18話:燃え散るマスキュアの灰
賢者の石の器である黒匣を構築し、世界を蝕む脅威。
狂った錬金術師フェイク。
世界中が血眼になってその行方を追っている、その男が今。
「フェイク……ッ!! お前ぇッ!! ……今更、何しにきやがったッ!!!」
アリスの経営する病院にて突如その姿を現したかと思えば、気体と化した屈強な男の位置を容易に特定してトドメを刺していたのだった。
「親が子に会うという行為に果たして理由など必要なのか。お前の言動は理解に苦しむ。それに――――」
青白い髪は耳を隠して眉を隠す程の長さ。
モノクル越しの赤黒い右目と、朱色の左目でアリスの問いに感情の篭っていない口調で答えていく。
「き、貴様か……っ、がはっ、最近、我々の邪魔をしていた、とい、者か……っ」
純白の手袋で包まれた両手で、赤黒い球体が持ち手についた漆黒の杖を持ち、屈強な男には見向きもせずに続ける。
「敵襲に遭っていたようだったので手助けをしてやったまでだ」
赤黒い球体はその色と同じく、禍々しい赤黒い光を発生させていく。
「ぎぃ、ぃぃ、ぃ、ぅぁ、ぁぁあああくぁああ」
屈強な男の身体はいたる穴という穴から大量の血飛沫を噴出させていく。
鮮血は勢いよく周囲に飛び散り、美しいマスキュアの花びらも赤く染め上げられる。
おぞましいその光景に女性は身体を震わせ、すっかりと戦意を失い尻餅をつきながら後退していくが。
「残りはそれだけのようだな」
その青年の姿からはとても想像のつかない冷ややかな声と共に、フェイクはその場から一歩も動くことなく、杖を両手でついたまま赤黒い光を発動させると。
「っ……――――」
女性は悲鳴を叫ぶ間も無く、そのまま身体が瞬時にミクロサイズまで圧縮されて惨い有様で死亡する。
その地獄絵図のような光景を、アリスはただ唖然として眺めている事しかできないでいた。
狂った錬金術師フェイクは次々とこうして残虐を振りまき、ようやくアリスの元へと歩き出す。
「ッ、お前ぇのガキならもう此処には居ねぇ……ッ。とんだ無駄足だったみてぇだなッ!!!」
これを予期していたアリスとジンは、ヘルメスとエリーゼを連れて逃げるという手段に出たのであった。
黒い歯車によって支配されているジンと、今のヘルメスとエリーゼでは勝負にすらならないからだ。
フェイクは周囲に視線をやり、ジンの気配が無い事を確認するとアリスの前でようやく立ち止まり。
「そのようだな。だが”まだ”遠くには行っていないようだ」
その言葉の真意は不明だがアリスは危機を感じ、フェイクを止めようと動きだす。
「ちッ」
両手から青白い光を出し、個有式を発動させようとするが。
「止せアリス。お前ではオレを殺せはしない。無駄な行為は止せ」
「何だとッ!? ふざけた事ばっか言っ――――」
しかしアリスの身体が動く準備段階のうちに、フェイクは青白い光を先に発動させていた。
「ぅ、っ、こ、こいつぁ……」
解読眼を持つ者だけがそれを認識する事ができる。
そしてアリス程の錬金術師だからこそ、フェイクを取り巻く二つの式の正体を理解するのは早かった。
こうして身体の動きが封じられたのも、その内の一匹である蛇の姿をした式の力。
「く、っそぉ……、――――”永劫回帰”だな……ッ!!」
神秘的な青白い光を放ち、膨大かつ複雑な式が交じり合って一つの大蛇の形を成している。
伝説の錬金術師アンチスミスが残した二つの式。
核となる賢者の石は欠けているが、原点回帰と永劫回帰をフェイクは一瞬にして構築を終えていた。
「……相変わらずのバケモノっぷりだな。……そこの原点回帰一つ構築するのにオプリヌスの野郎がどれだけの歳月をかけた事か……。それを俺が動くより先に一瞬で構築しただけじゃなく永劫回帰まで……。ケッ、散々天才と呼ばれ続けてきた俺もこれじゃ形無しじゃねぇかよ……ッ!」
フェイクの身体全体に巻きつくようにして、二つの式は細長い舌を出し、喚くアリスを睨みつている。
その姿は神話に出てくるウロボロスそのもの。
そして今のアリスはまるで神に捧げる供物になったような気持ちだった。
「永劫回帰に見つめられたモンはその存在を完全に留められ、動かす事も壊す事も不可能になっちまう……。ちっ、まさかここまでの域にまで達してやがったか……。一体お前ぇは……何を目指してんだ……ッ!! アンチスミスにでもなろうってかぁッ!?」
「意外だ。オレの目的ならお前は既に知っているものだとばかり思っていた。良いだろう。だがまずはオレの質問に答えてもらうぞ」
一切表情と声のトーンは変わる事なく、フェイクは淡々と質問を始めようとする。
「この状況でお前ぇの質問に答えろだぁ……? チッ……。原点回帰まで構築しといて俺にまだ選択の余地を与えるってか……」
その場から一歩も動く事もできず、自由を封じられたアリスを前はせいぜい眉間にシワを寄せて侮蔑の眼差しを向ける事しかできなかった。
「黒匣が世話になっていたようだがアレを見てお前はどう感じた」
その質問自体は我が子を気にかける親のようなものだったが、フェイクにそのような感情が無い事はわかっている。
「あん……?」
思いもしなかった質問にアリスは質問の意図がわからないまま額から汗を流し答えていく。
「……少なくともお前ぇの所に居た頃よりまともな面ぁしてやがるはずだぜッ。お前ぇもいい加減子離れしたらどうなんだバカ野郎」
「そうか」
自分の事を棚に上げて渾身の嫌味のつもりで答えるが、今度はアリスが賢者の石、原点の式に直接触れた事で気づいた”ある事実”について質問を投げつける。
「……お前ぇ、あいつに黒い歯車だけじゃなく……賢者の石にも厄介なもん埋め込んでるよなぁ」
「あぁ」
賢者の石には誰の手にも渡らないように、ある式が組み込まれている。
それはジンも例外でなく、何度か自らの胸部を引き裂いて賢者の石を取り出そうとしたが、その式に阻まれ失敗に終わっている。
だが、アリスはそれ以外の”妙な式”にも気づいていた。
「……お前ぇ賢者の石についてどこまで知ってんだ。少なくとも俺の知る賢者の石とアレは別モンだったぞ……ッ!!」
「それはそうだろう。お前だけでなく今の世界は賢者の石について何も知らないからな。アレは元々そうだった。だからこそオレは賢者の石を手放すという選択をした」
「質問の答えになってねぇッ!! バカみてぇに世界を好き勝手にしやがって……お前ぇ何がしてぇんだよっ!!!!!」
フェイクは少し間を置き。
動けぬアリスの前へ一歩進み、それと同時に原点回帰をアリスの眼前へと動かす。
「本当にわからないのか」
アリスは歯を食いしばりながら何とか身体を動かせるよう思考を巡らせ模索していると。
「お前で言う外部法則とやらを行使し続けたオレにはもう感情と呼べるものは狂気しか残されていない。だからだろうか。今のオレは――――運命の歯車を破壊する為だけに生きている」
「くッ……お前ぇやっぱりッ……」
世界式を構築する核とし、全ての事象を定める運命の歯車の破壊。
それはすなわち世界の破壊と同義。
フェイクの答えにアリスは唇を噛み締め、口元から血を流してその許されざる目論見を非難する。
「ざけんじゃねぇぞッ!!! お前ぇ一人のくっだらねぇ理由でんなもん許されるわけねぇだろ――――」
「お前がそれを口にするのかアリス」
フェイクのその一言は、酷くアリスの心を突き刺し、言葉を止めさせた。
「妻を失い子を失い。お前もこの理不尽な世界に嘆いていたのだろう。その世界をオレが否定して破壊してやろうと言っているんだ。何故そのようにオレを否定する」
そう、フェイクの言うように。
アリスは自分の救いたい命を理不尽に奪っていくこの世界に絶望していた。
それを見透かすようにフェイクは続けていく。
「安心しろ。運命の歯車の代わりとなる新たなる核はオレが既に用意してある。”偽りの歯車”によって世界式は維持され世界は無くならない。お前の返答次第ではお前とお前の家族が幸せに暮らせる世界も約束しよう」
妻と娘が生き、その世界ではアリスも幸せに過ごせる。
フェイクに協力さえすれば。
「世界はオレを狂った錬金術師と呼んでいる。だが本当に狂っているのはこの世界だとは思わないか。オレを認めない者は決まってこの歪んだ世界を受け入れている者達ばかりだ。ならばこの世界を受け入れられない者達はどうなる。運命の歯車の定めによって悪戯に狂わされた者達はどうなるというのだ。オレはそんな世界を望まない」
両手を杖の持ち手に置いたまま、フェイクは自分の思想をアリスの目を見つめながら賛同を促す。
「オレがしようとしている事は本当に悪なのだろうか」
「それは……――――」
「ならば正義の定義とは何だ。オレはこの狂った世界を否定して誰もが幸せとなる世界を構築するつもりだ」
恐らくフェイクの言う理想が実現すれば誰もが幸せになれるのだろう。
「さぁ。オレと共に来いアリス。お前程の錬金術師ならばその権利がある」
純白の手袋に包まれた手をアリスへと差し出すフェイク。
神を偽りし悪魔の誘惑。
過去の自分であればその手を掴んでいたのかもしれない。
だが――――今は違う。
アリスはそれを掴む訳には、認める訳にはいかなかった。
「――――俺もお前ぇも未来に目を向けず、過去の後悔しか見ちゃいねぇ……」
「……」
「だがよぉ……」
今は世界に絶望していた過去の自分とはもう違う。
暗い闇に一筋の光を差し伸べてくれた、あの少女のおかげで。
「過去に囚われようと……明るい未来がきっといつか訪れるってバカみてぇに信じてる奴もいんだよ……ッ。」
その少女の為にも。
「俺はその大切さをヘルメスから学んだ……ッ!! それをお前ぇが邪魔すんじゃねぇよバカ野郎ッ!! 絶っ対お前ぇは俺が止めてみせるッ!!!!!」
凄まじい殺気を放ち、絶体絶命のこの状況においてもアリスはフェイクの誘いを拒絶し。
未来に進む愛娘の為にもフェイクをここで止めてみせると宣言をする。
永劫回帰に身体の自由を奪われ、ピクリとも動かずとも。
それでもアリスは不屈の精神を持ち、決して諦めないでいたが。
「感情の欠けていなかった頃のオレならばきっとこう言ったのだろうな。――――残念だよアリス」
返答を聞き終えると、フェイクは身体に纏っていた原点回帰をアリスの身体へと動かす。
「っ、……」
解読眼によって自分の存在を喰らおうと、アリスには大きな口を開き襲いかかってくる原点回帰が視えている。
だが永劫回帰によってそれに対抗する術も、回避に移る事もできず。
ただ自分の存在が消滅させられるその瞬間を待つ事しかできなかった。
「っ、……く、」
身動きの取れないアリスを原点回帰は瞬く間に巻きついていく。
「っ、……く、クソォォオ――――」
アリスの叫びは途中で止まる。
「愚かな男だ。感情を失っていた事に感謝してしまう程にな」
アリスという存在を構築する式が原点回帰に触れた瞬間に弾け飛んで消滅したのだ。
残ったものなど何も無い、ただ虚無だけが漂うだけだった。
原点回帰は主人の元に戻り、二体のウロボロスは纏うフェイクは足を前に出す。
「……」
その朱色と赤黒い瞳の視線の先には主人を失った病院が映りこんでいた。
アリスの消滅を確認すると、フェイクはそのまま病院の入り口へとゆっくり歩き進める。
だが――――
「……」
フェイクの背後から青白い光が集まり、その存在を構築する式が自然と集まり。
その姿を形成していく。
「――――研究は怠っていなかったようだな」
病院に視線を向けたままフェイクは歩みを止める。
そして、完全に構築された背後の存在は言う。
「お前ぇを相手に俺が何も対策を練っていないとでも思うか?」
消滅したはずの男が。
白衣をなびかせ拳を鳴らしていた。
「――――アリス。お前は永劫回帰を独自に研究して固有式にしていたな。しかし不完全とは言えオレの原点回帰でも消去できないとは驚いた」
「……ケッ。思ってもねぇクセによぉ……。ま、さっきは不意を突かれたが同じ手が俺に通じると思うなよっ」
存在を消されようと、見事に復活を遂げたアリスは青白い光を拳に纏わせ飛び出す。
「んな紛いモンじゃ俺は殺せねぇぞッ!!!!!」
「限定的な対象を留める固有式。確か名は”現状維持”だったか」
フェイクは両手で杖をついたまま、振り向く事もなく、その場から一切動かずにいる。
だが杖の持ち手に飾られている赤黒い球体を青白く光らせると、原点回帰を再びアリスへと向かわせた。
「何でもかんでも元に戻しちまう原点回帰と、何でもかんでも留める永劫回帰を真似た俺の現状維持は矛盾した存在だけどよぉッ――――」
矛盾した二つの式。
原点回帰はその大蛇のような形をうねらせてアリスの拳を消し去ろうとするが――――
「どうやら俺様の勝ちみてぇだなッ!!!!!」
アリスの拳は原点回帰をそのまま通過していく。
現状維持は不完全ながらも、一度でも原点回帰を打ち破ってみせたのだ。
「ッ!!」
これでアリスの拳はフェイクに届く、そう確信していたが。
「――――オレの落ち度だった。素直に認めよう」
戦慄が走る。
目を見開いて絶望の表情を見せ、アリスはそのまま地面へと倒れ込んでしまう。
「――――お前の言う通りだ」
目の前の光景にアリスは大量の汗をかき、地面に横たわりながら絶句する。
「お前を消し去るならば最初から”限界まで完全なものに近づけて用意”すべきだった」
賢者の石が無いこの現状で、フェイクはアリスに一切悟らせる事なく、原点回帰をより完全なものへと再構築をし直していたのだった。
その結果。
「……ッ、ハァッ、……ッ、ハァッ、」
アリスは原点回帰の異変に気づけていた。
だは時既に遅し。
その時にはもう拳を放ってしまっていた。
それでも何とか咄嗟に回避を試みたものの。
「無様な姿だなアリス」
右腕を失い、肩から大量の血を流し地面で横たわるアリス。
「……ぐ、っ……ぅ……」
何とか残された左手で血を止めようと錬金術を発動させようとするが。
「ぐ、が、ぁ、ぁ、ぁ、ッ」
アリスの左手の甲に、杖の先端が力強く突きつけられた。
「これが最後だ。お前にオレは殺せない。もうわかっただろう」
モノクル越しに赤黒い瞳を光らせ、無残なアリスを無表情のまま見下ろすフェイク。
フェイクは自ら一歩も動かずして完膚なきまでにアリスに勝利してみせた。
「これ程までに永劫回帰に似せた固有式を開発していたお前はやはり優秀な錬金術師だ。オレに”再び”力を貸せ」
やはりフェイクには勝てない。
アリスは覚悟を決め、力を振り絞って杖を薙ぎ払う。
「クソォッ」
右腕を失い、何とか杖を払う事に成功したアリスは地面を這い蹲りながら病院へとゆっくりと進んでいく。
あの中にはリリアンが残されている。
現状維持で病院を不可侵の領域にしてあるが、それでもフェイクならば容易く解いて進入する事もできるはず。
リリアンを安全な場所に逃さなければと、アリスは必死だった。
「はぁ、はぁ、はぁ、」
虫の息も同然のアリスをフェイクは邪魔立てする事なく傍観していた。
「アリス。お前は変わったんだな」
冷たい声がアリスを突き刺すが、それでもアリスは不恰好でも病院へと進んでいく。
「希望などと甘い幻想を抱いた者の末路とは実に滑稽なものだ」
このままではリリアンが危ない。
今のアリスにはそれしか考えられなかった。
ヘルメスと約束したんだ……。
俺が、絶対にリリアンを守るって……。
リリアンを避難させようとアリスはフェイクの言葉を無視して地面を這い進んでいくが。
「お前の言った通りだ。お前程の男をこうまで堕落させた過去は斬り捨てなければいけない」
その一言に、アリスが息を荒げながら振り返ると。
「お前ぇ……一体何を、……ッ!?」
フェイクは地面に杖を突き刺し、両手を横へと広げていた。
解読眼によってフェイクが一体何を構築しようとしているのかは一目瞭然だった。
「ま、さ、か……お前ぇッ!!」
そして先程の発言。
フェイクは、アリスの過去を燃やし尽くす気なのだ。
「よ、よせ……や、やめ、ッ」
アリスは顔を歪ませ、最後の力を振り絞って立ち上がってそれを急いで止めようとするが。
「これでお前もオレに協力する気になるだろう」
フェイクは構築を終えると、青白い光と共に獄炎を出現させ――――咲き乱れるマスキュアの花を一輪残らず燃やし尽くしていく。
「やめろおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」
マスキュアはすぐさまその美しい姿から一辺してただの灰となって空に舞い上がる。
炎はマスキュアだけでなく、周囲にも広がり。
アリスにとって思い出の詰まったこの庭を容赦なく包み込んでいく。
「ぁ、ぁ、う、」
涙を流し、言葉を詰まらせ、膝をついて目の前の地獄をただ見つめるアリス。
「ぅ、っ……ッ」
このマスキュアと呼ばれる花は、アリスの亡くなった妻と娘が大好きだった思い出の花。
せめて天国からこの立派に咲き乱れる花と、ヘルメスのおかげで立ち直れた自分を見て、笑っていて欲しいという想いから手塩にかけて育ててきた花だった。
庭に咲き乱れていたマスキュアは、アリスにとって――――この世を去った愛する妻と娘に唯一繋がる大切な象徴だった。
「他者に固執し。モノに固執し。人とは実に複雑な生物だ。だからこそ人は神にすら――――」
燃え上がるマスキュアに囲われ、暁に染まるこの庭に青白い光が輝く。
アリスは白衣を脱ぎ捨てて再び立ち上がる。
「お前ぇは……絶対ぇに許さねぇ……!!!!!」
哀しみに打ちひしされながらも、怒りをバネにアリスは錬金術で止血を終え、フェイクと対峙する。
今にも前へ倒れ込みそうになるが、それでもアリスは必死に踏ん張り立ち続ける。
自分に残された者達の為にも。
「解せんな。既にオレの手によって”歪みの戯曲”は描かれている。この狂った世界も既に運命の歯車の手から離れつつあると言うのに。何故そこまでオレを拒絶するアリス。お前の望みを叶えてやろうと手を差し伸べているというのに何故未だそれを掴もうとしない」
マスキュアの灰が漂い、アリスの怒りを表すかのように炎が燃えあがっていく中。
アリスは命をかけて行動に出る。
残された左腕から青白い光を発して解読眼で睨みつけて言う。
「こうして俺から色々なもんを奪おうが……それでも俺にはまだ残ってるもんがあんだよ。何でもかんでもお前ぇの思い通りに行かねぇって事を俺が教えてやる……」
「思い通りにならないこそオレは動いている。それにお前の力ではオレを殺せない事ぐらいわかっているだろ」
アリスは一歩も引かずに告げる。
「勘違いしてんぞお前ぇ……」
「……」
アリスの発言にフェイクは少し間を置くがすぐにその意味を理解する。
「最初から言ってんだろ……ッ。俺はお前ぇを絶対止めるってなッ!!!!!」
そう。
アリスはフェイクに勝てるとは思っていなかった。
だからこそ、
「なるほど。最初からお前は黒匣を逃す時間稼ぎの為に此処に残っていたというわけか」
ヘルメス達を無事逃し、リリアンの無事だけを考えていた。
「腕一本ぐらい安いもんだ……。まだ足りねぇってならこの命もくれてやるさ……だがなぁ、」
アリスは空を仰ぐ。
大切な娘達を想い、新たな光を信じ。
「お前ぇが俺から奪えるもんはこれで最後だ」
「……」
こうして二人の錬金術師は激突し、結果的にフェイクの描く歪みの戯曲は進んでいく。
そしてアリスは意識が薄れていく中、様々な想いを募らせて瞳を閉じるのであった。
――――すぐ迎えに行ってやっから良い子で待ってんだぞっ!!!
その自分の発言が何度も木霊する。
だがそれも、もう。
「当、分……無、理、……そ、だ……悪……ぃ、な……ヘ、ル……メ……ス…………――――」
アリスはそう言い残し、力尽きていった。




