16話:心の変化
星が一切見えない不気味な夜空の下。
四精霊の心と、パラケルススの伝承や偉業が刻まれた記念碑が置かれた大広場にてラティーバの命運を背負った戦士達の死闘が繰り広げられていた。
数十にも及ぶ全てを吞み込む者の分裂体。
一体一体が常人では遠く及ばない程の実力を持っている。
今では分裂体による猛追によって数えられる程に数を減らされ、戦意を完全に失っていた王従士達だったが、ヘルメスとジンの登場により再び国を想う気持ちに火を灯し。
「動きを止めるなァッ! 何が何でもあのバケモノを討伐するんだァッ!」
「我々は全国民の未来を背負っているッ!! あの者達に遅れをとるなッ!!」
「あの独特な動きに惑わされるなっ! 注意深く動きを観察して耐え凌ぐんだっ!」
死に物狂いで錬金術を駆使し、必死に分裂体に応戦していた。
王従士達にとってジンが一体何をしたのかは理解できなかったが、四精霊の心から全てを吞み込む者を吹き飛ばし、自分達の力では太刀打ちのできなかった分裂体を瞬く間に一刀両断した二人の勇姿はそれだけで彼らの折れた心を奮い立たせるには十分だった。
「ヘルメス=エーテル……。何故、ギリスティアの王従士がこの国に……。それにパラケルスス殿のご令嬢だと……」
手首を失った両腕を布で止血し、応急処置をされていたディランは戦闘に参加する事が出来ず呆然と戦場で皆を見守る事しかできない。
果敢に立ち向かう二人の背を目に焼付けながら、ヘルメスの発言に疑問を抱いていた。
「一体、彼女達は何故ここまで我々に加勢してくれる……」
両手を失い錬金術を発動できなくなってしまったディランに代わり、ヘルメスはすぐさま他の王従士達の指揮を執り始めた。
突如現れた得たいの知れない人物を最初は信じる事が難しかったが。
あのバケモノの情報を教えられ、分裂体を倒す程の実力を見せ付けられるとこの状況では信じる他無かった。
その結果、王従士達は分裂体の奇妙な特性や動きを予め肝に銘じ、付け焼刃にしては何とか凌ぐ事ができている。
「いいや、今はそんな事はどうでも良い……ッ。頼んだぞ……ッ、ヘルメス=エーテル……ッ」
三英傑として、今のディランは戦力外となってただ立ち尽くすだけで見るに耐えない醜態を晒しているがそれで良かった。
部下達だけでなくこの国の救いを見出せたのだから。
今は全てを彼女達に託し、戦場をできるだけ観察し、なるべく部下達の被害を抑える策だけを考えていた。
「おいッ、一々相手してねぇで急げヘルメスッ、雑魚は周りの奴らに任せて俺達は本体を叩くんだッ」
ヘルメスとジンは吹き飛ばされた衝撃で不気味なまでに動きを止めている全てを吞み込む者の元まで駆けていた。
だがその道中、本体を守るように分裂体達がその行く手を阻んできていた。
雑魚とは言っているものの。
「っ、チィッ」
その動きや速さ、鋭い攻撃に加え、自在に変形する特殊な身体を持つ分裂体は達人すら凌駕する実力を持っている。
三体の分裂体が両手を刃のような形状に変化させてジンを本体に近づけまいと襲いかかるが、それを何とか避けつつ強引に突き進む。
それでも更に前方には壁となって立ち塞がる分裂体達にジンが苛立ちに眉間をひそめると。
「でぇやぁあああああ」
後方から少女から発せられる雄たけびとは思えない果敢な叫び声が降り注ぎ、上空から二本の剣を握り締めたヘルメスが壁となった分裂体へと刃を振り下ろす。
地面に飛散して液体と化した分裂体の元で、刃に付いた液体を払うように慣れた手つきで二本の剣をくるくると回転させてヘルメスがジンへと振り向く。
「そうは言うが、この数を自分達が放っておけば彼らへ危害が拡大する……。何故か今は動きを止めているが、本体が動き出すまで可能な限り自分達は分裂体の数を減らすべきだ」
そして地面に染み込んでいく分裂体の飛散した跡を解読眼で見つめながら続ける。
「ふぅ。幸いな事にどうやら分裂体は式も吸収しない上に物理的な攻撃も通じる。ジンが助けてくれた時のように再生や増殖も繰り返さないようだしこのまま数を減らすべきじゃないか?」
息を荒げて剣の回転を止め、再びしっかりと握り締めながら安堵の溜息を零すヘルメス。
本体の全てを吞み込む者のように全ての式を吞み込み、再生や更なる分裂を繰りかされては流石にお手上げだった。
その時だった。
「おい馬鹿ッ!!」
ヘルメスの背後から一体の分裂体が両手の指全てを細長く変化させて忍び寄ってきていた。
「っ!?」
いくら薬から解放されたとは言え、ヘルメスは病み上がりも良い所。
度重なる身体への負担は完全に払拭できていない。
一瞬の気の緩みに背後の存在に気づくのが遅れる。
まるで触手のようになったその両手でヘルメスを絞め殺そうと差し掛かり、ようやく気づいたヘルメスが急いで振り向き剣を振りかざそうとしたが。
「伏せろヘルメスッ!!!!!」
ジンの咄嗟の叫びにヘルメスが屈むと、その上空を今までに見た事の無い出力を上げた原点の式の塊が分裂体を破裂させた。
頭上から降り注ぐ何とも言えない気色の悪い感触に思わず顔をしかめてヘルメスが立ち上がると、ジンが額を押さえながら溜息を吐いていた。
「たっく、勘弁しろよな……。せっかく身体が元通りになったてのに勘はまだ鈍ってるってか?」
「す、すまない。どうやらまだ万全とはいかないようだ。しかし驚いたぞ……。あれほどの原点の式を放出できたなんてな……」
今までにジンが展開していた原点の式の大きさはせいぜい人の頭三つ分程度。
それが先程は人を包み込めるまでに大きな球体となっていた。
ヘルメスは剣を地面に突き刺し、身体に付着した液体を払いながら立ち上がり、初めて見たその出量に驚きを見せていると。
「あぁ、それなんだけどよ」
ジンは自身の右手を見つめながら複雑な心境を語る。
「俺にもよくわかんねぇ。今まであんな膨大な量なんて出せなかったんだけどよ。……何日か前から急に出るようになったんだ」
最初に気づいたのは古獣との死闘を繰り広げている時だった。
危機的状況に陥り、原点の式を展開すると膨大な出力を発揮したのだ。
本人すらその原因を未だ掴めていないが、何か枷のようなものが緩んだ気がして身体もいつもより軽く感じていた。
周囲の分裂体を粗方倒し終え、ジンもふとした疑問をようやく口にする。
「お前ぇ、銃だけじゃなくて剣まで使えたんだな」
その発言にヘルメスは得意気に胸を張りながら地面に突き刺した剣を引き抜き。
「師匠に大抵の武器を扱えるよう仕込まれていたからな。厳しい鍛錬の賜物というわけだ」
「なんつーか……。まずは戦い方とか武器の使い方より、錬金術について仕込むべきだろあのジジイ」
錬金術の師であるはずのアリスは尽く錬金術とは関係の無い事ばかりをヘルメスに教え込んでいた。
最初からヘルメスの錬金術に対する才能が絶望的だったのを見越していたからなのか、少なくと錬金術の師という立場でありながら戦術のみを叩き込んでいたアリスにジンが苦言を零していると。
「テケリ・リ……テケリ・リ……」
地面に少し埋まっていた全てを吞み込む者が小さく鳴き声をあげ始め、全ての分裂体の動きも止まりだす。
「はぁ、はぁ、何だ……? どうした……?」
「ぜぇ、急に襲い掛かってこなくなりやがったぞ……」
「ま、また……何か始まるとでも言うのか……?」
王従士達の体力も限界が近づいていたようで同じく動きを止め、一旦息を整えつつ次の動きを対処するべく身構える。
「おいヘルメス……。お前ぇの目にはどんな風に映ってんだ?」
まったく動こうとしない全てを吞み込む者を不気味に感じ、ジンは両手から原点の式を展開して備える。
ヘルメスも異様な胸騒ぎがし、剣を構えながらジンの側で解読眼で少しの変化も見逃すまいと捉え待機する。
「……全てを吞み込む者を構築している式が何かしらの変化をしている。上手く口では伝えられないが……バラバラだった無駄なものが一つに圧縮されて凝固されていく感じだ……」
「何だよそれ……。とにかく今以上に厄介な事になりそうなのは間違いなさそうだな……。そうなる前に――――先手必勝だッ」
ジンは今展開できる限界まで原点の式の出力を上げながら凄まじい速さで単身、全てを吞み込む者へと跳び出していく。
だがその瞬間。
「テケリ・リ……」
微かな全てを吞み込む者の鳴き声と。
「待てジンッ!!!」
ヘルメスの叫びが交わり合う。
全てを吞み込む者の体内で何かの式が完成していくのがヘルメスには視えていたのだ。
「あぁんッ!?」
だがもうジンの足は止まらなかった。
そして全てを吞み込む者に向かって跳び出したジンはもうその距離を僅かまで詰めていた。
不死身の身体を持つが故の油断か、このまま原点の式を叩きつけようと両手を振りかざすと。
「テケリ・リィィイイイイイイイイイイイイイイイイイイイ」
超音波の如く大きな奇声を発しながら全てを吞み込む者の身体全体が赤黒く光り、無数の血走った眼球が大きく見開くと同時に黒い霧と突風を身体全体から発生させた。
「うぐぉっ!?」
「な、なんだこの風はっ」
「と、飛ばされないように耐えるんだっ!!」
「俺が壁を作るっ! 俺の後ろに回れっ!」
突風に飛ばされまいと一人の王従士が地面から大きな壁を構築し、突風を避けるが。
「ちきしょうっ!! あとちょっとだったのに何だよこれっ!!」
あと僅かで原点の式を捻じ込む寸前だったジンだけは突風によって見事遠くまで吹き飛ばされてしまう。
「だから待てと言っただろっ!!」
慌てて剣を投げ捨て、ヘルメスは高く跳びあがり吹き飛ばされるジンを抱え、突風に当たりながらも何とか着地に成功する。
「ケッ、あの野郎妙な身体しやがって……。この俺を虫みてぇに軽々と吹き飛ばしやがって絶対ぇ許さねぇぞ」
奇声と突風が納まると、周囲は視野が少し曇る程度に黒い霧に包まれた。
ヘルメスから下ろされたジンは早々に眉間にシワを寄せて機嫌悪そうに額の汗を拭い、鋭い牙を剥いていた。
「いくら不死身のジンと言えど原点回帰のようにあの身体に触れると吞み込まれてしまうかもしれないんだぞ……。もう少し慎重になるべきだ」
「……ケッ。お前ぇだけには言われたくねぇよ。――――しっかし……何だよこれ……」
天高くそびえ立つ人型となった赤黒い液体の姿はまるで巨人のように。
「古の錬金術とはこれ程までのモノを生み出すのか……」
黒い霧から静かに人間を見下ろす無数の目。
霧のせいで頭部が見えない程に質量を無視して大きく形状を変化させた全てを吞み込む者。
この場に居る皆が息を呑む。
先程までの姿が今となっては愛らしく思える程に、今の全てを吞み込む者からは絶望を通り越した何かを感じる。
分裂体も今は止まっているが、全身に神経のような赤黒い管を至る箇所に這わせ何かしらの変化を遂げていた。
「どうすんだよこれ……。ここまでデカくなると流石に俺も吹き飛ばせる自信なんてねぇぞ……」
「それでもやるしかあるまい……」
妙な静けさの中、ヘルメスとジンは首を上げてその巨体を眺めていると微かな笑いすら出てくる始末だった。
その中で、ヘルメスの口からサラリと危険な発言が漏れ出す。
「式崩しを構築すればこの巨体でも一瞬で消滅させる事ができるかもな……」
首を上げてそう呟くヘルメスにジンは目をギョッとさせて振り向く。
「ば、馬鹿言ってんじゃねぇよッ! ジジイにも二度と式崩しは構築するなって言われてただろうがッ!! つか、そもそもあん時の記憶なくなってんだから構築できるわけねぇだろ馬鹿ッ!!」
「うっ、ば、馬鹿とは何だっ! 頑張って考えたが、それしか良い方法が思いつかなかったのだから仕方ないだろっ! ふんっ、……馬鹿と言う方が馬鹿なんだっ」
「うっせぇっ! そんなんだから馬鹿って言ったんだろうがっ! もっとマシな案思いつかねぇのかよっ!」
「な……っ! じ、じゃあ聞くがっ、ジンは他に事態を解決できる良い案があると言うのかっ」
「あれ全部食い尽くす」
「……」
ヘルメスは開いた口が塞がらなかった。
「……それ以前にあの身体に触れてジンの式が吞み込まれない保障なんてない。却下だ」
「んな事言うなら式崩しを構築するってお前ぇの案も却下な」
とてつもない変貌を遂げた全てを吞み込む者を前に、暢気に険悪な雰囲気となっている二人の神経が信じられないとばかりに王従士達が唖然と見守る中。
奇妙な事態が起きる。
「テケ・リ・リ、テケ――――」
急速に膨れ上がった巨大な身体のコントロールがまだできていないのか、全てを吞み込む者がおぼつかない足取りで後方へ大きな一歩で下がると。
「リ・リィイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイ!!!!!!!!」
建物を踏み潰した右足首が突如破裂し、周囲に怪物の絶叫と液体の雨を降らしたのだった。
「ぐぐっ、ぅ、む、っ……?」
巨人の姿になる前は甲高い奇声を上げていた全てを吞み込む者だったが、今では巨大な姿に合った野太い悲鳴を上げながらヘルメス達の鼓膜を刺激しながら後方へと倒れ込む。
両耳を塞ぎながら皆がその危機を口々に叫ぶ。
「そ、そんな巨体で倒れ込まれたらこの周辺一帯が潰されちまううううううう」
「ぎゃあああああそっちには俺の家がああああああああ」
「ば、馬鹿ッ! 今はそれ所じゃねぇだろうがッ!!」
全てを吞み込む者による甚大な被害に頭を抱えて膝をつく王従士達。
ヘルメスとの言い争いを一旦止め、その様子にジンが深く溜息を吐きながら倒れた全てを吞み込む者に視線を向ける。
「何だったんだ今の……。あいつ勝手に自爆でもしやがったのか? それとも変化する時の構築に欠陥でもあったのか?」
「まさか……」
しかしヘルメスはジンの質問に返事もせず、神妙な面持ちで静かに全てを吞み込む者を見つめていた。
ジンは内心、もしかすると先程のやり取りで再びヘルメスを怒らせてしまったのかと不安になり。
「おーい、聞いてんのか? ……まぁ、確かに馬鹿馬鹿言い過ぎた。悪かったよ。ただお前ぇもジジイに式崩しは――――」
様子を伺うように顔を覗き込み、ヘルメスの顔の前で何度か片手を振りながら声をかけていくと。
「偶然などではない」
「……ケッ」
ようやく口を開いたかと思えば、倒れ込む全てを吞み込む者を見つめたまま何かに気づいた様子のヘルメスの発言にジンは手の動きを止め、ニッと微笑みながら両手をポケットに入れながら同じように全てを吞み込む者を見つめる。
「……何が偶然じゃないって?」
今も尚、全てを吞み込む者は苦しそうに呻き声を小さくあげている。
ヘルメスの表情は凛々しくありながらも、どこか嬉しそうだった。
解読眼を持つヘルメスだからこそ、あの一瞬を見逃す事なく気づく事ができた全てを吞み込む者の変化。
その仮説を口にしていく。
「全てを吞み込む者がふらついた時、右足で踏み潰した場所にはいくつかの建物があった。そしてその建物を踏んだ瞬間、一気に”とある式”が右足首まで伝い破裂していったんだ」
全てを吞み込み、その身体を切り離しても強力な分裂体を生み出す全てを吞み込む者。
大よそ倒す事は不可能に近く、最も有用な対抗策は式崩しだとばかり思われたが。
ヘルメスは遂に活路を見つけ出す事に成功した。
「全てを吞み込む者が吞み込み、身体を破裂させた原因となった式――――あれは間違いなく、氷の式だった」
解読眼を持つ錬金術師として数多の式を視てきたヘルメスは、単調かつ身近な式ならばそれが一体何なのかがわかる。
そして今回は全てを吞み込む者を構築する式の変化にすぐさま気づく事ができた。
「恐らく全てを吞み込む者が踏みつけた箇所に簡易式を取り扱う店か、氷が保管されている建物があったのだろう」
ヘルメスの言いたい事を一早く理解したジンは口の端をつり上げながら、全てを吞み込む者を見つめ続けるヘルメスから静かに離れていく。
「建物や店で保管されている氷や簡易式の数などたかだか知れている。だが、その少量であれだけの破壊力があり――――」
ようやく見つけた活路を声高らかに告げる。
「何より奴の右足首は再生もせず分裂体も生まれていないッ!!!」
王従士達の側に近づいていたジンも声を荒げて叫ぶ。
「アンタらの中に氷を構築できる奴はいねぇのかッ!? あと大至急に氷を生む簡易式をできるだけ集めろッ!!!!!」
急な要求に顔を互いに合わせ疑問符を掲げる王従士達だったが、ここにきてディランが身体をよろつかせながら静かにジンへと近づく。
「氷系統の錬金術を操る者は我々の中にはおらん……。残念ながら簡易式もな。だが……それが必要なのだな?」
この場に居る王従士の中に今すぐ氷を構築できる者は居なかった。
しかし不要な詮索をせず、額から大量の汗を流すディランの真剣な眼差しにジンは頷き、ヘルメスに視線を向ける。
「あいつは解読眼の力で全ての式が見えてやがる。そのあいつがさっきの爆発の原因が氷によるもんだって言ってんだ、間違いねぇよ」
氷を構築する式を取り込んだ全てを吞み込む者は身体が爆発し、再生や分裂体を生む事なくその箇所を失う。
偶然の産物にしろ、解読眼を持つ者が居なければ気づく事は難しかった。
それを伝え終わると、ディランは短く頷き王従士達に振り返り。
「この周辺で簡易式を扱う店からありったけ拝借してくるのだッ!!!!!」
「「御意ッ!!!!!」」
分裂体が動きを止めている今しかないと全員が一斉にこの場を離れようとした瞬間、不幸にも分裂体が再び動き始めて王従士達に迫り来る。
赤黒い全身に這う管が痙攣し、先程までとは比べ物にならない速さを見せ、無言だった分裂体がおぞましい鳴き声と共に王従士達を一斉に襲いだす。
「kシyウアアアァアアアアア」
「ぅ、うわぁあああああああ」
「ピkyスウyシャアアアア」
「ば、ば、バケモノオオオオオオ」
頭部には一つの眼球しかなかった分裂体が、裂かれた大きな口を開き細長い舌を出して簡易式を掻き集めに走る王従士達の前に立ち塞がり。
恐怖のあまり腰を抜かして地面に倒れ込む者が続出。
だが。
「ピgェエyァアアアアアアアアアアアア」
銃声と何かが衝突する激しい音と共に。
おぞましい悲鳴をあげ、次々と王従士達の前から分裂体が吹き飛んでいく。
「ちんたらしてんじゃねぇよッ!! 死ぬ気で走れッ!!!」
「ここは自分達に任せて急いでくれッ!!!」
「は、はいっ」
「た、助かった……」
「もう少し耐えていてくれっ! 必ず持ってくるからなっ!」
原点の式を展開したジン、魔銃を握り締めるヘルメス。
二人は次々と強化された分裂体を相手に王従士達を援護していく。
だが、今まで倒せてきた攻撃力では分裂体も強度も上がっていたようで。
「……軟弱共が多少は骨のある奴らになったじゃねぇか」
「そうだな……。もう剣で斬り捨てるのは諦めるしかなさそうだ。どうやら身体の構造自体は液状のようだが……何だこの硬さは……」
吹き飛ばされた分裂体達は身体をよろめかせながら再び立ち上がっていく。
先程までならば容易に飛散させていた二人だが、強度が著しく増した今の攻撃では分裂体の身体をせいぜい吹き飛ばす事しかできなかった。
「そういやよぉ、ヘルメス」
「戦闘中にどうしたジン。……病み上がりのせいで自分には余裕がまったく無いの――――だがっ!」
衣服は破け、傷だらけの全身に浴びてきた血や自身の血すら今はもう黒く固まったズタボロのヘルメス。
自分達を取り囲む分裂体達の邪な眼差しを浴びながら、互いに細心の注意を払い背を合わせ、互いの命を預け合う。
同じく古獣との戦いで衣服をボロボロにさせたジンも、息を荒げるヘルメスの鼓動を背中越しに感じていた。
「……この国って旨いもん沢山あんだぜ。全部終わったら俺のおごりで連れてってやんよ」
ここに至るまでの間、様々な美味なる食事を堪能してきたジンだったが、何かが満たされなかった。
食したモノは木を除き全てが美味しかったはずなのに。
何故か味気なかった。
「フフ」
分裂体達はそんな二人のやり取りを無視し、不気味な容姿で命を奪おうと一斉に跳び出す。
原点の式を展開しだすジンを背に、ヘルメスは魔銃と拳を力一杯握り絞め。
「そのお金の出所が少々不安だが楽しみだなっ」
唐突なジンの誘いにヘルメスは嬉しそうに笑顔を浮かべ。
互いに襲い来る分裂体達へと跳び出す。
「「kyィsyァァァアアアア」」
すっかり黒ずんだ血の塊を付着させた金髪を煌かせ、右往左往と飛び込んでくる分裂体を軽やかなステップでいなし地面へと追突させ、その背に銃弾を何発も撃ち込んでいく。
「pギ、ヤ、ァ」
銃弾が分裂体の身体に沈んでいくと血のような液体を飛散させて身体を痙攣させる。
どうやら銃弾による攻撃が何故か効くようだ。
「はぁ……はぁ……。よし……っ」
一旦息を整え視線を前に。
続いて他の分裂体が前方から両手の指を触手のように細長くし、その先端を刃に形状にしてこちらに素早く突き進んでくる。
「フフ」
だが今のヘルメスは強化された分裂体の素早さをも上回り、すぐさまその懐に潜り込む。
「いくら強化されていようと――――今は負ける気がまったくしないなッ」
今度は硬く握り締めた拳を鋭く突き上げ、分裂体の顎を貫いて上空へと吹き飛ばす。
「任せたぞっ」
するとそこには。
「よぉ、待ってたぜ」
両手に原点の式を展開して上空へと跳び上がったジンが待ちうけていた。
「k、キsヤ……」
分裂体が大きな眼球を見開くと。
「くたばりやがれぇッ!!!」
そのまま二つの原点の式の塊を分裂体の眼球めがけて押し込みそのまま地上へと叩きつけたて砂埃を舞わす。
「キ、シャ……」
「ケッ」
身体を痙攣させながら液状と化し、原型を留められなくなった分裂体はそのまま地面に沈む。
肩膝をついて着地したジンの背後から、別の分裂体が両手を長刀と形状変化させて首を跳ねようとしていたが。
「ピギッ!?」
こめかみを銃弾で撃たれ体勢を崩し足をよろつかせると。
「お前ぇも土の養分になってろや」
ヘルメスの援護を受けつつ。
ジンは左手を体勢を崩した分裂体にかざし、高出力の原点の式を展開してその身体を包み込む。
「ビギィゲゲゲゲゲゲゲg」
巨大な原点の式の球体の中で分裂体は衝撃波の渦に吞み込まれ液状と化して破裂していった。
身体は傷つき、体力も激しく消耗していた二人だが。
力が無限に湧き出てくる気がした。
「せいやぁああああああ」
「うらぁあああああああ」
全てを吞み込む者が発した黒い霧の効力なのか、更なる強化を遂げていた分裂体だったが、ヘルメスとジンの猛追により着実にその数を減らしていった。
手のつけられない二人に、分裂体は効率を求めるように個で戦う事を諦め、遂には複数の固体同士で身体を混じり合わせるように融合し、人間の三倍はあろう身体となっていく。
「「ピゲッシャアアアアアアアアアアアアア」」
本体には遠く及ばないが、鼓膜を刺激する奇声をあげ。
融合を果たした分裂体は頭部にその数だけの宿した眼球でヘルメスとジンを見下ろし、巨体を武器に掴みかかるが。
「「うる「せぇ」「さい」ッ!!!!!」」
同時に跳び上がり放たれた二人の強烈な拳が顔面を貫き、融合した分裂体すら一瞬で倒してしまう。
顔面を失うや、すぐさま流動する身体の形状が維持できずに地面へと零れ落ちていく。
だが二人が着地し、まだ態勢が整っていない状況にも関わらずそこには他の分裂体が二体待ち構えていた。
「チッ、この野郎……」
既に両腕を刃や触手に形状変化をしておりこのままでは二人共攻撃を喰らってしまう。
「むっ!?」
しかし、分裂体達の背後には更に一人の人影があった。
「うぉおおおおおおおおお」
年季の入った渋い声を響かせ、屈強な腕を振り上げて分裂体達の頭を拳で叩きつけるジェイドの姿があった。
だが。
「「ギギgギg……」」
あまりダメージはないようで分裂体達は眼球のみを後ろにしてジェイドを睨みつけ、背中から複数の棘のようなものを生やしてジェイドを貫こうとする。
「ぬぅ……ッ」
しかし。
「お前ぇらの相手は俺らだったのッ!!!」
すかさず体勢を立て直したジンが両手で展開した原点の式を分裂体へと叩きつけて吹き飛ばす。
何とか間一髪を逃れ、遠くまで吹き飛んだ分裂体に視線を向け安堵の溜息を吐くジェイドに、遅れて立ち上がったヘルメスが驚いた表情を浮かべて尋ねる。
「おじいさんっ、な、何故ここにっ?」
するとジェイドは腰に両手を当てて伏せ目がちに言う。
「わしらは貴殿らに救われてばかりじゃった。セラは言い聞かせて避難させてきたがどうしても力になりたくての……。だが、どうやら余計なお世話だったみたいだな。わし程度の力では足手まといになりそうだ……」
せめてもの償いと恩返しの為に戦地に現れたジェイドだったが、予想以上の力を持つ敵を目の前に自身の力不足を痛感し、分裂体を殴りつけて負傷した拳を見て瞳を静かに閉じなが首を横に振る。
セラは避難させてきたとの事だが、ジンは嫌な予感しかしなかった。
「ジンさーーーんっ」
その予感は見事に的中した。
「はぁ……何で次から次へと荷物が舞い込んできやがるかねぇ……」
遅れて聞こえてくる気の抜けた呼び声に肩を落胆させてジンが振り向くと。
「げふっ」
何も無い所で躓き、盛大に地面に転がるアランの姿に頭が痛くなってくる。
「アランまでっ!?」
ラティーバの王従士ですら歯が立たなかった敵を前に、負傷した老人と大よそ戦力になり得ないであろう青年の登場。
これにはヘルメスでさえ苦笑いしてしまう。
「もういいからっ、お前ぇら早く避難してろよっ!!」
「いや、もう遅いようだ……」
残る分裂体達が再び徒党を組み、四人を囲んでいた。
「ひぃっ!?」
周囲の様子に転んでいたアランは血の気が引き、顔面蒼白させながらおぼつかない足取りで急いで三人の元へと駆け寄る。
アランを庇うように前へ出るジェイド。
ジンは左手で顔を仰ぎ、首を上に上げてうな垂れていた。
「だいぶ数が減ってきたとは言え、こいつら面倒見ながら戦うのはかなりしんどいぞ……」
「案ずるなジン殿、自分達の身は自分達で何とかしよう……」
「そ、そうですよジンさんっ! うちのじいちゃん強いですからっ!」
身構えるジェイドの背に隠れながら、アランもローブの内側からいくつもの簡易式を取り出していく。
「それに……」
そこにはいつもの頼りない顔つきは消え、どこか頼もしさを感じさせる表情を見せていた。
成長の果てに得た覚悟、ジンは眉をひそめながらも肌でそれを感じ取り肩をすくめる。
「今まで僕は本当に臆病で……。真正面から何かに戦いを挑むなんて事絶対にできなかった……。でも――――」
いくつもの試験瓶を指の隙間に挟み、滲み寄る分裂体を睨みつけ。
「僕はジンさんのおかげで変われたんだ……っ!!」
果敢な叫びと共に親指を器用に操り試験瓶の蓋を開け。
「「ピkssssssyァアアアアアアア」」
アランは簡易式を猛烈な雄たけびを上げ四人を襲う分裂体へと発動。
試験瓶から放たれた雷は広範囲で広がり、液状の身体を持つ分裂体を感電させその動きを一時的に止める。
「よしっ……!!」
その光景に目頭を熱くさせるジェイドと、胸を高鳴らせるジンだった。
しかし次々と感電を間逃れた数体の分裂体が仲間の隙間を潜る抜けてくる。
一気に血の気の引いた表情を浮かべるアランに対し、分裂体は剥き出しの管を僅かに膨張させ、長い舌をなびかせながら近づくが。
「しつけぇんだよお前ぇらッ!!!」
「孫には……指一本触れさせんぞぉおおおおおおッ」
ジンとジェイドが前に素早く飛び出し分裂体をアランに近づけまいと立ち塞がる。
互いに支えあうその姿。
ヘルメスは必死に目の前の敵を次々といなしながら、このラティーバで出会った様々な人物達の事を思い出していた。
「……」
力と知識が無いが為に支配され、苦しみ続けてきた村人達。
それでも皆は常に互いを思いやり、支えあってきた。
最後には力を合わせ、数が減っていたとは言え武装したファナンの勢力すら圧巻するまでの力を見せてくれた。
「p、p、キsヤァxッァアアアア」
分裂体の一体がヘルメスを丸呑みにしようと、鋭い牙が並んだ口を大きくさせて跳んでくる。
「お、おいッ!?」
ジェイドと共闘し、分裂体を原点の式で撃退していたジンがヘルメスの危機を察知し。
「あの馬鹿……ッ!!!」
ヘルメスは、”何か”に気づき始めていた。
「何してんだヘルメスッ!!!!!」
穏やかに瞳を閉じ、避ける素振りも見せず静かに立ち尽くすヘルメスの姿に全身から嫌な汗が流れる。
わけのわからない状況にジンは困惑しつつ、目の前の分裂体にすら目もくれず慌てて原点の式を展開させて手を跳び出すが。
「シャァアアアアアアアッ」
ジンの助けは間に合わない。
既にヘルメスの頭上には影が。
ヘルメスを頭から丸呑みにしようと、口の形状を大きく広げて変化させた分裂体の姿。
「……」
どれだけ強大な力や錬金術を扱えたとしても、人は、一人で生きれない。
誰とも関わらず、誰の力も借りずに生きていける程、人は強くない。
自分は、大切な事を忘れていた……。
それを身に染みて感じていたはずなのに……。
個の存在がどれだけ微弱なものでも、多くの個が心一つ集まれば新たな大きな存在となれる。
そう……、あの村の皆のように。
例え一人じゃ乗り越えられない壁があったとしても、皆で手を取り合えば、高く聳え立つ絶望的な壁だろうと必ず乗り越える事ができるんだ。
「自分はなんて馬鹿なんだ……」
できもしないのに、全て一人で背負い込もうとしてしまっていた。
誰にも頼らず、一人で道を歩き続けねばならない、と。
ドルスロッドで、師匠にそう啖呵を切ってしまったから。
「師匠……っ」
納得のいかないまま無理矢理ドルスロッドから離され、もう数日が経つ。
今も師匠の安否もわからない……。
だからだろうか。
不安を振り払うように、ここまで無茶をしてきたのは……。
でも、それは間違いだっんだ。
「ヘルメスッ!!!!!」
瞳を閉じ、物思いにふけるヘルメスの耳に大切な存在の声が響く。
「そうだった――――そうなんだ、」
ヘルメスは、”世界式”に辿り着こうとしていた。
「自分は――――人は」
強く見開かれた朱色の両目。
解読眼が、一瞬の僅かな間だが赤黒い火花のような光を散らす。
それと同時に、魔銃を握り締めた右手が青白い光を帯びていた。
「一人じゃ前に進めないんだッ」
、何かが吹っ切れたように銃口を素早く上空に向け、何発もの銃弾を放ち、空中で分裂体を仰け反らせてジンの足元へと吹き飛ばしてしまう。
「っ!? ビビらせやがって――――よぉっ!!」
地面に衝突し倒れこむ分裂体はそのまま二つの原点の式が容赦なく叩き込まれ、金切り声のような悲鳴をあげながら液状となって消えたのだった。
「……おいこらヘルメス。いきなりこっちに押し付けてんじゃねぇよ。ちったぁ合図の一つでもよこせってんだ」
分裂体に原点の式を叩きつけ腰を低くしていたジンが、身体を起こしながら急なアドリブに不満を述べると。
「自分は一人で戦っているわけではないからな。ジンなら何とかしてくれると信じていたんだ」
ヘルメスはとても眩しい笑顔でそう言い切り、ジンの表情を何ともいえない複雑なものにさせる。
「おいおい勘弁しろよ……。今みてぇに何度もボサっと突っ立たれてたら気が気じゃねぇぞ」
「フフ、すまない。もう大丈夫さ」
何だかんだ言いつつも、こうして自分の身を案じてくれているジンが嬉しく、自然と笑みが零れてしまう。
改めて一人ではないという事が感じられ、ヘルメスの闘志は更に燃え上がっていく。
「じいちゃんっ! 僕達もできる限りジンさん達の力になろうっ! この国は僕達の国だっ!」
「よくぞ言ったアラン。お前はわしの自慢の孫だッ!! もう誰であろうとお前達を傷つけはさせんッ!! 安心して簡易式で奴らの動きを止めるのだッ!!」
王従士達を次々と殺戮していった分裂体を相手に、少し離れた場所でアランとジェイドも懸命に足止めを遂行していた。
簡易式を広範囲に展開し、分裂体の動きを止める事に専念するアラン。
そしてアランに敵を近づけまいと鍛え上げたその肉体で分裂体を何とか振り払っていくジェイド。
四大精霊の心の下、勇敢なる戦士達は光を求めて戦いを繰り広げる。
ヘルメスは、一人ではないのだ。
「実に心強いな」
二人の様子にヘルメスは再びその身を剣とし、ラティーバを救う為に戦火の中へと放り投げていく。
「面倒くせぇ。とっとと全滅させりゃぁ話は早ぇんだろうが」
ジンも同じく、この場に残る誰一人とて傷つけまいとその身を盾と考え牙を剥く。
残り僅かの分裂体達もその命を奪おうと動きを荒々しくさせていく。
すると。
「ヘルメス=エーテルッ!!」
どこからともなく一つの大きな声が聞こえてくる。
分裂体をいなしながら、四人同時にその方角に視線を向けると。
「これで、これでラティーバは救われるのだな……ッ!?」
失った両腕を止血し、応急処置を施されたディランが大量の涙を浮かべてそう叫んでいた。
大量の簡易式を抱えた王従士達と共に再びその姿をこの広場へと現す。
しかし、その存在に反応して分裂体の全てが目を血走らせ、慌しく四人から離れ一目散に王従士達へと狙いを変えて猛スピードで襲いに向かう。
既に恐怖を植えつけられていた王従士達が思わず足をすくめると。
「いい加減に――――」
分裂体の頭上に輝きを増した青白い大きな光が差し迫り。
「しろやぁッ!!!!!」
とてつもない出力を展開させた原点の式はその周囲を包み込み。
瞬く間に分裂体全てを蒸発させただけでなく、勢い余ってその場の地面すらも抉り、丸い球体のような痕を残したのだった。
その中心で片膝をつき不気味な笑みを浮かべるジンの姿に、周囲の者達は一体何が起きたのか皆目付かない様子で口を大きく開けて唖然とする中。
「今の膨大な量にも驚かされたが……。あれだけの量を展開しているにも関わらず未だ賢者の石には尽きる気配の無い無数の式が巡っている……」
ヘルメスだけが、目に映るジンの体内に核として存在する賢者の石に驚かされていた。
「あんな物を構築したアンチスミスとは一体……」
賢者の石を構築した伝説の錬金術師アンチスミス。
謎多きその存在にヘルメスが改めて畏怖を覚え鳥肌を立たせていると。
「テケリ・リ・リ」
全ての分裂体が消滅するや、全てを吞み込む者は巨大な両手で周囲の建物を一瞬にして吞み込みながら立ち上がっていく。
一つ一つの動作はまさに天災。
全てを吞み込む者が少しでも動くだけで周囲は壊滅し、野ざらしとなってしまう。
その光景に皆が息を呑み、絶望を与えるように大きな影を生む巨大な全てを吞み込む者の姿に身体を震わす。
「貴殿に言われた通り……周囲からありったけの簡易式を用意した……。本当にこれでラティーバは救われるんだな……?」
静かにヘルメスに近づき、ディランが涙の跡が残る顔を不安の表情で歪めながら尋ねると。
「えぇ。貴方達の国は滅びない。……いや、滅ぼさせない。間もなくこの国を覆う暗黒の夜は消滅し、輝かしい朝日と共に真の平和を迎えるのです」
ラティーバの命運を賭けた夜は間もなく終わる。
巨人と化した全てを吞み込む者の身体中から無数の瞳が再び浮かび上がり、小さく弱い人間を見下ろす。
人の言葉を発さない全てを吞み込む者だが、その小さき存在を軽んじ嘲笑っているかのように見える。
「……貴様が遥か昔、どのような存在だったのかは知らんが――――」
ヘルメスは凛とした表情で顔を上空まで上げ、全てを吞み込む者を睨みつけ。
「これ以上好き勝手にはさせん。眠れ、古のものよ」
無数の瞳はまるで苛立ったように血走り、その全ての焦点がヘルメスへと注がれる。
「何一人ではしゃいでんだよ……」
側にやってきていたジンがヘルメスの頭を背後から軽く叩き、溜息を一つ吐き。
「俺もこいつには腹立ってんだ。……虫ケラみてぇに軽々と吹き飛ばしやがったり、こうやって見下されてスッゲェむかつくぜ。とにかく一発デケェのぶち込んでやる」
「くれぐれも無茶だけはするんじゃないぞ?」
「ケッ、お前ぇもな」
叩かれた頭を撫でながら微笑むヘルメスと、鋭い牙を見せながら身体をウズウズとさせるジン。
「さぁ、そろそろ幕引きだ。俺達を吞み込めるもんなら吞み込んでみろよ――――全てを吞み込む者ッ!!!!!」




