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黒匣の世界式  作者: 喜怒 哀楽/Yu1
虹色の園
77/80

19話:狂気に咲く花々

 襲撃者の登場で皮切りに相次ぐ爆発。

 その被害は拡大するばかりで遂に屋敷を半壊までに追い込んでいた。

 さながら逃げ惑う醜い虫の軍団。

 無様な姿を晒して必死に駆け回る参加者達。

 それとは別に、喚き蠢く声に掻き消されていく小さな声の数々が聞こえてくる。


「う、ぅぅ、……熱い、よ……」


 檻の中で衰弱死寸前に追い込まれた哀れな子供達の姿。

 じわり、じわりと、身体が溶けてしまいそうな高温が襲う。


「からだが……、うご……」


 鉄柵は高温と熱気を放ち、子供達の体力を問答無用で奪っていく。

 幼いながらに死を直感させていた。


「っ、……恐いよ……」


「まだ……死にたく、……な、……」


「…………」


 中には既に息絶えている者も居た。


「おか、あさん……、助、けて……」


 重たい瞼をかろうじて開き、見えるものと言えば――――


「どけっ! もうそこまで炎が迫ってんだっ! 早く進めよっ!」


「っ、前の連中は何をしているっ! 道を開けろっ!」


 迫りくる炎から逃げ惑う大人達の群れ。 

 とてつもない不安と恐怖に包まれ、小さな身体を震わせながら子供達は涙を流す。


「っ、ぅ、お家に、帰し、て……」


「誰、か……、私、たちを……」


 零れ落ちたすすり泣く声も無情に掻き消され、もはや誰の耳にも届かない。

 増していく熱気に喉を枯らし、今では泣き叫ぶ体力すら残っていなかった。

 この絶望的な状況、それは子供達だけにあらず。


「ギィシャアアアアアアッ!!」


「ガウッ!! ガウッ!!」 


「ジャァァァッ!!」


 同じく檻に囚われていた災獣キメラ達も同じ現状だった。

 憤怒の咆哮を響かせ、必死に檻を破ろうと身体を打ちつけていく災獣キメラ達。


「ガウ……ッ、ガ、ガアアアアアッ!!」


 堅牢な檻に全力の体当たりを繰り返していく内に、災獣キメラ達の身体は傷を負っていく。


「ゥゥ……ゥ、ァ、」


 至る箇所から血を流しながらもその行為は続いていく。


「……ギィ、ギイイイイイイッ!!!」


 理解していながらも、それでも止まらない。

 まるで人間に対する憎悪をぶつけるかのように、何度も何度も身体を傷つけてしまう。

 檻の中でこうして傷つき、命を弄ばれてきた存在を他所に。

 人間達は醜い争いを繰り広げていき、もう歯止めが利かない状況に発展していた。


「ふざけんなっ!! 俺が先だっ!! そこをどけぇっ!!」


「黙れ! 我々は貴族だ! 貴様らゴミとは全てが違うのだ!」


「……んだとッ、ぶっ殺してやるッ!!」


「み、皆さん落ち着いてください! とにかく……! 速やかに! 速やかに外へ!」


 黒服に誘導され出口に群がる参加者達、その大人数により出口が詰まってしまっている。

 入り乱れた列は封鎖状態を作りだし、黒服の誘導に従わない参加者達のせいで列は一向に進まない。

 そして遂に事件は起きたのだった。


「私が……私が先だあああああああああああああ」


「ぐぅ、き、貴様……っ」


 痺れを切らした一人の貴族が気を動転させ、もう一人の貴族の首に両手をかけてしまったのだ。


「い、いやぁあああああ」


 混乱は混乱を招き、もはや収集がつかない。

 狂気はすぐに伝染していき、事態は悪化していくばかりで黒服達の手ではもはや止められない。


「ちきしょう……っ!! こうなったらテメェら全員殺してでも俺は……っ!!」


「お、おい!? 止せっ! た、助け――――」


 一人の罪人が床に転がっていた壺を手に取り、そのまま他の罪人の頭上めがけて勢いよく振り下ろし――――


「フー……っ、フー……っ、」


 割れた壺の破片は散らばり、絨毯を真っ赤な血で染めあげていく。

 もはや貴族や罪人という立場に意味は無かった。





◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆





「はぁ……、はぁ……」


 灼熱の炎が朱色の光と熱気で包まれる中、出遅れた一人の貴族が出口を目指している。


「くそ……、どうしてこの私がこのような……!」


 謎の襲撃者により屋敷は混乱に陥り、一気に命の危機に晒されてしまった事にこの男は激怒していた。

 唇を恨めしそうに噛み、崩れ落ちた瓦礫の残骸を横切っていく。

 振り向けば四方から迫りくる業火、まさに生と死の境と言っても良いだろう。


「っ、おのれぇ……!!」


 腸が煮えくりかえる思いだ。


「遠方からわざわざこんな田舎町に来てやったと言うのに何たる有様! 公爵め……絶対に許さんぞ……ッ!」


 貴族は全身汗だらけで先程から左足を引きずりながら出口へと向かっていた。

 左足は爆破の衝撃で瓦礫の被害に遭い、高級感漂うズボンと左足部分が裂かれてしまった。

 大量の血を流しながら迸る激痛に顔を歪め、貴族特有の優雅さや気品といったものが消え失せている。

 更に、再び爆発音が聞こえて切羽詰った表情で天井を見上げてみれば――――


「っ!? う、――――うぁあああああああああああああッ」


 爆発の衝撃で脆くなった支柱が崩れ、支えを失った天井が次々と降り注ぎ男を下敷きにしてしまった。

 こうしてまた一人、参加者の命が奪われた。

 既に何人もの参加者達は瓦礫に埋もれたり、爆破に巻き込まれ、犠牲者は増え続けていく。




 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆





 余裕に満ちた表情で瞳に炎を映し、右手で持つ扇子で笑みが零れる口元を隠す一人の少女が悠々と出口に向かっていた。


「やれやれじゃ。もう少しあの偽人ホムンクルスを見物していたかったが、これ以上妾の着物が汚れては敵わん」


 髑髏の仮面を被る紺色の着物姿の少女、グラシア家の当主である。

 歩を進めていく内に瞳を微かに細め、床の上で灰となった絵画や壊れた骨董品に苦言を漏らす。


「ふぅ……憐れなものじゃ。価値ある物は全て妾が所有するべきなのじゃ。こうして、なまじ没落貴族などの手に渡ってしまったが故にその価値が無価値へと変わってしもうた。フ、呆れ果てたものじゃ」


 眉間にシワを寄せ、一気に表情を不機嫌そうに歪めていると背後から一人の大男が声をかけてくる。


「灰が付いてる」


 身体がとても大きく、屈強な身体つき。

 浅黒い肌をしており、牛の仮面越しに溜息を吐きながら少女の肩にそっと手を伸ばす。

 見かけによらずその繊細な手つきで少女の肌に触れぬよう付着していた灰を取り除いてやると――――


「……!?」


 真っ先に迫りくる危機に気づいたのは男の方だった。

 頭上から何かが崩れる嫌な聞こえ、慌てて天井を見上げれば――――


「危ない!」


 天井に亀裂が走っており間もなく崩れ落ちてくる。

 咄嗟に男はその太い両腕で少女を強引に引き寄せ。


「っ、こらッ!?」


 鋭く重量のある瓦礫の数々。

 少女を抱きかかえながら男はその全てを背中で受け止めていく。


「……」


 次々と瓦礫に背中は抉られていき、血塗れの肉部分を顕にしていく。


「……」


 背中から大量に流れる血液、そして剥き出しとなった肉部分。

 それでも一切動じる事なく、瓦礫の雨が降り止むと少女の無事を確認する。

 常人ならばショックに耐え切れず死に至っていてもおかしくない程の深手だ。

 しかし、男は一切叫び声も上げず少女に傷一つ無い事を確認すると徐々に身体を引き離して安堵した。


「無事で良かった」


 大量の瓦礫が床に減り込んでおり、判断が一瞬でも遅れたていたら少女がただの肉塊に成り果てていた事だろう。

 しかし、少女は何故か両肩を震わせながら男を睨みつけて怒り顕だった。


「無事なものかッ!! よくもその薄汚い手で妾に触れおったなッ!!」


 扇子の先端を勢いよく男の顎へ突き立て、唾を床に吐き捨てて嫌悪感を滲みだす。


「痴れ者め、……反吐が出るわ。ガラクタ風情が立場を弁えよ」


 仮にも命を救ってくれた相手に対し、少女は傲慢な態度で扇子の先端でなじるように男の顎を刺激し続ける。

 それでも男は決して怒る事なく、淡々と謝罪を口にするだけであった。


「ごめん」


「貴様……っ」


 心無い人形のような男の態度は余計に少女の逆鱗を刺激してしまう。


「この脳無しがっ! いつもいつも妾の命令に背きおって……っ、あの時もそうじゃ! 妾は”確実に姉君とオプリヌスを殺せ”と命じていたはずじゃぞ!」 


 どれだけ罵倒しようと少女の怒りは収まりそうになかった。

 しかし、このまま一方的に続けていても埒が明かない。

 先程から男は黙ったまま何の反応も見せず、炎もすぐそこまで迫り来ているのだ。


「チッ」


 少女は露骨に舌打ちをした後、扇子を胸の谷間に仕舞い、男を置き去りにして足早に出口へと向かう。


「……ごめん」


 ぽつりと零れたその言葉には哀しみを感じ取れる。

 男は両肩を落としながら重い足取りでどれだけ拒絶されようとも少女を案じて後を追う。





◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆





 もう屋敷には殆ど参加者は残っていない。


「誰、か……」


 無事、生き延びてこの屋敷から脱出した者の殆どが曲者揃いばかり。

 力を持たざる者はどこの世界であろうと生き延びる事は出来ない。


「私を……、助け、ろ……、金なら……いくらでも……」


 もはや虫の息、か細い男の声が聞こえる。

 この男は年老いた貴族で今は両足が瓦礫に挟まり、身動きが一切とれず置き去りにされていた。


「……ぅ、た、すけてくれ……」


 諦めかけているとこちらに向かって歩み寄り、目の前で立ち止まった一人の罪人の姿が現れた。

 貴族は藁にもすがる思いで必死に助けを求めるように手を差し伸べるが。


「随分と無様じゃねぇか――――なぁ?」


 ハイエナの仮面を被る男の冷たい言葉に表情を青ざめる貴族。

 すると男は屈み込み、貴族の顔をいきなり右手で鷲掴みにしてきた。


「な……、なにを……する、わたしは、……っ、やみきぞ――――」


「――――だから何だってんだ?」


 容赦なく一刀両断して切り捨てる男の発言に貴族は掴まれた手の隙間から目を泳がせていた。

 更に今の現状を嘲笑うように男は口にする。


「テメェの今の状況をよーく見てみろよ。全身灰まみれの小汚ねぇただのジジイじゃねぇか。情けねぇったらありゃしねぇよな?」


「っ、……な、ん、だ……と……っ」


 貴族としてのプライドを罪人に傷つけられ、血走った眼差しで睨みつけると男は掌から青白い光を放つ。


「ま、さか……!? よ、よせ……っ」


 すぐにそれが錬金術である事がわかった貴族は全身から汗を噴出す。

 しかし、それでも男は錬金術の発動を止めようとはしなかった。


「闇貴族が何だ? 四大国家が何だ? 権力や法なんざ俺にとっちゃゴミと変わらねぇ。何の価値もありゃしねぇんだよ」


「ひっ!?」


 貴族は掌から伝わる異変に気付き、恐怖で目を見開くと――――


「が、ぁ、……――――」


 全身から血飛沫を上げて息絶えた。

 男はつまらなさそうに貴族の顔から手を離して立ちあがり、死体となった貴族の頭を踏みつけて見下ろす。


「ハッ、せいぜい俺のコードの糧にしてやるよ」


 と、右手に付着した血を舌で舐めとる。

 その様子を途中から見ていた部下の一人が足早に近づいてきて背後から声をかけてきた。


「……ボス。この騒ぎに乗じてドレェクが所有していた”例のブツ”を運び終えました」


 部下の報告を受け、男は口元を吊り上げてだるそうに顔を向ける。


「よし、これで今回の商談は成立だ。たっく、相変わらずやり口が回りくどいんだよなぁ」


「もはやこの場所に用はありません。次にはアーデンナイルとの商談も控えてます、この辺が頃合いかと思いますが」


 男は少し視線を上げて何かを考え込みながら口を開く。


「……やれやれ。”奴ら”め、次から次へと面倒を押しつけてきやがる。だが、まぁ良いさ――――今回は偽人ホムンクルスの確認もできた事だ」


 不穏な発言を残し、奴隷商会を束ねる赤髪の男は部下と共に静かな足取りで出口へと向かう。


「さて、こいつはもう必要ねぇな」


 その際、燃え盛る炎へとハイエナの仮面を外して投げ捨て。


「クク」


 今回の騒ぎを思い出してほくそ笑みながら独り言を呟く。 


「それにしても今回は流石に想定外だったんだろうな。この場に居ねぇ時点で何となく察しはついてたが、珍しく苦戦してるじゃねぇか」


 瞳の中で揺れる炎の渦。


「でも、安心しろ。俺がちゃーんと仕事はしておいてやったぜ」


 ある人物の困り果てた姿を想像しながら口元を歪ませ、嬉しそうに腹を空かせたハイエナの如く赤い舌を出すと――――。


「この貸しは高くつくぜ? ――――ロズマリア」


 男の舌には”薔薇が絡みつく十字架の刺青”が刻まれていた。


「ハーハッハッハッ!!」


 まるで他者の不幸を噛みしめるように、男は腹の底から笑い声をあげてこの場を後にした。




 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆





 柱の数本が崩れた事で重力に耐え切れなくなった天井の一部が降り注ぎ、爆破によって引き起こされた炎の勢いも増すばかり。

 苦肉の策ではあったが、全てバレットの仕向けた事。

 自分達まで危険に晒されてしまうが、これで厄介な闇貴族や罪人の数を減らす事ができた。


「グルァアアアアアアアアアアアッ!!!!!」


 迸る怒りを殺意に変え、アマリリスが地鳴りを起こして突進する中。


「――――貴方達を相手取るにはこれでもまだ不十分と言えますがね」


 バレットが澄ました瞳でジルとアマリリスに冷たい視線を注いでいた。

 その横でジンは蒼のカラーコンタクトが入った鋭い瞳で前方を睨みつけ。


「――――そろそろ幕引きといこうぜ」


 アマリリスを前に怯む様子の無い二人の邪魔者に対し、ジルは憤りを感じていた。

 恨めしそうに表情をしかめると、自身の身体を支えていたコルチカムを乱暴に引き離して顔を上げる。

 

「フ……ッ、若造共が……。――――アマリリス!! 全力で奴らを仕留めなさい!!」


「グワアアアアアアアッ!!!!!」


 間もなくアマリリスは二人と衝突する。

 今まで構築してきた生物兵器マンティコアの中でも群を抜く自信作だ。

 圧倒的な力の前に無残にも捻じ伏せられていく二人を想像すると自然と歪んだ笑みが零れてしまう。

 息巻きながら迫りくる怪物を前にジンは動じる事なく、シャツの首元に左手を添える。


「しかっし、いくらヘルメスの為とは言え、まさかお前ぇと共闘するなんてな」


「私もジンさんと肩を並べて戦えるだなんてとても光栄に思います」


 バレットはいつも通り爽やかな笑顔を浮かべ、どこから取り出したのか不明な猟銃を構えていた。

 思ってもいない台詞を並べ終えるとすぐに腰を低くして、真剣な表情でアマリリスを狙う。


「……さて、と」


 頭の包帯こそ取れてはいるが、コートや衣類の下にはアマリリスから受けた傷跡がまだ残っている。

 よく見ると銃を構えるバレットの両腕が微かに震えて標準を邪魔していた。

 敢えて気づいていながら、ジンはそれを心配する素振りを見せず静かにシャツのボタンを外していくだけだった。


「まさか言い訳なんてしねぇよな?」


 たった一言だけそう告げるとバレットは瞳を細め僅かに鼻を鳴らす。


「私の心配よりも、ジンさんこそ相手は怪物揃いですよ? せいぜい気を付けてくださいね」


「ケッ! 随分と余裕じゃねぇか、でも―――――」


 首元のボタンを外し終えたジンはスーツの上着を勢いよく床に投げ捨てると、両手を広げて指の骨を鳴らす。


「一応気に留めといてやんよ――――!!」


 一気にその場から跳び出し、距離を詰めるアマリリスに真っ向から立ち向かう。


「グルァアアアアッ!!!」


 おびただしい咆哮を鳴らし、近づいてきたジンに腕を大きく振り被る。

 互いに距離を縮まった状態。

 先手を打ったのはアマリリスだ。

 振り上げた拳でジンの頭を叩き潰そうと漆黒の剛腕を振り下ろすが――――


「囮としては最適ですね」


 背後で待機していたバレットがアマリリスの腹部を狙って猟銃から重い一撃を放つ。

 しかし、その先にはアマリリスと真っ向から対峙しているジンが居る。

 つまり、ジンもろとも弾丸で貫こうとしているのだ。


「あの銃野郎……っ」


 火薬の匂い、そして銃声に気づいたジンは弾丸の餌食になるまいと振り向く事なく慌てて上へと跳ぶ。

 その到達点は自らを影で覆う程の巨体を持つアマリリスの頭上へと達していた。


「グ、ルル……っ!?」


 目の前から狙いを失った剛腕が虚しく空振りで終わるや、アマリリスはフードの底に隠れる赤黒い瞳で上に逃げたジンを捉えるがその瞬間――――


「グルゥッァアアアッアアッ!!??」


 猟銃の弾丸が腹部に直撃して緑の血飛沫をあげながら後ろに仰け反ってしまう。

 そして――――


「お前ぇえに恨みはねぇが大人しく寝ててもらうぜ――――!」 


 左手から原点のオリジンコードを展開していたジンが落下の勢いを加えた重たい一撃をアマリリスの顔面へとぶち込む。


「うらぁあああああッッ」


「グギャアアアッアアアッ!?」


 怪物の叫びと共に突風が周囲に吹き荒れ炎が大きく揺らめいた。


「グギギ……、ル……、ゥ……ガアッ、ァッ」


 倒れる直前で浮き上がる筋力を働かせて何とか踏み留まったアマリリス。

 しかし、


「やれやれ――――まさか、この程度で終わるとでもお思いですか」


「グルァっ!?」


 気づけば冷たく微笑むバレットがいつの間にかアマリリスの懐へと潜り込んでいた。

 赤黒い瞳を大きく見開き、一瞬動きが止まって次の行動に時間を要していると。


「反撃の機会は与えません」


 猟銃を床に投げ捨て、バレットはすかさず両方の袖口から二丁のマスケットライフルを取り出し、先ずは右手で持つライフルの銃口をアマリリスの左胸へと密着させ。


「さぁ、死の舞踏会――――開幕といきましょうか」


 容赦なく引き金を引く。


「グギャァアアア!?」


 引き金を引けば火花が舞い、零距離から放たれた弾丸はそのままアマリリスの左胸を貫いた。

 飛び散る緑の液体と怪物の悲痛な叫び声。

 身体が貫通した事で流石のアマリリスも耐え切れずよろめいてしまう。

 それでもバレットは一切休む暇を与えない。


「……なるほど、心臓はここではありませんでしたか」


 続いて左手に持つライフルを今度は右胸に密着させて直ぐに弾丸を放つ。


「グギィイイイイイイイアアアアアアッ」

 

 発砲の衝撃でアマリリスは弾けるように大きく右へと身体をよじらせて後退した。

 しかし、人間と異なる構造をしているせいで心臓部分がわからず一撃で死に追いやる事ができなかった。


「……またハズレですか。ですが踊りはまだ始まったばかりです」


 単発式のライフルは一度撃ってしまえば再び弾を込めなければ発砲できない。

 バレットが握る二丁のライフルは全て撃ち尽くしており、これ以上続けて同じ攻撃がされる事は無い。


「グル……ッ!!」


 この機を逃すまいとアマリリスが痛みを激昂へと変え、両腕で目の前のバレットを絞め殺そうと反撃に出ようとするが。


「そう簡単にいくわけねぇだろうがっ!!」


 死角から現れたジンがアマリリスの横腹に原点の式オリジンコードを叩き込んで遠くへと吹き飛ばす。


「グルォォォオオオオ!?」


 数トンあるはずのアマリリスは軽々と吹き飛ばされて炎の中へと姿を消してしまった。


「ざまぁみろっ!」


 ジンが勝ち誇ったような笑みを浮かべていると。


「……あん?」


 ふと違和感に気づいて上を見上げれば、爆破音と共に天井の残骸が垂直に落下してきていた。


「ちっ、どんだけ設置してたんだよ……っ」


 大量の瓦礫が降り注ぐ直前に、いくつもの銃声が騒音を奏でられた。

 いくつもの鳴り響く銃声に思わずジンは両耳を塞いで姿勢を低くさせる。


「う、うっせぇっ!!」


 瓦礫は全て落下する前に粉々になり、ジンの頭上から小粒程度の雨となって降り注ぐ。

 残骸の雨を浴びながらジンが視線を向けるとそこには足元に大量のライフルを山積みにしたバレットが誇らしげな笑みを浮かべていた。

 その光景を間抜けな表情を浮かべて唖然とした状態で見つめていたジンに対し、バレットは爽やかな笑顔で憎たらしく告げるのだった。


「助け合いの精神は大事ですよね」


「うっせぇよっ!! つか、お前ぇいつもそんだけの銃どこに隠し持ってんだよ!?」


「ハハ……。まぁまぁ、お互い無事なんですから細かい事はお気になさらず」


 掴み掛りそうな勢いで立ち上がり詰め寄るジンに、バレットは両手を小さく曲げて困った様子で話を逸らそうとしていた。

 花畑で対峙した時もそうだった。

 バレットはまるで手品師のようにいくつもの種類の銃を隠し持っていた。 


「グルル……」


 束の間の和やかな雰囲気が、炎の渦の向こうから聞こえてきたアマリリスの呻き声に掻き消された。

 二人が真剣な表情で渦の奥へと視線を向けると、後方から少女の叫びが聞こえてくる。


「よくもアマリリスを……っ!!」


 先程の攻防を大人しく見守っていたコルチカムだが、アマリリスを傷つけていく二人に我慢の限界がきてしまったようで思わず身を乗り出そうとしていたが。


「止せコルチカム。アマリリスならば心配等無用だ」


 すぐ側に居たジルが冷ややかな視線と言葉でそれを制止する。


「ですが……」


 歯がゆい思いで言葉を閉ざすコルチカムの頭にジルはそっと手を置き。

 聞き分けの無いコルチカムに溜息を吐くとゆっくりと言葉を紡ぐ。


「……そんなに”妹”が心配か?」


「っ、」


 その瞬間、コルチカムの表情は真っ青になり身体を震わす。

 俯くコルチカムにジルは更に続けた。


「あれは間抜けな魔女の力を用いて私が生み出した最高傑作。他の災獣キメラとは違い、”人間を基盤にして構築した最強の”生物兵器マンティコアなのだ。奴ら程度に敗れるわけがないさ」


 コルチカムはかつて人間の姿をしていた頃の”彼女”を思い出していた。

 アマリリスはとても大人しく、素直でとても良い子だった。

 二人が過ごしてきた時間は僅かなものだったが、その記憶は今も鮮明に残っている。

 かけがえの無い大切な思い出だ。


「……グルル」


 辛うじて残された微かな自我。

 アマリリスは炎の渦に囲われながら、ふと天井を見上げていた。

 怪物は今、何を想っているのか。


「アマリリス……」


 ジルに奪われた少女達の日常、アマリリスとの出会いと別れが脳を通り過ぎていく。




◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆





 その日は唐突に訪れた。


「――――さて。君にも新しい名前を付けてあげよう」


 ジルは養子として引き取った子供達全員に花の名を与えていた。


「……可哀想に、悪戯に奪われてしまった幸せな日々。決して忘れたくはないだろう、いや忘れてはいけない。だからこそお前にはこの名を与えよう――――コルチカム」


 コルチカムの花言葉、それは――――奪われた最良の日々。


 ジルに引き取られると同時に、新たな名を得たコルチカム。

 こうして子供たちに花の名を与える理由は、辛い過去を背負う子供達に少しでも花のように美しく輝かしい未来を授けたいという願いからだとジルは言っていた。

 真意は不明だが、ジルはこうして美しい花々に囲まれて生活を送っていたのだ。

 そんなある日の出来事。

 

「ねぇ、お姉ちゃん?」


「……」


 施設での生活に上手く馴染めなかったコルチカムは子供達が屋敷の庭で楽しそうにはしゃぐ中、木の側で膝を抱えていた。

 すると孤立していたコルチカムの元に、アマリリスと呼ばれる可憐な少女が近寄ってきたのだ。


「ねぇ? 何でお姉ちゃんは一人なの?」


「……」


 反応に困った末、視線を逸らして無視を決め込むコルチカム。

 様々な草花で彩られた庭園、子供達のはしゃぐ姿。

 それら全てが恨めしく、羨ましい光景だった。

 更に小さく身体を丸めると、アマリリスは嬉しそうに横へと座り込む。


「ねぇねぇ、お姉ちゃんは皆と遊ばないの?」


 無垢な笑顔と共に首を傾げるアマリリス。

 燦々と太陽が降り注ぐ中、輝く金色の髪が少しばかりアマリリスを大人びた雰囲気に演出していた。

 決して豪華なドレスを纏っているわけでもないのに、とてもその容姿は美しく見えた。

 屈託の無い、自分には無い純粋な瞳に射抜かれたコルチカムはどこか居た堪れない気持ちになってしまう。

 うんざりとして、素っ気ない態度をとってしまう。


「あんたには関係ない……。別にあたしはあんた達と仲良くする必要なんて無いんだから……」


 コルチカムが引き取られた経緯をアマリリスは知る由も無かった。

 何も話すつもりも、理解されようとも思わない。

 なるべく子供達との関わりを避け、遠ざける事しか考えていなかった。

 こうして冷たく当たる事で自分からアマリリスを引き離そうとするが――――


「わぁっ!?」


 不機嫌そうに両膝で顔を隠していたコルチカムが顔を上げると、アマリリスは驚いた表情を浮かべていた。

 理解できない反応を見せるアマリリスに、大人げなくコルチカムは苛立った口調で短く告げる。


「……何?」 


 すると、アマリリスはどんどん瞳を輝かせながらコルチカムに顔を近づけてこう言った。


「お姉ちゃん――――すっごくきれいな声っ!」


「は……?」


 今までにも自分の声を褒められた事はあったが、この施設に来てからというものジル以外とほぼ会話をしてこなかったコルチカム。


「ねぇっ、こんどお歌をきかせて! お姉ちゃんのお歌が聞いてみたいな!」


 図々しくお願いをしてきたアマリリスを内心、面倒臭いと思いながらも不思議と嫌な気分ではなかった。


「……っ、考えとく……」


 その面影に、失った家族を重ねていたのだ。

 この日を境にアマリリスだけは特別な存在となっていく。

 コルチカムも徐々に心を開き、アマリリスも本当の妹のように懐いてきた。

 二人は誰がいつ見ても仲良く、束の間の幸せを噛みしめていた。


「えへへ、お姉ちゃんだーい好きっ!」


「あ、あっそ……」


 抱き合う二人の姿、それはとても微笑ましいものだった。

 こうして年下の子供に懐かれる事はコルチカムにとっても心の癒しとなり、よくアマリリスの遊び相手になってあげていた。


「わたし、お姉ちゃんの声がだーい好きっ! きっと女神さまもお姉ちゃんみたいにきれいな声をしてると思うのっ」


「大袈裟な奴……。あたしは別に自分の声なんて気にした事ないけど……それでも、アマリリスが好きって言ってくれるなら……嬉しいかな」


 アマリリスはコルチカムの美しい声が大好きだった。

 だから、コルチカムはよくアマリリスに歌を歌ってあげた。


「えへへ~」


 すると、どんなに悲しい気持ちになっていてもアマリリスはすぐに笑顔を取り戻す。

 どれだけ悪夢にうなされていようと、すぐに安心したように寝ついたのだ。

 本当の妹が出来たようで、コルチカムも少しずつだが人の心を取り戻していった。


 しかし――――


 ある日、そんな仲睦ましい二人を引き裂く事件が起きた。

 突然、アマリリスの行方がわからなくなってしまったのだ。

 しかし大よその見当は付いていた。

 金と引き替えに売られたか、ジルが進める研究の実験材料にされてしまったのだ。


「……アマリリスっ」


 甘かった。

 下手に情なんてものを抱いてしまったが故に、コルチカムはこうして苦しむ事となった。

 暫く月日が流れると共に、ジルの魔の手が今度はコルチカムへと向けられた。


「や、やめろっ! あたしに、触れるなっ!」


 強制的に地下へと連れて来られたコルチカム。

 ジルが雇った数人の錬金術師に囲まれ、地下の実験部屋へと連行されている途中の事だった。


「大人しくしろ! 無駄に傷をつけたら誰が修復すると思ってるんだ!」


「今まで育ててもらった侯爵の行為を仇で返すつもりか貴様!」


「安心しろ、少なくとも食う事に困りはしないさ」


「っ、クズ共……っ」


 このまま実験部屋に連れていかれれば地獄しか待っていない。

 商品として出荷される前に、仕上げと称した拷問と洗脳が施され物として扱われる人生しか歩めない。


「こんな所で終わってたまるか……っ、あたしは……っ!」


 両手を後ろに回され完全に拘束されていて逃げる事は叶わない。

 こうなっては唯一の緊急手段を使う他無かった。


「”あいつ”を殺すまで終われないんだっ!!!」


 ジルの元を訪れてからひた隠しにしていた才能、固有式オリジナルコードを発動させると――――


「なっ!? き、貴様――――ぐは、っ、か、」


 コルチカムの両手から青白い光りが溢れると、両手を抑えていた錬金術師が突然廊下の壁へと何かに圧し潰されてしまう。

 無残に飛び散る臓物と大量の血、おぞましい光景に錬金術師達は思わずコルチカムを解放して慌てて距離を取る。


固有式オリジナルコードだと……っ、こんなガキが……っ」


「こんな話し聞いてないぞっ! どういう事だっ!?」


 周囲を一瞬にして醜く染め上げたその力。


「……もうお終いだ……あたしは、あたしは……っ!!」


 不気味に身体を揺らして俯きながら真っ青な表情を浮かべるコルチカム。

 そして次の瞬間には――――


「全員……死んじまええええええええええ」


 暴走にも近いその言動と共に先程と同じく錬金術師達は壁へと圧しつけられ、その重量に耐え切れず潰されてしまう。


「ぁっ、ぁ、ぁぁ――――ッ」


「っ、こ、の、ぁぐ、ぁ、――――ッ」


 原型を失った死体が血染めの廊下に倒れ込むと、コルチカムは息を荒げながら自身を抱きしめるように身体を震わす。


「はぁっ、はぁっ、もう、もうお終いだ……ッ」


 この惨事を引き起こし、行き場を失い放心状態で床に膝をついていると騒ぎに気づいたジルが実験部屋から姿を現した。


「ほぉ……。廊下が騒がしいかと思えば――――コルチカム、これはお前の仕業かい?」


 静かな口調と共にコルチカムへと近づいてくるジル。

 莫大な金で雇っていた錬金術師を殺され、きっと憤りを感じているに違いない。

 このままでは殺される、そう察したコルチカムは身体の震えを止めてジルの殺害を企ててゆっくりと顔を上げていく。

 しかし、その次には思いもしなかった言葉をかけられる事となる。


「素晴らしい、実に素晴らしいよコルチカム!」


 予想していた真逆の反応で、ジルは両手を震わせ満面の笑みを浮かべながら心踊っているようだった。

 一切、コルチカムの行いを咎めず逆に褒めてくる始末。


「何故もっと早くこれ程の才能を持っていた事を父に話してくれなかったんだい!? 危うくお前を手放す所だったよ!!」


 この時、ジルの様子を見たコルチカムはこう考えていた。


 ――――良かった、まだ居場所がある。


 危うく完全に居場所を失いかけたコルチカムにとって、それはまるで差し伸べられた救いの手だった。

 ならば迷う必要は無い。

 コルチカムは愛らしい笑顔を振りまき、ジルのご機嫌取りに走る。 


「話す機会が無かっただけです……。でも、お父様に喜んで頂けてコルチカムは幸せでございます」


 その反応に好感を抱いたジルはコルチカムの頭を撫でながら笑みが絶えなかった。


「そうかそうか! まさか、お前がその歳で固有式オリジナルコードを有していたとはな。いやぁこれは意外な収穫だ! どうやらお前は他の子供達とは違うようだ。その力は私の役に立つ、これからお前は常に私の横で付き従いなさい。――――良いね?」


 最後の言葉だけ、妙な重圧を感じながらもそれをコルチカムは快く承諾する。


「嬉しい……っ、ずっとお父様の側で御仕え致しますっ」


 親愛の父、ジルに認められた事で嬉しさのあまり泣き出す――――演技をするコルチカム。


「コルチカム、お前は私にとって最も大切な子供となった。だからこそ、私の全てを教えよう」


 それから更に月日が流れ、ジルの信頼を完全に勝ち取ったコルチカムは遂に全てを聞かされた。

 屋敷の子供達は誘拐されてきた者や安値で買い叩かれて連れて来られた事。

 飽きればいずれ売られる運命にある事。

 災獣キメラを超える人工生物、生物兵器マンティコアの研究を続けている事。

 全てを聞かされた。

 そして、遂に思いがけない再会を果たす事となる――――


「……失礼致します、コルチカムです」


 いつものように、コルチカムはジルの研究を手伝う為に呼ばれて実験部屋を訪れていた。

 毎度の事ながらその部屋から漂う歪な雰囲気は外からでも感じ取れ、決して慣れる事は無い。

 扉をノックし、恐る恐る部屋に入れば――――衝撃的な再開を果たす。

 

「――――!?」


「グルルルルゥ……ッ」


 真っ白なこの部屋で真っ先に目に飛び込んできた異形の怪物に絶句するコルチカム。

 赤黒い瞳と身体を持つ怪物が厳重に鎖で壁に繋がれており、迸る殺気を振る舞いていた。

 人外の異形を前に足をすくませていると。


「やぁ、コルチカム」


 数名の錬金術師に囲まれ待機していたジルが待ち侘びたとばかりに近づいてくる。


「お、お父様……これは一体……」


「ハハ、まぁこちらに来なさい」


 満面の笑みを浮かべながらジルはコルチカムの肩に手を置き、喜々とした様子で怪物の前へと誘う。

 そして、怪物の前で足を止めて間近でその恐怖を感じ取る。


「グラアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!!」


 おぞましい叫び声で威嚇する怪物に息を呑む。

 更にジルは不敵な笑みを零し、不安に包まれるコルチカムを戦慄させた。


「――――さぁ、”アマリリス”。大好きなコルチカムお姉ちゃんだよ、きちんと挨拶をなさい」


「ッ!?」


 一瞬で意識が奪われてしまいそうな衝撃がコルチカムの全身に走る。

 瞳を泳がせながらジルと怪物を交互に見つめ次第に混乱に陥っていく。

 しかし、ジルは無言のまま笑顔を浮かべたまま何も答えてはくれなかった。

 つまり、言葉の通り――――この怪物がアマリリスなのだ。


「そ、――――そんなッ!? 嘘だろッ!? 嘘って言ってよッ!!」


 コルチカムが青ざめた表情で素の感情を晒してその場に崩れ落ちると。


「グルル……グルルァアアアアアアッ!!!!!」


 必死に鎖を千切ろうと激高した様子で身体を揺らす怪物。

 その赤黒い瞳にはコルチカムを映し、涙を浮かべていた。


「ハッハッハッ! 禁忌とされる生物兵器マンティコアの歴史に改革を与えたあの白昼夢の殺人鬼ナイトメアシンドロームっ! あれには遠く及ばんが、それに匹敵する素晴らしい作品が完成した! どうだいコルチカム!? お前とこの感動を分かち合いたくてわざわざ今日ここに呼んだのだ!」


 もはや彼女の面影はどこにも無く、ただ目の前には赤黒い屈強な身体を持つ怪物が居るだけ。

 何度も梳かしてあげた綺麗な髪も、汚れた自分を見つめてくれた純粋なあの瞳も、一緒に歌った小さく可愛らしい口も、抱きしめてあげた優しい肌の温もりも。

 全て、何もかもが全て消え去っていた。


「ぅ、ぁ、ぁあああああああああッ!!!」


「ハーハッハッハッハッ!! いいぞっ! これで私は更に先へと進む事ができるだろう!」


 床に額を押しつけ泣き叫ぶコルチカム。

 数週間前から姿を消していたアマリリス。

 きっと買い手の元へと連れていかれたものだと思い、絶望したものだが。

 それ以上の絶望が今目の前にあった。


「もはやお前を殺せる生物など地上には存在しない! ずば抜けたその筋力! そして常軌を脱したその生命力たるや無敵の怪物と称するに相応しい!」


 あの可憐な少女はジルによって狂気の怪物へと変えられてしまった。


「あぁ、アマリリス。お前はただ輝くだけの美しさだった。お前の眩しさは目が眩む程で私の心をとても痛めたものだ……。だからこそ、父はその美しさを最大限に活かしてやろうと生物兵器マンティコアの素材としてお前を選んだ! 私の目に狂いは無かったというわけだ! ハッハッハツ! どうか私の愛に報いておくれ――――アマリリス」


 こうして驚異的な力を誇る怪物が誕生し、二つの花は悲惨な別れと再開を果たしたのだった。

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