの従順な部下の一人、ゲーテも悔し紛れに息巻くが。


「ぅ……っ」


 ロズマリアの横で地面にうつ伏して身体がまるで言う事を利かない状況。

 不衛生な長髪を垂らし、その奥底で恨めしそうに仮面の青年を睨みつける事しかできないでいた。

 満身創痍の二人を他所に、次はどこか飄々とした声が緊迫としたこの状況に水を差す。


「ふぁ~……。もうフランちゃんはお眠だってのに面倒臭いにゃぁ~……」


 ただ一人。

 傷だらけのロズマリアとゲーテの後方で無傷のまま不機嫌そうに欠伸をして余裕を見せるフラン。

 ブロンドヘアーを鬱陶しそうに掻き分け、両腕を組めばジッと仮面の青年を睨みつけて威圧する。


「……ふぅ、相変わらず腹の立つ女だ。やはりそう簡単には崩れてくれませんか」


 フランの仕草と態度、その全てが気に入らなかった。

 仮面の青年は右手を仮面に這わせ、その姿を冷ややかな視線で射抜き罵倒する。


「フラン・ニコライ。貴方はいつもそうだった、無知でありながら全てを見透かしたように振る舞い賢者を気取る。僕は貴女のそういう所が――――ずっと大嫌いでしたよ」


 積年の怨みを孕んだような視線に気づくと、フランは鼻を鳴らして勝気な笑みを浮かべる。


「はっは~ん? それはフランちゃんも同じだってばぁ。そ・れ・にぃ、悪いケドケドぉ? ――――」


 どこか次の発言を気にかけるようにロズマリアやゲーテへと一瞬視線を送ると、観念したかのように仮面の青年を指さし。


「――――忘れるな、運命の歯車デウス・エクス・マキナは必ず”君達”を拒む」


 その発言を受け、ロズマリアの表情に思わず緊張感が走る。


「フラン・ニコライ……貴女……どこまで……」


 瞳を大きくしてフランを見つめてか細い声で驚くロズマリアを無視して、視線を仮面の青年から一切逸らそうとしないフラン。

 様々な疑念と疑惑が過る中。


「……ハッハッハッ!!!!!」


 仮面の青年が顔を覆いながら大きな笑い声をあげた。

 笑ってはいるがその声は怒りに満ちた危険なもので、ロズマリアとゲーテの注意を集めていく。

 やがてこの惨状に響き渡った笑い声が止めば、仮面の青年は血走った金色の瞳でフランを睨みつける。


「……物語の本質を見誤るなよ、フラン・ニコライ!」


 心地の良い涼しい声の面影は今では見る影もなく。

 この場に居る全ての者を震撼させる程に凶悪さを増していた。

 仮面の青年はコートの両ポケットに両手を仕舞い、呆れ果てて顎を少し上げて三人を見下す。


「……ふぅ。運命の歯車デウス・エクス・マキナが僕達を拒む? ”いつ”の話をしているんだい?」


 嫌な予感が脳裏を過り、咄嗟にフランの表情に焦りが見え始める。


「……何となく予想はしてたけど……”君達”まさか……ッ」


 その様子を嘲笑うかのように、仮面の青年は淡々と続ける。

 口調はとても静かで、それでいて重くのしかかる。


「――――既に、全ては”フェイク”が描く歪みの戯曲のままだ」


 仮面の青年の一言に、この場で唯一その意味を察したフランが歯ぎしりを鳴らすと――――


「っ!?」


「フラン・ニコライ!?」


 フランに襲い掛かったその事態にロズマリアの叫び声が響き渡る。

 仮面の青年が両手をコートのポケットに仕舞ったまま目にも止まらぬ速さでフランの横顔を狙って鋭い蹴りを浴びせたのだ。


「……フェイク、彼は本当に素晴らしい錬金術師だ。伝説の錬金術師アンチスミスですら彼の前では霞んでしまう程にね」


 一瞬の出来事で身動きが取れずに誰もその場から動く事ができなかった。

 それでも――――


「……いきなり女の子の顔に蹴り入れるとかあり得なくなくない?」


「ッ、……やり手の年増がいつまで可愛こぶってるつもりだ」


「うわっ! ひっどぉっ!」


 地面からどこからともなく伸びてきた液状の黄金が壁となり、鋭い一撃からフランを防いでいた。

 仮面の青年は足の痛みからすぐに距離を取り、ロズマリアもゲーテを放置して速やかに立ち上がってコートの襟元を整えて戦闘に復帰する。


「……フラン・ニコライ。貴女とあの男の会話からその関連性を含め、王都での調書は確実に逃れられませんよ」


 眠そうな瞳ながら澄ました表情で短くそう告げるロズマリアにげんなりとした表情を浮かべるフラン。


「はぁぁぁあ~……。だぁ~から、今回の依頼はノリ気じゃなかったんだよねぇ……。まぁ? これが済んだらすぐ逃げちゃうもんね~」


「私の黒薔薇の十字架ソウルオブ・ブラック・ロータスの正体を知っていてよくそのような事が言えますね。正直、不愉快です」


「そうだったねぇ……。はぁ……このままお久しギリスティアかぁ……考えただけで憂鬱になっちゃうねぇ。お願いだからちゃんと睡眠時間は頂戴ね……?」


 ロズマリアの固有式オリジナルコードの全貌を知っているからこそ、フランは素直に諦めて遠い瞳でこれから続くであろう尋問生活を想像して深い溜息を吐いてしまう。

 仮面の青年が一目置く程の実力者であるフランでさえ、三英傑ゴールデンナイトのロズマリアを相手取るには厳しいものがあった。


「残念ながら貴女の要望を聞き入れる義務が私にはありません。そして、非常に不愉快ですが……今から全ての十字架を解放します。せいぜい貴女は動けないゲーテを抱えて巻き添えを喰らわないように気をつけてください」


「ひ、ヒヒ、め、面目ありま、せ、せん……」


 部下を気遣う台詞と共に、冷気を纏っていよいよ本領を発揮すべく呼吸を長く吸って意識を集中させるロズマリア。

 傍で地面にうつ伏せになったゲーテを見るなり面倒臭そうにうなだれるフラン。


「……見たまんまフランちゃんってか弱い乙女だから男の人を担ぐ力なんて無いんだけどにゃぁ……」


「う、うはぁっ!? な、何ですかこれは!?」


 フランの右手から青白い光が灯れば地面から黄金の液体のような物質が溢れ、そのままゲーテを持ち上げる。


「こ、これは、じ、じ、実に興味深い錬金術だ……い、いつか、ぜ、ぜひ解剖……い、いや、か、か、解明してみたい……」


「……キモイ事ばっか言ってるとこのまま金ピカの銅像にしちゃうよ?」


 一刻の猶予を争う一大事。

 狂宴の幕引きが間もなく訪れるまでの、大人達の一幕だった。




 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆





 そして、真っ白く広い空間。

 壁に繋がれた大量の枷、不気味な液体が入ったフラスコや拷問器具の数々が並べられた机。

 そして、一際異彩を放つ玉座のようにこしらえられた黄金の椅子。


「楽園への旅路を前に少々、年甲斐もなくハメを外しすぎたようだな」


 紺色のマントを羽織るジルがまるで王のように鎮座して今回の騒動を振り返っていた。

 何度も訪れたこの地下実験施設。

 今も子供達や災獣キメラの血が壁に薄っすらと残されている。

 先日、襲撃された時の弾丸跡も残っており不穏な雰囲気を醸し出していた。


「……」


 メイド衣装を身に纏い、両手を不安そうに前で絡めてジルの横に立つコルチカム。

 先程からずっと絶望の表情を浮かべてじっと俯いて時が過ぎるのを待っていたい。


「しかし……実に長かった」


 ふと、ジルが噛み締めるようにこれまでの出来事を思い出す。


「聖処女がこの世を去ってからというものの、この世界は私にとって無価値も同然になってしまった」


 共に死線を潜り抜け、自身の心を奪った彼女。

 かつての想いを馳せ、締めつけられる胸の痛みを抑えるようにそっと手を重ねて苦しそうに表情を歪める。


「そもそも、この世界は全てが間違いだらけなのだよ。――――運命の歯車デウス・エクス・マキナこそが真の悪だと、大半の人間が気づく事なくその人生を終えてしまう」


 そっと閉じたジルの瞳から大粒の涙が次々と零れ落ちては床を濡らす。

 次第に感情が高ぶったジルは声を荒げ、憎き神への怒りを爆発させていく。


「……誰もが与えられた運命から逃れられずッ! その絶望に満ちた運命を全うさせられるッ!」


 絶望の淵に立たされた者だけに訪れるその苦悩は計り知れない。

 死をも選ぼうとしたジルにとって神を断絶せざるを得なかった。


「お、のれぇ……ッッ! どれだけ信仰しようとも、神は私達人間を貶めようと、抗えない呪いを授けるッ! あの聖処女、ジャンヌすらッ! 神を心から信仰しッ! 最期まで全てを愛し、全てを赦した彼女でさえも……ッッ!!!」


 両肩を必死に抱きしめ、神に対する怒りから全身を震え上がらせるジル。

 血走った眼は涙で溢れ、淀んだ狂気がこの一室を暗闇で覆う。


「神がッ、運命の歯車デウス・エクス・マキナが……ッ!! 私を狂気に導き、この身を奈落の底へと突き落としたのだッ!!! ならば必然ではないかッ!! 狂気が、”狂った錬金術師フェイク”がこの世界を救済するッ!! 否ッ!! 狂気こそが世界を正しき姿へと導くのだッ!!! 真に狂いしはこの世界式でありッ、断じて我々ではないッ!!! ハッハッ……ハッ、アッハッハッハッハァッ!!!」


「……」


 狂気に染まりきった者の傍らで、ずっと堪えるように言葉を閉ざしていたコルチカムもそろそろ精神的に辛くなり始めていた。

 今までにも狂気に堕ちた人間を何人も見てきたが、この男はその中でも群を抜いている。


「――――それにしても、だ」 


 近づく気配にジルの表情が険しく凍てつく。


「……あの役立たずめ、せっかく生物兵器マンティコアに昇華してやったというのに父の愛に報いる事さえできんのか」


 狂気に歪むその眼が刺す先、扉の向こう側へとコルチカムも震える眼で覗き込む。


「――――っ」


 本当に想定外の出来事ばかりが起こる。

 地上からこの地下施設に訪れるまでの経路には、ジルが用意していた大量の災獣キメラが居たはず。

 どれだけ有能な王従士ゴールデンドールとて無傷ではいられるはずもなかった。

 何よりも地上にはアマリリスが居るのだ。

 しかし、勢いよく開かれた扉の先には――――


「ふんっ、流石にこの狭い通路にあれだけの数を用意していると流石に小心者と捉えられてもおかしくないぞ、ドレェク侯爵」


 余裕の面持ちで堂々としたヘルメスとエルサリアが遂にジルの前へと現れた。


「まさに肉壁、と言っても過言ではありませんでしたわね。……はぁ。おかげで通るのに少し時間が掛かりましたわ」


 通路にひしめく災獣キメラ全てを倒し、この部屋へと辿り着いた二人の少女。

 息を切らした様子も無く、当然とばかりに目の前に立つ二人にコルチカムは驚きを隠せなかった。

 ジルは無言のまま足を組み、玉座に肘を乗せてつまらなさそうに少女達を見つめる。


「小心者、か。……年老いたとは言え、まさか小娘にこうも見くびられるとは憤慨他ならんな。それに、君はどうやら勘違いをしているようだ。ただ闇雲に突き進めば英雄として称えられるわけでもなし、ましてやそれを蛮勇とは言わんのだよ」


 つまらなさそうにジルは玉座のすぐ傍に立て掛けていた鞘に収まった剣を手に取り、勇気を履き違えるヘルメスの発言に溜息を吐く。


「君達は戦というものを何も理解していないようだ、君達のような小娘がギリスティアが誇る今の王従士ゴールデンドールとは……。ミストレア=サールージュ陛下も病に床伏せながら、さぞ苦労が絶えない事だろうな」


 病に犯され、ここ数年表立って姿を現さなかったミストレアを気に掛けるような台詞を吐くが、その言葉に心は込もっておらず、ただ目の前のヘルメスを見下し嘲笑うかのようだった。

 それを一切隠そうとせず、唇を歪ませ愉悦に浸るジルの姿にヘルメスは憤りを感じて眉間を険しくさせていく。


「……陛下の心配よりも自分の心配をしたらどうなんだ? 貴様が用意していた災獣キメラは既に自分達がほぼ殲滅した。もはや前線から隠れているだけの貴様に勝ち目は無いぞ」


 地下に潜んでいた災獣キメラ達はこの部屋に訪れるまでに全て掃討し終えている。

 地上に残る災獣キメラやアマリリスも、ジンとバレットが倒してくれると信じきっての発言。

 魔銃の銃口を突きつけ、勝利を確信するヘルメスの言動にジルはふと腰を上げる。


「面白い事を言うではないか。何をもって勝ちを確信した? 何をもって私の敗北は決した? 君は何もわかっていない、君は全てが早計すぎるのだよ」


 不穏な雰囲気を纏い、鞘に収まった剣を手にしたまま静かに立ち上がる。

 ヘルメスとコルチカムがその何気ない光景に息を呑む中。

 ――――エルサリアに変化が起きた。


「……やはり……間違いありませんわ……ッ」


 先程からジルの傍に立て掛けられていた剣を凝視しながらずっと黙っていたエルサリアが、瞳を大きく見開いて急に狂ったような笑みを零す。


「エル……?」


 エルサリアの豹変に疑問を感じつつ、ヘルメスはジルの横で粛々と立ち尽くす彼女が気がかりだった。

 最初に出会ったのはフラウディーネを訪れて初の夜を迎えた時だ。

 街頭で出くわした彼女は黒いフードを被りどこか影があった。

 晴れやかなメイド衣装に身を包んだ今も同じで、か弱い少女を演じつつ底知れぬ闇を感じ取る事ができた。

 

「コルチカム、固有式オリジナルコードを張り続けなさい。――――久方ぶりに幾分か興が乗ってきた」


 不気味な笑みを浮かべて瞳孔を開き、興奮した様子でジルは十字架が刻まれ、鎖が幾重にも繋がれた黄金の鞘から剣を取り出す。


「はい……」


 自ら戦いに赴くジルは久しく、コルチカムは緊張感走る表情で両手から青白い光を放つ。

 鞘から顔を出した剣はその刃に世界を映し、曇りない見事な美しさを兼ね備えていた。

 刀身には聖なる祈りの言葉が綴られており、製作者の願いが込めらている。

 大戦をジルと共に生き抜いた名剣、その生ける伝説を前にしてエルサリアは興奮でより口元を綻ばす。


「随分と探しましたわ。お爺様が打った……残る三本の内の一本……!」


 刀身に刻まれた特異な文字の羅列を見るなり組んでいた両腕を解き、拳を握りその剣を睨みつけるエルサリア。

 恍惚にも似たその妖艶な表情に心踊り、ジルも嬉しそうに告げた。


「ハハ、流石に気づいたか。そう! これは先代ウェーランドの一振り……”第六聖剣:オルレアン”ッ!!」


 高らかに掲げられたその聖剣に歯軋りを鳴らすエルサリアの傍でヘルメスもその名剣には視線を奪われてしまう。


「オルレアンと言えば、大戦時に聖処女が先代ウェーランドに授けられたとされる伝説の聖剣……。しかし、絶大な力を秘めながら戦争終結後まで鞘から一度も抜かれる事が無かったと聞く。それに! ギリスティアが戦後、その計り知れない力から個人が所有するには危険すぎるという事で回収したはずではなかったのか!?」


 振り返るとそこには我を取り戻したエルサリアが高飛車な表情と共に鼻を鳴らす。


「力に魅入られた愚か者が盗み出し、その所在がずっと不明になっていましたの。……やはりわたくしの睨んでいた通りでしたわ」


 そのまま素早く腰を低くしてコードの構築に移る。


「――――-第六聖剣:オルレアン! ウェーランドの名に懸けて”完全破壊”致しますわ!!」


 エルサリアが両手から青白い光を放ち、床に掌を這わせばジルの頭上から次々と青白い光の中から刀身の先端が現れ始める。


「っ、エルサリア=ウェーランドまでも……っ」


 咄嗟にその場から跳ぶように距離を取り、両手を青白く光らせるコルチカム。


「錬金術師か……っ」


 その様子を逃す事なく、解読眼デコードでヘルメスが直ぐに異変を探れば――――。


「エル、気をつけろ! ドレェク侯爵の身体が妙なコードで覆われたぞ……っ!!」


「関係ありませんわ! ただ刻むまでの事っ!!」


 四方から囲むように、数十の剣先がジルに向けられ放たれようとしている。

 このままではこの部屋そのものが破壊されかねない程の数。

 焦りと戸惑いを見せるヘルメスの助言が飛び交う中、ジルは喜々としてその光景に目を輝かせていた。


「おぉ……素晴らしい! これ程の遠隔構築を瞬時に成してみせるとは、若くして素晴らしい才に溢れているではないかっ!」


 目の前で繰り広げられるその遠隔構築からエルサリアの錬金術の腕前を高く評価し、賛辞の言葉を投げかけて余裕を見せていた。


「せいぜい余裕を浮かべたまま刻まれる事ですわねッ!!」


 即座に無数の剣がジルへと放たれる。


「ハハ!!」


 狂気に歪むその眼球に映るは鋭利な刃の先端。

 四方から放たれた剣は逃走経路を掌握し、もはや逃れる事は不可能。

 だが――――


「な――――」


「何だと――――」


 剣がジルの身体を貫こうとすれば、その全てが弾かれるようにして四方へと突き刺さっていく。

 ヘルメスが言っていたように、ジルの身体を覆う謎のコードが鎧のような役目を果たしていたのだ。


「……っ、」


 霧散する自身が構築した剣に目を向け、エルサリアは悔しそうにジルを睨みつけて第二波へ移ろうとするが――――


「失望だ、エルサリア=ウェーランド」


 剣の雨が止むとジルはオルレアンの剣先を二人に向け、悠々と立ちつくしたまま顎髭を撫でる。


「この程度であれば避けれたものをわざわざ全て受けてやったと言うのに……。やはり先代には遠く及ばんか。で、あれば我が絶対防御を崩す事は貴様らでは到底不可能だ」


 あれだけの剣が一斉に放たれたにも関わらず、ジルの身体には傷一つ無し。

 全ての剣が天井や床、壁と至る所に突き刺さっている。


「今、お爺様は……関係ありません事よ……ッ」


 床から二本の剣を構築して苛立ち交じりで立ち上がるエルサリア。

 その瞳は殺意に満ちており、心地良い殺気がジルの身体を震わせる。


「ハハ、関係ならあるさ」


 そして、ジルは愛おしそうにオルレアンに頬を擦りつけ。


「――――何故ならば、君は私とこのオルレアンを斬ると断言した。しかし……その程度の剣しか構築できないのであれば、私だけでなく、このオルレアンを破壊するなど夢のまた夢! そう、君の剣にはウェーランドの何たるかが欠けている。思い上がりも甚だしい!」


「っ、わたくしの剣は決してお爺様に引けを――――」


「笑止ッ!!」


 二本の剣を交互に激しく揺らして猛烈に反発するエルサリアの言葉を遮り、ジルはオルレアンを垂直になるよう持ちかえ、その哀れな姿を煌びやかな刃へと映す。


「自身の不出来に、才能の違いにそう喚き悲観するな小娘。――――見るが良いッ! この美しき刃をッ! 曇りなき魂の真髄をッ! これこそがウェーランドが誇る至高の一振りたるに相応しい聖剣と呼ばれるものだッ! ……貴様の造りだす贋作とは比べようもあるまい。この美麗なる刃に映りし己が哀れな姿に恥を知るが良いッ!!」


 謂れの無い罵倒の数々を受け、エルサリアは身をたじらせオルレアンに映る自身の姿を見て言葉を閉ざしてしまう。

 オルレアンの刃に映る今の自分。

 悔し紛れに剣を握り、唇を噛み締める姿は確かに愚かなものだった。

 迸る殺意がこの部屋を覆っていく。


「あぁぁぁあああっ、実に哀れだッ! 殺意だけは高く評価するが、君にウェーランドを名乗る資格は――――ッ!?」


「っ!?」


 突然だった。

 一発の弾丸がジルの眉間を打ち抜き、そのまま顔を後方へと仰け反らせて言葉を遮る。


「……お、のッ、れぇぇええッ」


 それでも顔に傷一つなく、ただ憤りを感じさせる無意味に行為でしかなかった。

 ジルはゆっくりと顔を戻し、愚かな犯人を力強く睨みつけて怒り吐き散らす。


「……まったくッ、パラケルスス殿はどういう躾をなさっていたんだ……ッ」


 狂気と怒りに濁った眼には、銃口から煙を吹かすヘルメスが映り込んでいた。

 殺気が迸る中、ヘルメスは堂々と魔銃を構えたままその凄みに怯む事なく告げる。


「生憎と残念ながら、父様には躾けられた記憶がないものでな」


 そして、徐々に表情を険しくさせていき。


「それよりも! 自分の友を貶す先程の発言を訂正してもらおうか!!」


「ヘルメス……」


 魔銃で風を斬り、凛々しく前に出て息巻くヘルメス。

 その姿に殺意を剥きだして俯きかけていたエルサリアが再び上を向く。

 友達、その言葉に少しだけ救われた気がした。


「だ、誰が友達ですの!? わたくしは別に友達だなんて思っていませんわ! なによりも貴女のような貧乏人とこの高貴なわたくしが釣り合うとでも――――」


「あー、はいはい。わかった、わかった。今は……とにかくその調子に戻ってくれれば、それで良いんだ」


 赤らんだ顔を近づけて詰め寄るエルサリアを手で押し退け、途端に真剣な表情でジルに振り向き幕引きを告げる。


「……さて、ギリスティアの王従士ゴールデンドールとして貴様の行い見過ごすわけにはいかない。――――我々は全力で貴様を討つ、命が惜しくば大人しく投降する事だ」


 左中指にハメられた王従士ゴールデンドールの証である指輪を見せつけ、ヘルメスはジルの逮捕に踏み出す。

 その横ではエルサリアが口を尖らせ、先程の件を引きずってぶつくさと文句を言っていた。


「別にわたくしはヘルメスの事を友達だなんて……」

 

 大戦の英雄を前に、怯む事の無い少女二人にジルは眉をヒクつかせオルレアンの刀身を震わす。


「身の程を知らぬ愚か者共が……。我が聖剣でその血肉、存分に撒き散らしてやろう……ッ」


 伝説の鍛冶師、ウェーランドが打ちし第六聖剣:オルレアン。

 未知の力を秘めたその刀身は、遂に彼の大戦ですら拝む事はなかった。

 それが今、奇しくもウェーランドの血筋とエーテルを継ぎし者に刃を向ける。

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