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黒匣の世界式  作者: 喜怒 哀楽/Yu1
英雄の再来
47/80

9話:少女の覚悟

「っ、ん……」


 目が覚めると、まず飛び込んできたのは膝を抱えた少女の姿だった。

 顔を膝で隠し、隅っこで小さく身体を丸めて怯えている。

 微かに震える身体を必死に抱きしめて耐えていた。

 両手を床について身体をゆっくり起こすだけで全身に軽い痛みが走る。

 何というザマであろう。

 ヘルメスは痛みに表情を歪め、情けない声で同じ牢屋に捕まった少女の名を呼ぶ。


「……セラ?」


 自分の名が呼ばれると、ようやくセラは顔を上げて真っ赤に晴れた瞳でヘルメスの姿を見つめて涙を浮かべていく。


「……! ヘルメス、さ、んっ」


 そして飛び跳ねるようにヘルメスに駆け寄り胸元に顔を埋めた。


「本当に、よかったぁ……っ」


「せ、セラ?」


 ようやく目覚めたヘルメスに。

 セラは心から安心したようで、一向に抱きついたまま離れようとしない。

 しかし、ヘルメスはその気遣いに胸を締め付けられていた。


「……すまないな。……あれだけ大口を叩いておいてこの様だ。……本当に、すまない……っ」


 意識はまだ朦朧とする、抱きしめられれば痛みが走る。

 それでも。

 ヘルメスはセラを抱きしめてその頭を優しく撫でていく。

 悔しそうに唇を噛み締めながら。


「いくら呼んでも起きないから心配しましたよぉおおお~っ」


 どうやらヘルメスは一向に起きる様子もなく、ひたすら眠り続けていたらしい。

 何度呼びかけても起きる気配が無かったので、一生このまま目覚めないのかとセラは不安一杯だったと言う。

 それを聞かされたヘルメスはこれ以上、セラを不安にさせない為に目を細めて自分の胸元で鼻をすするセラの髪を手グシで流しながら微笑んだ。


「フフ……。心配をかけてしまったな……すまなかった」


「な、何度も謝らないでくださいよっ、わ、私こそごめんなさいっ、私のせいで関係の無いヘルメスさんまで捕まっちゃって……っ」


 眠りから覚めても悪夢は続いていた。

 状況は変わらない。

 ヘルメスとセラはファナンによって幽閉されてしまったのだ。

 更に違法薬ドラッグと妙な薬のせいで今のヘルメスは身体能力が一般人並か、それ以下にまでなっている。


「そうだセラっ! 自分はどれだけ眠っていたっ!? ……お爺さんは……まだ無事なのか?」


 薬の効果で体調不良を起こしながらも、自身の身体よりもセラの祖父を心配するヘルメスにセラは胸元から顔を上げて眠っている間の出来事を話していく。


「……見張りの人間が今日の夕方には処刑されるって言ってました……」


 窓一つ無いこの牢屋では現在の時刻を確認する事もできない。

 だが、今日中にセラの祖父が処刑される事だけは間違いないようだ。


「ぅっ、……うっ、ひっ……」


「……」


 セラは今にも壊れてしまいそうな弱々しい表情を浮かべながら、傷だけの顔を両手で覆ってしまう。

 ヘルメスは慰めの言葉をかけ、その頭を撫でてやろうとしたが。


「セ――――」


「ひっくっ、お、……おじ、ぃっ……、ちゃんっ……う、ぅ、うわぁぁああああん」


「……っ」


 己の無力さに嫌気が指して唇を噛み締め、罪悪感に襲われて伸ばした手を止めてしまう。

 セラの哀しみに包まれた嘆きは、ヘルメスの心を粉々に砕くには十分すぎた。

 ヘルメスは瞳をそっと閉じ、ひたすら心の中で自分を責め続けていく。


「……」


 これで、何度目だろう。

 自分の弱さにこうも絶望し、何もできない自分に怒りが込み上げてくるのは……。


 自分には――――何も救えないのかもしれない。


 ずっと……、何とか信じてこれた……ッ。

 自分の信念を、努力をッ。

 でも……。

 もう……。

 

 ――――お前ぇ……ふざけんなよッ!!! 何だその体たらくはッ!!!


 ……ッ!?


「……ジ、ン……?」


 いやいや……。

 とことん自分は馬鹿だな……。


「……気のせいか」


 こんな場所に……、あんな別れ方をしてしまったのに……。

 ジンがこんな自分を助けにくるはずないじゃないか……。

 ほとほと呆れてしまう。

 あれだけ大口を叩いておきながらこのザマだ……、挙句の果てにジンを頼りにしてしまうなんてどこまで自分は甘ったれているんだ……。


「……」


 そういえば……。


「ジンは……あの時も。そう言って自分を奮い立たせてくれたな……」


 オプリヌスの研究施設で、自分が原点回帰リスタートに向けた式崩しを外して戦意を失ってしまった時……ジンはそう言ってくれた。

 折れかかっていた自分の心を支えてくれたんだ。

 

 ――――ずっと言ってたじゃねぇか。チビも、オプリヌスも、俺すら……目の前のもんは全部救いてぇって……ッ!!!


 そう……。

 自分の前で苦しむ人を黙って見過ごす事がとても辛いんだ……。

 自分の前から大切な人が消えてしまうのが……心の底から恐いんだ……。

 だから……。

 だから自分は救いたかった……。

 でも……でも、自分は……、どうしようもない程に弱いんだ……ッ!!!!!

 しょうがないじゃないかッ!!!!!


 ――――簡単に諦めてんじゃねぇよッ!! アンタが抱く絵空事はこれぐれぇで諦めれる程度のもんだったのかぁッ!?


 ……っ、

 

 ――――ヘルメス。


 師匠……。


 ――――もしもお前が愛していたモノ全てが裏切り、牙を剥いてお前の全てを奪おうとしてきても――――お前はそれでも戦い続ける事ができるか?


「……だ」


 自分は本当に情けない。

 例え、それが間違いだとしても。

 自分は――――答えたじゃないか。


「約束したんだ……ッ」


「……ぐすん、……ヘルメス、さん?」


 ヘルメスは瞳に再び闘志を宿し。

 泣きじゃくりながら自分を見上げるセラの頭を優しく撫でていく。

 すると、セラはようやく涙を止めてヘルメスから少し離れてその場で両膝を抱えて座り込む。

 同じくヘルメスもその場に座り込み、鉄格子に視線を向けた。


「何度も無様な姿を見せてしまって本当にすまなかった。それに……セラをこんなに酷い目にも合わせてしまった。だが――――もう大丈夫だっ! 必ず自分が何とかしてみせるっ!」


「ヘルメスさん……」


「まずはセラのおじいさんを助けに行かないとな……」


 しかし今のヘルメスには鉄格子を破壊する力は無い。

 それでも、何とかこの牢から脱出する術を必死に考え込んでいると。


「私も……っ! 私にできる事があれば何でもします……っ!」


 小さくうずくまっていたセラは、愛らしいその顔をぐちゃぐちゃにしながら、祖父への想いを口にしていく。


「おじいちゃんは……――――おじいちゃんは、私の最後の家族ですから……ッ!!」


 最後の家族。

 その言葉にヘルメスは鉄格子からセラへと視線の先を変えた。


「そういえば、セラ……。まさか君のお父様やお母様はもうファナンに……ッ」


 このような状況で聞く事ではなかったかもしれない。

 初めて出会った時から、セラはまるで後が無いように切羽詰った様子だった。

 そして先程の発言をきっかけに。

 どうしようもないファナンへの怒りに満ちた険しい表情で、セラにとって辛いその答えを聞いてしまった。


「……はい。初めの犠牲者でした……。お父さんとお母さんは私と”お兄ちゃん”を庇って……あの悪魔におぞましい苦痛を与えられながら……ッ、殺されました……ッ――――っ、うっ、お、おぇええっ」


 両親の最期を告げるとセラは真っ青な表情で壁の隅へ足早に移動し、恐怖と憎悪、哀しみと怒り、心に植えつけられた負の感情を全て吐き出すように涙を浮かべ、床に両手をつけて嘔吐してしまった。


「だ、大丈夫かっ!? セラッ!?」


 今まで以上に身体を震わせて嗚咽するセラの姿はとても見ていられないものだった。

 ヘルメスは自分の発言に後悔しながらすぐにセラの元に駆け寄って背中を何度も擦っていく。


「ぉ、お、ぉぇええええっ」


「すまなかった……ッ! 無理に嫌な出来事を思い出させてしまったな……ッ! 本当にすまない……ッ!!」


 悪魔の手から我が子を庇った両親の末路は悲惨なものだった。

 兄妹と夫の目の前で母はファナンの手下に穢された挙句に発砲されて死亡した。

 父は身体の動きを封じられたまま愛する妻の苦しむ姿を目に焼き付けられたまま、兄妹の前で首を跳ねられた。

 あの地獄のような光景は、今思い出すだけでこうしてセラが吐いてしまう程におぞましかった。


「ハァッ……ハァッ……」


 セラは吐き終えると肩を何度も上下にして呼吸を荒げながら、目を鋭くして口元を雑に片手で拭った。

 床についていたもう片方の手も今では拳を作り、鋭くなった目からは哀しみではなく恨み募った怒りの涙を零していた。

 家族を奪われ続けた少女は、もう後が無いのだ。


「ぁああッ!!!!!」


「お、おいッ!!」


 セラは鉄の床にめがけて強く拳を叩きつけて抑えられない怒りを痛みによって静めていく。

 拳は血を滲ませ、嫌な音を鳴らす。


「あの悪魔は……ッ、お父さんとお母さんだけじゃなく……ッ、お兄ちゃんまで……ッ」


「もう良いッ!! もう良いんだセラッ!!!」


 何度も拳を床に叩きつけるその腕をヘルメスは強引に掴んで荒れるセラを制止する。

 だが、今のヘルメスでは暴れるセラを押さえ込むには力が及ばなかった。


「離し……てッ!!!」


「う、ぐっ、……っ、」


 過去の傷によって理性を失っていたセラは何とヘルメスを後ろに突き飛ばしてしまった。

 全身に走る痛みにヘルメスが床で苦しみもがいていると。


「ッ!! ぁ、……わ、わたしっ、……なんて、ことを……」


 ようやく我に返ったのか、自分のした行為にセラは一気に脱力してその場で凍りついてしまう。

 それでもヘルメスは決して怒る事なく、少しだけ微笑みを見せながら何とか強がって立ち上がる。

 何故ならセラの心中は手に取るようにわかるのだ。

 ヘルメスも家族を失い、残された家族と同じような存在の安否を今も心配している。

 同じなのだ。

 

「気にするな……。セラの気持ちはよくわかる……。自分も同じだ――――家族を失った」


 自分の腰を擦りながら苦笑するヘルメス。

 すると、セラは何故か張り詰めた表情でそのまま言葉を失ってしまう。


「そう……ですか」 


 ヘルメスはそのままセラの横に座り込み、目を細めて胸の内を話していく。


「本当さ……。セラと同じように自分も両親と弟を失った。そして最後の家族……自分を鍛えてくれた師匠なんだけどな? その大好きな人を……危険な場所に残して自分はここまで逃げてきてしまった……。だから、セラの気持ちは痛い程わかるんだよ……」


 両膝を抱えていつになく弱々しい姿を見せるヘルメス。

 しかし、ふと今の自分に対して疑問が浮かぶ。


 一切、哀しみを感じないのだ。


 いつもの自分ならば情けなく涙を流していてもおかしくないのに。

 ふがいない自分に怒りこそ沸いてこれど、まったく哀しみという感情が沸いてこないのだ。

 ヘルメスが不思議な感覚に襲われていると、セラが小さく呟く。


「ヘルメスさんは強いんですね……」


 その言葉に違和感を覚えつつ、ヘルメスは横のセラに振り向いて微笑む。


「フフ、自分は強くなんてないさ。じ、実は……さっきだって危うく心が折れかけていたんだぞ?」


 だが、二人の存在によって何とか立ち上がれた。

 

「周囲の人達がどう思っているかは知らないが、自分は恵まれている……。こんな自分に良くしてくれる人達に出会えた。何度も挫折しそうになった時もあったが、それでもこうして諦めずに進んでこれたのはその人達のおかげだ……」


 一名、人ではないが関係はない。

 今では立派に自分を支えてくれる大切な存在に加わっている。


「……フフ。……どうせ今頃、食事でもしているんだろうな」


 見る者を虜にしてしまう程に愛らしい表情で微笑むヘルメスから元気を受け取ったのか、セラも釣られて微笑んでしまう。


「もしかしてあのジンって銀髪の人ですか?」

 

「む? 何故わかったんだ?」 


 首をかしげるヘルメスに、満面の笑みでセラは悪戯っぽく言う。

 

「……だってぇ。ヘルメスさん、さっきもそうですけど眠ってる時もジンさんの名前を何度も口にしてましたよ?」


 内容がどのようなものかは恐くて聞けないが、どうやら寝言で何度もジンの名前を口にしてしまっていたらしい。

 思わずヘルメスの顔は紅潮していき。


「……」


 ついに頭から煙を出して俯いたまま黙り込んでしまった。

 その姿にセラは自分の頬をかきながら苦笑いしてしまう。


「ヘルメスさんってわかりやすいですね……。そして可愛いですっ!」


「な、何がだっ! か、からかわないでくれっ!」


 何故か胸の鼓動が高まる中、ヘルメスは紅潮したままその場から立ち上がり、両腕を組んで頬を膨らませた。

 どうやら機嫌が悪くなったようだが、その反応は愛らしいものだった。

 少し和んだ事でセラはジンの印象を口にする。


「……最初は腕とか掴まれて恐い人だなぁって思ってましたけど、あれってヘルメスさんを大事に想ってるからこその行動だったんですよね!」


「それにしては酷いと思うが……。何よりあの態度は今でも許したわけではない……」


 詳しい話を聞かない内から、セラのようなか弱い少女の腕を強引に掴み、ヘルメスから力づくで離したジンの行動はまだ許していない。 

 挙句に、土下座までして助けを求めるセラの言葉に耳を傾けようとしないジンの態度はヘルメスの中ではとても許せないものだった。


「全部、ヘルメスさんの為ですよ。うふふ。ジンさん、私のお兄ちゃんと似てて不器用そうですし……」


 セラの言う通り。

 ジンは人に対する接し方や、感情の伝え方が不器用な所があった。

 ヘルメスは溜息を吐きながら再び座り込む。


「……ふぅ。セラのお兄さんはどんな人だったんだ?」


 セラは寂しげに目を細めるが、口元は少し嬉しそうに微笑んでいた。


「おっちょこちょいで……かなり恐がりのお兄ちゃんでしたけど……。ほ、本当はっ! とても勇気があって強いんです……っ! 私やおじいちゃんだけじゃなくて……村を助ける為に……捕まったらどうなるかわかってたはずなのに、それでも初めて脱走を試みた勇敢な人でした……」

 

 それでも。

 今もファナンの支配が続いているとい事は、セラの兄による脱走は虚しく失敗に終わったのだ。


「お兄ちゃんは何とか村の外に出れたみたいです……。数人の国民に村の惨状を伝えて必死に助けを求めたらしいです……。でもお兄ちゃんの言う事を誰も信じてくれなくて……。そのまま悪魔の手下に捕まって殺されちゃったみたいです……。でも、でも私はお兄ちゃんを誇りに思います……ッ、お兄ちゃんは悪魔に屈しなかった……ッ、人一倍恐がりなのに私達の為に戦ってくれたんですッ!!!」


 いつしか悔し涙を浮かべていたセラを背に。

 ヘルメスは勇敢に悪へ立ち向かった勇者に敬意を示すように、凛々しい表情で鉄格子を睨みつけて立ち上がっていた。


「フフ、そんな話まで聞かされては――――もう、やるしかないだろう」


 ヘルメスは身体を震わせ、息を荒げてとても辛そうに見える。

 額の汗も顔に伝って床に落ちていく。

 心が熱い、血が沸騰しているようだ。

 いつになく燃え上がっている。

 自分の中で何かが変化した、そんな気がした。

 兄の無念、セラの涙。

 村を包み込む闇を晴らす為に、ヘルメスは両手を鉄格子へと向ける。


「自分を信じてくれ……。例え世界が否定したとしても必ず自分は成功させてやる。だから――――もう泣くなセラッ!!!」


 ファナンの薬によってヘルメスは錬金術が封じられているはず。

 そのはずだが。


「へ、ヘルメスさん……っ!?」


 鉄格子に向けられたヘルメスの両手からは、希望を感じさせる青白い光が溢れてくる。

 あり得ない光景に驚き、言葉を詰まらせ、セラが呆気にとられてしまうのも無理はなかった。

 ファナンが構築した薬の効果に間違いはない。

 錬金術を奪われたというのに、まるで世界の理を嘲笑うかのようにヘルメスは錬金術を発動させた。


「待って、いろ……ッ、今この鉄格子を……ッ!! 光呑み込む堅甲な悪夢を……ッ!! 打ち砕くモノを……ッ!!!」


 意識を両手に集中させ、感覚を研ぎ澄ませて構築を急ぐ。

 不確定要素の多く、謎に包まれた自分の固有式オリジナルコードが発動している事が何となくわかった。

 既存の法則など通じない。

 世界を、神を、全てを否定する力。

 師によって明かされ、名づけられた自身の力を熱き想いと共に叫ぶ。


「ッ、このような状況でふざけた結果を生んでたまるか……ッ!! 自分は……ここを出なければいけないッ!!!」


 すまないな、ジン……。

 本当は……。

 薄々、気づいていたんだ。

 師匠や君は……自分を信じていなかったわけじゃない……。

 こんな自分なんかを……気にかけてくれていたんだろ?


「もう……迷わない……ッ、自分は……必ず自分の信念を貫き通すッ!!」


 光閉ざされた陰鬱と絶望に包まれていたこの地下牢が。

 闇を晴らす眩い光と希望が込められた願いによって塗り替えられていく。


「応え、ろ、……ッ、聖鳥の卵メギス・パンドラァアアアアアッ!!!!!」

 

 ヘルメスの叫びと共に爆音が鳴り響き、二人の身体を爆風が襲う。


「き、きゃあああああッ」


 セラは慌てて両手で耳を押さえて瞳を閉じ、爆風の影響で壁に突き飛ばされてしまった。

 耐えられない程の痛みではなかったが、しばらく瞳を開ける事ができなかった。

 それでも爆風が治まると何とか瞳を開けてその結果を目にするが。


「ぅ、ぅうっ、……いたた……、い、一体……何が――――!?」


 セラはすっかり力が抜け、両手を床につけて目と口を大きく開けていた。


「そ、そ、ん、な……、いや、でもっ」


 一瞬にして光が膨張してこの地下を包み、けたたましい音が鳴り響いた。

 そして今。


「はぁ……はぁ……」


 ヘルメスは体力の消耗を堪えるように肩で息をしながら、両手をぶらりとして立ち尽くしている。

 先程の膨大な光は散り行き、セラの視線の先には爆煙を纏うヘルメスの姿と――――


「……はぁ……はぁ、フフ……自分は鈍器を構築しようとしたんだがな……。はぁ……はぁ……まさか……爆破を起こしてしまうとは……うん――――まぁ、結果としては上出来だッ」


 鉄格子は爆破によってその役目を完全に失っていた。

 逃げ出すには十分すぎる程だ。

 自分自身の起こした現象に驚いている暇はない、ヘルメスは急いでセラに振り向いて手を差し出す。


「さぁ、セラッ! 早く立つんだッ! まずは急いでおじいさんを助けに行くッ! 自分を案内してくれッ!!」


「ぁ、」


 勇ましいヘルメスの姿にセラは圧巻されてしまう。

 不可能を、可能にしたのだ。

 それはセラには奇跡とすら思えた。

 やはり、英雄の予言は真実だった。


 セラは――――ヘルメスから英雄の面影を感じていた。


 初めて、ヘルメスが名前を名乗った時から。

 セラは確信していたのだ。

 ヘルメスが必ずこの国を救ってくれると。


「……っ、処刑台まで案内しますッ!!」


 少女達は、暗闇の通路を突っ切っていく。

 覚めない悪夢から抜け出す為に。

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