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黒匣の世界式  作者: 喜怒 哀楽/Yu1
英雄の再来
53/80

15話:小さなその手で掴むもの

 静かに、錬金術師の少女と偽人ホムンクルスの青年はボロボロの姿で再び横に並び、共に一点を見据えていた。

 今まさに、ラティーバをその禍々しい巨体で呑みこもうとする全てを呑み込む者ショゴスの姿が瞳に映っている。

 ようやく再会を果たす事ができた。

 互いに伝えたい事、聞きたい事は山のようにある。

 しかし、これまでの経緯を語り合っている暇は無さそうだ。

 耳を痛める程の奇声をあげ、一心不乱に何かを求めて突き進む全てを呑み込む者ショゴスを止めねばならない。

 今は自分達の知りえる重要な情報だけを簡潔に伝え終えた。


「なるほどな」


 ジンは遠く離れていく全てを呑み込む者ショゴスを険しい表情で見据えながら、先程から疲労困憊していたヘルメスの現状にようやく納得がいった。

 いつものようにズボンのポケットに両手をいれ、今のヘルメスの姿に深い溜息を吐くのだった。


「やれやれ。さっきは何てザマだって思ってたけどよ……。アランが言ってたファナンって奴の薬の影響だったのか……」


 身体能力を著しく低下させられていたヘルメスは魔銃を握り締める手も震え、全身傷だらけとなって疲労困憊している。

 錬金術の恐ろしさにジンは改めて驚きつつ、複雑な表情を浮かべてしまう。

 時に偽人ホムンクルスであるジンをも凌駕する体力や、並外れた怪力と頑丈な身体を披露していたヘルメスがここまでボロボロにされているのだ。

 ジンが驚くのも無理はなかった。

 するとヘルメスは心配そうに自分を見つめるジンに身体をよろつかせながら苦笑いを浮かべた。


「面目無いな。最近、日々の鍛錬を怠っていたツケがここできてしまったようだ……」


「いやいや!? ……前々から疑問だったんだが普段どんな鍛え方してたらそうなんだよ」


 片手を軽く振り、ヘルメスのでたらめさに呆れを通り越して関心してしまう。

 ジンがアランから聞かされていた薬の情報通りならば、まず違法薬ドラッグを摂取してから数日間はまともに身体を動かす事すらできないらしい。

 更にヘルメスの場合は身体能力を著しく低下させ、錬金術をも封じる薬を投与されていると先程聞かされた。

 それだけでなく銃弾を何発か喰らい、足や肩から出血までしている。

 むしろここまで動けていた事が奇跡だった。


「大した女だよ、お前ぇ。ホント無茶苦茶な奴だな……」


 ジンの呆れ返った声にヘルメスは自分のタフさにただ苦笑を返す事しかできなかった。

 すると、ようやく二人の後方ですっかり存在感を失いかけていたアランが二人の間に割って入ってくる。


「ほ、本来ならあり得ないんですが……あの英雄のご令嬢だと聞かされると妙に納得しちゃいますね」


 ヘルメスはどこか浮かない表情で振り向き、その発言を否定していく。


「アラン、だったな。あまりそのように言ってくれるな。確かに父様は偉大な錬金術師だったが、その娘である自分もそうだというわけではない……。自分など父様には遠く及ばないさ」


 先程、ジンを交えながらヘルメスとアランは軽く自己紹介を済ませていた。


「そう仰りましてもですね……」


 アランは先程から軽く混乱していたのだ。

 ファナンの構築した薬の影響を受けていると言うのにここまで動けていたというその事実。

 そして何より自分達の宿敵であるファナンと手下達を見事討ち取り、英雄パラケルススの娘だというヘルメスの存在には驚かざるを得なかった。

 古びたローブを被り、その影からまじまじとヘルメスを見つめてアランが呆然と立ち尽くしていると。


「おいおい。んな風にいつまで棒立ちになってんだよアラン。こちとら娯楽であんな”バケモノ”を相手したんじゃねぇぞ。アンタ何しにここまで来たと思ってんだ? ……ケッ、丁度良くここに実験体が居んだから”例の薬”早くを試せよ」


 状況を把握したジンが厳しくアランを睨みつけ、急かすように指示を出すとアランは不安そうに両手の指を何度も絡めて眉をへの字にさせた。


「でっ、でも本当に大丈夫なんですかね? ま、万が一……も、もし、僕が構築した薬が失敗作だとしたら……ヘルメスさんの身が危険に晒される可能性も……っ」


 先程からジンとアランのやり取りと、妙な単語がヘルメスの首をかしげさてしまう。


「おい二人共、一体何の話をしているんだ?」


 ジンがこの村に訪れるまでまさか古獣と死闘を繰り広げていた事などヘルメスは知らず、その意味深な発言にただ目を細めて不安気にしていた。


「ま、話せば長ぇ……。今はんな事より――――」


 何故ジンが必死に古獣と呼ばれる恐ろしい存在と戦ってきたのか。

 その理由は全てヘルメスの為。

 だがそれを言うのは気恥ずかしく、ジンは不安気に自分を見つめるヘルメスから視線を逸らし、アランを更に捲くし立てていく。


「つべこべ言ってねぇで早く”違法薬ドラッグの抗菌薬”を出せって! アンタが必死になって長年研究を積み重ねてきた代物だろうが。んなもん失敗作なわけねぇだろ!」


 そのぶっきら棒な激励の言葉に、アランは少し涙ぐんでしまう。

 二人の青年は互いに大事なモノの為に、無謀にも古獣に挑んだのだ。


「ぅ、ジンさん……っ」


 誰よりも臆病だった青年は、自分が何故この村に再び戻ってきたのか。

 その意味を今一度しっかりと思い出す。

 ジンと行動を共にし、精神的に成長を遂げたアランは意を決してローブの懐に手を入れる。


「わ、わかりましたっ! そうですよね……。僕はこの村を救いに戻ってきたんだ……っ」


 その表情は、今ではどこか頼もしく見える。

 最初の頃に比べ、少しばかり逞しくなったアランの様子にジンがニッと口の端を上げると。


「ジン、今、抗菌薬と言っていたが……」

 

 ジンのすぐ側で待機していたヘルメスは戦いと薬の効果によって重苦しくなった自分の身体が少し軽くなった気がした。

 先程、ジンの口からは確かに違法薬ドラッグの抗菌薬という言葉が聞こえてきたからだ。


「まさか……、彼が……っ!?」


 この村は元凶であるファナンを倒しても村人達が真の意味で解放されたとは言えない。

 その最大の理由は違法薬ドラッグによる禁断症状。

 薬を求め、まったくの別人にように変貌してしまう中毒性を持つ恐ろしい代物の存在。

 構築者であるファナンが居なくなってしまえば必然的に村人達はその中毒性に激しい苦痛を伴い、最悪の場合、死に至る事にもなりかねなかった。

 だが――――


「へっ、そのまさかだ」


 短いジンの返事にヘルメスは自然と魔銃を握る手に力が込もっていく。

 それを感じたジンはいそいそと抗菌薬を取り出すアランの姿を見つめて微笑みながら続けた。


「大したもんだぜこいつ。……とんでもねぇビビリのクセにこの村から脱走しただけじゃなくて、長い間ずーっと一人で違法薬ドラッグに対抗する薬の研究をしてたんだ。錬金術の知識なんてまったく無かったクセに、一から錬金術を独学で学んでよぉ……。毎日毎日、いつ捕まんのか怯えながら……大切なもん取り返したくて必死になって頑張ってたんだ」


 そう説明するジンの口調はどこか嬉しそうに感じる。

 最初こそヘルメスだけの為だったが。

 いつしかジンはアランの努力と想いを認め、それを叶えてやりたくなっていたのだ。

 それを聞かされたヘルメスは牢に捕まっていた時にセラから聞かされた”ある人物”の存在を思い出し、驚きに目を見開きながらジンに小声で尋ねていく。


「ジン……その話なんだが。……アランがこの村を脱走したと言うのは大体いつ頃の事なんだ?」


、どことなく困惑した様子を見せるヘルメスを怪訝な表情で疑問に思いながらもジンは告げる。


「……急にどうしたんだよ? 正確には覚えてねぇけど確かこの村が支配されて少し経ってからとか言ってたっけか」


 何度か脱走を試みた者が居るとセラは言っていた。

 だがその全ては失敗に終わり、ファナンに背いた事でその者達は処刑されてきたと聞かされていた。

 しかし。

 ローブで隠れているが先程からヘルメスは気になっていた。

 どこか見覚えのあるその顔立ち。

 意を決し、ヘルメスは既にこの世を去ったと聞かされた人物の名を恐る恐る口にする。


「彼の本名――――アラン・マクターと言うのではないか?」


 妙な違和感を覚えていたジンは大きく目と口を開き。


「何だ!? 何でお前ぇがあいつの本名知ってんだ?」 


 ヘルメスは言葉を失い、静かに胸をゆっくりと撫で下ろしていく。


「やはり……そうだったのか……っ」


「お、おい、何一人で解決してんだよ! だから何でヘルメスがアランの事知ってんだよ?」


「……」


 喚くジンの側でヘルメスは胸に手を置いたまま瞳を閉じて穏やかな表情を浮かべていた。

 祖父以外の家族を失ってきた少女にはまだ残されていた。

 もう一人、大切な家族が今も生きていてくれた。

 それを知ればどれだけ彼女が喜ぶだろうか。

 まるで自分の事のようにヘルメスは喜んでいた。

 すると――――


「ヘルメスさーーんっ!!」


 背後からとても愛らしい声でヘルメスの名を叫び手を大きく振る少女と、ヘルメスのコートを抱えた老人が駆け寄ってくる。


「あいつは確か……」


「フフ」


 その声に聞き覚えのあったジンはバツの悪そうに振り返るが、ヘルメスは対照的に満面の笑みでその姿を迎える。

 しかし誰よりも。

 真っ先にその声に反応したのは――――アランだった。


「……な、」


 懐から取り出した抗菌薬を片手に持ち、自分達に駆け寄る二人の姿に声を震わす。


「そん、な、まさか……っ」


 とても懐かしい。

 とても大切な。

 二人の家族の姿に。

 アランは、今までに聞いた事のないような大声で力一杯に叫ぶ。


「セラッ!!!!! じいちゃんッ!!!!!」


 ファナンから死を告げられ、完全に諦めていたその懐かしい姿にセラとジェイドも一瞬その場で立ち止まり言葉が中々出て来ず困惑していたが。

 すぐに二人の両目から、涙が零れ落ちる。


「嘘……っ、お兄、ちゃん……? お兄ちゃんなのねっ!?」


「アランなのかッ!? お前……ッ!!!!!」


 立ち止まっていた家族三人は同じタイミングで勢いよく跳び出していく。


「ぅっ、生きて、生きててくれたんだねっ」


 二人の生死がわからないまま今日まで孤独に生きてきたアラン。

 ようやく無事を確認し、再会を果たせた家族の姿に途中で躓きながら懸命にその場所まで足を走らせる。


「っ、ぅ、、ぅっ、お兄ちゃんっ!!」


 そして三人の家族は互いに膝を地面に崩し力一杯に抱きしめ合い、その喜びを涙と共に噛み締め。

 悪夢に囚われ続け、辛い日々を過ごしていた家族はようやく再会を果たす事ができた。

 今までの記憶と想いが一気に湧き出てくる。

 

「すまないッ!! 本当にすまないッ!! わしに力が無いばかりにお前達から父さんと母さんを奪っただけでなく危険な目にまで遭わせてしまったッ!! 無力なわしをどうか許してくれッ!!!」


 残された家族であるセラとアランの安全を守る為とは言え悪魔に手を貸し、村人達を裏切りに非道な行為を繰り返してきたジェイド。

 あまつさえ無謀だとわかっていたはずなのに、アランの脱出を手助けしてしまったが為に恐怖に怯える日々を過ごさせてしまった。

 更にセラまで危険な目に遭わせてしまった。


「僕こそッ!! もっと早く皆を助けにこれなくてごめんよッ!! 皆とても辛かっただろうに僕一人だけ外に逃げたりしてッ!!」


 ジェイドの懸命な制止を聞き入れず、結果的にバレていなかったとは言えもしも失敗に終われば家族が危険に晒されると言うのに脱出の手助けまでさせてしまった。

 更に家族や村人を悪魔の元に残し、自分だけが外で過ごしていた事に並々ならぬ罪悪感に襲われていた。

 それだけでなく。

 自分に力が無く臆病だったが為に抗菌薬の完成が遅れ、今まで辛い思いをさせてきてしまった。


「おじいちゃんとお兄ちゃんが謝る事なんてないわっ!! 私こそ何もできない弱い子で本当にごめんなさいっ!! 生きててくれて本当に……ありがとうっ!!!!!」


 自分だけが守られてばかりで、自分の代わりにずっと戦い続けてくれていた家族への後ろめたさ。

 自分一人では何もできないと自覚があったセラは、そんな自分でも何か出来る事があるはずだと考えに考えた末、外部の人間に自分が助けを求めるという結論に至ったのだ。

 無茶だとも思ったし、何よりも恐かった。

 それでも必死に勇気を振り絞り、死にもの狂いで何とか村から脱出できたものの。

 そのせいでジェイドがファナンによって拷問され、処刑される寸前にまで陥らせてしまった。


「本当に良かった。互いに互いを心配し、想い合い……素晴らしい家族じゃないか」


 顔をぐちゃぐちゃにして泣きじゃくり、互いに謝罪を口にしていく三人の家族の姿を少し離れた場所で見守っていたヘルメスが横のジンに同意を求めるように微笑む。


「何だこの状況。わけがわかんねぇ……。すっかりもう死んでるもんかはァッ!?」


 ジンの頭を力任せに殴るヘルメスだった。


「口には気をつけろジン……。まったく君という奴は……」


「お前ぇ……ホントに弱ってんのか? ちきしょぉ……痛ぇ……」


 頭を擦りながらそう言うジンだったが、今まで感じてきた痛みには程遠いものだった。

 すぐに三人の家族をヘルメスと同じく見守りながら少しばかり不満そうに両腕を組み、率直な感想を述べていく。


「しっかし……やっぱ俺にはよくわかんねぇな。家族がどうのこうの言われても、俺にはお前ぇらみてぇな血の繋がった家族が居た事なんてねぇし」


 偽人ホムンクルスであるジンに血の繋がった家族など居ない。

 ジンがどこか寂しそうな表情を浮かべてアラン達を羨ましそうに見つめている気がしたヘルメスはそっと肩に手を優しく置く。


「血の繋がりだけが家族じゃないさ。例え本当の家族じゃなくてもそこに確かな絆があれば時には家族以上の絆が生まれる。自分と師匠のようにな。それに前にも言ったはずだぞ?」


 ヘルメスは疲労のせいか、少しばかり頬を赤く染めながら伏せ目がちに。


「じ、ジンはもう自分にとって家族のような特別な存在だってな」

 

 自分の危機を救いにきてくれたジンの姿を見た時から安堵の他に。

 妙な感情がヘルメスの胸をざわつかせていた。

 意識すればする程、ヘルメスの胸の鼓動は何故か早まっていく。

 ドルスロッドで感じたものと少し似ている気がしたが、今回は違うような気もする。

 初めての感覚に陥っていたヘルメスが少しそわそわしながらジンの顔を見上げると――――


「む……? おい、ジンどうしたんだ?」


 耳まで完全に真っ赤にしたジンが頑なにヘルメスからそっぽを向いていた。

 それが何故かわからなかったヘルメスは返事の無いジンにもう一度声をかけようしたが。


「ジ――――」


「ヘルメスさんっ」


 セラに呼ばれ、遮られてしまう。


「む?」


 振り返ると自分達の前で、ようやく落ち着きを取り戻した三人の家族が深く頭を下げる姿があった。


「ちょ、や、止めてくれっ。自分はそういうのは……その、に、苦手なんだ……」


 ジンの肩から手を離し、魔銃を握ったまま両手をブンブン振り回すヘルメスの姿に三人が顔を上げる。


「ヘルメスさんだけじゃなく……。ジンさんもっ! お兄ちゃんをここまで連れてきてくれただけじゃなくて、危険なお手伝いまでしてくれたみたいで本当にありがとうございましたっ!」


 すっかり真っ赤な顔が元に戻ったジンは、一度は冷たく接したセラにそう感謝されると急に罪悪感に襲われ頭部の後ろに手を回して困った様子を見せる。

 それでも三人の家族はジンにも深く感謝をしていた。


「たまたま利害が一致しただけだっての……。礼ならヘルメスにだけ言ってろよ」


「いいえっ! ジンさんが居なければ僕は絶対に今日この場所に居ません……。ジンさんのおかげでようやくこの村を本当の意味で救えるんです……っ、本当にありがとうございましたっ!!」


 抗菌薬を構築する際に最も難点だった古獣の素材がジンのおかげで何とか手に入ったのだ。

 ジンの働きはこの村を救う為にはかかせない程に重要な事だった。


「そうなのか?」


 あのジンがヘルメスの知らないうちに人助けをし、自分以外の者に感謝されると、ヘルメスもつい嬉しくなってジンの頭をくしゃくしゃに撫でて褒める。


「フフ、どうしたんだ? 好き好んで人助けなんてしない主義じゃなかったのか? んー?」


「う、うっせぇよっ! だからっ! た、たまたま利害が一致しただけだって言ってんだろうがっ! あとそうやって人の頭軽々しく撫でんなって何度言やぁわかんだよっ!」


 ヘルメスの手を払うとジンは不貞腐れたように舌打ちをして皆から背を向けて離れていってしまう。

 こうして本気で照れるジンが面白いのかヘルメスは何度止めろと言ってもジンの頭を撫でる事を止めようとしたなかった。

 そんな二人の微笑ましい光景を前に、ジェイドの一際渋い声が割って入る。


「エーテルの娘……、いや――――ヘルメス殿だけでなく、ジン殿にも返しようのない借りを作ってしまったな。……ファナンは自分に逆らう者や脱出を試みる者が今後現れぬよう、唯一脱出を許してしまったアランの存在を葬り去りたかったのだろうな。わしらにアランの死を信じ込ませ……わしらもまんまと信じていた」


 アランは村を脱出してからもファナンの手下達にその行方を執拗に追われていた。

 ファナンはアランの生存は何としても隠し通さなければならなかったのだ。

 全ては自分に対する絶対の恐怖を村人達に植え付け、その力を誇示し続ける為だけに。


「だが……」


 ジェイドは激しく痛めつけられていた疲労困憊した老体に鞭を打つよう鼓舞させ。


「こうしてまた三人で再会できた……ッ、君達二人のおかげだッ!! 本当にありがとう……ッ!!」


 涙ながらにそう叫ぶ。

 

「じいちゃん……あんま無理しないでよ」


「そ、そうよ、そんなに叫んじゃ身体に障るわっ」


「し、しかしだな……」


 涙を流しているというのにジェイドの表情は幸せに満ちていた。

 二人の孫を再び抱きしめる事ができる、ジェイドにとってそれは何よりも変え難い幸福だった。

 そんなよろめく祖父の身体をセラとアランは両側で支え、ジェイドは抱えていたコートを思い出したように差し出す。


「ファナンの屋敷で保管されていたものを急いで持ってきた。大切なものだろう」


 それは暗い青を基調とした錬金術師のコート。

 久しく見るそのコートに自然とヘルメスの表情が凛々しくなっていく。

 大切な思い出の詰まったコート。

 不思議とこれを着ていると気が引き締まるのだ。


「わざわざ取りに行ってくれてたんですね。おじいさん、ありがとうございます」


「これぐらいで礼など言われたらわしらは堪ったもんではない……」


「そうですよっ。それにヘルメスさんにはそのコート、とってもお似合いですしっ」


「フフ、ありがとう」


 ヘルメスがコートを静かに受け取ると、今度はアランが抗菌薬の入った小さな布袋を差し出す。


「まだ試作品ですが……僕の構築したこの薬がきっとヘルメスさんだけでなく、この村の人達を救ってくれると信じてます。お願いしますどうかこれを受け取ってくださいっ!」


「あぁ、勿論だ。アランの努力の結晶はしかと自分が受け取る。必ず、この想いに応えてみせると約束する」


 コートと抗菌薬を受け取り、再び闘志を燃やすヘルメスに。


「ケッ。とっとと準備しろ」


 皆から背を向けて黙っていたジンが声を弾ませる。


「まだ終わっちゃいねぇ。手ぇ貸してやっから――――あのバケモンぶっ倒しに行くぞ」

 

 ヘルメスは颯爽とコートを纏い、裾に手を伸ばし。


「無論だ」


 かつてこの国を救った英雄の姿を彷彿させるような、とても力強い背中をセラ達に見せつけ。


「今度こそ――――ラティーバを包む闇を晴らそう」


 ジンの横に並び、全てを呑み込む者ショゴスを追う。





◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 



 一方その頃。

 すっかり日は沈み、いつもならば平穏な日常の締めくくりとして皆が各々に落ち着きを見せる頃合。

 しかし今日この日は違う。

 悪夢の再来。

 もはや村一つだけではなく。

 今。

 ラティーバ全土が崩壊の危機に陥り壮絶な混乱が招かれていた。


「国王様のご命令だッ!!! 国民の安全を第一に考えて行動しろッ!!!」


「直ちに国民の皆様は速やかに王城へと避難してくださいッ!!」


「我々の指示に従い家族が離れぬようにしっかりと固まって行動願いますッ!!」


 あちらこちらで飛び交う慌しい声の数々。

 恐怖と不安でざわめく国民達の声は更にこの国の不安を煽る。

 そんな逃げ惑い、混乱する国民を先導するのはラティーバの王従士ゴールデンドール達。

 国王、ダレクス=レアリオンから王従士ゴールデンドール達が授かった命は二つ。

 国民達の安全を最優先とし、自分達も必ず無事生還する事。

 王の命は絶対厳守。

 死者は誰一人とて許されない。


「良いかッ!! 国王様は我々に必ず帰還するよう命じてくださったッ!! これは私自身の願いでもあるッ!! 決して死ぬなッ!! 必ず脅威を退け生還するのだッ!!」


 純白のコートを纏い、誰よりも声を響かせ指揮を執る者はラティーバの三英傑ゴールデンナイト、ディラン=ハーバ。

 間もなく迫り来る巨大生物を睨みながら、尋常ではない国家内での喧騒の事態にディランは唇を噛み締める。


「クソッ、まさか一連の失踪事件の真相がファナンによるものだったとはな……ッ。国民と距離が近い王従士ゴールデンドールを買収し、我々三英傑ゴールデンナイトや国王様に近い王従士ゴールデンドールの耳に村の惨状が伝わらないよう隠蔽していたとは……ッ」


 ファナンによって支配されていた村から出現した今回の巨大生物の存在。

 そして無事脱出した大量の村人達の証言により、ようやく衝撃の事実が見る見る明らかになっていった。

 現在、村人達は王城にて医療に携わる王従士ゴールデンドールによって保護されているが、あまりにも事態への対応が遅すぎた。

 ファナンをよく知る者は未だ完全には信じ切れない者が多数存在する。

 だが、ディランは今回の件で痛感していた。


「……急速なラティーバ発展の傍ら、どうしても我々は国民達の声を聞く機会を失ってきた。今更だが、何年も前からこうした村の査察や報告をまだ実績の浅い王従士ゴールデンドール達に任せっきりだったのが間違いだった……ッ」


 下層の王従士ゴールデンドールはファナンに買収され、国民達から離れていた上層部へは捏造した嘘の報告しかいっていなかった。

 その結果、こうなる前に事件は決して明るみにはならなかったのだ。

 決して今回の事件の引き金の全てがファナン一人によるものとは思えなかったディランは、国民達との距離が離れてしまった自分達にも責任があると深く後悔していると。


「ハーバ氏! この一辺の国民は全て王城へと誘導中でありますッ! もう建物には誰一人とて国民が居ない事を確認しましたっ!」


 先程まで大騒ぎだったこの周辺が僅かに静けさを取り戻していた。

 この周辺に住む国民達の避難誘導が完了した事を、部隊の一人である王従士ゴールデンドールがキビキビとした動きで敬礼しながら報告をする。

 あとは此処に残っているのは王従士ゴールデンドールのみだ。


「そうか……!! よし、では……これよりあの巨大生物を迎え撃つ。報告によると巨大生物の進行経路が真っ直ぐとこの大広場へ向かっているようだッ!!」


 此処は英雄パラケルススの記念碑などが置かれるラティーバの中心に位置する大広場。

 先日、ジンとアランが出会うきっかけとなった場所だ。

 いつもはその美しい造形美を目当てに、大きく透明な球体を支える大樹を観光客や国民達が平和に囲んでいるが今は違う。

 暗雲が不気味にこの場を覆い、厳戒態勢の王従士ゴールデンドール達によって守られている。

 その数、二十数名。

 ラティーバを守る戦力が大広場へと集結していた。


「何としても……守り抜かねばならんッ」


 大樹に支えられた透明の球体の中で、不思議な光の線の様な物が何かに反応するように慌しく不規則な動きを早めて行ったり来たりとしている。

 

「かつて枯れ果てていたこの国を豊かにし、今や世界の均衡を保つ”四精霊の心エレメンタル・コア”を失えば取り返しのつかない事態となるッ!!! 例え相手が古獣だったとしてもそれだけは絶対に防がねばならんッ!!! 心してかかれッ!!!!!」


 四精霊の心エレメンタル・コアとは世界の均衡を保つ核として四大国家のそれぞれに四つ存在する錬金術で構築されたモノ。

 これを失えばラティーバは再び枯れ果てた大地へと戻り、更には今の世界に与える影響も計り知れない。

 何故か全てを呑み込む者ショゴスは国中のありとあらゆるモノを吞み込みながらこの大広場へと突き進んでいた。


「「「世界の為にッ!! 王の為にッ!! 民の為にッ!! 我々の為にッ!!!」」


 王の教えを声高らかに、握り拳を掲げてディランに呼応し、王従士ゴールデンドール一同が大きく士気を高めていると――――


「テケリ・リリリリィィィイイイイイイイイイイイ」


 けたたましい奇声と大きな建物の崩壊音がいくつも近づく。


「ッ!?」


「ぐぅうううっ」


「な、なんだこの音はぁッ」


「こ、鼓膜が破れそうだっ」


 この場に居る者の全てが思わず両耳を両手で押さえて腰を低くし。


「ぐ、ぁ、あ、」


「いってぇえええええっ」


「がぁ、ぁ、ぁ、」


 目を瞑りながら奇声に表情を苦痛で歪めていく。


「クソッ、もうここまで来ていたのか……ッ」


 膝をつくディランだけでなく、全ての王従士ゴールデンドール達に緊張が走る。

 いくつも聞こえてくる衝突音はもうすぐそこまできている。

 度重なる破壊音は尋常ではない早さで近づいてきていた。


「気を引き締めろッ!! 我々が食い止めねばラティーバだけでなく世界に明日は無いと思えッ!!!!!」


 ディランの掛け声によって王従士ゴールデンドール達はようやく目を開き。


「「御意ッ!!!!!」」


 各々が何とか耳への痛みを払拭して立ち上がっていく。

 コートの内側から簡易式インスタントコードを取り出す者。

 固有式オリジナルコードや錬金術の構築を始め、迫り来る巨大生物を迎え撃つ準備をしていく者。

 そして遂に――――


「か……」


 大きな建物が崩壊音と共に崩れ。

 凄まじい砂埃が舞うと同時に。

 赤黒い液状の身体で崩壊した建物を吞み込みながら勢い良く跳び出してその姿を現した。


「かかれーーーっ!!!」


「テケリ・リリ、テケ――――」


 四本の足を奇妙にくねらせながら部隊を物怖じもせず四精霊の心エレメンタル・コアを吞み込もうと突き進む全てを呑み込む者ショゴスへディランの合図と共に攻撃が集中砲火される。

 爆炎に落雷、刀剣に槍。

 錬金術を駆使した様々な現象のどれもが見事に巨大な身体に命中していく。


「テケリ・リリ、テケリ・リリ、テケリリリリリィイイイイイイイイイイイイ」


 無数の赤黒い眼も潰されていき、同じく赤黒い液体の身体も飛散させて動きを封じられてしまう。

 今では建物すら余裕で吞み込んでしまう程に肥大化していた全てを呑み込む者ショゴスの巨体もこの集中砲火に耐え切れず、僅かに後方へと仰け反る程の威力だった。

 

「はぁ、はぁ……手を緩めるなッ、まだあのバケモノは息があるッ!!! このまま構築を続けていくのだッ!!!」


「り、了解であります……っ」


 肥大化していた全てを呑み込む者ショゴスの身体は王従士ゴールデンドール達の応戦により飛散していき、小さくなっていくのがわかる。

 正確な情報が掴めていない王従士ゴールデンドール達は全てを呑み込む者ショゴスを古獣だと思い込み、自分達の攻撃が通じるのか恐れていたが。


「い、いける……ッ、我々の攻撃が効いているぞッ! み、見ろ奴の身体が見る見る飛散していくぞッ!」


「よ、よしっ、こ、このまま四精霊の心エレメンタル・コアから離すんだっ!」


 まるで削ぎ落とされるかのように身体を小さくしていく全てを呑み込む者ショゴスに士気が高まり、けたたましい奇声に何とか耐えながら構築を続ける事ができた。

 だが、事態は急速に絶望的な状況へと一変してしまう。


「何だ――――これはっ!?」


 ディランだけでなく、周囲の王従士ゴールデンドール達の動きが一斉に止まる。

 その理由は単純に未知への恐怖。

 自分達の目の前で、突如として多くの謎の存在が地面から形成されていく。


「……」


「……」


「……」


 頭部分に一つの赤黒い眼球を宿した赤黒い液体の身体を持つ人型の群れ。

 王従士ゴールデンドール達の攻撃により飛散して生まれた全てを呑み込む者ショゴスの数十体にも渡る分裂体がぞろぞろと現れ。


「ぐぎゃあああああああああああ」


「お、おいっ!?」


 一人の王従士ゴールデンドールが血飛沫と叫びをあげながらその場に倒れ込む。

 瞬く間に自身の腕を刃に似た形に変え斬りつけた一体の分裂体がその屍の傍らで不気味な眼を細めていた。

 そして。


「……」


「……」


 他の分裂体達も身体を奇妙にくねりながら王従士ゴールデンドール達を翻弄する動きで一斉に襲い始めてきた。


「こ、こっちに来――――」


「ぎぃやぁぁああああ」


 また一人、命を奪われる。


「ひぃいいいいい」


 自分達に襲いくる分裂体に向けて急いで構築物を放とうにも。


「……」


 元々液体の身体を持つ分裂体は身体を自由に長細い形状にしたり、あのヘルメスすらも翻弄したその素早さを持つ為、王従士ゴールデンドール達の攻撃は空振り終わるだけだった。


「は、ハーバ氏!? ど、どうすれぎゃぁあああああああ」


 聞こえては消える悲鳴の数々。

 人間を嘲笑うかのような実力を示す分裂体の数々。


「こんなの、どうすれば……」


 次々と分裂体に命奪われる部下達の姿にディランはただその場に立ち尽くす事しかできなかった。

 両膝をつき、力の抜けた両手をぶらつかせながらディランは体勢を戻す全てを呑み込む者ショゴス本体を見上げる。


四精霊の心エレメンタル・コアに近づけさせまいと攻撃すれば……奴は分裂体を生む……。こんなバケモノ相手に……一体どうすれば……」


 ディランの闘志は瞬く間に吞み込まれてしまった。

 こちらから攻撃すれば全てを呑み込む者ショゴスは分裂体を生み続ける。

 だからといって攻撃をしなければ四精霊の心エレメンタル・コアが吞み込まれてしまう。


「手の打ちようがない……っ」


 三英傑ゴールデンナイトともあろう者がこうも容易く匙を投げて良いわけはなかった。

 だが、それ程に全てを呑み込む者ショゴスという存在は絶望的なものだった。


「テケリ・リ……テケリ・リ……」


 分裂体を引きつれ、再び全てを呑み込む者ショゴスが四本の足をくねらせて四精霊の心エレメンタル・コアへと動き始める。

 身体が小さくなったせいかその動きは遅いものだが、早さなどこのような状況では意味を成さない。

 もはや分裂体がこの場に居る王従士ゴールデンドールを一人残らず排除し、後は本体が四精霊の心エレメンタル・コアを吞み込むだけだった。

 全てを諦めかけていた時、ディランの脳裏に王の姿と言葉が。


 ディラン。

 私は国を守れなかった王だった。

 お前には――――この国を守って欲しい。

 

「ぐ……っ、両膝を地につけ、私は何と無様な醜態を晒している……ッ。今も部下達が戦っているというのに私は……ッ!!」


 もうその声の数は僅かなものになっているが、今も王従士ゴールデンドール達は圧倒的な力を持つ分裂体を相手に戦っている。

 気づけばディランは肩膝に片手を置き立ち上がり、本体へと走り始めていた。


「ぐぅおおおおおおおッ、消え失せろバケモノッ!!!!!」


 ディランの両手から青白い光がその想いに応えるように激しく光る。

 だが――――


「……」


 ディランが構築しようとしていた錬金術が危険なものだと察したのか一体の分裂体により――――。


「ぁ、ぁ、ぁあああああああああああああああああああああああああッ」


 ディランの両腕は鮮血を噴出し、その先が無くなっていた。


「……」


 想像を絶する痛みに周囲の目などお構いなしに地面に転がり喚くディランを見下ろす分裂体。

 その両手にはディランの失った両手が握りめられていた。


「そんな……あのハーバ氏が……」


「嘘……だろ……」


「もう……お終いだ……」


 三英傑ゴールデンナイトを赤子同然にいとも簡単に無力化させた分裂体とその光景に残る王従士ゴールデンドール達は顔を真っ青にして地面に突っ伏し死を覚悟した。

 王従士ゴールデンドール達が戦意を完全に失い動かなくなるや分裂体達の動きも急に止まる。

 そして動き出していた本体、全てを呑み込む者ショゴスに道を開くように立ち去っていく。

 さながらその光景は古の王の凱旋を称えるように。


「テケリ・リ」


 今更、地面に突っ伏し道を塞ぐだけの王従士ゴールデンドール達など何の障害にもならない。

 まるで地面に落ちるゴミのように全てを呑み込む者ショゴスは眼もくれず四精霊の心エレメンタル・コアへとゆっくりと近づいていく。

 誰もがラティーバの終末を覚悟していた。


「ぐっ、そぉ……ッ」


 ディランは両手の痛みよりも、間もなく国が滅びる様をただ眺めているだけの自分に激しい怒りと後悔に包まれて歯を食いしばって涙を流していた。

 自分を三英傑ゴールデンナイトとして認めていてくれた部下や国民への罪悪感。

 何より、王への忠誠心に心がはち切れそうになっていた。

 だからだろうか。

 今更、恥じも外聞も無い。


「だれか……」


 自分の身分や立場など関係ない。

 どれだけ無様だろうか願い、乞う。


「だれか……ラティーバを……」


 間もなく全てを呑み込む者ショゴス四精霊の心エレメンタル・コアまで到達しそうな距離。

 二度と訪れる事のないであろう”あの時”と同じように、心の底から叫ぶ。


「だれかラティーバを救ってくれぇぇぇえええええええええええ」


 その瞬間。

 ディランの横を凄まじい速さで誰かが風を切り去っていく。

 一体誰が、と思うよりも先にある異変にディランの目が大きく見開いた。


「……!?」


「……!?」


「……!?」


 なんと――――多くの分裂体が反応をするより先に胴体を瞬く間に真っ二つに切り離されていたのだ。

 

「テケリ・リ……テケ――――」


 更に全てを呑み込む者ショゴスの足元から巨大な青白い光が溢れ出したかと思えば――――


「テケリ・リィィイィイイイイイ」


 その巨体が宙を舞い後方へと吹き飛ばされ、四精霊の心エレメンタル・コアから引き離れた。

 全てを呑み込む者ショゴスが地面に衝突すると地響きを起こし、ディランの体勢も崩れて強く転がってしまう。

 両手の痛みに囚われながらも何とか顔だけを先程の方角へと上げるとそこには二つの人影が。


「……ふむ。先程はあの分裂体に遅れを取ったがようやく本調子に戻ったおかげで何とかお返しする事ができた」


 紺色のコートを纏い、二本の剣を握る自分の両手を満足そうに見つめる金髪の少女。


「ケッ、本調子に戻ったのは何よりだがよぉ。たかが雑魚相手に良い気になってんじゃねぇよ。今のちゃんと見てたのか? 一番でけぇ本体ぶっ飛ばした俺の圧勝だろうが」


 憎たらしい表情でふてぶてしく両手をズボンのポケットに入れる銀髪の青年。

 二人の登場に、このような状況にも関わらず王従士ゴールデンドール達は困惑して各々に囁き始めていく。


「おい……今の見たか? あの分裂体を一瞬で……」


「いや、それよりもあのバカでかいバケモノを吹き飛ばしてたぞ……?」


「な、なんでもいいっ! とにかく――――救世主が現れたんだっ!!!!!」


 すると、金髪の少女はその場で深く息を吸ったかと思えば。


「すー……――――自分の名はヘルメス=エーテルッ!!! 自分はギリスティアの王従士ゴールデンドールだッ!!!」


「おい聞いてんのかっ!? 俺の方が凄かったろって話だろうがっ!!」


 無駄に競ってくるジンを無視し。

 ヘルメスはとても澄んだ声を響かせ、右手の中指にハメられたギリスティアの王従士ゴールデンドールである証の指輪を高らかに見せつけ。


「本来であれば自分のような他国の王従士ゴールデンドールが首を突っ込む案件ではないのかもしれないッ!!! だが心して聞いて欲しいッ!!!」


 結論からして、アランの構築した抗菌薬は見事に成功していた。

 完全復活を遂げたヘルメスは力強く凛々しい表情で戦意を失っていた王従士ゴールデンドール達に告げる。


「今は詳細は省かせて頂くッ!!! ただ、自分は貴方達と心同じでこの国を救いたいんですッ!!! どうかあの怪物、全てを呑み込む者ショゴスを倒す為にご協力願うッ!!!」


 突然現れた他国の王従士ゴールデンドールの言葉など通常では耳も傾けないはずだが。


「今、あいつ俺達の国を救いたいって言わなかったか……?」


「あ、あぁ……。それに、エーテルって名乗っていなかったか?」


「じゃ、じゃあ、あれが噂のパラケルスス殿の娘という事か……?」


「しかし……唯一の生き残りの娘は落ちこぼれらしいじゃないか……」


「ばっか! それでも今の一瞬であの分裂体を何体も真っ二つにしたんだぞ……」


「あの銀髪の珍しい彼も王従士ゴールデンドールなのか……?」


 皆が信じたかった。

 この突如現れた希望を抱かさせてくれるこの少女を。

 英雄の娘を名乗るこの少女を。


「はぁ……。んな風にギリスティアの王従士ゴールデンドールだなんて簡単に名乗ってんじゃねぇよ……。今は話し蒸し返してる場合じゃねぇけど一応自重してくれよな……」


 アリスにギリスティアから離れろと助言を受け、とりあえずこのラティーバまで訪れた矢先。

 ギリスティアの三英傑ゴールデンナイト、ロズマリアに帰還命令を下されていたヘルメスが自らギリスティアの王従士ゴールデンドールだと名乗る行為は危険だとジンが咎めると。


「わかってる。……あれからジンや師匠の言っていた事や本当の意味を色々と考えていた。だが今は全てを呑み込む者ショゴスを倒す為に彼らに力を借りるにはこうする方法が一番早いんだ。どうかわかってくれ……。後の事はどうとでもなる。今はこの国を救う事が先決だ」


 そして。


「迷惑ばかりかけて、本当にすまなかった……」


 何度も危険な目に遭ってきたヘルメス。

 その度に一言、ジンに謝罪したかった。

 ようやくその想いが叶い、今後の事を考えて複雑な表情を浮かべるヘルメスにジンは言う。


「もう一人、謝る奴がいんだろうが。それに言葉じゃなくてそういうのは態度で表せってんだ」


「っ!? ……フフ。そうだな。その通りだ。不思議な気分だ、何故かジンが居ると何でもできそうな気がするよ」

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